世界的金融・経済危機の構造
試験問題
(2016年度)


《試験問題》

[問題] アメリカの経常赤字のファイナンス構造の特徴を,次の(1)〜(3)の時期について説明しなさい。(試験時間50分,持ち込み可)
答案用紙に記入する順序は問わないが,解答の冒頭には時期の番号を記すこと。

(1) 1980年代前半,プラザ合意成立以前
(2) 1990年代のクリントン政権期
(3) 2000年代のブッシュ政権期,リーマン・ショック以前

[採点基準]

以下の内容がどの程度説明されているかによって得点を与えます。絶対評価を基本としますが,相対評価を加味(全員の答案を読んだうえで採点基準・配点を変更)する可能性があります。
(1) 1983〜85年:経常赤字の増大→「危うい循環」の形成[40点]
(a) 高金利とドル高によるキャピタル・ゲインを求める投機的な外国民間対米投資
 ⇒資本流入によるファイナンス
(b) このファイナンス構造の脆弱性=「危うい循環」
 高金利・ドル高の継続に依存した対米民間投資=ドル買い
 ⇔アメリカ経済の実態と乖離した異常ドル高
 民間資本のドル離れ⇒ドルのスパイラル的下落=ドル大暴落の危険性を内包した循環
 ドル大暴落⇒ドルの基軸通貨特権の喪失⇒アメリカの経常赤字の持続不可能
 ⇒アメリカ経済の「繁栄」持続が不可能
(2) 90年代:経常赤字の膨大化→投機的金融取引増大に依存した経常赤字のファイナンス[30点]
(a) アメリカをハブとするグローバルで大規模な資本取引循環の成立
(b) 「危うい循環」の深化・不安定性の増大
(3) 2001〜07年:経常赤字のいっそうの膨大化[30点]
(a) サブプライム・ローン関連の投機的取引の膨大化
 →巨額の民間資本の流出入
(b) 政府資本収支の黒字累増:アジア・マネーとオイル・マネー
(c) 「危うい循環」の不安定性の増大
 住宅価格上昇に依存した経済成長・投機的取引の破綻の必然性
 ⇒巨額の外国民間資本の流入持続の限界
[成績評価への質問について]
経済学部では,成績評価についての質問は所定の質問用紙に記入し学生部を通じて担当者に送付されることになっています。この方法以外での質問は受け付けられません。
質問の際には上記の採点基準を熟読し,自分の答案と比較して自己採点したうえで,それでも疑義がある場合のみ疑義の内容を詳しく記入して,所定の手続きをとってください。
なお,採点は採点基準に従って答案を複数回読み直して厳密に行なっています。講義を担当するようになって以来,今までに学生からの質問によって成績評価を変更したことは1度もありません。「ダメもと」で質問しても無駄ですので,念のため

《成績統計》

採点と成績集計が終わりましたので,成績統計とコメントを掲載しました。(7/28)
 第1表 評語*の度数分布
3年生  4年生  合計 
16年 15年 14年 16年 15年 14年 16年 15年 14年
A 30.0 56.0 39.4 3.2 10.5 16.7 14.8 36.4 27.5
B 30.0 12.0 33.3 12.9 26.3 19.4 23.0 18.2 26.1
C 23.3 20.0 18.2 67.7 26.3 30.6 45.9 22.7 24.6
D 16.7 12.0 9.1 16.1 36.8 33.3 16.4 22.7 21.7
受験者 30 25 33 31 19 36 61 44 69
欠席率 14.3 18.8 5.7 26.2 34.5 32.1 20.8 26.2 21.6
受験者数に占める各評語の人数の%
欠席率は欠席者の履修者に対する%
* 評語は,試験の得点(素点)にレポートの得点(35点満点)を
加算(評点)し,以下の基準で評価した。
A:素点80点以上,
 OR評点90点以上AND素点65点以上
B:素点60点以上,
 OR評点70点以上AND素点50点以上
C:素点40点以上,
 OR評点50点以上AND素点25点以上
D:上記以外
 第2表 得点状況
最高点(最低点) 平均点
3年生 4年生 3年生 4年生 全体
(1) 40(5) 40(0) 67.1 48.4 57.6
(2) 30(0) 30(0) 63.8 46.2 54.9
(3) 30(0) 20(0) 42.4 28.0 35.1
合計 95(10) 70(0) 58.7 41.6 50.0
問題別の平均点は各問の満点に対する%。 
第1図 得点分布*(各得点階層が受験者総数に占める割合)
 第2図 問題別得点分布(1)
第3図 問題別得点分布(2)   第4図 問題別得点分布(3) 
第3表 レポート提出率(%)
課題番号 1 2 3 4 5 6 合計
3年 54.3 68.6 40.0 51.4 42.9 37.1 49.0
4年 19.0 21.4 14.3 21.4 23.8 16.7 19.4
全体 35.1 42.9 26.0 35.1 32.5 26.0 32.9
第4表 レポート提出と平均点の相関
提出回数 6-5 4-3 2-1 0
平均点 64.6 47.5 55.6 38.8
レポート評価 A B C D
平均点 72.5 71.3 56.5 42.2

コメント

1980年代以降リーマン・ショック以前までのアメリカの「繁栄」維持の条件としての経常赤字のファイナンス構造の各時期の特徴の説明を求める問題。
ファイナンス「構造」の説明が要求されているのですから,たんにどのようにファイナンスされたかだけでなく,その構造が脆弱なこと,つまり本講義のキー概念の「危うい循環」の理解の上に立った説明が必要になります。
もちろん,授業に出席し講義資料でノートをとって授業内レポートを提出し,論述ポイントで復習している学生にとっては平易な問題だったはずです。
それらが不充分だったとしても,持込み可ですから,教科書と講義資料を持ち込んでいれば解答は可能でしょう。ただし,それらを試験前に読んで理解していないと,簡潔で的確な答案を書くのは難しいはずです。このことは上の成績統計に表れています。

第1表の評語の度数分布をみると,3年生のA評価は30%と昨年度の56%に比べると大幅に減少しています。4年生は例年3年生より成績は悪いのですが,今年度はA評価は1人だけでした。
D評価は3年生で16.7%と昨年の12%より増加していますが,4年生では16.1%で昨年度の36.8%より大幅に減少しました。
この結果の最大の原因は,第3表のレポート提出率の低さにあると思われます。
昨年度は,3年生の提出率が64.1%,4年生が27.6%だったのですが,今年度はそれぞれ49.0%,19.4%と大幅に減少しています。
実際,D評価となった学生は2人を除いてすべてレポート提出回数ゼロでした。その2人もレポート提出回数もその評価も低水準でした。
4年生のD評価が減ったのは,答案の文章を見ると,持込み可とはいえ教科書や講義資料を前もって読み込んで試験の臨んだのではないでしょうか。

以下,設問別にコメントしておきます。

問題(1)は,授業内レポートの課題4の論述ポイントの2の80年代前半のアメリカの経常赤字のファイナンス構造を答える問題です。
高金利とドル高によるキャピタルゲインを求める外国資本の対米投資によってファイナンスされたことを答えればよいわけですが,その際には,高金利とドル高が進んだ理由としてレーガン政権の政策の特徴に言及する必要があります。
3年生の平均点は満点比67.1点とかなりの高水準でした。しかも第2図が示すように,25点(満点比62.5点)以上が受験者の63%となっています。
これに対して4年生は平均点が48.4点と3年生より19点も低く,20点(満点比50点)以下が74%を占めています。

問題(2)は,授業内レポートの課題5の論述ポイントの2と3の90年代のアメリカの経常赤字のファイナンス構造を答える問題です。
「危うい循環」がより深化したことを説明するために,グローバルな生産体制のもとで貿易赤字累増体質が深化したことやIT革命のもとで投機的金融取引が質・量ともに拡大していったことに言及する必要があります。
ただ,これも論述ポイントに沿って書けば平易なはずですが,(1)よりも平均点が低くなったのは,90年代のアメリカ経済の復活の要因について長々と書いて,肝心のファイナンス構造が不充分だった答案や投機的金融取引の拡大を説明できていなかった答案が多かったせいです。

問題(3)は,特定の授業内レポートの課題を直接的に問う出題ではありませんでした。
しかし,(1),(2)で「危うい循環」がより深化したこと,課題6で投機的金融取引盛行を背景とする2000年代の景気回復のメカニズムとそれが破たんする性格をもっていたことは理解しているはず。
その景気回復が外国資本の対米投資を激増させて経常赤字をファイナンスしたのですから,「危うい循環」はさらに不安定化したことを答える必要があることは想像できたはずです。
そうすれば教科書や講義資料で何を書くべきかは判断できるでしょう。
持込み可であるからには,こうした応用問題が出題される可能性も考慮して準備しておくべきでしょうし,なによりこの講義のタイトルに直接関係する論点なのです。
残念ながら,ブッシュ政権の景気回復策やサブプライム・ローン問題,デリバティブの説明に終始した答案が多く,平均点は低水準でした。

授業内レポートの課題を基礎とした出題とは,課題そのものを直接出題するという意味ではありません。もちろん授業内容と全く関係のない出題はしません。設問をよく読み,わかる範囲内については講義資料やテキストをもとに答案に書くことが必要です。

最後に,毎年最初の授業でも説明し,ここにも書いていることですが,第4表が示すように,内容をともなったレポートの提出と成績とは明確に相関関係があります。授業への出席とレポートの提出が単位取得と高評価を得るための王道であることはいうまでもないでしょう。。