http://www.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/
(※注 以下、順位、タイトル、ニュース記事、解説の順で並んでいます)
第1位
少子化の歯止めが日本経済を救う?!
1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率(出生率)が2000年に1.35と前年を0.01上回り、4年ぶりに上昇したことが20日、厚生労働省の人口動態統計(概数)で分かった。
(毎日新聞/6月21日朝刊)
 
 出生率は経済問題と関係ないように思われるが、実は経済成長率と人口成長率には深い関係があることが、経済理論では以前から指摘されている。要点を述べれば、人口が増えれば生産に貢献する労働者が増え、労働者が増えればそれだけ生産が増えてGDPが増えるから、人口成長率が高まれば経済成長率(GDP増加率)が高まる、ということである。
 その意味では、このニュースは日本経済にとって吉兆かもしれない。ただ、これは一過性のものかもしれず、出生率の低下(少子化)はこれからも続くと予想されている。そうなると、日本経済は長期的に見て衰退の道をたどる可能性がある。少子化によって日本経済が衰退することを避けたいなら、積極的に外国人労働者を受け入れて、日本の経済成長率の低下を食い止めなければならない。外国人労働者を今以上に積極的に受け入れるか否か、やがて日本人はその答えを出すよう迫られることになろう。
 
第2位
我々は老後に年金をちゃんともらえるのだろうか?
厚生労働省所管の特殊法人、年金福祉事業団(現・年金資金運用基金)による公的年金積立金の運用で2000年度におよそ1兆8000億円の赤字が発生したことが明らかになった。単年度の赤字としては過去最大規模。株式相場の低迷で運用環境が悪化したのが主因で、運用利回りは年マイナス6%程度とみられる。この結果、同年度末の累積赤字額は約2兆円に達したもようだ。
(日本経済新聞/6月20日朝刊)
 
 我々がコツコツと払っている公的年金の積立金の一部は、年金福祉事業団(今年から年金資金運用基金)が預かって、株や国債などを買って運用している。これは、当然のことながら、その運用で儲かった分を含めて我々の老後の年金給付に充てられる。ところが、昨年度末現在で、我々が払った年金積立金のうち、約2兆円が消えてなくなってしまったというのである。
 年金福祉事業団は、特殊法人でその従業員は公務員に準じている。その人たちが、我々が払った年金積立金の運用を行った結果、昨年度末時点で約2兆円の損失をつくってしまったのである。これは、我々の老後に受け取る年金が約2兆円分減らされることを意味する。これが民間の生命保険会社で起きたなら、責任問題に発展する重大事である。それでいて、いまのところ運用責任者の解雇もなく、抜本的な運用体制の見直しもない。
 我々はそんな下手な運用をしてくれと頼んだ覚えはない。今後二度とこのような下手な運用をしないよう、今までの運用担当者には退いてもらい、ウォール街などで名うてのファンド・マネジャーに来てもらって運用を任せたほうが、断然国民のためになる。そんなファンド・マネジャーは公務員並みの給料では雇えないというなら、事業団を民営化して、運用担当者には能力給で高給が払えるようにしたほうがよい。そうすれば、我々は安心して老後に年金を受け取ることができる。
 
第3位
株式譲渡益課税の見直しは、他人事ではない
自民党の麻生政調会長は六日、大阪市内で開かれた読売国際経済懇話会関西の講演会で、株式譲渡益課税の見直しについて、「(2003年4月から廃止予定の)源泉分離課税は、申告分離課税より税収が大きいので、税率を1.05%から2%に上げて、源泉分離課税を残す。この方向で行きたい」と述べ、税率を上げて存続させるべきだとの考えを示した。申告分離課税の税率についても「10%か半分の13%に下げるのは、少しもおかしくない」と述べた。
(読売新聞/6月7日朝刊)
 
 このニュースは、株を持っていない人にとっては関係ない話のように思われるが、そうではない。そもそも、現在株式の譲渡益に対する課税は、売値の1.05%の税金を支払う「源泉分離課税」と、実際の譲渡益(=売値−買値)の26%の税金を支払う「申告分離課税」の2本立てになっている。しかし、これは株で儲けた人の税負担軽減のために使い分けされている。
 なぜならば、株を買ってもあまり儲からなかった(譲渡益が買値の4.2%未満になる)人は申告分離課税で納税するほうが得で、株を買って譲渡益が買値の4.2%以上になるほど儲かった(収益率4.2%以上)人は源泉分離課税で納税するほうが税負担が軽くなる。つまり、株で儲からなかったときは26%という高い(限界)税率で税金を支払い、儲かったときは1.05%という極めて低い税率で税金を支払うことで結果的に税金を低く抑えられるという、不公平な税制が温存されようとしているわけだ。
 株式譲渡益課税は、儲かった人が使い分けする2本立ての税制を1日も早くやめるべきである。世界的には申告納税方式のほうが一般的だ。ただし、日本の申告分離方式の株式譲渡益課税率は先進国の中でも高く、これに1本化すれば日本人のさらなる株離れが起こることが危惧される。以上を踏まえれば、源泉分離課税は廃止しつつ、併せて26%である申告分離課税の税率を引き下げる政策は有効であろう。このニュースを、株を持っていないから関係ない話として無視していると、源泉分離課税は温存され、不公平が助長されてしまう。株を持っていなくても、税負担の実態について、国民は厳しく監視しなければならない。
 
第4位
証券会社の株価操作を見逃すな
10%前後の高利回りをうたった金融商品「他社株転換債」(EB)をめぐり、証券取引等監視委員会は22日、東京三菱証券と日本グローバル証券を証券取引法違反(作為的な相場形成など)で金融庁に処分勧告した。EBは、低金利時代の高利回り商品として人気を集める一方、販売方法に対する苦情や株価操作の情報が監視委に相次いでおり、勧告を受けた同庁では、会社側に損金を顧客に返還するよう指導することも検討している。
(読売新聞/5月23日朝刊)
 
 低金利時代に自分の虎の子の財産をできるだけ高い利回りの金融商品に託したい想いは強くなる。複雑な金融商品が出てくると、その複雑さゆえに購入者はついつい金融機関の言いなりになりがちである。
 そもそもEBは、特定の会社の株を選び、その株価が予め設定した額を下回らなければ、元本と利息が現金で返ってくる。しかし、設定額を一度でも下回ると、現金ではなく株券の形で返ってきて、購入者は株価が下がって含み損を抱える恐れがある。証券会社は、この株価が高くなれば顧客に現金で返さなければならず、利息を払いたくないため、意図的に株価を引き下げようとする可能性がある。処分勧告を受けた2社は、その株に大量の売り注文を出し、株価を意図的に引き下げたわけだ。この違法行為で、両社は顧客に計3億6500万円の利息を払わずに済んだ、とされる。
 この違法行為は、顧客からの苦情で明るみになった。自分の財産を高利回りで運用したいなら、自分が損をしないように、金融機関頼みにせず、株式市場などの経済指標を見る目を養うことが大切だということを、この事件は教えてくれる。
 
第5位
証券取引所に必要な危機管理
ニューヨーク証券取引所は8日、コンピューターシステムにトラブルが生じたため、全取引を一時、停止した。約1時間半後に再開された。同市場が技術的な問題で停止になるのは1998年10月以来、約3年ぶりという。取引開始から約30分たった午前10時(日本時間午後11時)過ぎ、取引の約半分に異常が発生。取引所は、売買注文量が少ない個人投資家を保護するため、全取引の停止を決めた。
(朝日新聞/6月9日朝刊)
 
 コンピュータ化された現在の証券取引所は、コンピュータのトラブルで市場全体がパニックになる危険と背中合わせである。証券市場は、買い手も売り手も1分1秒を争って取引する世界であるだけに、トラブルの対処も時間との争いとなる。トラブルの対処が遅れれば、買いたい値段で買うことができず、売りたい値段で売ることもできず、それだけ当事者が蒙る損失も大きくなる。さらには、トラブルに伴う不安が増幅されれば、その後の株価や金利にも悪影響を与えかねない。
 そうした中で、ニューヨーク証券取引所はこのトラブルにすばやく対応した。といっても、過去にも経験があり、そうしたトラブルに関する危機管理も十分に備えがあったからこそである。ただ、単純に「全取引を停止する」ことを決断するといっても、それは生易しいことではない。歴史上、取引を停止した後で市場で起こったことは、停止されていた間に増幅した不安にかられて、株や通貨の投げ売りが起こり、それに伴って相場が大きく崩れるパニックである。こうしたことは、1971年のニクソン・ショック、1987年のブラック・マンデーの際に経験している。
 だからこそ、パニックを回避するように取引所は適切に対応しなければならない。この取引所の対応は、取引所に求められる危機管理をお手本通りこなした、さりげない対応でありながら、勇気ある適切な対応であった。
 
この解説記事・肩書等は、あくまでも執筆当時の情勢を反映して書かれたものであり、その後一切改変しておりません。
この解説記事の著作権、文責は土居丈朗氏に帰属します。 許可なき転載、流用は固くお断りします。