三田祭論文 |
慶應義塾大学経済学部 |
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青森ねぶた祭と地域活性化 --- 青森市における青森ねぶた祭の重要性
田中里実・長谷川宗彦・藤野紘之
我が国の地域政策は時代とともに変化してきた。地域特有の自然や文化を活かした観光が全国各地で展開され、その中の1つとして地域に古くから存在する祭りが注目されるようになった。地域活性化のために祭りが活用され、祭りの観光資源化が進んでいくのである。地域活性化とは地域のまとまり、すなわち帰属意識の創出と地域の経済的な活性化との2つに分けることができるが、これまで前者の意味での地域活性化要素と考えられていた祭りは、後者の意味での地域活性化要素として期待されるようになったのである。
東北地方には、青森県青森市の青森ねぶた祭、岩手県盛岡市の盛岡さんさ踊り、宮城県仙台市の仙台七夕まつり、秋田県秋田市の秋田竿燈 祭り、山形県山形市の山形花笠祭り、福島県南相馬市 の相馬野馬追 と、有名な祭りが数多く存在する。本論では、ここで挙げた6つの祭りの中で市の人口規模のわりに観光入込客が多く観光消費支出額も最も大きい青森ねぶた祭と、これほどまでに大規模な祭りを有する青森市に注目する。
青森ねぶた祭は8月2日から7日までの6日間にわたって開催され、310万人の観客を集める国内最大規模の夏祭りであり、青森市にとって最大の観光資源である。しかし、祭りの急速な観光資源化に伴い本来祭りの主体であるはずの地域住民よりも外部の人間である観光客を意識しすぎたため、市民の間では「誰のために祭りを行うのか」という問題が生じた。この問題を解決し青森ねぶた祭をより一層盛り上げるためには、市民と観光客がともに青森ねぶた祭を楽しみ、両者共通の経験を通じて青森市という場所に対する愛着をもつことが必要だと考え、本論ではトポフィリア(場所への愛)の概念を用いて祭りを見直してみる。
トポフィリア(topophilia)とは、「人々と、場所あるいは環境との間の情緒的な結びつき」であり、「物質的な環境と人間との情緒的なつながりをすべて含むように広く定義できる」ものとされている。本論ではこのトポフィリアを「そこに居続けたい、再び訪れたい」と思う、場所への愛情に似た感情と解釈する。そして、祭りによって観光客が青森市に対してトポフィリアを形成するためには、観光客が祭りに参加し、青森市民と交流することが必要だと考える。
青森ねぶた祭は市民だけでなく観光客も参加できるという特徴をもっている。観光客はハネト(跳人)として祭りに参加し、青森市民とともに祭りを楽しむことができ、市民と共通の体験をすることができるのである。このような特徴を前面に打ち出すことで青森ねぶた祭ならではの魅力を作り出し、観光客にトポフィリアを抱かせること、すなわち青森市という場所に対して愛情に似た感情を持ってもらうことが可能であり、新規の観光客を増やすことに加えて一度来た観光客にもう一度来てもらうことができる。また、青森ねぶた祭は青森市の成長とともに発展し、青森市が戦災や幾多の災害に直面したときには復興と発展の象徴として青森市民の心を団結させてきた、青森市民共有のかけがえのない財産である。そのような祭り、さらには青森市に、市民ひとりひとりが誇りと愛着を持つことによって、青森ねぶた祭を次の世代へと伝えることが可能になるはずである。
1節では地域社会における祭りの重要性について述べ、東北6大祭りを比較し、青森ねぶた祭が開催される青森市の現状と青森ねぶた祭について説明する。2節ではトポフィリアの概念について詳しく述べる。3節ではこのトポフィリアの概念を用いて青森ねぶた祭を見直し、青森市の活性化のためには青森ねぶた祭における市民と観光客の参加が重要であるという結論を導く。そしておわりにでは、地域のまとまりの創出と地域の経済的な活性化の両面からの地域活性化につながる青森ねぶた祭のあり方を提言する。
目次
はじめに
1 地域社会における祭りと青森市の現状
1-1 地域社会における観光・祭りの重要性
1-2 東北6大祭りの比較・青森市の現状
1-3 青森ねぶた祭
2 トポフィリアとは
3 青森ねぶた祭とトポフィリア
3-1 観光客にとっての祭り
3-2 市民にとっての祭り
おわりに
参考文献
参考文献
- Buttimer, A, Value in geography, Association of American Geographers, 1974 本論執筆にあたっては渋谷正人訳『社会地理学の探検』大明堂、1991年を参考にした。
- Ley, D, “Social geography and the taken-for-granted world,” Trans Inst Br, 2, 1977, pp.498-512 本論執筆にあたっては渋谷正人訳『社会地理学の探検』大明堂、1991年を参考にした。
- Relph, E. C, Place and Placelessness, Pion, 1976 本論執筆にあたっては高野岳彦訳『場所の現象学』筑摩書房、1991年を参考にした。
- Relph, E. C, Rational landscapes and humanistic geography, Croom Helm, 1981 本論執筆にあたっては渋谷正人訳『社会地理学の探検』大明堂、1991年を参考にした。
- Tuan, Yi-Fu, Topophilia, Prentice-Hall, 1974 本論執筆にあたっては小野有五、阿部一訳『トポフィリア』せりか書房、1992年を参考にした。
- Tuan, Yi-Fu, Space and Place, University of Minnesota Press, 1977 本論執筆にあたっては山本浩訳『空間の経験』筑摩書房、1988年を参考にした。
- 青森市史編さん委員会『青森市の歴史』青森市、1994年
- 青森ねぶた誌出版委員会『青森ねぶた誌』青森市、2000年
- 阿南透「青森ねぶたとカラスハネト」日本生活学会編『生活学第二四冊 祝祭の一〇〇年』ドメス出版、第2章、pp.175-198、2000年
- 阿南透「伝統的祭りの変貌と新たな祭りの創造」小松和彦編『祭りとイベント (現代の世相)』小学館 、pp.68-110、1997年
- 企画集団ぷりずむ『2007年ねぶた祭』『あおもり草子』別刊176号、2007年
- 協同『青森ねぶた』青森ねぶた祭実行委員会、2008年
- 倉林正次『祭りの構造:饗宴と神事』日本放送出版協会、1975年
- 国土交通省編『平成19年版 観光白書』コミュニカ,2007年
- 国土庁『21世紀の国土のグランドデザイン-地域の自立の促進と美しい国土の創造-』大蔵省印刷局、1998年
- 国土庁『第四次全国総合開発計画』大蔵省印刷局、1987年
- 小松和彦「神なき時代の祝祭空間」小松和彦編『祭りとイベント (現代の世相)』小学館、pp.6-38、1997年
- 佐々木一成『観光振興と魅力あるまちづくり―地域ツーリズムの展望』学芸出版社、2008年
- 東洋経済新報社『地域経済総覧2008年改訂版』東洋経済新報社、2008年
- 日本銀行青森支店「県内主要夏祭りの経済波及効果について」2007年
- (財)日本交通公社編『観光読本』東洋経済新報社、2004年
- 荘銀総合研究所「東北6大祭りの経済効果」2007年
- ねぶたガイド資料検討委員会『ねぶたガイドテキスト ねぶた入門編』青森観光コンベンション協会、2008年
- 府中裕紀「地方都市における都市祝祭の存立基盤」東京大学修士学位論文、2007年
- 柳田國男『日本の祭』弘文堂書房、1942年 本論執筆にあたっては柳田國男『柳田國男全集 第十三巻』筑摩書房、1997年を参考にした。
- 吉田春生『観光と地域社会』ミネルヴァ書房 、2006年
2008年8月、9月の現地調査のようす (青森市)
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