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有機農業と地域経済

2 有機野菜の流通の現状と取り組み 東都生協を中心に

片岡 環
ここでは,東都生協と八郷農協との産直事業の発展の歴史を概観し,産直流通の特徴を踏まえた上で,東都生協における有機野菜流通の現状をみていく.

2-1東都生協と八郷農協の地域総合産直
2-2産直流通の特徴−数量調整・価格形成
2-3東都生協における有機野菜流通の現状
(2003年10月23日の東都生協商品本部農産部総括小俣徹氏インタビューより) 2-4感想

2-1 東都生協と八郷農協の地域総合産直

1960年代から70年代にかけて食品公害や残留農薬問題が頻発し,安全な農産物を求める消費者運動や生協運動が全国的に展開された.現在は事業高400億円強・組合員数20万人と,東京都内三番目の規模を誇る東都生協であるが,卸売市場流通全盛であった1973年,産直を基本理念に掲げて誕生した東都生協は「趣味の生協」と揶揄されたそうだ.

八郷農協と東都生協との関係は,1972年から76年ごろ卵の産直を始めた石岡地区連が仲介役となって始めた1985年のしいたけの産直に遡る.翌年には,きぬさや,いんげん,そらまめなど野菜の産直が開始された.その品質は生協組合員に大変好評であった.1987年5月,八郷農協は東都生協の「土づくり宣言」運動に参加した.この「土づくり宣言」運動は,産地における土づくり支援のために組合員から基金を募り,土づくりや産地形成に関係する費用を低金利で「融資」するというものであった.同年7月,東都生協依託の研究班によって地域調査が行われ,11月に「産直と地域農業・農協」として報告書が出された.この中で,作物の南限と北限にあり栽培可能な野菜・果物が多い八郷は,「東都生協の“総合産直”の対象としてふさわしい農業環境を持つ農協」と評された.これを機に,東都生協側は,「ふるさとの八郷」として地域総合産直を提起した.東都生協が目指すべき産直のコンセプトとしての地域総合産直は,単なる農産物の取引だけでなく土地の生産力向上や生協組合員との交流をも含む総括的なものであった.八郷農協側も野菜の産直拡大へと動いた.実際,翌年の1988年,八郷農協の取引き先の生協数は3から5へ,作物数は19品目から26品目へと増加,1990年半ばまで八郷農協の販売金額は順調に伸び続け現在に至る.この東都生協と八郷農協の産直事業は,生協主導型の発展と位置づけられることが多い.しかし,1998年に始まった有機野菜生産は,自発的に始まった動きであり,今後八郷農協の成長要因として一連の産直とは区別して議論する必要がありそうだ.

2-2 産直流通の特徴

産直の定義:卸売市場を介さない生産者と消費者の直接取引.形態・発展の仕方はさまざまであるが,東都生協と八郷農協の例は,「生協主導型」,生産者と消費者との相互的な交流・信頼の下で計画的かつ継続的に行われる商品取引といえる.表にあるように,近年卸売市場を通さない,産直・直売所等といった,卸売市場外流通量が増えてきている.

青果物の卸売市場経由率推計 (単位 千トン, %)
 総流通量(A)市場経由量(B)市場経由率(B/A)
1989235731955883.0
1993232671860280.0
1998230781726574.8
(出所:蔦谷「地域農業,そして地域社会農業へ−WTO体制下の日本農業の方向−」)

先にも述べたようにもともと産直は,外観偏重で,品質や栽培方法などの商品情報が少ない卸売市場流通に対するアンチテーゼとして登場した.消費者側にとって,生産物の安全性の確保が容易となることと,流通マージンが不要となるなどのメリットがある一方で,生産者側には,比較的安定した価格で販売できるというメリットがある.しかし,産直流通には生産者側にとっての負担も存在する.注文制を採用している場合,最大の問題は,卸売市場流通に比べ安定した価格で販売できる代わりに過剰生産時に余剰が生じてしまうことだ.生協は作柄に関係なく,組合員から受注を受けた数量しか購入できないからだ.注文制の産直は卸売市場に比べ作柄への対応能力は低いといえる.

また,昨今では,生協の受注高が市場価格に影響されることが多くなってきた.これは産直の価格決定システムが抱える根本的な問題と関係している.そもそも,生鮮野菜の市場価格の変動幅は潜在的に大きい.なぜなら,生鮮野菜の作柄は気象に左右されやすく,豊凶の変動は大きい上に,野菜は腐りやすいため収穫から消費されるまでの時間が短い.このことは,作柄がそのまま市場価格の変動に結びつくことを意味する.それに対して,生協の共同購入価格の変動幅は小さい.卸売市場を介さない生協の産直流通における価格決定要素は,@生産コストA市場価格B過去の価格の三つである.作柄に応じて価格を調整するといっても,共同購入・個人向けカタログは最低でも1ヶ月前に作成されるため,生協の価格は安定的であり,市場価格の変動幅に比べて小さくなる.これは,恒常的な生協の共同購入価格とスーパー等の小売価格との差を生み出し,共同購入価格が小売価格より高いときには注文が減り,安いときには注文が増えるという事態を招いている.これは生産者側にとっては「価格は安定的だが需要は安定的ではない」あまり望ましくない状況であるといえる.

産直流通の問題点を一言で言うならば,過剰・需要減のリスクを生産者側が負担しているといえよう.

2-3 東都生協における有機野菜流通の現状

さて,前節では産直流通では生産量・需要量の変化に伴うリスクを消費者でなく生産者が負担しているとの指摘を行ったが,有機野菜の場合はどうなのだろうか?有機野菜は慣行農産物にはない取引上のリスクなどはあるのだろうか?今後有機野菜の需要は伸びていくのか?ここでは,2003年10月23日に行った東都生協商品本部農産部総括小俣徹氏へのインタビューを下に,現在有機野菜流通を取り巻く状況を説明していきたい.

・ 有機野菜に対する需要

東都生協では過去5年間有機野菜の野菜部門における構成比が増加傾向にある.

東都生協の野菜部門における有機構成費/受注高
  アイテム数 受注点数 受注供給高(円) 野菜部門全体供給高(円) 構成比
1998年度 67 153,267 41,416,552 3,750,576,886 1.10%
1999年度 163 298,005 69,332,575 3,516,305,488 1.97%
2000年度 334 630,664 137,859,870 3,635,537,738 3.79%
2001年度 551 956,568 202,135,463 3,719,535,231 5.43%
2002年度 626 1,287,502 270,410,025 3,719,179,987 7.27%
(出所:東都生協)
注:欠品額を差し引いていないので有機構成費は実際より高め


しかし,2000年6月に施行された改正JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)に基づいて第三者機関から「有機農産物」と認証を受けるには,「トレーサビリティ」の確保,つまり,生産過程における作業記録等の書類管理を徹底して行う必要があり,膨大な書類管理が生産者の仕事に加わることになった.現行の法律では,有機認証を受けること,かつ法律にのっとり生産することのコストが高く,有機野菜価格は慣行野菜価格に比べて高めである.価格がもう少し下がれば需要はもっと増えるだろう.生産者の高齢化・農業の多面的機能が強調される今日,環境に優しい持続可能的な農業として,有機農業は望ましい.今以上に有機農産物のシェアを拡大するには,消費者ではなく環境・生産者の立場にたった政策が必要不可欠であろう.

・ 有機野菜を扱う際の東都生協が負うリスク

改正JAS法の下で有機野菜の認証システムができたといっても,有機野菜の価格は高めであるため,利益を狙った偽有機野菜が市場から完全になくなるわけではない.残留性の低い農薬は発見されないことがあるからだ.改めて,生産者との「信頼」を長期的に築いていることが,本当の意味での安全・安心な野菜の取引には欠かせないと言えよう.単純に経済原則だけでは語れない側面が有機野菜取引にはあるのだ.これ以外のリスクとしては,有機野菜は普通の生鮮野菜以上に収穫高の変動が激しく欠品率が高いことが挙げられる.これに対し,東都生協は産地の分散化を図るとともに供給価格を高めに設定している.この場合,収穫高が多く納入価が想定以上に下がると生協の利益率が上がるときもある.このことからも,基本的に価格変動のリスクを負うのは生産者であることがうかがえる.

・ 生産者側の負担をどう軽減?

これまで生産者側の負担を問題にしてきたが,東都生協側も少しでも生産者の負担を減らそうと対策を行っている.過剰生産農産物をより多く購入し農家に収入保障する試みとして,「グリーンサポート」という商品を販売している.これは,毎回200円でその時々に余っている品目を消費者に購入してもらうというものだ.消費者は野菜を選べないものの,通常より安い価格で野菜を購入できるメリットもある.まだすべての野菜を購入してほしいという生産者側の要望を満たすには至らないようだが,今後とも,生産者側のリスクを軽減しつつ消費者側のニーズを満たしていくのかが課題となるだろう.

2-4 感想

「グリーンサポート」について,東都生協の小俣さんは非常に残念そうに,まだ全ての生産者の方の期待に添えるような形ではないとおっしゃったが,報告書を書いているうちに,生産者にとっても,消費者にとっても流通システム構築はなかなか難しいと実感した.卸売市場外流通が当たり前となり,様々な企業が有機野菜の通販に参入しスーパーも産直をする今日,色々な切り口で青果物の流通を語ることはできると思う.その意味で私の報告書は舌足らず極まりないが,協力して下さった東都生協の方々には厚く御礼申し上げたい.

参考文献