採点基準 成績統計
《春学期末試験》試験時間:50分,持込み不可
[問題]次の(1),(2)に答えなさい。
(1) 以下の1,2を( )内の語句を用いて簡潔に説明しなさい。
(2) 競争が全面的に支配する資本主義において生産力が飛躍的に発展するメカニズムについて,以下の概念をすべて用いて論じなさい。
競争,個別的価値,社会的価値,新生産方法,特別剰余価値(五十音順)
以下の内容がどの程度説明されているかによって得点を与えます。絶対評価を基本としますが,相対評価を加味(全員の答案を読んだうえで採点基準・配点を変更)する可能性があります。
(1) 基本的な概念を簡潔かつ正確に説明できる理解度・文章作成力を問う。[50点]
- 1. 資本の価値増殖の可能性(30点)
- 1) 労働力商品の価値:労働者階級の再生産に必要な生活手段の価値
2) 労働力商品の使用価値:労働によって新たな価値を生み出す
3) 労働が生み出す価値が労働力商品の価値を上回るとき価値増殖が可能
- 2. 土地の理論価格(20点)
- 1) 定期的に地代という利得を生む土地が資本とみなされる=擬制資本
2) 地代の利子率による資本還元→土地の理論価格
3) 具体例:1年間の地代=100万円,標準的利子率5%→土地価格=100万円/5%=2000万円
(2) 最大限の価値増殖を求める個別諸資本間の競争と特別剰余価値の発生・消滅,競争の強制作用による生産力の飛躍的発展メカニズムの理解とその文章表現力を問う。[50点]
- 特別剰余価値:新生産方法導入による生産力上昇→個別的価値の低下・個別的価値の加重平均である社会的価値との差額
- 他の資本の新生産方法導入・普及→社会的価値の低下→特別剰余価値の減少
- 旧生産方法におけるマイナスの特別剰余価値の発生・増大
- 競争の内容の変化・新生産方法導入の競争による強制作用
- この過程の繰り返しによる生産力の飛躍的発展
採点と成績集計が終了しましたので成績統計とコメントを掲載しました(8/4)。
第1表 評語*の度数分布
欠席率は欠席者の履修者に対する%
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第2表 得点状況
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第1図 得点分布*(各得点階層が受験者総数に占める割合) *新規履修者のみ。再履修者は受験者が少なくばらつきが大きいので省略した。 |
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第1表の評語の度数分布をみて特徴的なのが,2015年度の成績に比べてA評価の比率が約8ポイントも上昇した一方で,D評価が3.6ポイント上昇したことです(新規履修者のみ,以下同じ)。 第1図の得点分布を見ると,15年度が60点をピークとするほぼ正規分布だったのに対して,30点台に小さな山と70点台に山があるグラフになっています。 実は問題(1)も(2)も出題文の表現は違っていますが,答える内容は15年度も16年度もそれほど変わっていないし,いずれも授業内レポートの一部であり,解答のヒントとなるキーワードが提示されていて平易な問題だったのです。にもかかわらず,なぜこうした変化が生じたのでしょうか。 設問別にみると,(1)の1の価値増殖の秘密が55.1点に対して,2の土地の理論価格の問題は47.0点と8点も低く,(2)の生産力の発展メカニズムは45.3点とさらに低くなっています。一方で最高点はいずれも満点(合計点の最高は98点),最低点は0点です。 答案を読むと,(1)の1はごく基本的な問題ですから,多くの学生が労働力商品の特殊性を答えるべきことと理解していたようですが,労働力商品の価値規定の説明が不充分な答案や使用価値と価値を混同している答案も少なくありませんでした。また書くべきことがわからずに一般商品の価値と使用価値だけを書いている答案も複数ありました。これらが平均点55点どまりの原因です。 (1)の2も擬制資本の意味を書こうとしている答案は多かったのですが,平均利潤率,利子率,利得などの用語の使用に混乱があったり,理論価格の計算を誤解した答案が少なくありませんでした。ただ平均点が47点と低かった最大の理由はまったく見当違いや白紙同然の答案が多かったせいです。 授業内レポートや昨年度の問題を解くことさえやっていればある程度は書けたはずなのですが。昨年出たから今年は出ない,とヤマをかけたのでしょうか。 同様のことは(2)にも言えます。生産力の飛躍的発展メカニズムは,授業でも最重要ポイントと強調しましたし,特別剰余価値の発生と消滅のメカニズムを理解していれば,キーワードをヒントにして説明するのは難しいはずはなかったでしょう。実際,要領よく的確に論理展開した答案は少なくありませんでした。 その一方で,問われていない絶対的剰余価値や相対的剰余価値の概念説明や機械製大工業の説明を長々として,肝心の特別剰余価値の説明が不充分となった答案も目立ちました。 以上のデータや答案を読んだことからわかったことは,きちんと授業に出席し,講義資料や教科書をもとにレポートを書く努力をした学生の答案は各設問ともにポイントを押さえた解答で高得点となり,逆にそうした努力を怠った学生の答案は非常に低水準であった結果,合計得点も設問別の得点も分布が2つの山となり,A評価とD評価ともに増加となったということです。 |
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第3表 レポート提出率(%)
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第4表 レポート提出と平均点の相関
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第4図 クラス*ごとの成績の差(レポート評価との相関) *時間割に指定されたクラスのみで,履修者の極端に少ないクラスは除いた。 |
第5図 試験とレポート評価との相関 *時間割に指定されたクラスのみで,履修者の極端に少ないクラスは除いた。 |
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再履修者の成績の悪さは毎年のことですが,16年度もD評価が2人に1人の割合となっていて,平均点も悲惨なぐらい低水準です。 その最大の原因は第3表のレポート提出率に現れています。新規履修者の63%に対して12%という低さです。これでは授業内容を理解するのは無理でしょう。 第4表のレポート提出と成績との相関では,提出回数が多いほど,レポート評価が高いほど試験の平均点が高くなっていることが明確です。この相関の高さをみればレポートを自分の力で書いて提出することの重要性は一目瞭然でしょう。 第4図はクラス別のレポート評価と平均点を示しています。クラスによってこれだけの差がある理由は私にはわかりませんが,この図からもレポート提出の重要性が読み取れます。また第5図は試験の成績とレポート評価の散布図でも明確な正の相関が読み取れます。 つまりは,授業への出席によって私の話を集中して聴いて理解する努力をすることを大前提とし,さらに授業内レポートを講義資料や教科書をもとに毎回自分の力でまとめる努力をすること,公表される[論述ポイント]にしたがって自分のレポートを改善すること,これらを実践することが授業内容の理解と単位取得,好成績のための王道なのだ,ということは以上で明らかでしょう。 なお,答案の最後に「レポート提出は大変だったが,授業内容の理解が深まったし,試験前に特別な受験勉強をしなくてすんだ」という趣旨の感想を20人近くの学生が書いていました。それらの学生の答案の多くは要点を抑えていて論旨が明確でした。また,数人の学生はレポート提出を怠ったことが,答案の出来の悪さにつながったことを自覚し,秋学期には授業への出席とレポート提出を頑張りたいと記していました。 さらに,印象に残った感想を2つ引用しておきましょう。 「マルクス経済学において講義や教科書,課題などから勉強したこと,頭の中で理解したことを問われた内容によって自分の言葉で再構築,表現することの難しさ,自分の力不足などを知った。インプットしたことをアウトプットすること,これはどの強化にも共通する大切なことであるが,マルクス経済学で改めてその大切な過程を課題作成を通じて知った春学期であった。秋学期,もっと良いアウトプットができるように一層努力したい,そう思いました。」 「やはり授業にしっかり出席したこと,レポートを毎回提出したことが役に立った。ここまでしっかり「勉強できた!」と感じられる科目は初めてだし,このスタイルを大学の他の教授もマネしていったら,もっと大学の教育はよくなっていくのになあ,と思う。」 |