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過疎高齢化地域における芸術祭 --- いちはらアート×ミックスによる市原南部活性化への提言
江森あずさ・金子令奈・品川彩花・芳賀慶太
菜の花の絨毯の上を、赤いレトロな列車が走る。市原南部には、菜の花や桜、紅葉など、豊かな里山風景が広がる。東京から1時間車を走らせると、時間を忘れて自然に囲まれる場所がある。市原南部にはこのような豊かな観光資源があるにも関わらず、その魅力が十分に伝わっていない。過疎高齢化もすすんでおり、住民は地域の将来に不安を抱えている。市原市は、東京湾アクアラインと圏央道がつながったことにあわせて市内の南部を観光交流ゾーンと定め、2014年3月21日から5月11日に中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックスを開催した。この芸術祭は課題解決型芸術祭とうたい、過疎高齢化がすすむ南部地域への観光客誘致政策として開催された。しかし目標来場者数の200,000人に対し、実際は87,000人と大幅に目標を下回り、十分な交流人口を創出していないという結果になった。
近年、現代アートと地域を結びつけた取り組みが各地で開催され、多くの人々を魅了している。香川県・岡山県での瀬戸内国際芸術祭や新潟県十日町市・津南町での大地の芸術祭、愛知県名古屋市でのあいちトリエンナーレなど、美術館をとびだし、地域住民の生活の場も含む広域に現代アート作品を設置している。熊倉、菊地、長津(2014)によると、そうした全国各地の取り組みは、作品展示にとどまらず社会的な問題と関わり、新たな文化や地域住民の交流を創出するという。
国土交通省は2012年の観光立国推進基本計画で、地域資源を活かし、体験・交流の要素をとりいれた地域密着型のニューツーリズムの推進をすべきだと提言している。西田(2011)は、瀬戸内国際芸術祭はその実践であったと指摘する。つまり、芸術祭は他の地域から人々を呼ぶ手段となる。
地域資源を活かして来場者数を増やした芸術祭には、瀬戸内国際芸術祭と大地の芸術祭がある。これらの芸術祭では海岸や棚田、廃屋などの地域資源を利用した現代アートを設置し、地域の新たな魅力を生み出して来場者を増やしている。芸術祭の開催によって移住者が増えた例もあり、過疎高齢化を解決する手段としても注目を集めている。
本稿は、交流人口を創出するためにいちはらアート×ミックスがすべき工夫を示す。1節ではいちはらアート×ミックスの開催地である市原南部の状況について述べ、2節でいちはらアート×ミックスの開催概要と課題を整理する。3節で他の芸術祭の成功要因として、アーティストと地域住民の協働を促進して地域の独自性を活かすことと、芸術祭へ来る前の期待感を満たすキャッチー型作品と、来てからの満足感を満たす来場者参加型作品の双方をつくることをあげる。4節では、キャッチー型作品の設置と広報への活用、アーティストと地域住民の協働の促進、旅の入口と適切な駐車料金の設定、県内他地域との連携という4つの具体的な工夫を提言する。
目次
はじめに
1 市原市と過疎高齢化
1-1 市原市の概要
1-2 市原南部の過疎高齢化
1-3 市原南部活性化へのうごき
2 いちはらアート×ミックス
2-1 いちはらアート×ミックスの概要
2-2 いちはらアート×ミックスの課題
3 芸術祭
3-1 日本における芸術祭の成立
3-2 大地の芸術祭
3-3 瀬戸内国際芸術祭
3-4 芸術祭の成功要因
4 いちはらアート×ミックスへの提言
おわりに
参考文献
参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2014年11月19日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。
- 市原市『交通マスタープラン』市原市、2010年
- 市原市「市原市の概要」『産業白書 平成25年度版』市原市、2013年a、pp.1-6
- 市原市「第3章工業」『産業白書 平成25年度版』市原市、2013年b、第3章所収
- 市原市役所経済部国際芸術祭推進室『『中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス』について』市原市役所経済部国際芸術祭推進室、2014年
- 江森あずさ、金子令奈、品川彩花、芳賀慶太『市原6月フィールドノーツ』慶應義塾大 学経済学部大平哲研究会フィールドノートシリーズ2014-ia01、2014年
- 江森あずさ、品川彩花、芳賀慶太『越後妻有フィールドノート』慶應義塾大学経済学部大平哲研究会フィールドノートシリーズ2014-ia02、2014年
- 江森あずさ、金子令奈、芳賀慶太、太田智、恒川敬敏『市原9月10月フィールドノーツ』慶應義塾大学経済学部大平哲研究会フィールドノートシリーズ2014-ia03、2014年
- 大下健太郎『瀬戸内国際芸術祭2010』美術出版社、2011年
- 大下健太郎『瀬戸内国際芸術祭2013』美術出版社、2014年
- 北川フラム『大地の芸術祭』角川学芸出版、2010年
- 熊倉純子、菊地拓児、長津結一郎『アートプロジェクト 芸術と共創する社会』水曜社、2014年
- 暮沢剛巳『現代アートナナメ読み 今日から使える入門書』東京書籍、2008年
- 暮沢剛巳『現代芸術のキーワード』筑摩書房、2009年
- 暮沢剛巳、難波祐子『ビエンナーレの現在 美術をめぐるコミュニティの可能性』青弓社、2008年
- 瀬戸内国際芸術祭実行委員会『瀬戸内国際芸術祭2013総括報告』瀬戸内国際芸術祭実行委員会、2013年
- 大地の芸術祭実行委員会『大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2012総括報告書』大地の芸術祭実行委員会、2013年
- 田代洋久「文化的資源の多元的結合による地域活性化に関する考察 越後妻有と直島を事例として」『創造都市研究』、第6巻第2号、2010年、pp.71-88
- 徳山美津恵「地域ブランド構築におけるブランド・エクスペリエンスの重要性 瀬戸内国際芸術祭2010の取り組みを通じて」佐々木信彰他『東アジア経済・産業における新秩序の模索』関西大学経済・政治研究所、2013年、第6章所収
- 徳山美津恵、長尾雅信「地域ブランド構築に向けた地域間連携の可能性と課題 観光圏の検討を通して」『商学論究』、第60巻4号、2013年、pp.261-282
- 内閣府「第1章 高齢化の状況」『平成25年度版 高齢社会白書』2013年、第1章所収
- 直島インサイトガイド制作委員会『Naoshima Insight Guide 直島を知る50のキーワード』講談社、2013年
- 中島正博「過疎高齢化地域における瀬戸内国際芸術祭と地域づくり アートプロジェクトによる地域活性化と人びとの生活の質」『広島国際研究』、第18巻、2012年、pp.71-89
- 長畑実、枝廣可奈子「現代アートを活用した地域の再生・創造に関する研究 直島アートプロジェクトを事例として」『大学教育』、第7巻、2010年、pp.131-143
- 中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス実行委員会『『中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス』の実施結果について』中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス実行委員会、2014年a
- 中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス実行委員会『中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス 総括報告書』中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス実行委員会、2014年b
- 中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス実行委員会、北川フラム『中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス2014』中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス実行委員会、2014年
- 西田正憲「瀬戸内国際芸術祭2010における離島を巡るアートツーリズムに関する風景論的考察」『地域創造学研究』、第21巻第3号、2011年、pp.91-110
- 日本政策投資銀行大分事務所『文化芸術創造クラスターの形成に向けて~美術館からひろがる創造都市~』日本政策投資銀行大分事務所、2011年
- 長谷川祐子『「なぜ?」から始める現代アート』NHK出版、2011年
- 林史「サイト・スペシフィックとしての野外彫刻制作の試み 中之条ビエンナーレ2011『漂泊 六合(くに)の空へ』制作を通して」『群馬大学教育学部紀要 芸術・技術・体育・生活科学編』、第48巻、2013年、pp.67-79
- 宮本結佳「現代アートを媒介とした景観創造の実践 作家・住民間の場所解釈をめぐる相互作用と作品の地域資本化」『滋賀大学教育学部紀要 人文科学・社会科学』、第61号、2011年、pp.15-27
- 山口裕美『観光アート』光文社、2011年
- 和辻哲郎『風土 人間学的考察』岩波書店、1979年
三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた荒島一貴さん、伊藤りくさん、ソンジヒョンさん、恒川敬敏さん、太田智さん、渡邉雄一郎さん、ありがとうございました。
サブゼミでの様子 市原の桜の下で いちはらアート×ミックスにいってきました 地元の方への聞き取り 市原市役所の前で 新潟の大地の芸術祭にもいきました
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