三田祭論文
フィリピン農村部における4Psとマイクロファイナンス機関の関わり
門村栞・中山宏伸・三浦紋・安井將之
フィリピンにどのようなイメージを持っているだろうか。バナナや、世界遺産に登録されている棚田をイメージする人も多いだろう。フィリピン海に生息する多様な生物やセブ島のようなリゾート地を思い浮かべる人もいるかもしれない。表面だけみると、フィリピンは豊かな国に見える。しかし、フィリピンに住む人々の4人に1人が貧困に陥っているという現実がある。フィリピンでは都市部と農村部に大きな格差が存在し、農村部に貧困層・最貧困層が集中している。
最貧困層を減少させるため、フィリピン政府は2008年からPantawid Pamilyang Pilipino Program(4Ps)と呼ばれる条件付き現金給付(Conditional Cash Transfer)を開始した。しかし、農村部には4Psの給付をおこなうLand Bank of the Philippines(農村開発銀行)の支店やATMが少ない。さらにIIRR(2009)によると、農村部の最貧困層が4Psの給付を受けるためには移動費や移動時間など多くのコストがかかる。
農村部の貧困層は収入が安定しないため、都市部とは異なる金融サービスを必要とする。例えば農民は収穫期以外には収入がなく、その時期以外にローンを返済することはむずかしいため、都市部とは異なったローン返済の計画が必要である。Llanto(2005)は農民のニーズに合った金融商品の少なさや金利の高さから、農村部では金融サービスを利用することがむずかしいと述べている。JICAは「ミンダナオにおける零細農民の金融アクセス改善プロジェクト」を実施している。このプロジェクトはマイクロファイナンス機関が地域に密着して農村部の貧困層に適した金融サービスを提供している。
4Psにおいても、地域に密着したマイクロファイナンス機関の活動を有効活用できないであろうか。これまでに4Psとマイクロファイナンス機関についてまとめた研究は門村、中山、三浦、安井(2012a)、門村、中山、三浦、安井(2012b)以外にはない。
本稿の結論は、地域に密着したマイクロファイナンス機関が4Psの給付を代行すべき、ということである。地域に密着したマイクロファイナンス機関が給付を代行することで、農村部における最貧困層の受給が容易になる。さらに、今まではマイクロファイナンスを利用できなかった最貧困層が貧困層に上昇し、マイクロファイナンスを利用できるようになる。マイクロファイナンスを利用することで、4Psの給付が終了した後の逆戻りを防ぐことができる。
この結論を示すために、まず1 節でフィリピンの農村部に貧困層・最貧困層が集中している現状と4Psの概要を述べる。4Psの問題点として、農村部に4Psの給付窓口が少ないことと給付期間が限られていることをあげる。2節では最貧困層がマイクロファイナンスのターゲットとされておらず、マイクロファイナンス機関と距離があることを示す。3節では最貧困層がマイクロファイナンス機関を通して4Psの給付を受けることで、将来マイクロファイナンスを利用できるようになることを説明する。そして、4Psがマイクロファイナンス機関と提携することが重要であることを述べ、マイクロファイナンス機関こそ4Psの給付をおこなうべきであることを示す。
目次
はじめに
1 4Psについて
1-1 フィリピンの基礎情報
1-2 フィリピンの貧困状況
1-3 概要
1-4 問題点
2 マイクロファイナンスについて
2-1 概要
2-2 最貧困層との関わり
3 4Psとマイクロファイナンス機関の関係
3-1 ミンダナオにおける零細農民の金融アクセス改善プロジェクト
3-2 4Psとマイクロファイナンス機関の提携
3-3 貧困層への影響
おわりに
参考文献
参考文献
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