三田祭論文
まちづくりとパタン・ランゲージ
平原岳洋・松崎瑛
NHKの連続テレビ小説「つばさ」は埼玉県の川越市が舞台である。小江戸としても有名であり、2011年に市が実施したアンケートによると人々は街並みを目的に訪れている。とくに一番街商店街は蔵造りで有名である。この人が集まる街は町づくり規範という独自のルールに則してまちづくりをしている。このルールのもとはアメリカの建築家クリストファー・アレグザンダーが提唱したパタン・ランゲージの理論である。
アレグザンダーはパタン・ランゲージについてAlexander(1964)やAlexander(1977)、Alexander(1979)などで述べている。この理論では都市をツリー構造とセミラティス構造に分けている。セミラティス構造の都市は人々が求める住みやすさをもたらす。パタン・ランゲージは街をパタンというブロックに分解し、再構成することで質の高いセミラティス構造の街をつくる理論である。計画的につくられたヨーロッパの街はツリー構造に当てはまり、複雑なつくりの日本の城下町はセミラティス構造に当てはまる。ヨーロッパではパタン・ランゲージを都市計画に利用した有名な事例はないが、日本ではパタン・ランゲージをつかったまちづくりの例に埼玉県川越市の川越一番街商店街をあげることができる。
槙(1980)や芦原(2001a)、芦原(2001b)などのようにヨーロッパと日本の城下町の成り立ちのちがいに言及した論文はあるものの、それをパタン・ランゲージと結びつけた研究はおこなわれていない。本稿ではヨーロッパと日本でパタン・ランゲージの適応性が異なるのはAlexander(1964)がまとめた都市の成り立ち、構造のちがいに起因すると考えた。日本の城下町は自然発生的で重層的な構造であるためにパタン・ランゲージと相性がよいが、ヨーロッパの都市は計画的で合理的な構造なのでパタン・ランゲージは使用されなかった。
本稿では1節でパタン・ランゲージの理論の概要を解説し、2節でヨーロッパと日本のまちづくりのちがいを示す。最後に3節で日本の実例である川越市中心部がパタン・ランゲージを利用してどのような効果を得たかを紹介する。
目次
はじめに
1 アレグザンダーのパタン・ランゲージとは
2 まちづくり
2-1 ヨーロッパの都市の成り立ち
2-2 日本の都市の成り立ち
2-3 ヨーロッパと日本でのパタン・ランゲージ
3 川越の事例
3-1 川越の歴史
3-2 川越のまちづくり
おわりに
参考文献
補論 真鶴の事例
参考文献
- 芦原義信『街並みの美学』岩波書店、2001年a
- 芦原義信『続・街並みの美学』岩波書店、2001年b
- アレグザンダー、クリストファー、押野見邦訳「都市はツリーではない」『別冊国文学 テクストとしての都市』別冊22号、pp.25-46、1984年a
(Alexander, Christopher, “A city is not a tree” Architectural Forum, Vol. 122, No 1, 1965, pp.58-62 (part1), No 2, 1965, pp.58-62 (part2))
- アレグザンダー、クリストファー、平田翰那訳『パタン・ランゲージ 環境設計の手引き』鹿島出版会、1984年b
(Alexander, Christopher, A Pattern Language: Towns, Buildings, Construction, Oxford University Press, 1977)
- アレグザンダー、クリストファー、平田翰那訳『時を越えた建設の道』鹿島出版会、1993年
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- 小和田哲男『城と城下町』教育社歴史新書、1979年
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- 槇文彦「都市をみる」槇文彦他『見えがくれする都市』鹿島出版会、1980年、第1章所収
- 宮下辰夫『川越の蔵造 川越叢書第五巻』川越叢書刊行会、1955年
- 八杉淳『近江の宿場町』サンライズ出版、2009年
- 和田幸信『フランスの景観を読む』鹿島出版会、2007年
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