マルクス経済学 II 試験問題と採点結果
(2016年度)


 秋学期末試験問題 

採点基準 成績統計

《秋学期末試験》試験時間:50分,持込み不可

[問題]

(1) 以下の再生産表式について,1,2に答えなさい。(再生産表式は省略)

1. (A)〜(L)に入る適切な数値を答えなさい。(固定資本は捨象,資本の有機的構成と剰余価値率は不変。整数でない場合は小数第1位まで記入)
(a)[初年度]の余剰生産手段をT部門に286,U部門に残りを配分
(b)[初年度]の余剰生産手段をT部門に320,U部門に残りを配分
2. 好況過程の再生産表式的表現として妥当なのは上の(a),(b)のどちらか。理由とともに答案用紙の4行程度で答えなさい。

(2) 競争の支配的な資本主義における景気循環メカニズムに関連する以下の1〜4の論点を答案用紙の4行程度で説明しなさい。

  1. 固定資本の存在が景気循環において持つ意味
  2. 好況初期と好況末期の資本家の生産・投資行動の違い
  3. 更新投資と新投資が生産手段の需給関係に与える影響の違い
  4. 合成の誤謬(具体例を挙げて説明すること)

[採点基準]

以下の内容がどの程度説明されているかによって得点を与えます。絶対評価を基本としますが,相対評価を加味(全員の答案を読んだうえで採点基準・配点を変更)する可能性があります。

(1) 拡大再生産表式分析の基礎的理解と体系的理解について問う。[計36点]

1. 拡大再生産表式分析の基礎的理解。[各2点,計24点]
(A)=400,(B)=7.1,(C)=71.5,(D)=28.5,(E)=4286,(F)=1071.5
(G)=7.1,(H)=7.1,(I)=1080,(J)=8,(K)=5,(L)=8
ただし,(G),(H)については授業で示した数値(小数第2位まで)を書いていても可とする。
2. 拡大再生産表式が表わす再生産の諸関連と資本蓄積の進展過程との対応。[12点]
1) 好況過程は固定資本を含む設備投資の相互誘発的展開という内容を持って進む。
2) 設備投資は生産手段への需要を加速度的に増大させ,(b)の I 部門の不均等的拡大を引き起こす。

(2) 競争段階の景気循環のメカニズムの基本的な論点を120字前後で正確に説明できる理解度・文章作成力を問う。[各16点,計64点]

1. 固定資本の存在が景気循環において持つ意味
1) 流通の特殊性に基づく大規模な販売と購買の分離
2) 回復・好況過程における需要の加速度的波及
3) 資本家の投資行動への影響(巨額の資本の長期固定化)
2. 好況初期と好況末期の資本家の生産・投資行動の違い
1) 生産・投資行動の目的(最大限の価値増殖)
2) 好況初期:需要の拡大に対して率先的な生産拡大・投資拡大
3) 好況末期:需要拡大率鈍化→新投資の抑制・投下資本早期回収のための生産拡大
3. 更新投資と新投資が生産手段の需給関係に与える影響の違い
1) 更新投資:供給増大効果を持たず需要効果のみ
2) 新投資:需要効果と同時に供給増大効果を持つ
3) 好況過程の進展→更新投資が相対的に減少→生産手段の需給関係悪化要因
4. 合成の誤謬
1) 合成の誤謬:ミクロ(個人・個別企業)レベルでは合理的な行動でも,それらが合成されたマクロ(経済全体)レベルでは正反対の結果をもたらす不合理な行動となること
2) 具体例: 好況末期の資本家の生産・投資行動と生産手段の需給関係
       1990年代以降のリストラや雇用の不安定化と長期停滞など
[成績評価への質問について]
経済学部では,成績評価についての質問は所定の質問用紙に記入し学事センターを通じて担当者に送付されることになっています。この方法以外での質問は受け付けられません。
質問の際には上記の採点基準を熟読し,自分の答案と比較して自己採点したうえで,それでも疑義がある場合のみ,疑義の内容を詳しく記入して,所定の手続きをとってください。
なお,採点は採点基準に従って答案を複数回読み直して厳密に行なっています。講義を担当するようになって以来,今までに学生からの質問によって成績評価を変更したことは1度もありません。「ダメもと」で質問しても無駄ですので,念のため

[成績統計]

採点と成績集計が終わりましたので成績統計と講評を掲載しました。(1/29)

第1表 評語*の度数分布
**  **  合計 
16年 15年 14年 16年 15年 14年 16年 15年 14年
A 14.2 20.4 7.0 25.0 0.0 0.0 14.5 19.4 6.5
B 10.4 24.7 18.1 0.0 40.0 20.0 10.1 25.5 17.3
C 47.8 38.7 46.8 50.0 40.0 20.0 47.8 38.8 45.9
D 27.6 16.1 28.1 25.0 20.0 60.0 27.5 16.3 30.3
受験者 134 93 171 4 5 5 138 98 185
欠席率 22.5 26.8 21.9 81.0 64.3 78.3 28.9 30.5 23.2
受験者数に占める各評語の人数の%
欠席率は欠席者の履修者に対する%
* 評語は,試験の得点(素点)にレポートの得点(25点満点)を加算(評点)し,
A,B評価はその評価にふさわしい水準の答案であること,
C評価は例年レポートの点数は素点を超えない範囲で加点していたが,
今年度は試験の素点が低得点の者が多く,例年の評価基準ではD評価が
40%を超える多さとなったため,レポートの点数をそのまま素点に足して
以下の基準で評価した。
A:素点80点以上,OR評点80点以上AND素点60点以上
B:素点60点以上,OR評点60点以上AND素点50点以上
C:素点30点以上,OR評点30点以上AND素点10点以上
D:上記以外
** 新は新規履修者,再は再履修者または3年生以上(以下同じ)。
第2表 得点状況
最高点(最低点) 平均点
全体
(1) 36(0) 36(6) 33.9 59.7 34.6
1. 24(0) 24(4) 33.7 60.4 34.5
2. 12(0) 20(0) 34.2 58.3 34.9
(2) 57(0) 56(0) 36.2 40.6 36.3
1. 16(0) 16(0) 40.6 37.5 40.5
2. 16(0) 12(0) 46.6 43.8 46.6
3. 16(0) 12(0) 25.4 37.5 25.8
4. 16(0) 16(0) 32.2 43.8 32.6
合計
[15年]
87(0)
[90(0)]
92(16)
[53(2)]
35.4
[37.9]
47.5
[23.1]
35.7
[36.8]
問題別の平均点は各問の満点に対する%。
第1表の評語の度数分布をみて特徴的なのが,2015年度の成績に比べてA,B評価が激減し,D評価が11.5ポイント増加したことである(新規履修者のみ,以下同じ)。

この変化は,言うまでもなく第1図の合計得点構成比で20〜30点をピークとする分布となっていること,第2表の平均点が合計でも設問別でも昨年度より下がっていることの反映である。なお,再履修者の平均点は新規履修者よりも高く,昨年度との比較でも上回っているが,これは受験者が4人と少なく,3年生の履修者の得点が例外的に高かったために,平均点が押し上げられたことによる。

今年度の試験問題はすべてが競争段階の景気循環メカニズムに関する問題であった。
問題(1)は景気の自動的回復メカニズムを明らかにするための分析ツールとしての拡大再生産表式の問題である。
再生産表式の展開の方法は,授業で3回繰り返して説明し,さらに出席者には時間をとって計算してもらっている。また,1月の最後の授業では試験勉強としてレポート課題の復習とともに,「課題に関連する諸概念や再生産表式の理解も重要です」とわざわざ注意しておいた。

再生産表式については過去にも何度か出題し,14年度にも出題しているので,履修者であればだれでもマルクス経済学のウェブページから入手可能な過去問である。14年度よりは今年度の方が平均点は高いが,これは多くの学生が低得点あるいはまったくの白紙答案であったのに対して,一部の学生の高得点によって平均点が押し上げられたことによる。

問題(2)は授業内レポートの課題9の景気の自動的回復メカニズムの重要な論点の説明を求める問題。
いずれも固定資本の存在と不可分の論点である。固定資本の問題の重要性は秋学期の授業内容で繰り返し強調して説明したことである。

「合成の誤謬」は景気循環のメカニズムのうち好況過程末期の部分で概念の説明があり,その具体例としては,上の採点基準にあるように,資本の投資行動の変化が生産手段の需給関係に与える影響,90年代の企業の賃金コスト削減策と長期経済停滞との関係を授業で説明している。

以上のように,授業で私が強調したり説明を繰り返したりする部分は重要だということ,おれも何回か話していることですから,漫然と聴講するのではなくアンテナを張って集中することが大切です。

今年度の試験問題は出題形式は多少違っても14年度の問題と基本的な論点は共通していたのですが,14年度の得点分布と違って,80〜90点に小さなピークがあります。授業に出席して上述のように私の話を集中して聴き,授業内レポートも自分の力で作成し,論述ポイントを形式的に暗記するのではなく,出題の要求に応えられるように論述するためには,内容を充分理解しておく努力をした学生だったのでしょう。
評語の判定基準に書いたように,今年度はD評価の人数を抑えるために,例年の基準を修正してレポート評価のウェートを高めましたが,これらの高得点の学生はいうまでもなくレポートの成績も高く,従来の評価基準でも文句なくA評価でした。
第1図 得点分布*(各得点階層が受験者総数に占める割合)

*新規履修者のみ。再履修者は受験者が少なくばらつきが大きいので省略した。

第2図 問題別得点分布(1)
第3図 問題別得点分布(2)
第3表 レポート提出率(%)
課題番号 R1 R2 R3 R4 R5 合計
56.6 55.5 49.1 48.6 47.4 42.9
14.3 19.0 9.5 9.5 9.5 10.3
全体 52.1 51.5 44.8 44.3 43.3 39.3
第4表 レポート提出と平均点の相関
提出回数 5 4-3 2-1 0
平均点 44.7 32.9 28.4 27.8
レポート評価 A B C D
平均点 59.8 40.0 30.1 26.9
第4図 クラス*ごとの成績の差(レポート評価との相関)

*時間割に指定されたクラスのみで,履修者の極端に少ないクラスは除いた。
第5図 試験とレポート評価との相関

*時間割に指定されたクラスのみで,履修者の極端に少ないクラスは除いた。
第4表のレポート提出と成績との相関では,提出回数が多いほど,レポート評価が高いほど試験の平均点が高くなっていることが明確です。

第4図はクラス別のレポート評価と平均点を示しています。クラスによってこれだけの差がある理由は私にはわかりませんが,この図からもレポート提出の重要性が読み取れます。また第5図は試験の成績とレポート評価の散布図でも明確な正の相関が読み取れます。相関係数は約0.6でした。この相関の高さをみればレポートを自分の力で書いて提出することの重要性は一目瞭然でしょう。

つまりは,授業への出席によって私の話を集中して聴いて理解する努力をすることを大前提とし,さらに授業内レポートを講義資料や教科書をもとに毎回自分の力でまとめる努力をすること,公表される[論述ポイント]にしたがって自分のレポートを改善すること,これらを実践することが授業内容の理解と単位取得,好成績のための王道なのだ,ということは以上で明らかでしょう。

Top of this pageTop of this page

過去の試験問題と解説