三田祭論文
三田祭論文

慶應義塾大学経済学部
大平 哲研究会
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農村開発と有機農業 --- プロジェクトの持続性を高めるための工夫

金久保智哉・川野真優・澤村新之介・鷲見光太郎・藤平真煕・吉田有希

フィリピンは日本の食卓と深く結びついている。日本はバナナやココナッツなど、果物を中心とした多くのフィリピン産の食料を輸入している。ところが、古くは鶴見(1982)が指摘しているように、日本人の食生活を支えるフィリピンの農家には農薬による健康被害を受けている人が多くいる。農薬の適切な使用は、農作物を病気から守りその収穫量を増やす。一方で、過剰投入や適用作物の誤認など、農薬の不適切な使用は土壌汚染や生産者の健康被害を引き起こすため、農家にとって非常に大きな問題である。

この問題は、農薬を使用しない農業、すなわち有機農業への切り替えとその普及をおこなう農村開発プロジェクトによって対処できる。有機農業は農家の生業となるため、持続的に有機農業をおこなえるようになることが望ましい。したがって開発ワーカーは、農家にプロジェクト終了後も主体的に有機農業をつづけようと思わせるための工夫をプロジェクト中に施す必要がある。

開発ワーカーが工夫を施す際には4つの要素が重要である。1つめは気づきの促進である。農家が有機農業の重要性に自ら気づくことができれば、プロジェクト終了後も自分たちで有機農業をつづけようとする主体性が生まれる。2つめは技術の伝達である。農家が受け入れやすい教え方をしなければ、どれほどすぐれた技術であっても農家には身につかない。3つめは技術の普及である。開発ワーカーから技術を教わった農家がその技術を他の農家に教えることで、プロジェクト終了後にも有機農業のさらなる普及が見込める。4つめは住民組織の形成である。1軒の農家ではできない情報の入手や販路の拡大なども、農業協同組合を形成することにより可能となる。

クマール(2008)、チェンバース(2000)、和田、中田(2010)などが、これら4つの要素に関連した開発の現場で実践できる具体的な工夫を提示した。これらの研究は、非識字者でも理解できるようなコミュニケーションの工夫や、農家が自ら自身の問題に気づくための質問の工夫を示している。しかし、これらの工夫を4つの要素に当てはめて包括的にまとめた先行研究はない。

本稿では、開発の現場で実践できる工夫をプロジェクトの成果の持続につながる4つの要素に対応させて整理する。この整理のためにフィリピンのCAR地区における有機農業プロジェクトを例にして説明する。1節ではこのプロジェクトの概要と有機農業の重要性を示す。2節では事実についての質問と伝統的な知識の視覚化が気づきの促進につながることを述べる。3節では同じような境遇の他のコミュニティにおける成功例を見せたり、非言語情報を用いたりすることによって、開発ワーカーから農家への技術の伝達がうまくいくことを示す。4節では試験圃場の作成がプロジェクト対象者の農家から他の農家への技術の普及に有効であることを述べる。5節では協働意欲の向上が住民組織の形成や活動の活発化につながることを述べる。

論文のフロー図

目次
はじめに
1 有機農業プロジェクトの成果の持続
 1-1 フィリピンのCAR地区における有機農業プロジェクト
 1-2 有機農業の重要性
2 気づきの促進
 2-1 気づきの促進とプロジェクトの成果の持続
 2-2 事実の認識
 2-3 伝統的な知識の視覚化
3 技術の伝達
 3-1 技術の伝達とプロジェクトの成果の持続
 3-2 他のコミュニティへの視察
 3-3 映像による伝達
 3-4 非言語情報による伝達
4 技術の普及
 4-1 技術の普及とプロジェクトの成果の持続
 4-2 試験圃場の作成
 4-3 パイロット農家の選別
5 住民組織の形成
 5-1 住民組織の形成とプロジェクトの成果の持続
 5-2 協働意欲の向上
おわりに
参考文献

参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2014年11月19日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。

三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた太田さん、仲村さん、平野さん、森園さん、ありがとうございました。


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