三田祭論文
三田祭論文

慶應義塾大学経済学部
大平 哲研究会
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体験型民泊による中山間地域の維持

中垣月花、松井萌

日本の原風景が残る中山間地域は存続の危機に瀕している。中山間地域は、日本の農業を支える重要な役割を果たしている。しかし高齢化と人口減少の影響で耕作放棄地の増加や農業人口の減少が起きているため、農業や地域コミュニティの存続が問われているのが現状である。中山間地域が抱える課題として、高齢化や人口減少に起因した活力や賑わいの喪失と地域経済の停滞があげられる。

体験型民泊とは、住宅を活用した宿泊サービスである民泊に、農業や伝統文化といった地域資源を活かした体験サービスの要素を加えたものである。体験型民泊は社会的効果と経済的効果が見込め、社会的効果が活力やにぎわいの喪失、経済的効果が地域経済の停滞を解決する。社会的効果の面では栗栖(2008)が熊本県人吉市を例に、体験型民泊導入によって女性の活躍の場が増加したと述べ、深町他(2007)も、大分県安心院町の事例をもとに、高齢者の生活に張りがうまれ、生きがいを創出できると結論づけている。また、橋岡(2004)は、大分県安心院町や宮城県名取市の事例から地域の人たちの心の活性化を主張し、若者の活気や人づくりにつながると述べている。さらに、藤田、大井(2015)は長野県飯田市の農村ワーキングホリデーを例に、地域外の人たちが体験型民泊を利用することは移住者定着に効果的だとしている。経済的効果の観点では、北川、服部(2014)が援農ボランティアの受けいれ農家におこなったアンケート調査から、農繁期に労働力を外部から補うことは人件費の削減につながると述べる。栗原、大江(2002)は、長野県飯山市における地域産業連関分析から、体験型民泊による農林水産業や商業などへの生産誘発効果と、飲食業をはじめとしたサービス部門に対する波及効果を論じている。このように体験型民泊の効果は、大きく社会的効果と経済的効果に分類できる。体験型民泊の効果を社会的効果と経済的効果にわけて議論するものに、沖縄県の伊江島を事例とした加藤他(2015)や長野県飯田市を事例とした若林(2013)などがある。本稿では、これらの社会的効果と経済的効果を総括し、中山間地域維持のための方策を整理する。

1節では、中山間地域と体験型民泊の概要、中山間地域における体験型民泊の現状について説明する。2節では女性・高齢者への効果や地域内の効果、地域外からの効果といった体験型民泊の社会的効果について、3節では労働力の外部からの補充効果と地域経済全体への波及効果といった体験型民泊の経済的効果について、それぞれ先行研究から分析する。4節では社会的効果、経済的効果のそれぞれが体験型民泊を持続可能なものにし、中山間地域の維持につながることを説明する。本稿では、体験型民泊によって中山間地域の活力や賑わいの喪失と地域経済の停滞を解決できると結論づける。

論文のフロー図

目次
はじめに
1 中山間地域における体験型民泊について
 1-1 中山間地域について
 1-2 体験型民泊について
2 体験型民泊の社会的効果
 2-1 地域内への効果
 2-2 高齢者・女性への効果
 2-3 地域外からの効果
3 体験型民泊の経済的効果
 3-1 農家への効果
 3-2 地域全体への効果
4 中山間地域の維持
おわりに
参考文献

参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2022年1月13日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。

三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた 浅井海斗さん、内田歌凜さん、北澄拓也さん、 木村誠之さん、長沼杏奈さんありがとうございました。

リモートでのサブゼミの様子 久しぶりに対面で会えました

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