三田祭論文
三田祭論文

慶應義塾大学経済学部
大平 哲研究会
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フィリピン人出稼ぎ労働者の現在と展望

大久保絵梨・松本志織・村山弘樹・山川友輔

近年、アジアでは女性の海外出稼ぎ労働者が増加している。とくにフィリピンでは国内の低賃金と高失業率が問題となり、多くの女性が海外へ出稼ぎにいっている。フィリピン政府も外貨獲得のため、海外雇用庁を中心に国外への出稼ぎを推進している。 海外に出稼ぎにいく女性たちは長期間家族と離れて働かなくてはならず、さらに彼女たちの多くは家事労働やショーパブで働くエンターテイナーなど一般に社会的地位の低い職に従事している。また海外出稼ぎ労働には送金の使途をめぐる家族とのトラブルや、職場 のみならず帰国後も精神的・肉体的暴力をうけるなどさまざまな問題があり、生活に支障をきたしている女性が多く存在する。

フィリピン人女性の出稼ぎの現状と問題は佐藤(2002)や平野(1999)がまとめている。越智(2005)や越智(2010)は、香港におけるフィリピン人家事労働者とその家族の現状と問題を概観しつつ、それらの問題に対する取り組みとしてOWWA (Overseas Workers Welfare Administration)やNGOが推進する再統合プログラムを取りあげ、今後の課題について考察している。遠藤(2008)や小ヶ谷(2005)は、フィリピン人海外就労者の法的権利保護についてまとめている。しかし、香港の家事労働者の待遇改善に関して、再統合プログラム、法整備の両面からまとめた研究はない。

本稿の結論は、再統合プログラムと法整備の推進が香港で働くフィリピン人家事労働者をとりまく環境を改善するということである。再統合プログラムによって、フィリピン国内外で精神的・肉体的に傷を負った女性労働者たちの心理的負担を軽減することができる。さらに帰国後の経済的支援も可能になる。また法整備によって、トラウマの原因となる過酷な労働環境を改善できる。

結論を示すために、まず1節でフィリピン政府が推進する出稼ぎ労働の現状を述べる。2節では香港の家事労働者が抱える問題と国家が抱える人材流出の問題を概観し、それをふまえて3節で再統合プログラム・法整備の両面から海外家事労働者たちの負担を軽減できないか検討する。さらに香港での法制度の運用にはフィリピン政府とILO (International Labour Organization)の中国政府に対する働きかけが重要であることを述べる。

目次
はじめに
1 出稼ぎの現状とメリット
 1-1 フィリピン人出稼ぎ労働者の基礎情報
 1-2 香港のプル要因
 1-3 フィリピンのプッシュ要因
2 出稼ぎのデメリット
 2-1 コミュニティからの孤立
 2-2 強制労働
 2-3 人材流出
3 労働環境改善
 3-1 再統合プログラム
 3-2 法整備
おわりに
参考文献
補論 マイクロクレジットで出稼ぎ労働者が減少する

参考文献

Jhunさん宅にて サンアンドレスマーケットでモンキーバナナとライチ購入
アイオさんMFIについてのレクチャー クリスタルさん宅でランチをいただく
アイリーンさんらと記念写真 クリスタルさんとジーナさんにインタビュー

論文全文(ゼミ関係者のみダウンロード可)

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