三田祭論文 |
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住民主体型交通の成功条件
黒川恭子、小林海渡、橋本卓歩、松尾彩香
公共交通は地域に欠かせない社会インフラである。住民の移動手段確保のために公共交通の維持は大切であり、重点的に取り組まなければならない。しかし、自家用車の普及や人口減少による利用者数の減少で、多くの交通事業者の収支が悪化している。国土交通省総合政策局(2016)によると、一般路線バスは2007年から2014年の間に計11,796キロメートルが廃止となり、地域鉄道は2000年から2014年の間に全国で37路線・754.2キロメートルが廃止となった。
行政は公共交通の維持を目的として補助や支援をおこなっているが、財政的な制限がある。そのため地域全体を網羅した公共交通サービスの提供はむずかしい。そして、地域の多様なニーズや実情にそぐわない運行はさらなる行政の財政難を招いている。こうした状況を踏まえ、行政や事業者ではなく住民主体で、住民のニーズにあった公共交通サービスを実施している事例がある。たとえば、三重県四日市市では2003年に生活バスよっかいちが、岩手県雫石町では2006年にあねっこバスが導入された。また住民主体型交通の広がりとともに、その研究はすすんでいる。太田、山本(2008)は、岩手県雫石町におけるあねっこバスの事例を分析して、住民をはじめとした多様な主体の協働によるバス運営のあり方を考察した。猪井、山室、花田、土井(2015)は住民主体型交通の成立プロセスの特徴を述べている。
本稿では住民主体型交通の既往研究を分析し、住民主体型交通の成功条件で重視されることが、組織化や金銭面の工夫といった運営主体の努力から行政の支援に変化していることを示す。1節では住民主体型交通の定義や導入手法と効果について説明する。2節では15の住民主体型交通に関する論文の概要を述べる。3節では住民主体型交通の6つの成功条件をまとめる。4節では2節と3節を踏まえたうえで、年代順に論文で指摘されている成功条件をまとめ、年代が変わるごとにどのように変化しているかを分析する。
目次
はじめに
1 住民主体型交通の概要
1-1 住民主体型交通の定義
1-2 住民主体型交通の導入手法と効果
2 住民主体型交通に関する研究
2-1 個別事例の研究
2-2 事例比較による研究
2-3 その他の研究
3 成功条件
3-1 組織化
3-2 金銭面の工夫
3-3 行政の支援
3-4 住民の協力
3-5 主体間の関係
3-6 運行計画の工夫
4 重視される成功条件の変化
おわりに
参考文献
参考文献
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- 猪井博登、山室良徳、花田崇昭、土井健司「住民運営型地域交通の成立プロセスに関する研究」『土木計画学研究・講演集』、第51巻、2015年、pp.1-9
- 太田幸司、山本信次「農山村地域における多様な主体の協働による市町村交通サービスの在り方-岩手県雫石町『あねっこバス』を事例として-」『林業経済研究』、第54巻第3号、2008年、pp.7-18
- 加藤博和、高須賀大索「規制緩和後の自律的な地域公共交通形成のためのボトムアップ型運営方式に関する研究」『平成14年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集』、2003年
- 加藤博和、高須賀大索、福本雅之「地域参画型公共交通サービス供給の成立可能性と持続可能性に関する実証分析-『生活バスよっかいち』を対象として-」『土木学会論文集』、第65巻第4号、2009年、pp.568-582
- 加藤博和、福本雅之「住民主導型コミュニティ交通の立ち上げに関する実証研究 -徳島市応神ふれあいバスの試み」『第45回土木計画学研究発表会(春大会)論文集』、2012年、pp.1-4
- 国土交通省関東運輸局『公共交通における効果的なニーズ把握に関する調査 報告書』国土交通省、2017年
- 国土交通省九州運輸局『なるほど!!公共交通の勘どころ-地域公共交通を創り・守り・育てるために-』国土交通省、2016年
- 国土交通省総合政策局『地域公共交通に関する最近の動向等』国土交通省、2016年
- 田中博晃「KJ法入門: 質的データ分析法としてKJ法を行う前に」『より良い外国語教育研究のための方法』、2010年、pp.17-29
- 谷内久美子、猪井博登、新田保次「ソーシャル・キャピタル概念を用いた住民主体型バスへの賛否意識の分析」『土木計画学研究・論文集』、第26巻第4号、2009年、pp.603-610
- 谷内久美子、猪井博登、新田保次「住民主体型バスサービスの事業化プロセスに関する事例比較分析」『交通科学』、第38巻第1号、2010年、pp.3-13
- 谷内久美子、新田保次、角田直毅「郊外型新興住宅地におけるソーシャル・キャピタルとバス運営への参加意向との関連性分析」『交通工学研究発表会論文集』、第30巻、2010年、pp.405-408
- 辻本勝久、西川一弘「過疎地域における住民参加型公共生活交通の実現に向けた課題 -和歌山県本宮町をフィールドとして-」『交通学研究』、第48巻、2004年、pp.111-120
- 西堀康英、土井勉、安東直紀「利用実態と住民意識からみた住民主体の地域公共交通が果たす役割-高齢者の活動しやすさに制約のある地域に着目して-」『都市計画論文集』、第52巻第3号、2017年、pp.818-824
- 日本政策投資銀行、日本経済研究所『地域公共交通システムのあり方に係る調査-地域公共連携スキーム(Local Transportation Partnership)の構築-』日本政策投資銀行、日本経済研究所、2015年
- 広島市『地域主体による生活交通の導入・確保マニュアル 概要版』、2019年
- 福本雅之、加藤博和「役割分担に着目した地域公共交通運営方式の分類と各方式の有効性検討」『土木計画学研究・講演集』、第31巻、2005年
- 福本雅之、加藤博和「地域公共交通の運営方式に関する適材適所の検討」『土木計画学研究・講演集』、2006年
- 福本雅之、加藤博和「地区内乗合バスサービス運営方式の類型化および適材適所の検討」『土木学会論文集D』、第65巻第4号、2009年、pp.554-567
- 福本雅之、加藤博和「地域公共交通への住民参画の促進方策に関する検討」『土木計画学研究・講演集』、第45巻、2012年、pp.1-4
- 松岡頼彦、福本雅之、加藤博和「住民主導型公共交通の運営に対して自治体が果たす役割に関する一考察-愛知県一宮市生活交通バスの例を踏まえて-」『第43回土木計画学研究発表会(春大会)論文集』、2011年、pp.1-5
- 森栗茂一「オールドニュータウンの持続を担保するくるくるバス活動の位置づけについて」『実践政策学』、第2巻第2号、2016年、pp.161-168
三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた裏木敏明さん、江口俊哉さん、小牧謙斗さん、秦理々香さん、安原凪紗さんありがとうございました。
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