三田祭論文
サリサリストアとフランチャイズ式ビジネス
菅澤玲美・三木雄介・村口大和・山崎翔太郎
世界には貧困問題を抱えた国が数多く存在する。フィリピンもそのうちの1つである。フィリピンは2009年に7%の経済成長を実現し、急激な経済成長を遂げている国である。一方で、人々がごみ捨て場に住みついてできたスモーキーマウンテンと呼ばれるスラム街が未だに存在しているなど、貧困が残っている。
こうした貧困層の人々の消費生活の中心にサリサリストアと呼ばれる小さな商店の存在がある。サリサリストアはフィリピン全土に数多く存在し、日用品を小分けにして販売することで、まとまった金銭のない貧困層の人々も買い物ができるようになっている。一方でサリサリストアに関する問題点が2点ある。1点目は経営者の収入が不安定であり、商売がうまくいかずに店をたたんでしまうことである。2点目は貧困者は現金を持っていないために、単価が高いというペナルティを払ってでもサリサリストアで小分けの商品を買わざるをえないことである。本稿はサリサリストアをフランチャイズ化することでこの2つの問題を解決できると考えた。
サリサリストアの形態や役割についてはBonnin(2006)やMcIntyre(1955)がまとめている。森山(2006)はフランチャイジングのブランディング効果、コスト削減、情報管理の効率化といった経済的なメリットについて述べており、Fairboume, Gibson and Gibb(2008)ではフランチャイジングの中でも店舗経営者の生活改善に重点を置いたマイクロフランチャイジングを紹介している。しかしながらサリサリストアにマイクロフランチャイズを応用し、成功するかどうかという研究は行われていない。
サリサリストアの理想のフランチャイズ化とは提供する商品やサービスによって地域に貢献し、持続的な経営を支え、サリサリストア経営者自身と地域の双方のよりよい生活に貢献するものである。フランチャイズの成功条件として継続的な技術提供やコミュニティとの共存などがある。本稿での結論は2つある。第1に、フィリピンで行われているサリサリストアにマイクロフランチャイジングを応用する取り組みであるHAPINOYプログラムはフランチャイズ化の成功条件を現時点でいずれも満たしており、現在までの経過は理想的なものである。第2に、今後店舗数を拡大していくのであればフランチャイジングのサポートや流通の効率化などの課題が出てくるため、ドミナント方式の導入や他店との差別化を解決案としてあげる。
以上2つの結論を示すために、まず1節ではサリサリストアの現状や経営者の収入が不安定であるといった問題点について述べる。2節ではフランチャイジングの基礎情報を整理し、コスト削減などの経済的メリットについて述べる。3節ではまずマイクロフランチャイジングについて紹介し、理想的なフランチャイジングを定義し、コミュニティとの共存などの成功条件を挙げる。4節ではフィリピンでのサリサリストアのフランチャイズ化について紹介し、3節で挙げた理想の形や成功条件に合致するかを検証する。最後に5節で今後の課題としてフランチャイジング拡大後のサポートの必要性などを挙げ、ドミナント方式の導入など解決案を示す。
目次
はじめに
1 フィリピン・マニラとサリサリストアの現状
1-1 フィリピンの基礎情報と貧困状況
1-2 貧困層とサリサリストア
1-3 サリサリストアの特徴と役割
1-4 サリサリストアの問題点
2 フランチャイズ
2-1 フランチャイズとは
2-2 ブランド化の効果
2-3 コスト削減
2-4 情報管理の効率化
3 理想的なフランチャイズ
3-1 マイクロフランチャイズ
3-2 サリサリストアの理想的なフランチャイズ化
3-3 フランチャイズ式ビジネスの成功条件
4 サリサリストアのフランチャイズ式ビジネス
4-1 HAPINOYプログラム
4-2 HAPINOYの成功
5 今後の課題と解決案
5-1 HAPINOYの課題
5-2 解決案
おわりに
参考文献
参考文献
- 浅野恭右「POSにおけるハード・メリット」『流通情報』No.169、1983年、pp.2-7
- 石川 弘道「百貨店・スーパーマーケットにおけるPOSシステム」『オフィス・ オートメーション 』第5巻第1号、1984年、pp.25-32
- 稲川和男「流通組織化の私的論理」『マーケティングジャーナル』、第1巻第2号、1981年、pp.44-5
- 上原征彦「マーケティング戦略論」有斐閣、1999年
- 大野拓司、寺田勇文編著『現代フィリピンを知るための61章』明石書店、2009年
- 大須賀典子「よく見るあのブランドのマーケティング戦略を見抜く」、オープンナレッジ、2005年
- 小野晃典「ブランド力とその源泉」『三田商学研究』第45巻1号、2002年、pp.13-40
- 木本玲一「ブランド価値に関する考察」『相模女子大学紀要』、2008年、pp.57-67
- 栗木契「ブランド価値のデザイン」青木幸弘・恩蔵直人編、有斐閣、2004年
- ジェトロ・アジア経済研究所「アジア各国・地域経済統計2010年」『アジ研ワールド・トレンド2010年10月号』、2010年
- 菅澤玲美、三木雄介、村口大和、山崎翔太郎「マニラフィールドノーツ」慶應義塾大学経済学部大平哲研究会フィールドノートシリーズ2010-mf02、2010年
- 菅原秀幸「日本企業によるBOPビジネスの可能性と課題」『開発論集84巻』北海学園大学開発研究所、2009年、pp.91-117
- 世界銀行ウェブサイト
(2010年10月27日)
- セブンイレブンウェブサイト (2010年10月30日)
- 「特集 フランチャイズの悲鳴」『週刊ダイヤモンド』、ダイヤモンド社9月11日号、2010年、pp.26-63
- 中西徹「スラムの経済学――フィリピンにおける都市インフォーマル部門」東京大学出版会、1991年
- 日本フランチャイズチェーン協会ウェブサイト
(2010年10月1日)
- フランチャイズタイムズ2009 (2010年10月30日)
- マクドナルドウェブサイト (2010年10月30日)
- 森山一郎「チェーンストア理論と「日本型」チェーンストア・システム」CUC policy studies review、第10巻、pp.11-28、2006年
- 柳川高行「流通革命と新流通革命 : スーパーマーケットとコンビニエンスストアの本質」、白鴎大学論集第5巻第1号、1990年、pp.27-46
- American Marketing Association
(2010年10月30日)
- Bonnin, Christine, " Women's experiences as home-based traders in Metro Manila: A case study of the neighbourhood store," Research and Practice in Social Sciences,
Vol.1, No.2, 2006, pp.132-155.
- Digal, N. Larry, "An Analysis of the Structure of the Philippine Retail Food Industry," Philippine Journal of Development, Vol.28, No.51, 2001, pp.13-54.
- Fairboume, S. Jason, Stephen W. Gibson and W. Gibb, “MicroFranchising: Creating Wealth at the Bottom of the Pyramid,” Edward Elgar Publish Limited, 2008.
- Food and Agriculture Organization of the United Nationsウェブサイト (2010年10月24日)
- Google マップ(2010年10月16日)
- HAPINOY STOREウェブサイト (2010年10月24日)
- IFADウェブサイト, “Rural poverty in the Philippines,” IFAD
(2010年10月24日)
- PovcalNetウェブサイト
(2010年10月1日)
- McIntyre, E. Wallace, "The Retail Pattern of Manila," Geographical Review, Vol.45, No.1, 1955, pp.66-80.
- World Franchise Councilウェブサイト (2010年11月5日)
| |
マニラの街並み(アトリウムホテル17階から撮影)
|
サリサリストアの店頭の様子
|
| |
住宅街にあるサリサリストア
|
HAPINOYストア聞き取り後に
|
| |
MicroVenturesの事務所の前で
|
アトリウムホテルでピザを食べる
|
| |
浅草のサリサリストアの鈴木健人さんと
|
合宿中のサブゼミ風景
|
論文全文(ゼミ関係者のみダウンロード可)
三田祭ページに戻る