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チェーン店の増加に対するモトスミ・ブレーメン通り商店街の取り組み
市川辰弥、橋本ほの子、前田可南子、宮田健史
日本の中小企業は衰退の兆しを示しており、その影響は経済、雇用、そして地域社会にまでおよんでいる。日本の事業者のほぼすべてが中小企業であり、中小企業のうち事業者数では約65%が卸・小売業やサービス業である。日本を支える中小企業が衰退している状況に対処するため、経済産業省は地域社会における小売業が集積している商店街に対して商業機能を回復させる政策をおこなっている。このように、商店街づくりに社会的関心が高まっている。
地域における商業機能は、かつて駅前の商店街が担っていた。商店街は、地元の小売業者が集まり、地域住民に商品やサービスを提供し、地域コミュニティの中心としての役割を果たしている。しかし、商店街は衰退傾向にあるといわれている。消費者の買い物習慣の変化、大規模なショッピングモールやオンラインショッピングの台頭、地域人口の減少などが、商店街の経営に影響をあたえている。結果として、商店街の閉店や空き店舗の増加が顕著になり、その存在感は失われつつある。商店街の衰退は、地域の文化や経済に大きな影響をおよぼしており、再生策の必要性が指摘されている。しかし、人通りの減少やシャッター通りなどこれらの衰退の構図は地方の商店街に当てはまり、都市の商店街は異なった様子を見せている。都市の商店街は駅前に位置し人通りが多く保たれているものの、チェーン店の進出が増加していることにより商店街を構成する店舗が変化している。
このような中、地域や住民が求める商店街へのニーズに変化が見られ、商業機能以外の面からも商店街を考える必要がある。中小企業庁(2020)によれば、地域住民が商店街に求めるものは時代とともに変化しており、大型の商業施設と比較して商業機能としての期待が高くないかわりに、地域コミュニティ機能としての役割が強く求められるようになってきている。したがって、商店街は身近な買い物の場としてだけではなく、人とのふれあいや交流の場としての機能が求められている。都市部の商店街は、構成する個人経営店とチェーン店が一体となって地域住民の期待に応えなければならない。
先行研究では、商店街はチェーン店の進出に対応する必要があるとされている。田上(2018)では、下田市を事例に、商店街の個人商店が地域住民向けの対応をする店舗にしても、商品を地域外へ展開する店舗にしても、大規模小売店やチェーン店が提供できないサービスを展開する必要があると述べている。商店街はチェーン店に影響される存在であり、チェーン店が商店街内に進出することに対応する必要があるといえる。赤澤(2020)の分析では、商店街内のチェーン店の割合が高くなるほど、消費者の回遊行動の発生範囲が縮小すると示している。チェーン店の持つ集客力や、商店街内の回遊行動の中継地点としての役割は認めつつも、中小規模の店舗が相互に補完し合う理想の商店街の形成にチェーン店の増加は障害であるとしている。虻川(2014)では、イギリスの事例からチェーン店の存在も商店街活性化に必要であるとしているものの、チェーン店が商店会に参加し、お互いに連携していかなければいけないと述べるにとどまり、具体的連携方法については言及していない。しかし、商店街内のチェーン店が増加している背景のもと商店街を理想の姿にしていくために商店街組合の取り組みを調査した先行研究は管見のかぎり存在しない。
以上を踏まえ、本稿ではモトスミ・ブレーメン通り商店街の事例を通じて、都市型商店街にある潜在的な課題への取り組みを詳細に調査し分析をおこなう。1節では日本における商店街の概要を説明し、2節ではチェーン店の増加によって発生する課題について取りあげる。3節ではモトスミ・ブレーメン通り商店街の概要と取り組みを紹介する。4節ではモトスミ・ブレーメン通り商店街振興組合による取り組みがいかに課題に作用しているかを検討し、結論として環境活動とICブレカの取り組みがチェーン店の増加による課題の解消に効果的であることを示す。
目次
はじめに
1 商店街の概要
1-1 商店街とは
1-2 商店街の現状
1-3 商店街の役割
2 チェーン店の増加による影響
2-1 街の画一化
2-2 商店街組織の衰退
2-3 人との関わりの減少
3 元住吉における商店街の事例
3-1 元住吉駅前の商店街
3-2 モトスミ・ブレーメン通り商店街の取り組み
4 考察
4-1 現状
4-2 改善の余地のある点
おわりに
参考文献
参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2023年11月21日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。
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- 足立基浩『イギリスに学ぶ商店街再生計画「シャッター通り」を変えるためのヒント』ミネルヴァ書房、2013年
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- 荒木俊之「大都市圏中心都市における地域型商店街の変容―神戸市灘区水道筋商店街を事例に―」『地理科学』、第73巻第2号、2018年、pp.66-80
- 市川辰弥、橋本ほの子、前田可南子、宮田健史『商店街の専門家へお話を聞きに行った際のフィールドノート』慶應義塾大学経済学部大平哲研究会フィールドノートシリーズ2023-mt01、2023年
- 市川辰弥、橋本ほの子、前田可南子、宮田健史『モトスミ・ブレーメン通り商店街フィールドノート』慶應義塾大学経済学部大平哲研究会フィールドノートシリーズ2023-mt02、2023年a
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- 川崎市「かわさき産業振興プラン 第3期実行プログラム」川崎市、2022年
- 川崎市「かわさき産業振興プラン 第3期実行プログラム 概要」川崎市、2022年a
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- 中小企業庁「最近の中小企業・小規模事業者政策について」中小企業庁、2017年
- 中小企業庁「平成30年度商店街実態調査報告書概要版」中小企業庁、2018年
- 中小企業庁「地域コミュニティにおける商店街に期待される新たな役割と支援のあり方」中小企業庁、2020年
- 中小企業庁「令和3年度商店街実態調査報告書概要版」中小企業庁、2021年
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三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた一ノ瀬雅道さん、辻本健太郎さん、齋藤拓海さん、貫凌輔さん、山﨑龍一さんありがとうございました。
とりあえずブレーメン通りに行って商店街を体感する 酒屋さんを訪れたことで、理事長さんとお会いできることに 弘明寺商店街フィールドワーク 研究の中心をICブレカに決める 三田論作成も終盤 ブレーメン通り商店街の理事長さんに聞き取り調査
論文全文(ゼミ関係者のみダウンロード可)
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