三田祭論文:セブ島の貧困に関する研究
三田祭論文

慶應義塾大学経済学部
大平 哲研究会
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ハロハロの家計調査の改善に向けた提言書

竹内貫太、原田夏希、水口智揮、山口夏実

ハロハロの家計調査の改善のために以下を提言する。
  1. 家計調査では、市場購入・自家生産・現物取引の情報源を記録し、もっとも一般的で広く消費されている項目をリストアップする。
  2. 質問票の購入方法にサリサリストアでの掛買いの選択肢を追加し、インタビュアーの混乱を解消する。
  3. ホープ地区で多く消費されているメジャーな食品項目の7日間分のリコール型調査をする。
  4. 平均的な食事を調査する。
  5. 質問票のレイアウトの工夫として、Skip Codeを効果的に配置し、逐語的な質問文を記入する。
  6. 回答者のリテラシーを考慮したうえで、質問に対して自己記入方式での回答に切り替える。
セブ島は、青い海や多様な生物種をはじめとした豊富な自然環境に恵まれており、日本人にも人気な東南アジア有数の観光都市である。しかし、観光産業が充実している反面、スラム街として、家が密集する貧困層の居住地域が存在する。華やかな輝く海で観光客が賑わう中、観光客に向けたアクセサリーの販売でなんとか生計を立て、スラム街で生活する人々もいる。

セブ島の貧困層居住地域に向けた生活支援事業・教育事業・啓発事業をおこなうNPOハロハロ(以下、ハロハロ)は、2017年にセブ州タリサイ市ドゥムログ村ホープ地区にて、家計の消費の実態を探るため、家計調査をおこなった。しかし、調査結果は実情よりも調査対象者の生活が貧しく記録されており、ハロハロは、家計調査の結果が正確性に欠けると結論づけた。そこで、より正確な調査方法を模索するため、ハロハロは慶應義塾大学経済学部大平研究会(以下、大平研究会)と協力し、新たに質問票を作成し2023年8月に同地域で家計調査をおこなった。大平研究会は翌年2024年8月には再びセブ島を訪れ、2017年と同様の大規模な家計調査をおこなう予定であり、今回は2024年の調査の質を向上するための予備調査であった。質問票の作成にあたり、フィリピン政府の公式なデータとして使用される、フィリピン統計局の実施する家計調査Family Income and Expenditure Survey(以下FIES)を参考とした。

本提言書では2023年8月に実施した予備調査をふまえて、家計調査の改善案を提言する。第1節では、2017年にハロハロがおこなった家計調査について、2023年に大平研究会が実施した予備調査にて判明したことをもとに分析した。結論として、(A)家計調査では、市場購入・自家生産・現物取引の情報源を記録し、もっとも一般的で広く消費されている項目をリストアップする・(B)質問票の購入方法にサリサリストアの選択肢を追加し、インタビュアーの混乱を解消する・(C)ホープ地区で多く消費されているメジャーな食品項目の7日間分のリコール型調査をする、の3つの改善案を提言する。

第2節では、2023年8月3日、8月4日、8月7日に実施した予備調査の成果と問題点について考える。問題点を踏まえて、(B)購入方法にサリサリストアの選択肢を追加し、インタビュアーの混乱を解消する・(C)ホープ地区で多く消費されているメジャーな食品項目の7日間分のリコール型調査をする・(D)平均的な食事を調査する・(E)質問票のレイアウトの工夫として、Skip Codeを効果的に配置し、逐語的な質問文を記入する、の4つの具体的な改善案を提言する。

第3節では、結論として、ハロハロが2017年に実施した家計調査について、(A)家計調査では、市場購入・自家生産・現物取引の情報源を記録し、もっとも一般的で広く消費されている項目をリストアップする・(C)ホープ地区で多く消費されているメジャーな食品項目の7日間分のリコール型調査をする・(F)回答者のリテラシーを考慮したうえで、質問に対して自己記入方式での回答に切り替えることを提言する。

補論では、これまでの問題点と改善方法を踏まえつつ、ハロハロの家計調査の改善案を作成する際に、参考となりうるFIESを紹介する。具体的には、FIESの正確性と妥当性を構成する質問票の要素を取りあげ、質問票の作成において重要となる項目を示す。そのために、はじめにFIESの概要と2017年度実施の調査で使用された質問項目の内容、そしてこれまで実施されてきた調査の質問項目の変化を辿る。その後、1985年度から2018年度のFIESを比較し、in cash、in-kind、giftの項目と、社会状況に応じた質問項目の導入が重要であることを示す。正確性と妥当性を備える点で家計調査の質問票作成において参考となるFIESを取りあげる。

論文のフロー図

目次
はじめに
1. 家計調査の改善に向けて(竹内貫太)
 1-1 ハロハロの家計調査の調査結果について
 1-2 大平研究会の家計調査の概要
 1-3 家計調査の改善に向けたハロハロへの提言
2. 質問票の改善案(山口夏実)
 2-1 今回の家計調査について
 2-2 食事の記録方法に関する提言
 2-3 ローン、購入方法の分類に関する提言
 2-4 質問票のレイアウトに関する提言
3. 家計調査の改善のために(水口智揮)
 3-1 家計調査の概要
 3-2 家計調査の信頼性の評価
 3-3 家計調査以外の方法
 3-4 ハロハロが2017年に実施した家計調査の改善のための提言
おわりに
補論 FIESの正確性と妥当性(原田夏希)

参考文献