三田祭論文
沖縄の真実と未来 --- 道州制からのアプローチ
有田昇平・北崎達也・阪本梨紗子・宮崎直幸
2008年10月24日、沖縄県名護市真喜屋のサトウキビ畑に、米軍所属の小型飛行機が不時着したという報道があった。もちろん米軍の飛行機が不時着したこと自体が問題であるが、この事故にはもっと深い問題点がある。沖縄では米兵による事故や犯罪に県警が不十分にしか介入できないことである。日米地位協定による弊害が県警の介入を妨げている。日米地位協定では、アメリカに治外法権や特権が認められており、日本にとっては不平等な協定である。しかし、日本政府は日米地位協定の不平等性の改善に熱心ではない。
過去に遡ってみると、日米地位協定を問題視するきっかけとなった事件や事故はいくつもある。その代表例として、1995年の米兵による少女暴行事件が挙げられる。この事件をきっかけに沖縄県民の反基地感情、反米感情は一気に高まり、日米地位協定の見直しを図るまでに至った。今回の小型飛行機不時着事故に関しても、沖縄で起きた事故にも関わらず、住民の代表や議員の立ち入りが規制されたことや、機体を米軍が差し押さえたことが問題視されている。ここで再び、日米地位協定への関心が高まってきたのである。
本論では、道州制を導入することを前提として「沖縄は単独州とすべき」と述べる。日本国内において道州制導入に関する議論が活発に行われている。2008年7月10日の臨時府議会で、大阪府の橋下徹知事は「廃藩置県以来の都道府県にこだわっていると、関西だけではなく日本全体も国際競争を乗り切れない」と道州制の必要性を熱く語った。道州制が必要であると主張する政治家や団体は少なくない。道州制を導入するに当たって、注目すべき議論は沖縄と九州の関係についてである。沖縄は九州の1部として存在するのか、あるいは沖縄単独州として存在するのかということである。沖縄の人々は単独州となることを望んでいる。沖縄では、県民所得が低いにもかかわらず、県民の生活満足度が高い。なぜ生活満足度が高いのか。沖縄の人は沖縄に愛着があるからであり、これこそが地域愛と言える。地域愛が強い沖縄の人々は、九州とは距離をおいて単独で存在したいと考えるのである。
第1部では、まず道州制の意義を示し、沖縄の歴史、米軍基地問題、沖縄の地理の3つから、道州制導入にあたって「沖縄は単独州とすべき」ことを示す。沖縄の歴史では、沖縄という島独特の歴史から沖縄の人々が独立したい、九州とは距離をおきたいという思いを抱いていることを示す。米軍基地問題では、米兵の犯罪を裁けなかったことをきっかけに沖縄のことは沖縄で決めたいと強く思うようになった経緯を明らかにする。また、米軍基地が沖縄の産業の可能性を狭めていることも示す。沖縄の地理では、沖縄が島嶼(とうしょ)県 、離島県であるという地理的特徴を有すため、製造業が少なく、行政コストもかかることを示す。
第2部では、道州制のあり方を設定し、経済シミュレーションを行う。それによって、沖縄が単独州となれば、沖縄経済が現状を維持することが困難であることと、基地面積を基準に用いる財政調整が沖縄経済に与える影響が大きいことを示す。はじめに、単独州となれば、現状より経済的に厳しくなることが予想されるため、何らかの財政調整を沖縄が訴えることを考える。沖縄の特性を比較考察することで、基地の存在を根拠に財政調整を訴えていくことが、最も国に対して政策を行わせる説得力があることがわかる。それゆえ、単独州となった時の沖縄の経済をシミュレーションする際に、基地面積を基準に用いる財政調整を行った場合もあわせて検討していく。シミュレーションでは県民所得(州民所得)と県(州)の歳入の2つに焦点をしぼり、現状との比較を行っていく。
目次
はじめに
第1部 沖縄は単独州とすべきか
1 道州制の概要
1-1 道州制の意義
1-2 道州制と出先機関
1-3 道州制の問題点
2 沖縄の歴史
2-1 第2尚氏王統時代から沖縄戦前
2-2 沖縄戦と戦後処理
3 米軍基地問題
3-1 通貨政策と製造業
3-2 米兵犯罪と地位協定
3-3 戦後における政府と県の取り組み
4 沖縄の地理
5 沖縄は単独州とすべき
第2部 沖縄単独州を経済的に考える
1 財政調整の根拠を検討する
2 シミュレーション
2-1 経済モデルの設定
2-2 税源移譲のシミュレーション
2-3 ナショナルミニマムの保障を考慮したシミュレーション
2-4 シミュレーション結果の考察
おわりに
参考文献
補論
付録
参考文献
- 明田川融『沖縄基地問題の歴史』みすず書房、2008年
- 安里英子「米軍政下にみる子どもと女性の人権―凌辱される生命」2000年
- 阿波連正一『沖縄の基地問題』沖縄国際大学公開講座委員会、1997年
- 新崎盛暉『沖縄現代史新版』岩波新書、2005年
- 井戸敏三「道州制に関する第3次中間報告(案)について」2008年
- 内田真人『現代沖縄経済論』沖縄タイムス社、2002年
- 大平哲「「自立」概念の再検討:沖縄を例として」『三田学会雑誌』95巻3号、pp.47-60、2002年
- 大平哲「沖縄と本土の格差」『三田学会雑誌』96巻1号、pp.111-120、2003年
- 岡田知弘『道州制で日本の未来はひらけるか』自治体研究社、2008年
- 沖縄県企画部『経済情勢平成19年度版』2008年
- 沖縄県企画部企画調整課「おきなわのすがた」2008年
- 沖縄県基地対策室「沖縄の米軍基地」2005年
- 沖縄県知事公室基地対策課「沖縄の米軍および自衛隊基地」2008年
- 沖縄政策協議会「「沖縄経済振興21世紀プラン」最終報告」2000年
- 沖縄タイムス社『民意と決断 海上ヘリポート問題と名護市民投票』沖縄タイムスブックレット、1998年
- 沖縄道州制懇話会「沖縄の「特例型」道州制に関する第1次提言」2008年
- 兼村高文「シミュレーション 税源移譲、新型交付税で財源配分はどうなるか (特集 地方自立への「骨太改革」)」『ガバナンス』No.63、pp.41-43、2006年
- 神野裕史「東海州導入地域に関する検証」2008年
- 幸田雅治「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律案の概要」1999年
- 国税庁長官官房企画課「第131回国税庁統計年報所」2007年
- 小森治夫『府県制と道州制』高官出版、2007年
- 塩澤修平『経済学・入門』有斐閣、1996年
- 島田晴雄「経済学への思い」『三田学会雑誌』98巻1号、pp.1-14、2005年
- 平良朝男「沖縄の経済構造分析」『沖大経済論叢』第17巻第2号、pp.1-29、1994年
- 竹中平蔵『闘う経済学』集英社インターナショナル、2008年
- 竹本享、高橋広雅、鈴木明宏「効率化インセンティブを考慮した税源移譲のシミュレーション」『日本経済研究』No.56、pp.122-146、2007年
- 田辺亜矢子「基地のある街、コザの歴史と発展」『沖縄の過去・現在・未来-2004年度地理学野外調査実習報告書-』2004年
- 知念清張「米軍再編と沖縄 新たなる自治体の苦悩」『現代の理論』vol. 9、pp.45-60、2006年
- 地方制度調査会「道州制のあり方に関する答申について」2006年
- 地方分権改革推進委員会「国の出先機関の見直しに関する中間報告」2008年
- 道州制.com『道州制で日はまた昇るか』現代人文社、2007年
- 櫟本功『道州制地域経済が変わる』第一法規、2008年
- 内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部編『県民経済計算年報平成20年版』メディアランド、2008年a
- 内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部編『国民経済計算年報平成20年版』メディアランド、2008年b
- 中村邦夫「まず国の出先機関改革を」日本経済新聞、経済教室2008年5月22日朝刊
- 21世紀政策研究所「地域再生戦略と道州制~九州をモデルとしたシミュレーション分析を中心に~」2008年
- 日本経済団体連合会「道州制の導入に向けた第1次提言―究極の構造改革を目指して―」2007年
- 日本経済団体連合会「道州制の導入に向けた第2次提言―中間とりまとめ―」2008年
- 日本統計協会『国勢調査報告平成17年第一巻』2007年
- 昇秀樹「「補完性の原理」と地方自治制度」都市問題研究7月号、2003年
- 福田毅「沖縄米軍基地の返還-SACO合意の実施状況を中心に-」『レファレンス』vol.53,No.10、pp.3-31、2003年
- 部落解放人権研究所『部落問題・人権事典』解放出版社、2001年
- 北海道企画振興部総務課「平成18年度版北海道経済白書」2006年
- 前泊博盛、百瀬恵夫『検証「沖縄問題」』東洋経済新報社、2002年
- 前泊博盛『もっと知りたい!本当の沖縄』岩波ブックレット、2008年
- 松田英樹「沖縄における米軍基地問題」『レファンス』vol.54, No.7、pp.36-60、2004年
- 村上弘「「道州制」は連邦制の夢を見うるか?-ドイツ連邦制を支える細部設計について」『立命館法学』2000年6号、pp.164-185
- 村上弘「道州制は巨大州の夢を見るか」『立命館法学』、2007年5号、pp.1494-1556
- 山口昭男『オキナワ 沖縄戦と米軍基地から平和を考える』岩波書店、2006年
- 山田浩之、徳岡一幸『地域経済学入門』有斐閣コンパクト、2007年
- 山中俊亮「道州制と地域間財政調整」『KGPS review : Kwansei Gakuin policy studies review』vol4, 2005、pp.43-66
- 吉田健正『「軍事植民地」沖縄』高文研、2007年
- 歴史教育者協議会『シリーズ知っておきたい沖縄』青木書店、1998年
2008年9月の現地調査のようす (沖縄)
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琉球古民家を見ながら沖縄の歴史を学ぶ
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嘉手納基地を見ながら基地問題を考える
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琉球新報社でヒアリング
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県庁の方々から沖縄の文化を学ぶ
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美ら海水族館
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沖縄の地理について考える
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