マルクス経済学 I 試験問題と採点結果
(2017年度)


春学期末試験問題 

採点基準 成績統計

《春学期末試験問題》試験時間:50分,持込み不可

[3時限履修者用]

(1) 以下の1,2の概念を,それぞれ答案用紙の4行以内で説明しなさい。

  1. 固定資本の流通の特殊性
  2. 利潤率の均等化法則

(2) 競争が全面的に支配する資本主義において生産力が飛躍的に発展するメカニズムについて,以下の概念をすべて用いて論じなさい。

競争,個別的価値,社会的価値,生産力,特別剰余価値 (五十音順)

[4時限履修者用]

(1) 以下の1,2の概念を,それぞれ答案用紙の4行以内で説明しなさい。

  1. 労働力商品の2要因
  2. 労働手段の無形の損耗

(2) 競争の支配的な資本主義において,個別資本は最大限の価値増殖のためにどのような行動をとるか。以下の概念をすべて用いて論じなさい。

競争,新生産方法,絶対的剰余価値,相対的剰余価値,特別剰余価値 (五十音順)

《採点基準》

[3時限履修者用]

以下の内容がどの程度説明されているかによって得点を与えます。絶対評価を基本としますが,相対評価を加味(全員の答案を読んだうえで採点基準・配点を変更)する可能性があります。

(1) 基本的な概念を簡潔かつ正確に説明できる理解度・文章作成力を問う。[40点]

1. 固定資本の流通の特殊性
1) 投下資本価値の生産物への漸次的移転,償却基金の積み立て
2) 販売と購買の分離:資本投下時の巨額の一方的購買とその後の耐用期間中の一方的販売
2. 利潤率の均等化法則
1) 資本家の関心事は投下資本の増殖率
2) 部門別利潤率の差異と部門間資本移動
3) 資本移動による価格変化・利潤率変化→利潤率の均等化による平均利潤率の成立

(2) 最大限の価値増殖を求める個別諸資本間の競争と特別剰余価値の発生・消滅,競争の強制作用による生産力の飛躍的発展メカニズムの理解とその文章表現力を問う。[60点]

  1. 特別剰余価値:新生産方法導入による生産力上昇→個別的価値の低下・個別的価値の加重平均である社会的価値との差額
  2. 他の資本の新生産方法導入・普及→社会的価値の低下→特別剰余価値の減少
  3. 旧生産方法におけるマイナスの特別剰余価値の発生・増大
  4. 競争の内容の変化・新生産方法導入の競争による強制作用
  5. この過程の繰り返しによる生産力の飛躍的発展

[4時限履修者用]

以下の内容がどの程度説明されているかによって得点を与えます。絶対評価を基本としますが,相対評価を加味(全員の答案を読んだうえで採点基準・配点を変更)する可能性があります。

(1) 基本的な概念を簡潔かつ正確に説明できる理解度・文章作成力を問う。[40点]

1. 労働力商品の2要因
1) 労働力商品の価値:労働者階級の再生産に必要な生活手段の価値
2) 労働力商品の使用価値:労働によって新たな価値を生み出す
3) 労働力の価値と労働が生み出す価値とは無関係
2. 労働手段の無形の損耗
1) 労働手段の耐用期間
2) 固定資本流通の特殊性:購入時の資本の一括投下と資本価値の漸次的回収
3) 新生産方法の導入競争による労働手段の陳腐化

(2) 最大限の価値増殖を求める個別諸資本間の競争と特別剰余価値の発生・消滅,競争の強制作用による新生産方法導入メカニズムの理解とその文章表現力を問う。[60点]

  1. 絶対的剰余価値の増大とその特徴
  2. 相対的剰余価値の増大とその特徴
  3. 特別剰余価値:新生産方法導入による生産力上昇→個別的価値の低下・個別的価値の加重平均である社会的価値との差額
  4. 新生産方法の導入競争の2つの局面
  5. こ生産力の飛躍的発展と相対的剰余価値との関係
[成績評価への質問について]
経済学部では,成績評価についての質問は所定の質問用紙に記入し学生部を通じて担当者に送付されることになっています。この方法以外での質問は受け付けられません。
質問の際には上記の採点基準を熟読し,自分の答案と比較して自己採点したうえで,それでも疑義がある場合のみ疑義の内容を詳しく記入して,所定の手続きをとってください。
なお,採点は採点基準に従って答案を複数回読み直して厳密に行なっています。講義を担当するようになって以来,今までに学生からの質問によって成績評価を変更したことは1度もありません。「ダメもと」で質問しても無駄ですので,念のため

[成績統計]

採点と成績集計が終わりましたので,成績統計と講評を掲載しました(7/29)。

第1表 評語*の度数分布
** ** 合計
17年 16年 15年 17年 16年 15年 17年 16年 15年
S 5.0 5.3 5.0
A 17.4 27.6 19.5 0.0 12.5 0.0 16.2 26.9 18.7
B 23.2 19.5 32.8 21.1 0.0 16.7 23.1 18.7 32.1
C 36.9 31.6 30.5 31.6 37.5 16.7 36.5 31.9 29.9
D 17.4 21.3 17.2 42.1 50.0 66.7 19.2 22.5 19.4
受験者 241 174 128 19 8 6 260 182 134
欠席率 9.7 9.4 7.9 38.7 63.6 45.5 12.8 15.0 10.7
履修者 267 192 139 31 22 11 298 214 150
受験者数に占める各評語の人数の%
欠席率は欠席者の履修者に対する%
* 評語は,試験の得点(素点)にレポートの得点(25点満点)を加算(評点)し,
S,A,B評価はその評価にふさわしい水準の答案であること,
単位取得の最低基準としてレポートの点数は素点を超えない範囲で加点
を原則として,以下の基準で評価した。
S:素点90点以上,OR評点100点以上AND素点80点以上
A:素点80点以上,OR評点80点以上AND素点65点以上
B:素点60点以上,OR評点60点以上AND素点50点以上
C:素点40点以上,OR評点40点以上AND素点25点以上
D:上記以外
S評価は2017年度からの新しい評価である。
** 新は新規履修者,再は再履修者(以下同じ)。
第2表 得点状況
最高点(最低点) 平均点
全体
(1) 40(0) 30(0) 36.9 24.6 36.0
1. 20(0) 20(0) 36.6 22.1 35.6
2. 20(0) 16(0) 37.1 27.1 36.4
(2) 60(0) 60(0) 53.6 42.1 52.8
合計
[16年]
98(0)
[98(0)]
90(0)
[90(0)]
46.9
[48.4]
35.1
[31.6]
46.1
[47.7]
問題別の平均点は各問の満点に対する%。
第1図 得点分布*(各得点階層が受験者総数に占める割合)

*新規履修者のみ。再履修者は受験者が少なくばらつきが大きいので省略した。

第2図 問題別得点分布(1)
第3図 問題別得点分布(2)
第1表の評語の度数分布をみて特徴的なのが,2016年度以前の成績に比べてC評価の比率が上昇したこと,D評価が17.4%と15年度並みに下がったことでしょう(新規履修者のみ,以下同じ)。
第1図の得点分布を見ると,ほぼ正規分布に近い曲線になっていますが,20点台と10点未満に小さな山が見られます。第3表のレポート提出率を見ると,合計で73%と昨年度までの60%台に比べて上昇していますから,20点台の履修者のうちレポートの成績が一定点以上だった履修者が,試験との合計点でなんとかC評価になったということでしょう。

設問別の成績を見ると,問題(1)は平均点が36.9,問題(2)は53.6と,(2)の方が高くなっています。(1)は基本的な概念の説明,(2)はレポートのような論理展開を必要とする問題なので,例年,(1)の方が平均点が高いのですが,今年度は逆になっています。
これはなぜなのでしょうか?

問題(2)は,3時限と4時限の履修者で出題文の表現は違っていますが,答える基本的な内容はほぼ同じ,しかも3時限は16年度に,4時限は15年度の出題とほぼ同じです。授業中に,剰余価値増大と生産力の発展のメカニズムは最重要ポイントと強調もしました。ですから,レポートを自分の力で書き,過去問を解くという努力をしていれば,解答は容易だったはずです。第3図の得点分布を見れば,40点台をピークとする正規分布に近い曲線になっているのはこのことの反映でしょう。
ただし,特別剰余価値に関して,生産力の上昇によって「個別的価値が上がる」と書いている答案,新生産方法の普及が個別的価値の加重平均としての社会的価値の低下をもたらすことに言及していない答案,競争の強制作用の説明がない答案などが少なくなかったことが,平均点が50点代前半にとどまった理由です。

問題(1)はどうでしょうか?
3時限履修者用の問題では,設問1が固定資本の流通の特殊性で,この概念はレポートの論述ポイントには挙げられていませんが,課題4の労働手段の無形の損耗の説明には不可欠の概念で,授業中にも少なくとも3度は重要な概念であり,秋学期の景気循環のメカニズムにおいて重要な要因になるので,しっかり理解しておくように,と強調したものです。さらに14年度の(1)でも出題済みです。
にもかかわらず,この設問の平均点は28.3と非常に低レベルでした。ただし,全員の出来が悪かったわけではなく,要点を押さえて明確に説明している答案とまったくの的外れの解答か白紙というように両極分解していました。授業に出席して私の話を注意深く聴き,過去問も学習した学生は解答が容易で,そうでない学生は解答困難だったということでしょう。

設問2が利潤率の均等化法則で,これはレポート課題5の論述ポイントにあります。この設問の平均点は43.8で設問1よりは高いのですが,絶対的レベルとしては低いといえます。この設問も同様に両極分解だったのですが,利潤率とは何かという言及がない答案や部門間資本移動は書けていても,それによって需給関係が変化して利潤率が変化することの言及がない答案が目立ちました。これが平均点の低さの理由です。

4時限履修者の問題では,設問1が労働力商品の2要因で,これは課題3のレポートの最重要論述ポイントです。さらに表現こそ若干違いますが14年度から16年度まで連続して出題されています。にもかかわらず,平均点は46.3と予想外に低レベルでした。この低さの原因はやはり両極分解です。満点またはそれに近い答案が多くある一方で,0点も続出でした。0点の答案はほとんどが,「労働力商品の2要因は価値と使用価値である」と書きながら,その後は一般商品の2要因について書いているものでした。表面的な理解にとどまり,「2要因」という言葉に引きずられて一般商品の2要因しか頭に浮かばなかったのかもしれません。
また,授業でも強調したにもかかわらず,労働力商品の使用価値が価値を上回った場合に価値増殖が可能となるという答案も目立ちました。この表現がなぜダメなのかがすぐにわからなかった学生は「要復習」ですよ!

設問2は,労働手段の無形の損耗でこれも課題4の論述ポイントですが,平均点は29.5ときわめて低レベルでした。この原因も両極分解です。0点の答案の例としては,労働手段と労働を混同している答案,固定資本の価値移転自体を無形の損耗としている答案,まったく見当がつかなかったのか機械製大工業の発展の話を書いている答案もありました。
もちろん,的確に新生産方法の導入による特別剰余価値獲得競争と結びつけた答案,つまりほぼ満点の答案も少なくありませんでした。


毎年の感想と同じなのですが,以上のデータや答案を読んだことからわかったことは,きちんと授業に出席し,講義資料や教科書をもとにレポートを書く努力をした学生の答案は各設問ともにポイントを押さえた解答で高得点となり,逆にそうした努力を怠った学生の答案は非常に低水準であったということです。
第3表 レポート提出率(%)
課題番号 R1 R2 R3 R4 R5 合計
74.9 73.0 72.7 76.8 68.2 73.1
35.5 29.0 29.0 29.0 12.9 27.1
全体 70.8 68.5 68.1 71.8 62.4 68.3
第4表 レポート提出と平均点の相関
提出回数 5 4 3 2-0
平均点 54.0 38.9 40.1 34.1
レポート評価 A B C D
平均点 66.7 44.0 36.4 32.8
第4図 クラス*ごとの成績の差(レポート評価との相関)

*時間割に指定されたクラスのみで,履修者の極端に少ないクラスは除いた。
第5図 試験とレポート評価との相関

*時間割に指定されたクラスのみで,履修者の極端に少ないクラスは除いた。

第4表のレポート提出と成績との相関では,提出回数が多いほど,レポート評価が高いほど試験の平均点が高くなっていることが明確です。特にレポートの成績と試験の得点との相関は顕著です。この相関の高さをみればレポートを自分の力で書いて提出することの重要性は一目瞭然でしょう。

第4図はクラス別のレポート評価と平均点を示しています。クラスによってこれだけの差がある理由は私にはわかりませんが,この図からもレポート提出の重要性が読み取れます。また第5図は試験の成績とレポート評価の散布図でも明確な正の相関が読み取れます。

つまりは,授業への出席によって私の話を集中して聴いて理解する努力をすることを大前提とし,さらに授業内レポートを講義資料や教科書をもとに毎回自分の力でまとめる努力をすること,公表される[論述ポイント]にしたがって自分のレポートを改善すること,これらを実践することが授業内容の理解と単位取得,好成績のための王道なのだ,ということは以上で明らかでしょう。

なお,答案の最後に「レポート提出は大変だったが,授業内容の理解が深まったし,試験前に特別な受験勉強をしなくてすんだ」という趣旨の感想を約25人の学生が書いていました。それらの学生の答案の多くは要点を抑えていて論旨が明確でした。また,数人の学生はレポート提出を怠ったことが,答案の出来の悪さにつながったことを自覚し,秋学期には授業への出席とレポート提出を頑張りたいと記していました。
さらに,印象に残った感想を2つ引用しておきましょう。多少「我田引水」的なのですが。

「延近教授のような論理に一貫性があり,なおかつ授業を受けて様々なことを考えられる授業をしてくださる方に出会えて非常に満足しております。レポートは大変でしたが,きちんと全部やっておいたので,試験前に非常に負担が軽く思えました。」

「時間賃金,出来高賃金はあたかも賃金が労働全体に支払われているように思わせるという考えはとても新鮮でした。そして私の生活からもそれがいかに強力か実感することができます。」

今年度で私は定年退職ですが,自分が研究してきたこと,それを基礎にすると現代の世の中をどのように見ることができるのか,それを学生に伝えることが使命と考え,そのための努力は惜しまないという姿勢は,今までもそしてこれからも一貫していこうと思います。
選択必修の単位取得という目的だけでなく,ぜひ授業を聴きに来てください。

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