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アーティスト・イン・レジデンスによる今井町の町家の活用
荒島一貴・武部紗季・平野英理子・森園夏気
奈良県橿原市今井町は、貴重な歴史的町並みを残す町である。今井町には町家と呼ばれる江戸時代からの商家が多く残る。それらの建造物群が意匠的に優秀であることから、文化庁が今井町を国の重要伝統的建造物群保存地区(以下重伝建地区)として指定している。八甫谷(2006)が述べているように、もともと重伝建地区の制度は今井町の町並み保存のために作られたものである。しかし、鈴木(2010)によると重伝建地区に指定されると自分の家が自由に使えなくなる、金がかかるといった誤った情報によって住民が反対していたため合意形成に時間を要し、今井町は制度発足から15年遅れで1993年の指定となった。指定は遅れたものの制度設立の背景から今井町は町並み保存の先駆的役割を担っている。
近年、今井町では空き家となっている町家が目立ってきている。ハウジングアンドコミュニティ財団(2005)によると、2004年には今井町において重伝建地区内の約750件の建築物のうち空き家88件、空き地35件が存在する。今後少子高齢化がすすみ、人口がますます減少することを考えれば、空き家問題はより深刻になる。山添、棚田、神吉(2001)は、空き家の増加は歴史的町並みの維持を困難にし、価値を減少させるとしている。さらに、全国町並み保存連盟(2000)によると町並みは建造物群だけが作り出しているものではなく、住んでいる人々や地域のコミュニティも町並みの重要な構成要素であるとしている。今井町は特別な景観を残す町だからこそ、その家々がただ存在するのではなく、そこに人が住んでいることにも価値を見出していくべきである。
空き家は町の景観を損ね、町並み保存の阻害要因になるため、空き家を減らすことが重要である。今井町では、NPO法人今井町並み再生ネットワークが今井空き家バンクを運営しており、空き家所有者と居住希望者の橋渡しをする役割を担っている。今井空き家バンクは全国の空き家バンクと比較すると大きな実績をあげているものの、貸せる状態の空き家が不足しており空き家の確保が課題である。
空き家を活用する策として近年注目されているものにアーティスト・イン・レジデンス(Artist in Residence、以下AIR)がある。AIRはアーティストを地域に誘致し、住み込みで創作活動をしてもらう事業である。アーティストは活動の支援を受けることができ、小川(2009)によると同じ地域での同業者の活動が創作活動の刺激になる。また、アーティストを地域に呼ぶと、作品の展示と販売だけでなくアートイベントやワークショップなどを開催することができる。福井(2010)は芸術文化の振興だけでなく、来訪者が増加し住民同士や住民とアーティストの交流が生まれることで地域が活気づき、まちづくりを促進する効果が見込めると述べている。AIRはアーティストの誘致により地域へよい効果をもたらす事業である。今井町を含む奈良の複数の地域でおこなったアートイベント、HANARARTにおけるAIRであるHANARARTえあでは、本来空き家を活用することを想定していたが、2013年では実現できていない。
本稿では空き家バンクとHANARARTにおけるAIRが提携することで今井町の空き家を活用でき、町並み保存の1つの手段となることを述べる。この結論を導くために、1節で今井町と空き家の現状を記述する。2節ではAIRの概要と事例について述べる。3節では、HANARARTとそこでのAIRについて述べた上で、空き家バンクとHANARARTが提携したAIRの実施を提案する。提携によって使用できる空き家の供給が増加し、空き家活用と町並み保存を促進できることを示す。
目次
はじめに
1 今井町の空き家について
1-1 今井町の空き家の現状
1-2 今井空き家バンクの概要と問題
2 アーティスト・イン・レジデンスについて
2-1 アーティスト・イン・レジデンスの概要
2-2 アーティスト・イン・レジデンスの事例
3 今井町におけるアーティスト・イン・レジデンス
3-1 今井町におけるHANARARTについて
3-2 HANARARTによる空き家バンクの問題の解決
おわりに
参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2013年11月8日時点で確認しました。その後、URLが変更されている可能性があります。
- 荒島一貴、太田智、平野英理子、松下慶祐、渡邉雄一郎『空き家バンク・HANARARTフィールドノート』慶應義塾大学経済学部大平哲研究会フィールドノートシリーズ2013-mk02、2013年
- 荒島一貴、武部紗季、平野英理子、森園夏気『今井町フィールドノーツ』慶應義塾大学経済学部大平哲研究会フィールドノートシリーズ2013-mk01、2013年
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- 米山秀隆「空き家率の将来展望と空き家対策」『研究レポート』、No.392、2012年
- 米山秀隆「自治体の空き家対策と海外における対応事例」『研究レポート』、No.403、2013年
三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいた川端詩織さん、中山宏伸さん、三浦紋さん、ありがとうございました。
五重塔と 鹿さんと 若林さん宅にてまちづくりについて 東大寺を背にして 奈良県庁にて 和装で今井町を歩く
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