マルクス経済学 II 試験問題と採点結果
(2017年度)
採点基準 成績統計と講評
《秋学期末試験》試験時間:50分,持込み不可
[問題]
(1) 以下の1,2を( )内を参考にして簡潔に説明しなさい。解答は,それぞれ答案用紙の3〜4行程度で書きなさい。
(2) 競争が全面的に支配する資本主義における景気循環のメカニズムを,以下の概念をすべて用いて説明しなさい(行数制限なし)。
T部門の不均等的拡大 競争的市場の特徴 固定資本 新生産方法 設備投資
以下の内容がどの程度説明されているかによって得点を与えます。絶対評価を基本としますが,相対評価を加味(全員の答案を読んだうえで採点基準・配点を変更)する可能性があります。
(1) 基本的な概念を150字前後で正確に説明できる理解度・文章作成力を問う。[各15点,計30点]
- 1. 資本の技術的構成と有機的構成の理解
- 1) 資本主義においては生産力上昇→技術的構成・有機的構成高度化
2) 生産力上昇の際に労働支出量を維持→技術的構成高度化
3) 生産力上昇率で賃金率上昇→有機的構成不変
- 2. 単純再生産における労働手段の理想的年齢構成
- 1) 固定資本の流通の特殊性
2) 個別資本レベルでの販売と購買の分離
3) 社会的総資本での販売と購買の一致条件:毎年の固定資本の価値移転総額=現物更新総額
(2) 競争段階における景気循環のメカニズムの理論的説明の理解度・文章作成力を問う。[70点]
採点と成績集計が終わりましたので,成績統計と講評を掲載しました(2/3)。
第1表 評語*の度数分布
欠席率は欠席者の履修者に対する%
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第2表 得点状況
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第1図 得点分布*(各得点階層が受験者総数に占める割合) *新規履修者のみ。 再履修者は受験者が少なくばらつきが大きいので省略した。 |
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第1表の評語の度数分布をみて特徴的なのが,2016年度以前の成績に比べてB評価以上が増加したこと,D評価が17.4%と15年度並みに下がったことでしょう(新規履修者のみ,以下同じ)。 第1図の得点分布を見ると,60点台をピークとするほぼ正規分布に近い曲線になっていますし,平均点も16年度より約15点上がっていることから,この成績上昇となったわけです。 設問別の成績を見ると,(1)は基本的な概念の説明,(2)はレポートのような論理展開を必要とする問題なのですが,問題(1)は平均点が46.1,問題(2)は52.6と,(2)の方が高くなっています。 これはなぜなのでしょうか? 問題(2)は,授業内レポートの課題9と同じ問題でしたし,過去問でも同様の内容の出題がありました。ですから,レポートを自分の力で書き,過去問を解くという努力をしていれば,解答は容易だったのでしょう。ただ,平均点は50.6とそれほど高くなく,第3図の得点分布を見れば,40点前後をピークとする正規分布に近い曲線になっています。 答案を見ると,採点基準の1と2,つまり景気の自動的回復メカニズムはある程度書けていても,3の好況末期の生産手段需要の変化と個別資本の生産・投資行動を書いていない答案,書いていてもきわめて不十分な答案が少なくなかったことが,平均点が低かった原因です。 問題(1)はどうでしょうか? 第2図の得点分布では,15点台と5点未満がピークとなっています。 この原因は,1の資本の技術的構成と有機的構成の問題の平均点が低かったことにあります。2つの概念をきちんと理解していれば,応用問題として技術的構成が高度化しても有機的構成が高度化しない場合を考えるのはそれほど難しくないはずです。 例えば生産力が2倍になった場合,労働時間を維持すれば生産量は2倍になるので技術構成は高度化しますが,賃金を2倍にすれば不変資本と可変資本の比率は変わらないので,有機的構成は変化しません。 答案で少なくなかったのは,「労働時間を半分にすれば有機的構成は変化しない」というもので,この場合,確かに有機的構成は不変ですが,生産量も増えないので技術的構成も不変となります。 以上のデータや答案を読んで感じたことは,当然のことなのですが,きちんと授業に出席し,講義資料や教科書をもとにレポートを書く努力をした学生の答案は各設問ともにポイントを押さえた解答で高得点となり,逆にそうした努力を怠った学生の答案は非常に低水準であったということです。 |
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第3表 レポート提出率(%)
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第4表 レポート提出と平均点の相関
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第4図 クラス*ごとの成績の差(レポート評価との相関) *時間割に指定されたクラスで,履修者が10人以上のクラスを対象。 |
第5図 試験とレポート評価との相関 *時間割に指定されたクラスで,履修者が10人以上のクラスを対象。 |
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第4表のレポート提出と成績との相関では,提出回数が多いほど,レポート評価が高いほど試験の平均点が高くなっていることが明確です。特にレポートの成績と試験の得点との相関は顕著です。この相関の高さをみればレポートを自分の力で書いて提出することの重要性は一目瞭然でしょう。 第4図はクラス別のレポート評価と平均点を示しています。クラスによってこれだけの差がある理由は私にはわかりませんが,この図からもレポート提出の重要性が読み取れます。 また第5図は試験の成績とレポート評価の散布図でも明確な正の相関が読み取れます。相関係数は0.74と非常に強い相関があることを示しています。 つまりは,授業への出席によって私の話を集中して聴いて理解する努力をすることを大前提とし,さらに授業内レポートを講義資料や教科書をもとに毎回自分の力でまとめる努力をすること,公表される[論述ポイント]にしたがって自分のレポートを改善すること,これらを実践することが授業内容の理解と単位取得,好成績のための王道なのだ,ということは以上で明らかでしょう。 なお,答案の最後に「レポート提出は大変だったが,授業内容の理解が深まったし,試験前に特別な受験勉強をしなくてすんだ」という趣旨の感想を約多くの学生が書いていました。それらの学生の答案の多くは要点を抑えていて論旨が明確でした。また,数人の学生はレポート提出を怠ったことが,答案の出来の悪さにつながったことを自覚し,後悔の念を記していました。 さらに,印象に残った感想を引用しておきましょう。多少「我田引水」的なのですが。 「授業で政治との関連を扱って以降,マニフェストの経済的側面などに以前より関心をもつようになりました。1年間で学んだことを今後の自分の人生の糧とすることができたらいいと思っています。ありがとうございました。」 「正直マルクス経済学はアウトローで,現実味のない学問だと思っていました。しかし,現況の資本主義を批判的に見ることができたおかげで,現在の資本主義や日本が抱える課題をはっきりと把握することができました。1年間ありがとうございました。諸ン主義の次に来るものが何なのかしっかり考えてみたいと思いました。」 今年度で私は定年退職ですが,2018年度も非常勤講師としてこの科目を担当します。自分が研究してきたこと,それを基礎にすると現代の世の中をどのように見ることができるのか,それを学生に伝えることが使命と考え,そのための努力は惜しまないという姿勢は,今までもそしてこれからも一貫していこうと思います。選択必修の単位取得という目的だけでなく,ぜひ授業を聴きに来てください。 |