三田祭論文
三田祭論文

慶應義塾大学経済学部
大平 哲研究会
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子どもの放課後居場所づくり事業

住岡直樹・滝口友季子・南亮雅

「三つ子の魂百まで」「雀百まで踊り忘れず」という言葉がある。幼い時の性格や習慣はいくつになっても変わらないという意味のことわざだ。実際、子ども時代は人格形成に重要な時期であり、子どもの時の経験はその後の人生に大きく影響をあたえる。子どものうちに多くの人と関わり、さまざまな経験を積むことで心が豊かになっていく。

しかし現実には、日本の子どもは危機的状況にある。2015年度の文部科学省の調査によると、小学生のいじめ、暴力行為、不登校は過去最多となった。感情のコントロールができない子ども、他者とのコミュニケーションが上手くできない子ども、自己肯定感の低い子どもが増えている。そういった子どもの多くは、心の拠り所となる居場所がない。

子どもが居場所をなくしやすい時間の1つに、放課後がある。放課後とは子どもにとって学校の授業から解放され、自由に遊べる時間である。子どもは集団で遊ぶことで他者とのかかわり方や社会性を身につける。しかし、地域で事故や犯罪が増え安全ではなくなったことで、安心して遊べる空間が減少している。放課後には学習塾や習い事があり忙しく、自由に遊ぶ時間がない子どもも多い。また、テレビやゲーム機、ケータイ・スマートフォンの普及により室内での受動的な遊びが増え、屋外で仲間と遊ぶ機会は減った。さらに、年齢・世代を超えた地域の人々との交流やつながりも希薄になり、子どもの遊び・生活環境は貧しくなってきている。子どもの放課後の居場所の確保は急務である。

そこで国は2007年に放課後子どもプラン、2014年に放課後子ども総合プランを策定し、留守家庭児童のための学童保育とすべての子どもを対象とした全児童対策を一体的または連携して実施することを定めた。また、地域住民の参加を促し、放課後の子どもの居場所を学校施設内に確保する動きをすすめている。

新たな放課後対策の展開に伴い、学童保育と放課後子ども教室の一体化の問題点を指摘する先行研究は多くある。黒田(2008)や松本、中山(2010)は両事業の一体化に伴う学童保育の質の低下を指摘している。一方、猿渡、佐藤(2011)や陣内、上田(2011)は全児童対策である放課後子ども教室について分析し、課題と解決策を論じている。また、藤丸(2015)は放課後子どもプランにより役割が変わりつつある児童館の意義について述べている。このように、多くの先行研究が個々の事業の視点から、放課後子どもプラン推進に伴う課題や意義について説いている。しかし、放課後子どもプランをふまえつつ、日本の放課後対策全体を総合的にとらえ、その問題点と解決策を整理した文献はまだない。

そこで本稿では、子どもの放課後の居場所づくりにおける課題に対して、学童保育と放課後子ども教室を一体化せずに連携して実施し、地域ネットワークの構築と子どもの参画をすすめることで、子どもの居場所としての機能が高めることができることを示す。1節では諸外国の放課後対策の例をあげながら放課後対策の必要性や意義について述べる。2節では日本の放課後対策として学童保育、放課後子ども教室、児童館の3つの事業について説明する。3節では、学童保育と放課後子ども教室の一体化に伴う双方の事業の質の低下、放課後対策の学校施設活用の推進による子どもの学校への囲い込み、大人が子どもの放課後を管理しすぎることによる子どもの自主性の阻害という日本の放課後対策の課題に焦点を当てる。そして4節では、3節であげた3つそれぞれの課題に対する解決策として、学童保育と放課後子ども教室は一体化せずに連携するべきであること、地域の子ども見守りネットワークを構築すること、子どもの参画をすすめることを提案する。

論文のフロー図

目次
はじめに
1 放課後対策の意義
2 日本の放課後対策
3 日本の放課後対策の課題
 3-1 学童保育と放課後子ども教室の一体化
 3-2 学校への囲い込み
 3-3 子どもの自主性の阻害
4 提案
 4-1 学童保育と放課後子ども教室の連携
 4-2 地域連携・地域ネットワークの構築
 4-3 子どもの参画
参考文献

参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2016年11月15日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。

三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた小山由梨佳さん、松本拓磨さんありがとうございました。

聞き取り練習 杉並区の児童館での聞き取り
八王子市の児童館での聞き取り 杉並区でのフィールドワーク

論文全文(ゼミ関係者のみダウンロード可)

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