三田祭論文
三田祭論文

慶應義塾大学経済学部
大平 哲研究会
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北海道における鉄道経営

安達綾香・新池航平・把田賢吾・和田一輝

北海道旅客鉄道株式会社(以下、JR北海道)は北海道全土におよぶ鉄道の運行をおこなっているが、2016年度の連結経営成績では、営業利益が398億円の赤字、経常利益は103億円の赤字を計上し、厳しい経営状況がつづいている。そのため、収支改善を目指して2016年に単独では維持困難な路線を13線区公表した。その1つである室蘭本線の岩見沢駅から沼ノ端駅までの区間は、主として由仁町や栗山町、岩見沢市を走る路線だが、沿線自治体は少子高齢化に悩まされ、利用者は年々減少している。

そもそも北海道は面積が非常に広く、都市間の移動手段は自動車が中心である。そのため鉄道の利用需要は少なく、利用者は主に免許を持っていない中学生や高校生である。高齢者の通院は病院や家族の車での送迎が中心となるため、あまり需要は見込めない。

JR北海道の路線は、観光路線として存続を模索する釧網本線や都市間輸送としての石北本線などさまざまである。研究対象とする室蘭本線は、石炭輸送路線期の名残で複線をはじめとする比較的充実した線路関連施設を有する線区である。維持費用の高さが課題であり、費用負担を考える意義が大いにある。またこの路線は、日本を代表する観光地であり農業地域の北海道にあり、道南部と道央部を結ぶ輸送の要でもある。したがって、沿線住民の生活の足を存続させる目的のみならず、今後の観光振興や円滑な物流構築のためにも、この路線を存続させることには道内外のメリットが十分にある。

過去に利用者が減少し維持困難に陥った路線の例をみると、多くは2つの対応に分類される。1つは鉄道の廃止であり、もう1つは上下分離方式をはじめとする費用負担の分散である。遠藤(2018)にはドイツの鉄道改革についての説明があり、鉄道路線の地域化政策に伴う路線廃止と、存続を願う住民の思いについて記述がある。また川﨑(2014)では、上下分離方式に伴う自治体や沿線住民の負担について述べられ、伊賀鉄道における利用者増加のための広報活動に触れられている。一方で、北海道における鉄道経営について、望ましい費用負担を明確にした論文や、沿線住民の声を活かした記述はなく、今後のあり方については議論が不足している。

本稿では、日常生活に不可欠な地方鉄道を存続させるための方法を模索し、赤字経営の解決策を提言することを目的として研究している。路線維持費用の負担事例を検証しそれを踏まえた費用便益分析をおこなった結果、当該路線で鉄道経営を継続するためには、上下分離方式を導入し、線路や駅関連施設の維持費用として国がJR北海道に7.6億円の補助金を出すべきであることを示す。1節ではJR北海道や岩見沢駅から沼ノ端駅までの室蘭本線の現状について説明する。2節では経営が悪化した路線の費用負担の工夫として上下分離方式を導入した事例を紹介する。3節では費用便益分析をおこない、便益が費用を上回る望ましい費用負担について示す。4節では分析結果をふまえて、今後どのように費用負担を分散していくかについて提言する。

論文のフロー図

目次
はじめに
1 基本情報
 1-1 北海道の概要
 1-2 室蘭本線の岩見沢駅から沼ノ端駅間の現状
 1-3 赤字路線改革案
2 上下分離方式の導入事例
 2-1 上下の主体を分離させた事例
 2-2 上下の主体を統一させた事例
3 費用便益分析
 3-1 分析の手法
 3-2 JR北海道のデータに基づいた分析結果
4 費用負担についての提言
おわりに
参考文献

参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2018年11月20日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。

三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた長田進教授、鈴木篤さん、千田直幸さんありがとうございました。

由仁町役場に勤める方々にお話を伺いました 研究対象の室蘭本線に実際に乗ってみました
JR北海道に勤める方々にお話を伺いました 室蘭本線の終点の岩見沢駅を見にいきました
由仁町の小学校の廃校跡地見学 観光でいった富良野のラベンダー畑
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