三田祭論文 |
慶應義塾大学経済学部 |
大平 哲研究会 |
メールはこちらへ |
池袋はどのように子育て世帯が住みやすい地域に変わったのか
寺門 優
人口減少は、義務教育で当たり前のように学ぶ日本の主要な社会問題だが、この問題が非常に深刻なものであることを肌感覚で認識している人はどれほどいるだろうか。
国立社会保障・人口問題研究所は、2020年の国勢調査をもとに全国将来人口推計をおこなった。これによると、2020年の日本の総人口、1億2,615万人は、以後長期の人口減少過程にはいり、2070年には8,700万人にまで総人口が減少する。さらに、総人口に占める65歳以上の割合は28.6%から38.7%へ増加する。2017年におこなわれた同様の推計と比較すると、平均寿命が延伸し、外国人の入国超過増により人口減少の進行はわずかに緩和している。だが、依然として急激な人口の減少が見込まれている。
人口減少により起こる深刻な問題の1つに労働者不足がある。たとえば、宅配や流通でドライバー不足で荷物を届けられない地域が発生する、介護面でのスタッフ不足や欠員の常態化で高齢者自身やその家族が介護に対応しなければならなくなるなど、労働者不足をきっかけとして生活に支障をもたらす課題が山積する。松永(2020)によると、人口減少は相続人の減少や担い手不足を招き、空き家や所有者不明土地といった不動産の余剰を生む問題にもつながる。人々の生活を守るためにも、真剣にこの社会問題と向き合う必要がある。
人口減少問題に関連する用語として、消滅可能性都市が2014年の新語・流行語大賞にノミネートされ、話題になった。同年、豊島区が東京23区で唯一この消滅可能性都市とされた。これを契機に、豊島区は池袋を中心に持続発展する都市、国際アート・カルチャー都市づくりを推進した。また、子育てしやすい環境の整備に力をいれた。池袋は、日経DUALが発表した、共働き子育てしやすい企業&街グランプリ2017で総合1位に選ばれ、SUUMOや長谷工アーベストの発表する住みたい街ランキングでそれぞれ上位にランクインしている。山根、山根、筒井(2017)によると、居住したい都道府県の選択理由について、子育て環境のよさが高く評価されている。また小坂、西河、小平(2019)によると、住みたくなる地方都市の要素の1つに子育て環境があげられる。このように子育て世帯に配慮した環境を評価する研究は存在するが、実際に池袋で子育て世帯に配慮しておこなわれた施策に効果があったかを分析する研究は管見のかぎり存在しない。
本稿では、人口減少が全国で問題となっている中で、池袋ではどのようにこの問題と向き合い、子育て世帯が住みやすい地域に変わったのかを分析する。1節では、池袋の概要やかつての課題について説明し、2節では他の地域でのまちづくりの成功事例を取りあげる。3節では池袋で課題に対しておこなわれた施策を課題ごとに取りあげ、2節で取りあげた他の地域での成功事例との重なりから、結論として池袋での女性や子育て世帯にとってより住みやすいまちづくり施策に効果があったことを示す。
目次
はじめに
1 池袋の概要
1-1 池袋について
1-2 池袋のかつての課題
2 まちづくりの成功事例
2-1 流山市
2-2 東京都中央区
2-3 南千住
3 池袋で課題に対しておこなわれた施策
3-1 女性の住みやすい地域づくり
3-2 施設の改修や土地再開発
3-3 治安面で子育て世帯に配慮した環境づくり
おわりに
参考文献
参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2023年11月21日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。
- 石井裕明、外川拓、井上一郎「地方自治体におけるマーケティング志向の浸透-流山市-」『マーケティングジャーナル』、第38巻第2号、2018年、pp.107-118
- 池袋駅周辺地域再生委員会「池袋駅周辺まちづくりガイドライン」豊島区、2016年
- 大林由美子、末永和也「人口減少地域(消滅可能性都市)における人口対策の検討-地域住民・ボランティア・専門職のとらえる地域課題と地域の強みに着目して-」『日本祉大学社会福祉論集』、第141号、2019年、pp.27-43
- 川崎興太「東京都中央区のまちづくり施策の変遷に関する研究-都市再生に向けたまちづくりの背景と現在的諸相-」『日本都市計画学会都市計画論文集』、第39巻第3号、2004年、pp.181-186
- 久木元美琴「東京都心周辺部における共働き世帯の居住地選択と育児-荒川区南千住地区の事例から-」『日本地理学会発表要旨集』、2015年
- 国土交通省「池袋駅周辺地域における地域活性化に関する調査」国土交通省、2016年
- 国土交通省「駅まちデザインの手引き」国土交通省、2021年
- 国土交通省土地鑑定委員会『令和4年地価公示〈北海道・東北・関東・北陸・中部〉』国土交通省、2022年、p.178
- 国土地理院「令和3年全国都道府県市区町村別面積調(1月1日時点)」国土地理院、2021年
- 国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来人口推計(令和5年推計)結果の概要』国立社会保障・人口問題研究所、2023年
- 小坂哲平、西河洋一、小平和一朗「住みたくなる地方都市づくり-地方創生の取り組み-」『開発工学』、第39巻第1号、2019年、pp.91-94
- 田宮高信、齋藤純一、杉本聖一、冨田宏貴、三林洋介、田中英一郎「利用者アンケート調査に基づく乳児用バギーの新機能開発に関する研究」『日本交通科学協議会誌』、第11巻第1号、2011年、pp.4-12
- 東京芸術劇場「戦後池袋の検証-ヤミ市から自由文化都市へ」東京芸術劇場、2015年
- 東京建物「サステナビリティレポート2021」東京建物、2021年
- 特別区協議会「区政会館だより」特別区協議会、第346号、2019年
- 豊島区「新庁舎整備の検討のまとめ-整備方針-」豊島区、2008年
- 豊島区「人口と世帯数の年推移」豊島区、2021年
- 豊島区「東京都の合計特殊出生率」豊島区、2021年a
- 豊島区「豊島区都市づくりビジョン」豊島区、2021年b
- 豊島区政策経営部広報課「豊島区広報パンフレット」豊島区、2020年
- 豊島区特命政策担当部現庁舎地活用担当課「現庁舎地の活用及び周辺整備について」豊島区、2013年
- 豊島区都市整備部建築課「豊島区の現状と課題」豊島区、2014年
- 豊島区文化商工部文化観光課「豊島区観光振興プラン」豊島区、2019年
- 内閣府「選択する未来-人口推計から見えてくる未来像-」内閣府、2015年
- 流山市「令和4年流山市統計書」流山市、2023年
- 日本創成会議「人口再生産力に着目した市区町村別将来推計人口について」2014年
- 畠中亨「子育て支援が日本を救う: 政策効果の統計分析」『社会政策学会誌「社会政策」』、第10巻第1号、2018年、p.158-161
- 林和眞、丹羽由佳理「外国人子育て世帯の住まいニーズと自治体支援策の現状と課題」『住総研研究論文集・実践研究報告集』、第49巻、2023年、pp.181-190
- 伴宣久、吉川徹「東京都心部における中古マンション価格の要因から見た都市計画制度の影響」『日本建築学会技術報告集』、第27巻第66号、2021年、pp.949-954
- 檜槇貢「郊外撤退と近郊の課題-流山市の新しい住宅開発を通して-」『関東都市学会年報』、第11号、2009年、pp.36-41
- 増田寛也「『地球消滅時代』を見据えた今後の国土交通戦略のあり方について」国土交通政策研究所、2014年
- 松永光雄「人口減少時代における観光政策」『東洋大学大学院紀要』第56巻、2020年、pp.1-13
- 山根智沙子、山根承子、筒井義郎「日本人はどんな県に住みたいのか?: 人々の居住県選択と地域の特性」『生活経済学研究』、第45巻、2017年、pp.65-80
- 渡邉浩司「官民連携による豊島区新庁舎整備」『都市住宅学』、第93号、2016年、pp.161-162
論文全文(ゼミ関係者のみダウンロード可)
三田祭ページに戻る