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(※注 以下、順位、タイトル、ニュース記事、解説の順で並んでいます)
第1位
航空会社はもっと競争を
 航空最大手の日本航空と三位の日本エアシステム(JAS)は12日、2002年9月をメドに経営統合すると正式発表した。新設する持ち株会社の傘下に両社が入り、2004年春に両社の事業を分野別に再編する2段階方式をとる。国内線で安定した収益基盤を固め、自由化で厳しさを増す国際競争での勝ち残りを目指す。
(日本経済新聞11月13日朝刊)
 
 日本の航空業界はこの数年でようやく企業間の競争が芽生え始めたかに見えたが、それが潰えてしまう危機が到来した。企業間の競争は、値下げ競争やサービス向上競争をもたらし、消費者に多大な恩恵をもたらす。この数年、新規参入の航空会社が認められ、航空運賃も値下がりした。それは、何よりも企業間の競争がもたらしたものだった。これまで日本の航空業界は旧運輸省によって規制され、航空運賃を不必要に高くしたまま値下げせず、消費者から高い運賃を取ってパイロットやスチュワーデスが高い給料をもらう状況が長く続いていた。この経営統合は、古き悪き時代に逆戻りするものになりかねない。
 この経営統合は、企業間の競争を妨げる意味で、経済学的に許すことができない。もし経営統合しなければ会社が破産するというならば、統合すると同時に既存の発着枠を新規参入の航空会社に無償で譲渡するとか、空港での施設面で冷遇されている新規参入会社に両社の統合後に重複する施設を無償で譲渡するなど、競争を促進する方法を両社は真剣に検討すべきである。「国内線で安定した収益基盤を固め、自由化で厳しさを増す国際競争での勝ち残りを目指す」とは、国内の消費者から国内線で高い運賃を取って「カモ」にして、国際線の乗客だけを優遇しようとする経営を目指すことを意味する。これを日本の消費者は黙認してよいのだろうか。
 
第2位
これも一つの立派な決断、でもたかるのはもうやめて
 矢祭町議会(石井一男議長)は31日、「市町村合併をしない矢祭町宣言」の決議案を共産1人を含む全会一致で可決した。国主導による市町村合併は民主主義に反するなどと反発、地方交付税が削減されても、独自の町づくりを進めるとした全国初の宣言となる。根本良一町長も決議を堅持する意向で、厳しさを増す今後の行財政運営については自信を見せた。
(河北新報/ヤフーニュース11月1日)
 
 これまで、日本の政府は、過疎の町村が優遇される政策を取りつづけてきた。しかし、昨今の財政状況の悪化で国家財政はもはやそうした優遇策を続けられる状況ではなくなった。それとともに、地方自治体側からも、国から指示される仕事が主となり、自治体が独自に地元住民のために行う行政サービスが自由にできず、「地方分権」の声が高まってきた。この両者の問題を一挙に解決しようとするのが「市町村合併」である。人口が数百人しかいない町村に、東京・大阪・名古屋などの都市部の国民が払った税金の多くがつぎ込まれている地方交付税を削減し、市町村合併を促そうとしている。
 そんな中、福島県矢祭町は合併を拒否する決議をした。市町村合併は、いくら国が推進策を講じても、当事者である自治体・議会が議決しなければ実行できない。その意味では、矢祭町の決議は、一つの立派な決断と言える。しかし、矢祭町は、これまで前述の地方交付税の恩恵を大いに受けていた過疎の町である。合併しないという決議は立派だが、国に地方交付税を「たかる」のも合わせて「しない宣言」をしてもらいたいものである。これまで、過疎なのに合併せず、人口が少ないために効率の悪い行政サービスになり、それをよりどころに国に地方交付税をたかって多くの補助金をもらって生き延びてきた。こうした補助金分配を、もう都市部の国民は許さない。地元の行政は地元の住民の税金で行うことを、肝に銘じてほしい。
 
第3位
郵便局は実は「民営化」したいのでは……
 郵政事業庁は27日、民間金融機関の投資信託商品を全国の郵便局窓口で販売すると発表した。「日本版401k」(確定拠出型年金制度)のうち自営業者らを対象とした個人型年金の受け皿となる商品について、来年1月から扱う。郵便局が投資信託という元本割れリスクのある商品を扱うのは初めて。
 野村アセットマネジメントなど9社の11商品のほか、住友信託銀行など4行の6つの預金商品も販売する。
(朝日新聞ホームページ/10月28日)
 
 小泉内閣になって、郵政事業を今後どうするかが真剣に議論されている。郵政事業を公社として公的機関に残すのか、民営化するのか、まだ決着はついていない。そんな中、郵便局は、自ら民間金融機関と同じような仕事を新たに始めた。そもそも、販売する金融商品そのものが、民間金融機関が作ったものなのである。
 近年の金融自由化で、同じ金融グループ内で証券会社が企画した金融商品を銀行でも販売するということは、全く珍しくなくなった。とすると、郵便局も民間金融機関と同じ仕事ができるのだから、民間企業としてやれるのではないか。なにも従業員が「公務員」である必要は全くないのである。郵便局が公的機関であることの最大の問題点は、郵政事業で生じた損失を、結果的に国民の税金で穴埋めすることにある。郵政事業が民営化すれば、そうした損失は、通常の民間企業と同様、自己責任で処理しなければならない。なぜ、郵政事業の損失を国民の税金で穴埋めしなければならないのか。なぜ郵便局員を公務員として国民の税金で給料を払い、雇用を保証しなければならないのか。この記事にある新たな仕事を郵便局がすればするほど、郵政事業を公営でする意味がなくなってゆくのだ。
 
第4位
土地の有効利用で都市の再生を
 長谷工コーポレーションは定期借地方式を活用した寺院の再開発事業に乗り出す。第1弾として東京都港区青山の梅窓院の再開発事業をこのほど受注した。総事業費は100億円程度に達する見通し。一定期間後に土地の利用権が地主に戻る定借方式により、権利関係が複雑で再開発が難しかった宗教法人の土地の有効利用を促す。年間1〜2件の事業化を手がけ、主力のマンション事業を強化する。
(NIKKEI NET/10月28日)
 
 東京の都心部は、人口密度が高い割には土地や空間が有効に活用されていない。人が多く集まるところは、それだけその土地で商売をすれば儲かるし、人が住めば便利なところである。それなのに、江戸時代からや戦前からそこに住み続けていて、そこを動かず建て替えもしない少数の人のために、多くの人が都心から遠く離れた郊外に住まざるをえなくなったり、便利なところにオフィスが安い家賃で借りられずに都心から離れたところにオフィスを構えざるをえなくなったりしている。
 こうした状況は、バブルが崩壊してもあまり変わらなかった。ところが、近年定期借地権が法律で認められ、地主は地主のままで、その土地を利用する権利を別にして第三者に譲渡できるという方法が日本で採用できるようになった。すると、いままで権利関係が複雑で有効利用できなかった土地も、地主と土地を利用する人とは別だとなれば、地主は定期借地権を売ってもよい(土地を別の人が使ってもよい)と思うようになり始めている。この記事での話は、最近出始めたこうした事例の1つである。これを契機に、都心部の土地がより有効活用されれば、多くの人が都心に近い所に住むことができたり、もっと安い家賃で都心部にオフィスを構えることができたりするのである。
 
第5位
デノミよりも真の改革を
 竹中平蔵経済財政担当相は21日、新潟県長岡市で開かれたタウンミーティング後の記者会見で、デノミネーション(通貨の呼称単位の変更)について「経済的には気分一新の効果がある」と述べ、景気の底割れを防ぐ効果が期待できるとの見方を示した。「来年に入ると非常に大きな制度改革に取り組まなければならない。その制度改革の中で機を見て議論していきたい」と述べ、経済財政諮問会議などの場で取り上げる意向も明らかにした。
(朝日新聞ホームページ/10月21日)
 
 日本の政治家は、しばしば名誉欲からか、デノミネーション(略してデノミ)を自分が大臣のときにしたいと言いたがる。しかし、経済学的には、デノミには何の効果もない。そもそも、デノミは構造改革と何の関係もない。むしろ、デノミによる通貨単位の変更に伴うコスト(これを経済学ではメニュー・コストとも言う)がマクロ経済に悪影響を及ぼす可能性すらある。
 小泉内閣が発足してから、口では「改革」を唱えるもののその実行が伴っていないという評判は、すでに金融市場で国際的に広がっている。経済学者の間にも、日本は小泉内閣でも構造改革はできずじまいなのではないか、と危惧する声が聞かれる。いまのところ、内閣支持率が決定的に下がるところまでには至っていないのがせめてもの救いである。そうした状況を踏まえれば、デノミをするとかしないとか議論する前に、そもそもの本分である小泉内閣が公約した改革(特殊法人改革、財政構造改革、不良債権処理等)を実行することが必要なのである。デノミを議論している時ではない。
 
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