延近研究会 卒業論文概要
(第8期生)

慶應義塾大学経済学部  延近研究会卒業生の卒業論文の概要と主要参考文献です。
卒業論文とともに提出された本人作成の概要を
原文のまま掲載しています。

宇佐美 誠

テーマ

日本におけるeコマースの可能性

概要

近年の情報化に伴い,数年前までは小規模な研究レベルであったeコマースは,現在では着実にビジネス基盤へと変貌している。「果たして流行だけで終わってしまうのか,それとも1つの産業として形成されるまでに成長するのか」という疑問に答えるために,その定義,背景,現状,成長予測,経済性,課題などに関して述べた。また,eコマース発祥の地とされる米国と比較することによって,わが国におけるeコマースの現状を明らかにしながら,将来へのビジョンを導き出した。

主要参考文献 山川裕『エレクトロニック・コマース革命』日経BP,1996年
原田保他『電子商取引革命』東洋経済,1996年
日本情報処理開発協会『情報化白書』コンピュータ・エイジ,1999年

岡野 令

テーマ

90年代不況の実態―バブル経済の後遺症としての視点から考察する―

概要

日本経済は1990年代に入ってから現在にいたるまで,長期で深刻な不況の継続に悩まされている。この重要な原因の1つとしては,80年代末に生じたバブル経済,すなわち株式や土地などの投機的取引と,それらの価格の実体経済を大幅に超える膨張,その崩壊が考えられ,今回の論文では,バブル経済の後遺症としての視点から90年代不況の実態について考察を進め,21世紀日本経済への展望を見出すことを試みた。
主要参考文献 井村喜代子『現代日本経済論』有斐閣,1993年
宮崎義一『複合不況』中公新書,1992年
伊藤誠『日本経済を考え直す』岩波書店,1998年

金子 竜太郎

テーマ

土地証券化の有効性〜土地問題解決の糸口として〜

概要

戦後,日本は産業の成長を最優先目標として,その経済政策の帰結として様々な問題を棚上げにしてきた。その1つが土地問題である。土地問題の中でも私はこれまで土地が低度利用されていたということに特に着目し,その解決の糸口として土地証券化の有効性について検討する。まず土地問題とは何か,そしてどのように形成され,展開していったかについて日本の歴史的過程をふまえて概観していく。そしてその解決法の1つとして提案されている土地証券化がどのように有効であるのか,すでに行われているアメリカの証券化も考慮し,検証・考察し,日本における証券化の現状と今後の展望を試みる。
主要参考文献 井村喜代子『現代日本経済論』有斐閣
野口悠紀雄『土地の経済学』日本経済新聞社
松村徹他『不動産証券化入門』シグマベイスキャピタル

木下 泰

テーマ

アメリカ経済の好況を金融的側面から考察する。

概要

現在の経済体制は,ヨーロッパ経済の混迷・アジア諸国の通貨下落に始まる経済的混乱等,きわめて不安定な状況にある。そのような中,唯一アメリカ経済だけは長期的安定成長を続け,世界不況と呼ばれる現状を一極で支え,復興・安定へと導こうとしている。アメリカ経済衰退からの復活はいかにしてなされたのか,この好況を維持させるものは何なのか,現在のアメリカに過剰資本と過剰労働力の併存=停滞の表れはないのか,等を特に金融的側面から考察する。そしてそれを踏まえた上で今後の金融産業に課せられる課題を検討することを卒業論文の目的とする。
主要参考文献 春田素夫『現代アメリカ経済論』ミネルヴァ書房,1994年
宮本邦男『現代アメリカ経済入門』日経,1997年
佐藤祐一・永井靖敏『アメリカ経済の繁栄は続くか』東洋経済,1999年

小林 元太郎

テーマ

限られたビールメーカー〜戦後からの寡占構造を検証する〜

概要

寡占市場といわれるビール市場について,その構造と変遷をメーカーを中心に考察する。具体的には,戦後の過度経済力集中排除法以降の国内ビール業界が,どのような歴史を経て現在にいたったのか,またその過程においてこの産業がもつ特徴,特に寡占たらしめる特徴を認識し,その特徴が部門内企業にどのような影響を及ぼしてきたのかを考察する。その際の視角として,市場占有率,価格,規制といった要素を念頭に置き,寡占構造の形成,醸成,「協調的寡占」から「競争的寡占」への推移などを分析した。
主要参考文献 井村喜代子『現代日本経済論』有斐閣
北原勇『独占資本主義論』有斐閣
上野裕也『競争と規制―現代の産業知識―』東洋経済

坂下 洋孝

テーマ

日本的雇用の実態と行方―アメリカとの比較から考える―

概要

戦後日本は経済成長のみを重視し,日本的雇用制度を確立してきたが,現在日本は不況の中でその雇用制度は変わろうとしている。果たして,変わらざるをえない背景とは何であり,企業はリストラをする以外に生き残る道はないのであろうか。これがこの論文のテーマである。
主要参考文献 井村喜代子『現代日本経済論』
平井規之・萩原伸次郎『概説アメリカ経済』
八代尚宏『日本的雇用慣行の経済学』

鈴木 聡大

テーマ

「系列」を基盤とする自動車ディーラーシステム

概要

日本のディーラーシステムは,戦後日本の政治的・経済的制約に大きく影響を受けるなかで生成・維持されてきた。そのもっとも特徴的な点が,「排他的系列販売」と「複数系列競合販売」という,二重の「系列」である。かつては合理性を兼ね備えたシステムとして機能してきたが,市場が成熟し,また深刻な不況にあえぐようになると,その「系列」は様々な困難に直面するようになっている。日本のディーラーシステムの基盤としての役割を担ってきた「系列」は,現在多くの変革を迫られている。それは同時に,メーカーの優越的地位が崩壊し,ディーラーの自主性・独立性が芽生える可能性を秘めている。
主要参考文献 武石彰,川原英治『システム安定とディーラーシステム―日本の自動車ディーラーシステムの構造と課題―』ビジネスレビュー,1994年
塩地洋『自動車ディーラーの日米比較―「系列」を視座として―』九州大学出版会,1994年

関根 健太郎

テーマ

大量消費型経済システムからの脱却

概要

現在の経済システムの基礎は18世紀後半にイギリスで始まり,19世紀後半にかけて世界に広がった産業革命によって形成された。結果として大量生産が始まり,大量消費と大量廃棄を伴う経済システムとして今日定着している。しかし大量生産・大量消費・大量廃棄の経済システムの下では化石燃料や各種資源を大量に消費するため,現在,ダイオキシン問題をはじめとする廃棄物問題が表面化している。われわれの生存を脅かしかねないこの問題の根源である大量消費型経済システムからの脱却が先送りにできない不可避な問題であることを明らかにしていく。そして,大量消費型経済システムからの脱却が果たして可能なのかも明らかにしていく。
主要参考文献 井村喜代子『現代日本経済論』有斐閣,1993年
日本経済新聞社編『ゼミナール日本経済入門』日経,1999年
宮嶋信夫『大量浪費社会』技術と人間,1994年

田中 太加志

テーマ

物流革命〜サプライチェーンの時代へ

概要

日本経済はバブルの崩壊に伴い低成長時代へと移行,そして今や多くの企業にとって時代に即した企業体質へと構造転換を図ることが重要な経営課題になっている。そのための1つの解決策として,現在注目を浴びているのが「サプライチェーン・ロジスティクス」である。本稿では「サプライチェーン・ロジスティクス」導入の背景として,経済構造の変化・消費の多様化・グローバル化の進展・情報化の進展があると判断し,またその際に,「サプライチェーン・ロジスティクス」は物流から見るのが有効であると考えた。なぜなら,物流コスト管理により,物流活動におけるムダを把握することで適正な在庫をはかり,収益を向上させるのが「サプライチェーン・ロジスティクス」であり,言わばいらない物流をなくしていくのが,その蔵丹生の最大の目的だからである。結果としてまだ多くの企業は「サプライチェーン・ロジスティクス」を導入する段階に至っていないが,物流の差別化により企業の競争力を高めるためにも,今後その導入は避けられないものになってくるであろう。
主要参考文献 阿保栄司『ロジスティクスの基礎』税務経理協会,1998年
湯浅和夫『これからの物流がわかる本』PHP研究所,1999年
運輸省貨物流通局監修『数字で見る物流』1999年

中江 美穂

テーマ

日本企業のアジア進出〜家電産業から考える〜

概要

東アジア地域は,1980年代半ばから急速に経済成長を果たしている。直接投資受け入れが,設備投資,生産,雇用,貿易の拡大だけではなく,技術移転を通して経済成長を促進した。また,経済成長が直接投資を促した。直接投資の流入によって,このような良循環が形成されたことが,この地域での急速な成長を実現させたのである。そこで,この論文においては,アジアへの進出時期が比較的早く,業種別に見て進出件数も直接投資残高ももっとも多く,アジアと一体となったダイナミックな発展を遂げてきた電器産業を取りあげ,そのアジア進出の現状と戦略について検討していく。
主要参考文献 円山恵也『日本企業のアジア戦略』中央経済社,1995年
円山恵也『東アジア経済圏と日本企業』新日本経済,1997年
斎藤健『日本産業の大転換』東洋経済,1996年

浜田 裕子

テーマ

情報化投資の経済効果〜生産性と雇用への影響の日米比較〜

概要

90年代の日米マクロ経済の格差の原因は情報化への取組み方にあるという視点から,企業の情報化投資の生産性や雇用といったサプライサイドに与える影響を日米比較する。90年代のアメリカは情報化投資とリエンジニアリングを結びつける形で長期景気拡大を実現した。一方で,日本では情報資本そのものの投資効率は高いが,既存の日本的雇用慣行や経営システムの変革の遅れから情報化投資の経済効果が小さく,不況から脱せずにいる。
主要参考文献

林 徳一

テーマ

地価高騰がもたらした土地・住宅問題

概要

戦後,特筆すべき地価高騰は3回みられた。1回目は1960年代の高度経済成長時代であり,2回目は1972年の日本列島改造ブームによるものであった。そして3回目は,いわゆるバブルの発生である。これは過去2回の暴騰と比べものにならないほどの上昇で,1986年頃から東京に端を発して起こった。戦後の一貫しての地価上昇により生じてきた,国民の生活に対する弊害が,このバブルの発生で顕在化された,地価の高騰により,平均的な勤労者にとって,通勤可能な範囲での住宅確保が困難になったことがあげられる。また公共事業の用地取得が困難になり,公園・道路などといった生活の基盤である社会資本の整備が行われにくく,国民の生活に,さまざまな支障をきたしている。経済大国を実現しようと追及した一方で,国民生活を犠牲にしてきた結果であり,今後,生活大国として,豊かな国づくりを追求するべきである。
主要参考文献 小川修司『土地問題と国土政策』創造書房,1992年
本間義人『土地問題総点検』有斐閣,1990年
滑川雅士『地価・土地問題の経済学』東洋経済,1998年

速水 有須香

テーマ

生活保護の歴史的展開

概要

最近の社会保障制度においては,臨調路線に沿った福祉の切り下げが行なわれている。臨調路線では「真に救済を必要とする者」だけに保障を行えばよいと主張しているが,果たして「真に救済を必要としている者」にも十分な保障が行われているのか。また,最近の福祉の切り下げは,行き過ぎた福祉の是正なのか,福祉切り捨ての改悪なのか。この問題を「真に救済を必要とする者」への救済である生活保護を歴史的に考察し,その結果明らかになった問題,成果から上述した問いについて考える。
主要参考文献 横山和彦『日本社会保障の歴史』学文社,1999年
小沼正『貧困 その測定と生活保護』東京大学出版会,1980年
柴田嘉彦『現代日本の社会保障論』青木書店,1990年

宮鍋 知子

テーマ

男女雇用機会均等法施行後の実態

概要

この論文の主旨は男女雇用機会均等法施行後の実態を明らかにすることである。論文は全4章で構成されている。序章では成立の背景と目的について論じている。第1章は法施行によって女性労働者にどのような効果的な影響を与えたのか論じている。そしてメインの第2章は男女雇用機会均等法施行後の実態について取り上げ,グラフや具体的な数値を用いて,できるだけ客観的に分析している。第3章はなぜ男女雇用機会均等法の目的が達成されないのか考え,どうすれば目的が達成されるの軽んじている。1986年に日本で初めて男女雇用機会均等法が施行されてから10年以上経過した。しかし女性労働者にとっての労働環境は改善するどころか悪化したと思われる。私は,その原因は日本的経営にあると考える。
主要参考文献 石橋主税『男女平等の新時代』法律文化社,1989年
基礎経済科学研究所『日本型企業と女性』青木書店,1995年
藤井治枝『日本型企業社会と女性労働』ミネルヴァ書房,1995年

吉村 晃一

テーマ

米国軍産複合体の民需転換〜航空宇宙産業を中心に〜

概要

第二次大戦後の世界を規定していた冷戦が終結をむかえた。冷戦中に米国はソ連との軍拡構想を展開していたため,軍需は拡大基調にあった。この特殊な状態において米国軍産複合体が形成され,拡大していった。しかし冷戦の終結とともに,軍産複合体の命綱である軍事費は削減され需要が削減された。需要が削減された企業は,需要の確保のためにそれぞれの経営方針を改め民需転換を試みている。また政府は巨大軍産複合体に対して生産を維持できるように政策を出している。しかし,これらの転換はいまだ多くの課題を抱えている。
主要参考文献 西川純子編『冷戦後のアメリカ軍需産業』日本経済評論社,1997年
産軍複合体研究会『アメリカの核軍拡と産軍複合体』新日本出版社,1988年
佐藤幸男『兵器生産のグローバリゼイション』『軍縮問題資料』1999年1月号

卒論リストに戻る トップページに戻る