三田祭論文
三重県鳥羽市でのエコツーリズムの持続可能性-埼玉県飯能市を先行事例として-
内田 歌凜、金子 友祐、古賀 隆大、長沼 杏奈
鳥羽市は三重県志摩半島北東端に位置し、温暖な海洋性気候とリアス式海岸が生みだす豊かな漁場と風光明媚な景観を活かした、水産業と観光業が発達している市である。なかでも真珠の養殖業と温泉街は全国的に有名である。鳥羽市(2019)によると、観光客数はバブル期から1990年代前半にピークをむかえ、年間700万人弱が訪れていたが、その後減少の一途をたどり2019年には430万人程度と低迷している。日本人の旅行スタイルの変化に伴い、温泉地への社員旅行や団体旅行が下火になっていることが一因である。三重県には空港が存在しないことや、東京や大阪といった大都市、京都や奈良といった人気観光地、そしてターミナル駅からも距離があることから地理的には旅行客を集めるのには不利であるといえる。実際、外国人観光客の割合は1990年以降一度も5%を上回ったことがなく、昨今日本で目覚ましく成長しているインバウンド効果の恩恵を受けることができていない。鳥羽市の観光業の再興には新たな魅力の発信が不可欠である。そこで、同市では、自然を活かすことのできる観光業の形態のひとつとしてエコツーリズムに注目してきた。
エコツーリズムとは、確立した定義は存在しないものの、持続可能な資源の利用と開発についての問題を観光分野において解決することを目指す、環境保全と観光業を両立させる考え方であり、このような考え方は1970年以降さかんに議論されるようになった。真板(2001)はエコツーリズムの目的を地域の自然資源の保護と維持の実現だとし、地域の自然とかかわりを持つ地域住民の主体的な関与が不可欠だとしている。Scheyvens(1999)はエコツーリズムを世界において年10%から15%ほど成長している観光産業だと述べている。エコツーリズムは日本国内では鳥羽市や飯能市、日本国外ではタスマニアやモルディブなどでも取りいれられているように、各地で注目されている観光形態であり、地域住民が協力的に関わることにより自然の保護を疎かにすることなく対象地域の観光業の発展を実現できる。
鳥羽市では2010年に鳥羽市エコツーリズム推進協議会を設置し、2011年には鳥羽エコツーリズム推進全体構想を発表した。この構想は鳥羽市がおこなっているエコツーリズムについてまとめたものであり、鳥羽市のエコツーリズムについて、対象となる自然観光資源、エコツーリズムの実施の方法、自然観光資源の保護および育成を述べている。2012年には鳥羽エコツーリズム宣言を発表し、エコツーリズムの推進に積極的に取り組んでいる。鳥羽市では循環と連携をエコツーリズムの基本方針として定めており、エコツーリズムを効果的に推進するために、鳥羽の魅力である豊かな自然や歴史文化などの地域資源の保全を図りつつ、観光業をはじめとした各産業の持続と活性化の推進をおこなっている。
本稿では鳥羽市はエコツーリズムを持続可能にするために、鳥羽市が地元住民やその他関係団体との連携を強化すべきであることを示す。鳥羽市でおこなわれているエコツーリズム事業について飯能市を先行事例として分析し、参考にすることを目的とする。1節では鳥羽市のエコツーリズムについて説明し、問題点について指摘する。2節では鳥羽市のエコツーリズムの問題点の原因を探るためにエコツーリズム全般に関しての説明をおこなう。3節では先行事例として飯能市のエコツーリズムの特徴について内田他(2021)およびZhang and Take(2018)をもとに分析する。飯能市のエコツーリズムにおける協議会と飯能市、地域住民の3者の関係が良好であること、ガイド育成や協力体制が鳥羽市にとってよい手本になることを示す。4節では飯能市との比較をおこない、鳥羽市がエコツーリズムを持続可能にするための提言をする。
目次
はじめに
1 鳥羽市のエコツーリズム
2 エコツーリズムについて
2-1 エコツーリズムの概要
2-2 日本におけるエコツーリズムの課題
3 埼玉県飯能市のエコツーリズムを事例として
3-1 飯能市の基本情報
3-2 埼玉県飯能市の里地里山型エコツーリズム
3-3 飯能市と地域住民の協力
3-4 飯能市のエコツーリズムの成功要因
4 鳥羽市のエコツーリズムへの対策方針
おわりに
参考文献
参考文献
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石森秀三「内発的観光開発と自律的観光」『国立民俗学博物館調査報告』、第21巻、2001年、pp.5-19
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エコツーリズム推進方策検討会『エコツーリズム推進方策会報告書』エコツーリズム推進方策検討会、2015年
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片野陽介「エコツーリズムのまち・飯能~地元ガイドが地元の言葉でご案内~」『政策情報誌Think-ing』、第17号、2016年、pp.93-95
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環境省『エコツーリズム推進会議(第3回)配布資料等』環境省、2004年
- 環境省『エコツーリズム推進マニュアル(改訂版)』環境省、2008年
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環境省『第2回エコツーリズム推進方策検討会 配布資料等』環境省、2011年
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環境省「エコツーリズム推進協議会の活動状況について」『飯能市エコツーリズム推進協議会の活動状況』環境省、2019年
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敷田麻実「自律的観光から持続可能な地域を目指してーエコツーリズムという試みー」『大交流時代における観光創造』、第70巻、2008年、pp.75-96
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敷田麻実、森重昌之「接続可能なエコツーリズムを地域で創出するためのモデルに関する研究」『観光研究』、第15巻第1号、2003年、pp.1-10
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鳥羽市『平成30年 観光統計資料』鳥羽市、2019年
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鳥羽市エコツーリズム推進協議会『鳥羽エコツーリズム推進全体構想(第2版)』鳥羽市エコツーリズム推進協議会、2017年
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飯能市『飯能市市勢要覧』飯能市、2019年
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飯能市『平成30年度主要な施策の成果説明書』飯能市、2018年
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飯能市エコツーリズム推進協議会『飯能市エコツーリズム推進全体構想』飯能市エコツーリズム推進協議会、2014年、第2版
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真板昭夫「エコツーリズムの定義と概念形成にかかわる史的考察」『国立民族学博物館調査報告』、第23巻、2001年、pp.15-40
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Scheyvens, Regina, “Ecotourism and the Empowerment of Local Communities,” Tourism Management, Vol.20, 1999, pp.245-249.
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Zhang, Xinyu and Masanori Take, “The Sustainability and Relationship among the Community Organizations in the case study of Hanno Ecotourism, ”TSUKUBA GLOBAL SCIENCE WEEK 2018 ART & DESIGN SESSION PROCEEDINGS, 2018, pp.85-88.
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2021年1月15日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。
三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた中内岳さん、山本和樹さん、六郷友太さん、ありがとうございました。
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飯能に集合してエコツアーに参加しました。
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飯能に昔からある家屋だそうです
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お饅頭屋さんでの一枚です。
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能仁寺は紅葉がきれいでした
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天覧山に登りました。
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三田祭発表練習のときの写真です。
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