採点基準 成績統計
《春学期末試験》試験時間:50分,持込み可
[問題]次の(1),(2)の両方に答えなさい。
(1) 次の1,2をそれぞれ答案用紙の4行程度で説明しなさい。
(2) 競争が全面的に支配する資本主義において,生産力が急速に発展するメカニズムを説明しなさい。
以下の内容がどの程度説明されているかによって得点を与えます。絶対評価を基本としますが,相対評価を加味(全員の答案を読んだうえで採点基準・配点を変更)する可能性があります。
(1) 基本的な概念を150字程度で正確に説明できる理解度・文章作成力を問う。この2つは安倍政権の「働き方改革」:裁量労働制や高度プロフェッショナル制への批判的視点となる。(各15点)
- 1.労働力商品の2要因
- (a) 労働力商品の価値:労働者階級の再生産に必要な生活手段の価値
(b) 労働力商品の使用価値:労働によって新たな価値を生み出す
(c) 加点要素:労働が生み出す価値が労働力商品の価値を上回るとき価値増殖が可能
- 2.出来高賃金による剰余価値の本質の隠蔽
- (a) 定義:労働力の1日の価値を,標準的生産量で除して労働の単価を計算
(b) 剰余価値の本質の隠蔽:労働すべてに賃金が支払われる外観
(c) 加点要素:賃金支払い形態自体によって労働の質・強度の制御,労働強化と時間延長,労働者の分断や損失負担の労働者への転嫁の機能等
(2) 最大限の価値増殖を求める個別諸資本間の競争と特別剰余価値の発生・消滅,競争の強制作用による生産力の飛躍的発展メカニズムの理解とその文章表現力を問う。 (70点)
- 特別剰余価値:新生産方法導入による生産力上昇→個別的価値の低下・個別的価値の加重平均である社会的価値との差額
- 他の資本の新生産方法導入・普及→社会的価値の低下→特別剰余価値の減少→旧生産方法におけるマイナスの特別剰余価値の発生・増大
- 競争の内容の変化・新生産方法導入の競争による強制作用
- この過程の繰り返しによる生産力の飛躍的発展
採点と成績集計が終わりましたので,成績統計と講評を掲載しました(7/28)。
第1表 評語*の度数分布
S評価は2017年度からの新しい評価である。 欠席率は欠席者の履修者に対する%
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第2表 得点状況
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第1表の評語の度数分布をみて特徴的なのが,2017年度に比べてC評価の比率が低下し,SとA評価の比率が上昇したこと,D評価はほぼ同じですが,欠席率が4%と顕著に低下したことです(新規履修者のみ,以下同じ)。 その最大の理由は,今年度から試験を持込み可で実施したことでしょう。 欠席率の低下は,従来なら授業の出席率が悪く,授業内レポートも提出しなかったために,受験を放棄していた学生が,持込み可なら何とかなるのでは?と受験したためだと思われます。 ただ,D評価が昨年度並みということは,春学期末試験情報に「事前の学習なしに,持ち込んだ資料で解答しようとしても後悔することになるでしょう」と記したように,事前の学習をしなかった履修者は持込み可でも何を問われているかがわからずに,結局D評価となった人が多かったということでしょう。 (なお,私が試験監督をした教室で,この授業の教科書ではないオレンジ色の表紙の本のみを持ち込んでいた学生がいました。答案は的外れで0点でした。試験情報に「教科書や講義資料以外を持ち込んでも無意味です」と書いておいたのですが。 ちなみにオレンジ色の本の著者は慶応経済出身者ですが,在学中ほとんど授業には出席せず,試験前に教科書や過去問を勉強して解説した冊子をまとめて,生協や他大学に売り込んでいたという人です。当時のマルクス経済学は経済原論IIIという名称で必修科目でしたが,たしかに教科書は難しい部分もあり,授業に出てない学生にとっては解説本の存在はありがたかったでしょう。ただ授業に出ないで教科書だけをもとにした解説では,内容は単位を取得できるレベルではあっても,誤解や思い込みによる限界はあります。) 逆に,授業にも出席しレポートもきちんと自力で書いて提出していた学生にとっては,持込み可によって理解や記憶が多少あやふやな部分があっても,講義資料や教科書で確認できますから,概念や論理の記述でミスする可能性は減るはずですから,SやAがもっと多くてもおかしくないはずです。 私もそのことを考慮して,昨年度までの持込み不可の試験のように,使用すべき単語を示して解答のヒントとする形式を避けました(具体例は過去問を見てください)。それでも教科書や講義資料,過去問やレポートの論述ポイントを持ち込んでいれば,内容の理解を基礎として充分に解答できるはずと思ったからです。 そのうえでSやAが大量となっても,それは教育効果として喜ぶべきことと考えていました。 ところが,実際に答案を採点してみると,予想外の結果となりました。 設問(1)の1の「労働力商品の2要因」について,第2表のように,平均点は52.6と持込み不可で実施した過去の試験の平均点とそれほど変わらない低さとなっています。これは,レポートの課題3の一部であり,2015年度〜2017年度の定期試験でも出題済みですから,労働力商品の価値と使用価値の説明を求められていることは明らかなはずです。 しかし,労働力商品ではなく,一般商品の2要因を書いた答案,2重の意味で自由な労働者の存在について書いた答案が少なからずありました。 このことは2017年度の講評で同様の指摘をしています。この誤りは,レポートの提出回数や評価の高い学生にも見られたので,理解が表面的なレベルで終わり,過去問やその講評を読まなかったからなのかもしれません。 2の出来高賃金については,平均点が78.2と高水準なのは,レポートの課題5の一部そのままであること,教科書にも索引で明確に探すことができたからでしょう。 この結果,第2図のように高得点と低得点の2つの山ができています。 設問(2)はさらに予想外でした。 この設問もレポート課題3の一部であり,過去問でも頻出(というより,表現は少し変えてあってもほぼ毎年度出題)です。さらに生産力の急速な(または飛躍的な)発展メカニズムは春学期の授業内容の最重要論点であることを授業でも強調しました。ところが平均点は47.5と,やはり昨年度までの持込み不可の試験の成績と同水準でした。第3図が示すように,この設問も高得点と低得点の2つの山となっています。 この原因は,レポート課題4の機械制大工業における生産力の発展について書いた答案が予想外に多かったからです。 たしかに,マニュファクチュア的分業における生産力の発展が人間の能力によって限界づけられいたのに対して,機械制大工業は人間の能力の限界を打破し,生産力は急速に発展することが可能になります。しかし,それは可能性であって,実際に新しい機械が次々と導入され,機械の改良や大規模化を強力に促進し,その可能性を現実化していくメカニズム(仕組み)とは何なのか?がこの設問の要求なのです。 言うまでもなく,それは特別剰余価値をめぐる競争です。 設問に「生産力の発展」という語句があるので,これを機械制大工業における生産力の急速な発展を問われていると勘違いした人が多かったのかもしれません。ただ,単純協業→分業→機械制大工業への発展を説明した教科書の第2章第3節の冒頭には,この節の課題は,「生産力の発展はどのような形態をとって進むのか」であることが明記されています。 昨年度までは特別剰余価値などのキーワードがあったので,これをヒントになって何を答えなければならないかが明確だったのが,ヒントがないことが誤解をもたらしたのでしょう。 とはいえ,機械制大工業の特徴は「無形の損耗」の論点など,生産力の急速な発展メカニズムと無関係ではないので,答案の内容に応じて得点を与えました。 毎年の感想と同じなのですが,以上のデータや答案を読んだことからわかったことは,きちんと授業に出席し,講義資料や教科書をもとにレポートを書く努力をした学生の答案は各設問ともにポイントを押さえた解答で高得点(今年度の最高点は100点で2人!!)となり,逆にそうした努力を怠った学生の答案は非常に低水準であったということです。特に持込み可の試験であっても,努力の有無が答案のレベルそして得点の差が現れるものだと再確認したしだいです。 |
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第1図 得点分布*(各得点階層が受験者総数に占める割合) *新規履修者のみ。再履修者は受験者が少なくばらつきが大きいので省略した。 |
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第3表のレポート提出率では,新規履修者と再履修者の差が極端に開いています。言うまでもなく,この差が両者の成績の差の最大の要因でしょう。 第4表のレポート提出と成績との相関では,提出回数が多いほど,レポート評価が高いほど試験の平均点が高くなっていることが明確です。特にレポートの成績と試験の得点との相関は顕著です。この相関の高さをみればレポートを自分の力で書いて提出することの重要性は一目瞭然でしょう。 第4図はクラス別のレポート評価と平均点を示しています。クラスによってこれだけの差がある理由は私にはわかりませんが,この図からもレポート提出の重要性が読み取れます。また第5図は試験の成績とレポート評価の散布図でも明確な正の相関が読み取れます。相関係数は0.69ですから非常に強い相関といえます。 つまりは,授業への出席によって私の話を集中して聴いて理解する努力をすることを大前提とし,さらに授業内レポートを講義資料や教科書をもとに毎回自分の力でまとめる努力をすること,公表される[論述ポイント]にしたがって自分のレポートを改善すること,これらを実践することが授業内容の理解と単位取得,好成績のための王道なのだ,ということは以上で明らかでしょう。 答案の最後に書かれた感想では,穴埋め式の講義資料,授業内レポートとその課題に基づく試験問題という授業形式は有意義であったこと,「レポート提出は大変だったが,授業内容の理解が深まったし,試験前に特別な受験勉強をしなくてすんだ」という趣旨を多くの学生が書いていました。また,数人の学生はレポート提出を怠ったことが,答案の出来の悪さにつながったことを自覚し,秋学期には授業への出席とレポート提出を頑張りたいと記していました。 なお,感想の中には誤解があるかな,というものがあったので答えておきます。 「もっと授業に参加した人だけが得する形にしてくれると,出席せずテストだけやろうとする人に対する不満解消になると思いました」 ⇔成績は相対評価ではないので人と比べる必要はありません。さらに上記の成績統計と講評で,「授業に参加した人だけが得する」ことになっているのもおわかりでしょう。 これに関連して,「テストも過去問等で授業に出ていなくても対策されてしまうものではなく,レポートの内容をきちんと理解しているかを問うていて,平等だと感じました」という感想もありました。 穴埋め式の意味はわかったうえで,「うっかりして穴埋めを飛ばしてしまったり,病気などのやむを得ない理由で欠席する人もいる」と思うので,穴埋めの解答を配布してほしいという希望。「講義にまったく出ていない人からプリントを見せてほしいと言われ困ったこともありました」 ⇔講義資料は教科書の内容のレジュメです。講義資料と教科書を見比べれば穴埋めは可能です。 また,もし「穴埋めの解答を配布」したとしたら,「授業に出なくても穴埋めできるからOK」と考える学生が増えるのではないでしょうか? そうだとすれば,この授業の方式の教育効果を減じてしまうことになるでしょう。最初は穴埋めのために授業に出なくては,と考えてやむを得ず出席した学生が私の授業を聴いて興味を感じて,穴埋めのためでなく自らの問題関心のために熱心に聴講するようになる学生が少なくなかった経験をしています。 そのようにして私の授業を面白いと思って,三田の独占資本主義論の講義も履修する学生も少なくありません。三田の講義の履修者350人ほどですが,その半分以上が日吉の私のマルクス経済学を履修していた学生です。 「プリントを見せてほしい」にどう応対するかはあなた自身の判断ですが,教科書で穴埋めできるよ,と伝えるのも一つの選択肢でしょう。 さらに,印象に残った感想を引用しておきましょう。多少「我田引水」的なのですが。 「私自身マルクス経済学について,単に資本主義の危険性を述べ続ける現実味のあまりない学問ではないか,と考えておりましたが,それは全くの間違いでした。マルクス経済学,特に延近教授が展開されたマルクス経済学は,現代社会に応用したまさに「現代社会のマルクス経済学」で,日常社会にも当てはまることが多いと感じました」 昨年度末で私は定年退職となり,この講義を担当できるスタッフが不足しているために,今年度も非常勤講師としてみなさんの前で授業をする機会が与えられました。授業の中で冗談交じりに,授業や研究など退職前と変わらない仕事をしているけれど,給料は10分の1です,また非正規雇用なので来年度も担当するかどうかは自分では決められません,と言いました。昨年度までと変わらない姿勢で授業を担当しているのは,お金のためではなく, 自分が研究してきたこと,それを基礎にすると現代の世の中をどのように見ることができるのか,それを学生に伝えることが使命と考え,そのための努力は惜しまないという姿勢は,今までもそしてこれからも一貫していこうと考えているからです。 選択必修の単位取得という目的だけでなく,ぜひ秋学期も授業を聴きに来てください。 |
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第3表 レポート提出率(%)
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第4表 レポート提出と平均点の相関
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第4図 クラス*ごとの成績の差(レポート評価との相関) *時間割に指定されたクラスのみで,履修者の極端に少ないクラスは除いた。 |
第5図 試験とレポート評価との相関 *時間割に指定されたクラスのみで,履修者の極端に少ないクラスは除いた。 |
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