三田祭論文:若い世代の流入と居住継続を目指すまちづくり
三田祭論文

慶應義塾大学経済学部
大平 哲研究会
メールはこちらへ

若い世代の流入と居住継続を目指すまちづくり-多摩ニュータウン再活性化モデル-

石橋佳純、菊池有咲、島村将輝、中田理子

1971年に入居が始まった多摩ニュータウンが、ゴーストタウンと呼ばれて久しい。一部の人は、団地と言えば一時代前の産物のような印象を受けるかもしれない。実際に、多摩ニュータウンでは若者世代の流出がつづき、一部の地域では高齢化が深刻な問題となっている。しかし、団地は若い世代の住む場所として適していないわけではない。多摩ニュータウンは若者にとって魅力溢れる街である。多摩ニュータウンの良さは大きくわけて4つあげられる。1つ目は交通の便の良さだ。東京都都市整備部(2019)によると多摩ニュータウンから都心までは電車で約30分であり、都心で働く子育て世代にとっては好条件である。2つ目は多摩丘陵という地形を活かした立体的な歩車分離型道路が整備されており、安全で快適な住環境が整っていることだ。3つ目は緑の多さである。多摩市(2015)によると、緑地面積と公園の多さが都内随一であり、市民1人当たりの公園緑地面積は13.54平方メートルで東京26市の中でもっとも大きい。緑豊かな環境は子どもを育てるには最適な環境であるうえ、住民は屋外スポーツを満喫する暮らしを送ることができる。4つ目は災害に強いことだ。丘陵地である多摩ニュータウンは台風や大雨による洪水の心配が少ないうえ、地盤の硬さから地震への心配も少ない。遠藤他(2019)から、若者の多くが住みたい場所の特性について、気候や自然環境に恵まれたところで暮らすことに肯定的であることがわかる。したがって、東京にいながら自然を味わえる多摩ニュータウンでの暮らしは若者にとって関心の高いものである。小林、菊地(2018)は、持続性のある郊外住宅地域の特徴として、公園面積の広さがプラスに影響する要因の1つであると主張している。このような住環境や緑環境の豊かさから多摩ニュータウンは子育て世代の居住に適した地域である。地域の潜在的な利点を踏まえると、子育て世代の増加と地域社会の持続的発展を期待でき、ゴーストタウンからの脱却を見込める。

一方で、多摩ニュータウンには人口減少や高齢化の進行と関連したさまざまな課題が存在する。多摩市(2016)によると、多摩ニュータウンには第1に住宅や都市インフラの老朽化、第2に商店街をはじめとした近隣センターの衰退、第3に若者の流出と高齢化という大きな3つの課題がある。第1と第2の課題に関して、多摩ニュータウンでは建替え事業やバリアフリー対応といったハード面の改善がすでにおこなわれており、解決のための施策がとられている。宮澤(2010)や福本他(2004)のように多摩ニュータウンにおけるハード面開発に関する論文も多く存在する。したがって本稿では、第1と第2の課題についてはすでにさまざまな取り組みがおこなわれているため言及せず、第3の課題を取りあげ、具体的な提言をする。

本稿では、多摩ニュータウンにおいて重要視されてきたハード面に加え、ソフト面を改善するための事業が、若い世代の流入と居住継続に貢献することを説明する。1節で、多摩ニュータウンの概要を説明し、2節では、多摩ニュータウンでおこなわれている施策の良い点・改善すべき点の分析と多摩ニュータウンが抱える課題を5つに分類した。3節では、課題を改善するために、それぞれの課題を乗り越えた事例を紹介し、分析する。4節では、3節の事例を多摩ニュータウンにあてはめ、子育て支援・イベント・リノベーション・テレワーク環境とそれに付随する施設・電動自転車のシェアサイクルを充実させることで、若い世代の流入と居住継続を促進できることを多摩ニュータウンのまちづくりに関わる人々に対し提案する。

まちづくりにおいて、ハード面では、建物の老朽化や丘陵地での移動手段の少なさ、ソフト面では、PRやブランディング戦略の不振や商店街の衰退、学校間の教育格差、軽犯罪の多さを克服することが重要となる。これらソフト面の課題の大きな要因の1つにコミュニティの弱さがある。地域住民のコミュニティを強化することでこれらの課題を解決し、若者の流入の促進につなげることができる。コミュニティ強化の施策として、子育て支援・リノベーション・世代間交流イベント・テレワーク環境とそれに付随する施設の整備を、ハード面の課題解決への施策として丘陵地での移動手段の5つを本稿で取り扱う。

論文のフロー図

目次
はじめに
1 多摩ニュータウンの概要
 1-1 ニュータウンの概要
 1-2 多摩ニュータウンの基本情報
 1-3 多摩ニュータウンの現状と課題
2 多摩ニュータウンの取り組み
 2-1 改善の余地がある課題の分析
 2-2 改善点の解決策としての先行事例の分類
3 今後の多摩ニュータウン開発で考えること
 3-1 子育て支援と地域コミュニティ
 3-2 世代間交流を促すイベント
 3-3 リノベーションの活用
 3-4 テレワーク環境とそれに付随する施設の整備
 3-5 丘陵地での移動手段
4 多摩ニュータウンへの提言
 4-1 子育て支援に関する提言
 4-2 イベントに関する提言
 4-3 リノベーションに関する提言
 4-4 テレワークに関する提言
 4-5 モビリティサービスに関する提言
おわりに
参考文献

参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2021年11月17日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。

三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた金子友祐さん、古賀隆大さん、平野孔太郎さん、宮腰友理さん、山本祥宇さんありがとうございました。

本ゼミでの写真です 団地までの階段で息が切れました
はじめての集合写真です 秋の多摩ニュータウンは紅葉が綺麗でした
永どんとの自撮りです インタビューを実施した公園です

論文全文(ゼミ関係者のみダウンロード可)

三田祭ページに戻る