延近研究会 卒業論文概要
(第24期生)

慶應義塾大学経済学部  延近研究会卒業生の卒業論文の概要と主要参考文献です。
卒業論文とともに提出された本人作成の概要を
原文のまま掲載しています。

池田 将基

テーマ

学歴を媒介とした所得階層の世襲―高等教育への進学機会格差の視点から―

概要

日本では,高等教育段階で高額な家計負担が強いられる一方で,国内の所得格差は拡大を続けていることから,高等教育への進学機会に格差が生じている。また,現実的には進学機会の格差は,学歴の差として顕現するが,それは子ども自身の所得格差につながるため,親子間で所得階層が世襲される状況にある。これらのことを明らかにしたうえで,世襲構造が定着した要因が,新自由主義に立脚した政策にあったことを確かめる。
主要参考文献 平沢和司『格差の社会学入門―学歴と階層から考える』北海道大学出版会(2014年)
濱中淳子『検証・学歴の効用』勁草書房(2013年)
小林雅之『大学進学の機会 均等化政策の検証』東京大学出版会(2009年)

加茂 愛弓

テーマ

日本の安全保障政策が抱える問題点―戦後日米関係と国際情勢の変化より―

概要

第二次安倍政権による安保関連法案の策定に疑問を呈し,戦後以降の日米経済と安保体制の確立を概観し日本の安全保障政策がアメリカの国家戦略や日米経済関係のもとで拡大されてきたこと,そして安倍政権による安保関連法案がこのような依存的・従属的な日米安保の性格を引き継ぐものであることを明らかにしています。そして,現在の日本の安全保障政策が抱える問題点と自身が考えるその目指すべき方向性について述べています。
主要参考文献 延近充『薄氷の帝国 アメリカ−戦後資本主義世界体制とその危機の構造』 御茶の水書房,2012年
井村喜代子『現代日本経済論〔新版〕―戦後復興,「経済大国」,90年代大不況―』  有斐閣,2000年
吉田和男『安全保障の経済分析』 日本経済新聞社,1996年

小林 佑生

テーマ

1990年代以降の労働環境の悪化の実態

概要

1990年代以降の労働環境の悪化の実態について検証、考察している。
第1章では省庁の発表の労働力調査や就業構造基本調査から全般的に増大しているものの男性若年層の就業率、失業率が顕著に増大、男性正規雇用の減少と女性非正規雇用の増大が顕著であること、主体はパート労働であること、など労働者全体を検証したのち、産業ごとに労働者数の変化・非正規雇用比率の推移を検証し、1990年代以降の建設業・製造業・サービス業の一部(小売業など)の労働力の減少とそれに対比する形で増加しているサービス業(医療福祉業など)の労働力の増加が発生した時期と主体となった年齢層を検証している。
第2章では労働環境悪化の原因とされる一連の規制緩和政策を概観したのち、結果として、労働環境の悪化が規制緩和政策だけではない事をのべる。
 第3章では日本経済の長期停滞が日本の輸出依存的経済体質にあるとする説にのっとって労働環境の悪化について考察する。
主要参考文献 伍賀一道,『 「非正規大国」日本の雇用と労働』, 新日本出版社,2014年
延近充, 『21世紀のマルクス経済学』, 慶応義塾大学出版会, 2015年
大橋英五, 『現代産業と経営分析』, 多賀出版, 2001年

小林 雄飛

テーマ

日本の航空市場におけるLCCの発展可能性の考察―米国航空市場分析の観点から―

概要

世界の航空輸送市場においてLCCの躍進が見られる中、日本の航空輸送市場では1998年からスカイマーク、エアドゥ、スカイネットアジア、スターフライヤーの4企業が参入し、2012年には3社のLCCが市場へと参入した。
第1章ではLCCが誕生し、発展した米国の航空輸送市場の分析を行なった。米国航空輸送市場ではCABによる規制下から1978年に規制緩和法が成立し、市場への参入と運賃の規制が撤廃されたことを明らかにした。
第2章では今日のLCCのビジネスモデルになっているサウスウエスト航空のビジネスモデルを明らかにした。
第3章では日本の航空輸送市場の規制史と規制緩和後の状況、現在の航空輸送市場の状況を整理し、第1章と第2章を踏まえた上でLCCが日本の航空輸送市場で、米国航空輸送市場で見せるようなLCCの躍進の可能性があるか考察した。結論として、その可能性が低いという考察結果に至った。
主要参考文献 延近充.『21世紀のマルクス経済学』.慶應義塾大学出版会.2015年.
杉山純子.『LCCが拓く航空市場―格安航空会社の成長戦略―』.成山堂書店.2012年.
塩見英治.『米国航空政策の研究』.文眞堂.2006年.

桜井 義斗

テーマ

日本の自動車産業における産業空洞化の実態

概要

日本の自動車産業において産業空洞化がどのような形で進行しているのかを明らかにすることが目的である。アメリカや欧州との貿易摩擦の深化や円高の進行に伴って海外現地生産が本格化した80年代,国内需要と輸出の停滞に直面した90年代,輸出拡大とともに生産を拡大させ,また世界金融危機をきっかけに再び需要不足に陥った00年代以降に分けて、それぞれの時期に海外現地生産や中間財輸出入がどのように変化していったのかを見ることにより産業空洞化の実態を分析する。
主要参考文献 延近充 『21世紀のマルクス経済学』 慶應義塾大学出版会 2015年.
伊丹敬之・伊丹研究室 『空洞化はまだ起きていない』 NTT出版 2004年.
坂本雅子 「日本の自動車産業は空洞化するか(下)」 『経済』 vol.217 新日本出版社 2013年.

高崎 雄太郎

テーマ

日本のアジア侵略と戦後補償

概要

 日本が明治維新から太平洋戦争期にかけて行ってきたアジア侵略に関して,その経過と敗戦後,アジア各国とどのように講和条約を結び,賠償や経済援助を行ってきたかについて論じた。また,戦後アジア各国と講和条約を結ぶなかで,日本を占領支配していたアメリカのアジア戦略がどのような影響を与えたかについて論じた。そして,日本と同じ第二次世界大戦の敗戦国であるドイツの戦後補償と比較し,日本が今後,経済関係がより緊密になっていくアジア各国とどのような関係を築いていけばよいかについて考察した。
主要参考文献 井村喜代子,『現代日本経済論』,有斐閣,1993年
粟屋憲太郎ほか,『戦争責任・戦後責任 日本とドイツはどう違うか』,朝日選書,1994年
日本弁護士連合会,『日本の戦後補償』,明石書店,1994年

根本 燿美

テーマ

日本家電メーカー復活への道

概要

一般的に日本家電メーカーと言われるパナソニック、ソニー、シャープの3社は、近年大幅な赤字を計上した。その背景には何があるのだろうか。
まず、日本の「輸出依存」的経済構造を明らかにし、その上では家電メーカーにとっては“内部要因”の解決が重要であることを示す。その上で“内部要因”を「全体的要因」と「個別的要因」に分け、総合電機メーカーや自動車メーカーとの比較も交えながら、日本家電メーカーが復活への道を歩んでいく上で重要であると考えることを明らかにしていく。
主要参考文献 井村喜代子,『現代日本経済論』,有斐閣,2005年
岩谷英昭,『松下幸之助は泣いている』,朝日新聞出版,2012年
真壁昭夫,『日の丸家電の命運 パナソニック、ソニー、シャープは再生するか』,株式会社小学館,2013年
泉田良輔,『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』,日本経済新聞出版社,2013年

原 友里

テーマ

独占禁止法と加速するM&A〜なぜ日本では大企業同士の合併が許されるのか〜

概要

 2014年12月、石油元売り国内2位の出光興産が、同5位の昭和シェル石油を買収したことによって日本の石油元売り市場は以下のグラフのように2強時代に入った。つまり、石油元売り市場が更に独占的な市場となったわけである。企業数が減少し、市場が独占的になることには多くのデメリットが存在するという自らの認識のもとで、このような大企業同士のM&Aがなぜ次々に許されるのか疑問に思い、このテーマの下、その答えを探っていきたい。
主要参考文献 ・延近充(2012)『薄氷の帝国アメリカ〜戦後資本主義体制とその危機の構造』御茶ノ水書房
・井村喜代子(1993)『現代日本経済論〜戦後復興、「経済大国」、90年代不況』有斐閣
・後藤晃(2013)『独占禁止法と日本経済』NTT出版

日高 郁海

テーマ

2020年東京五輪の経済効果による日本財政健全化への影響

概要

現在、日本の財政赤字増大の深刻化によって各地で財政再建が叫ばれていて、政府も財政健全化にむけて様々な政策を打ち出している。そのような中で2020年東京五輪開催が決定し、これが日本財政の健全化に寄与するのではないかといわれているが、果たして五輪にその力はあるのだろうか。
1964年東京五輪の時は、高度成長後の不況であったにもかかわらず開催に向けて経済成長率は高い値を維持していた。五輪景気によるものなのか、その要因を当時の主要な経済指標から明らかにする。また、90年代以降に日本経済が大きく構造変化したことを述べて、それらから2020年の五輪が本当に日本財政の再建に寄与するのか検討する。
主要参考文献 延近充,『21世紀のマルクス経済学』,慶應義塾大学出版会,2015年
井村喜代子,『現代日本経済論[新版]―戦後復興,「経済大国」,90年代大不況―』,有斐閣,2000年
須藤時仁・野村容康,『日本経済の構造変化―長期停滞からなぜ抜け出せないのか』,岩波書店,2014年
市川宏雄,『東京五輪で日本はどこまで復活するのか』,KADOKAWA,2013年

松本 晃

テーマ

電子商取引の現状と問題点及び対策

概要

電子商取引をステークホルダーごとの視点から捉え、現状における特徴と問題点を考察する。第一章ではまずそもそも電子商取引とは一体何なのか、ステークホルダーは一体どのような人々がいるのかを述べる。第二章ではそれらのステークホルダーごとから見た電子商取引の特徴と問題について考察する。第三章ではそうして見えてきた問題点に対して、政府はどのような施策を打つべきかを考察し、具体案として電子決済システムの公営化とeセキュリティ関連産業の活性化を提案する。
主要参考文献 延近充, 『薄氷の帝国アメリカ』, 御茶の水書房, 2012.
O.シャイ, 『ネットワーク産業の経済学』, 吉田和男訳, シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社, 2003.
林滋・比嘉邦彦, 「アンケート調査分析によるeコマース段階的成長モデルの検証」, 日本テレワーク学会誌, 2009.

水谷 有佐

テーマ

アメリカの金融市場自由化による日本の生命保険業界の変容

概要

本論文ではアメリカの金融市場自由化の目的を明らかにした上で、金融市場の自由化が日本の生命保険業界に与えた影響と今後の課題について論じる。中でも1990年代後半以降、外資系の生命保険会社が日本に参入してシェアを伸ばしている事実に注目し、このような外資系生命保険会社の日本進出がアメリカの冷戦・軍事戦略とそれに基づく金融政策に日本が追従してきた結果であることを明らかにする。また、アメリカの冷戦・軍事戦略遂行の結果、アメリカの繁栄は危うい循環の上で成立しており、大規模なドル暴落の危険を内包していることから、生命保険会社は保険料を運用していく上で大きなリスクを抱えていることを明示する。
主要参考文献 延近充(2012)『薄氷の帝国アメリカ』御茶の水書房.
田中祐二・内山昭(2012)『TPPと日米関係』晃洋書房
崔桓碩「日本における外資系生命保険会社の行動特性」,
<https://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/35073/1/ShogakuKenkyukaKiyo_73_Choi.pdf>
延近充(2015)『21世紀のマルクス経済学』慶應義塾大学出版会.

吉橋 良祐

テーマ

日本経済の構造変化・背景からみる生活保護受給者数を減少させるための策

概要

1980年代から現在まで、生活保護受給者数は大きな変動を見せている。増加・減少の要因は時代によって様々であり、少子高齢化・不正受給の増加など一概には言えない。本論文では、原因を日本経済の構造変化を確認した上で、完全失業率や労働形態など労働者に関わるデータから考察していった。受給者数の減少を目指しつつ、且つ、より制度を充実したものとし、最後のセーフティネットとしての役割強化も必要であることがわかった。
主要参考文献 延近充『21世紀のマルクス経済学』(慶應義塾大学出版会,2015年)
橘木俊詔・浦川邦夫『日本の貧困研究』(東京大学出版社,2006)
総務庁統計局『労働力調査年報』(日本統計協会,各年)

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