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(※注 以下、順位、タイトル、ニュース記事、解説の順で並んでいます)
第1位
政府は、少数の業者をとるか、大多数の消費者をとるか
中国製品の輸入急増に苦しむタオル業界が二十六日午前、経済産業省に中国からの輸入についてセーフガード(緊急輸入制限措置)の発動を申請した。(中略)同省が必要と判断すれば、被害状況などを調査し、日本の輸入元や消費者代表の意見も聞いた上で、発動するかどうかを決める。
(朝日新聞/2月26日夕刊)
 
 この問題は、日本が経済の構造改革を今後本気でする気があるか否かを問う、試金石と位置付けるべき問題である。
 ユニクロなど安い洋服や繊維製品を販売する小売業者が大量に中国から輸入したため、日本の繊維業界の製品が売れなくなったことがこの話の発端である。これは、安い繊維製品が輸入されてもそれに勝てない国内企業が生産した高い値段の繊維製品を、日本の消費者が今まで買わされていた証拠である。しかも、繊維業界はこの20年来構造不況産業で、政府は補助金を与えてきた。にもかかわらず、緊急輸入制限措置が発動されれば、日本の消費者は安い繊維製品が買えなくなる。わが国では生産性が低い繊維業界のために、またぞろ高い値段の繊維製品を買わされる羽目になることを、消費者は望んでいない。
 この問題は単にタオル業界だけの問題ではなく、わが国経済全体の構造改革の問題 と全く同じ論点を持ち合わせている。この話は、生産性が低い産業が陰に陽に政府に圧力をかけて既得権益を温存しようとしている構図そのものである。わが国経済の構造改革に積極的に取り組む決意があるか否かが、この問題で試されている。もし措置が発動されれば、政府は消費者のためになる構造改革をする気がないともいえ、損をするのは消費者である。
 
第2位
アメリカの貿易赤字拡大で日本人の貯蓄が危ない!
米商務省が二十一日発表した貿易統計によると、二〇〇〇年の貿易赤字は前年比三九・五%増の三千六百九十六億八千九百万ドルで、三年連続で一九九二年に現行方式で統計を取り始めて以来の最大を更新した。
(日本経済新聞/2月22日朝刊)
 
 アメリカは好景気の中、貿易赤字を拡大し続けた。別の言い方をすれば、アメリカは外国に輸出して儲ける以上に、日本や中国などからたくさんのものを買い続けた。ものを買う(輸入する)ときにそれに見合うお金を支払えばよいが、輸入があまりにも多いと払いきれず、ツケ(将来払う形)で買うことにする。だから、それだけアメリカは外国に対して借金をしているということになる(日本は景気が低迷してはいるが、アメリカに対しては多くのお金を貸しているのである)。
 アメリカで景気がよい間は、お金を貸している外国はやがてアメリカ(国民)はお金を支払ってくれるものと信用して、借金を取り立てたりはしない。しかし、最近アメリカの景気の先行きが怪しくなってきた。もし景気が悪くなり、借りたお金が返せなくなりそうになれば、諸外国はこぞってアメリカから借金を取り立てようとするだろう。
  そんな状況を知ってか知らずか、アメリカはさらに外国から多くのものを買った(輸入した)。日本国民の貯金の一部は、金融機関などを通じてアメリカに貸し出されているだけに、借金が返せないなどという悲惨なことが起きなければいいが……
 
第3位
釣り人の怒りにみる、新しい地方分権の姿
富士五湖の一つである河口湖の釣り客を対象に、遊漁券一枚につき二百円を課税する「遊漁税」条例が二十日、山梨県の河口湖町、足和田村、勝山村の三町村の臨時議会で可決成立する見通しとなった。(中略)成立すると、昨年四月の地方分権一括法施行に伴って創設された法定外目的税の全国第一号となる。
(日本経済新聞/2月21日朝刊)
 
 日本の地方財政は中央集権的であるが、今後地方分権を進める方向で改革が行われる予定で、自治体の独自性が発揮できる範囲が広がりつつある。自治体が独自の地方自治を行うには、国に頼らず自治体の責任で収入を確保する必要がある。そんなわけで、最近各地で独自課税の動きが活発になっている。遊漁税は、その先駆けといえる。
  ただ遊漁税を納める人は、主に当該三町村以外の住民である。「代表なくして課税なし」という言葉があるように、税金を払う域外の住民は三町村には投票権がないことをいいことに、地元住民は自らがほとんど負担しない税なら税率を上げようとし、必要以上に域外の住民に負担を転嫁する可能性がある。当該自治体の住民が損をしない程度に(釣り客が激減して商売が成り立たないようなことにならない程度に)域外の住民に負担を転嫁しようとする恐れがある。その意味で、読者諸氏には、「地元自治体の税金は地元住民の負担で」という応益課税原則を理解していただき、よりよい行政サービスをするための独自課税を行うように自治体に働きかけていただきたい。
 
第4位
デジタル放送移行で、空いた電波が消費者の得を生む
総務省は八日、地上波テレビ放送の電波の四分の一以上を二〇一一年までに携帯電話など別用途に転用することを盛り込んだ電波法改正案を通常国会に九日、提出すると正式発表した。地上波アナログ放送が二〇一〇年に終了した後、空いた周波数を携帯電話会社などの他の事業者に割り当てる。総務省は今年秋までに具体的な使い道を決めたい考えだ。
(読売新聞/2月9日朝刊)
 
 BSデジタル放送が開始され、テレビ放送も多様化が始まった。さらにこの度、地上波アナログ放送を2010年に終了し、デジタル放送に移行することが政府の方針として決まった。この話は、単にテレビ放送がどうなるかというだけの話ではない。移行後に空いた周波数をどのように有効利用するかが重要であり、それはこれから決めようとしている。
 これについて、経済学者を中心として日本学術振興会の研究プロジェクト「通信と 放送研究会」が政策提言を行っている(詳細は、http://www.telecon.co.jp/ITME/page7.htmを参照)。主な論点は、空いた周波数の 配分は一部の業者に独占的に与えるのではなく、オークションによって有効に使える人々に提供し、今後IT社会の展開に伴って生じる電波需要の増大をまかなうために、周波数の利用効率を上げるべく電波再配置を検討すべきだとしている。筆者もこれに賛成だが、この提言が実を結べば、得をするのは面白い番組を見たり使い勝手のよい携帯電話が使えたりできる消費者である。
 
第5位
一石二鳥を狙った金庫株。だが、その実態は……
自民、公明、保守の与党三党は九日夕、自社株の取得・保有を自由化する「金庫株」の解禁、株式投資の最小単位である「単位株」の引き下げなどを柱とする「証券市場等活性化対策」の中間報告を正式決定し、森首相に提出した。
(読売新聞/2月10日朝刊)
 
 この年度末に企業決算を控え、株価下落が問題視されている。与党も財界からの要請や選挙対策で株価を何とかしたいという思惑を前面に出している。ただ、経済学者から見れば、与党の担当者は事の本質を十分にわかっていないようである。
 金庫株を解禁することは、株価対策とは別に、企業経営の自由度が高まる意味で望ましい。しかし、金庫株で株価を上げようとする魂胆は、そう単純には実現しない。それは、企業の経営努力次第といえる。例えば、株価が下がっていて自社株を買った企業に、買った株価がさらに下がって含み損を抱えたくないという動機づけが強く働けば、経営改善の努力を一生懸命行おうとするだろう。その結果業績が上がり、株価が上がり、買った自社株も含み益を生むというストーリーは考えられる。しかし、自社株を買っても経営改善の努力を怠れば、収益も悪化するし含み損も増大するしで、ますます状況は悪化する。
政府の対策は、単に株価を上げることだけが目的ではだめで、企業の経営改善につながるものでなければならない。そうすればその恩恵は、株主だけでなく企業の従業員 (給料アップなど)にも広範に及ぶことになる。
 
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