三田祭論文
首都圏空港の機能分担
上野晃輔・加藤英一郎・小山樂久・樋口赳也
“Leap before you look.”(見るより前に、跳べ。)いま世界はグローバル経済の流れの中にあり、若者をはじめ、数多くの人たちが飛行機に乗り世界へと飛び立っている。国際航空運送協会(IATA)は2017年の航空需要予測を2012年に比べ31%増加の39億1,000万人と発表し、数字上で見ても需要がジャンプアップしている。日本においても2000年の規制緩和後、国内外のLCCの参入があり、航空需要は増大をつづけている。LCCが増えたことでそれまで移動手段として航空機を利用できなかった層に新たな選択肢をもたらしたのも、需要増大の一因である。日本国内における航空需要増大の最大の要因は、年々増加する外国人観光客である。2016年の訪日外国人数は10月30日時点で2,000万人を突破した。とくに中国からの観光客が日本で大量の買い物をする様子は、爆買いとして話題になった。ビザの緩和も増えてひきつづき訪日観光客数は増大すると予測され、政府は東京オリンピック・パラリンピックのある2020年に4,000万人を突破することを目標に掲げている。日本政府にとって、急速に拡大する航空需要に早急に対処することが喫緊の課題である。
増大する航空需要に1番対応するべき地域は、やはり東京を含む首都圏である。首都圏には羽田空港と成田空港の2大空港が存在するのは周知の事実である。2009年、国土交通省は航空需要の拡大に対処するために、羽田空港を再国際化するという従来の機能分担を崩した方針を打ち出した。これには千葉県知事と成田市長も唖然とした。羽田に国際便が流れてしまうので、成田空港は国際競争力をつけるためにLCCを導入した。しかし、羽田空港はいまだに発着枠の制限が厳しく、国内線と国際線の両方の面で需要に応えていくには新滑走路の建設といった莫大な費用がかかる。成田空港においても出発便と到着便が集中する夕方の時間帯は、すでに空港の処理能力の限界に達しており、遅延も生まれる要因となっている。羽田空港、成田空港のみで首都圏の航空需要に対処するのは限界がきている。また、首都圏にはほかにも米軍横田基地や茨城空港・調布空港が存在するが、機能分担先としてはまったく活用できていないのが現状である。機能分担が明確ではない航空政策のままでは、増大する航空需要に応えきれない。
航空需要の中でもLCC需要への対応がキーポイントである。内村(2011)によれば、大手航空会社は価格競争でLCCに対抗できないため、今後も航空市場におけるLCCの割合は増加すると予測している。また傍士(2012)ではLCC戦略における、LCCに特化したセカンダリー空港やLCC専用ターミナルの重要性を述べている。そこで、東京から少し離れた場所に位置し既にローコスト対策をおこなっている茨城空港に、増大していくLCC需要の一部を分担し、セカンダリー空港として活用していく機能分担が対応策として有効である。
海外の先行事例では、首都圏から少し離れた位置にある空港をセカンダリー空港として位置づけ、LCC需要を分担することでメイン空港を活かし、全体として航空容量を大きくしている事例が多くある。ロンドンのスタンステッド空港とヒースロー空港、フランクフルトのハーン空港とフランクフルト・アム・マイン空港などである。これらの空港ではそれぞれ機能分担による棲み分けをしている。1つの空港でその周辺地域の航空需要に応えるのではなく、航空会社のキャリア、就航先などによって空港同士で機能分担をおこない、1つの空港に対して過度な集中が起きないようにしている。とくにハーン空港は元々軍事基地であったものを民間空港として再利用している点で茨城空港と似通っており、ドイツの中でも有数の輸送実績を誇っている空港である。
国内の複数空港都市圏では九州北部と関西、さらには首都圏があげられる。岩本(2005)が九州北部における増大する航空需要対応策として、地方空港の佐賀空港を拡張する方がメイン空港である福岡空港を海上に再建設するよりも、金銭的コスト面で圧倒的な優位性があることを証明した。また、竹林(2007)は、一定の条件が満たされれば、関西空港へのLCCの参入は複数空港全体における総旅客数を増加させられると証明している。これらの例では、複数空港都市圏における機能分担の有効性を示している。しかし茨城空港開港後に、首都圏で増大する航空需要に対して、茨城空港を含めた3空港の機能分担について述べた文献はまだない。
そこで本稿では首都圏の3空港が増大する航空需要に対応するために、キャリア別、方面別に機能分担することを提言する。1節では首都圏空港の航空需要の現状について述べる。2節では海外の先行事例を紹介しながら複数空港都市圏におけるセカンダリー空港を説明した後に、首都圏におけるこれまでの機能分担について述べる。3節では茨城空港の特徴がセカンダリー空港として適していることを述べ、首都圏の3空港はキャリア別、方面別に機能分担していくことで将来の航空需要増大に対応するべきであると述べる。
目次
はじめに
1 首都圏空港
1-1 首都圏の航空需要
1-2 羽田空港
1-3 成田空港
2 複数空港都市圏
2-1 セカンダリー空港とは
2-2 海外の事例
2-3 首都圏の現状
3 首都圏での機能分担
3-1 首都圏におけるセカンダリー空港
3-2 首都圏3空港への提言
おわりに
参考文献
参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2016年11月16日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。
三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた赤塚亮介さん、竹下真央さんありがとうございました。
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