世界的金融・経済危機の構造
試験問題と採点結果

(2014年度)


《試験問題》

[問題]以下の(1),(2)に答えなさい。

(1) 2000年代ブッシュ政権期にサブプライム層への住宅ローンが急増した理由について,デリバティブズによるリスク・ヘッジの面から説明し,さらにそれがやがて限界を迎える必然性について論じなさい。
(2) 安倍政権は集団的自衛権行使の容認を閣議決定した。その最大の理由は集団的自衛権行使の容認が抑止力を強化するというものである。この抑止力強化という理由付けを,この講義で取り扱ったアメリカの冷戦期および冷戦後の軍事戦略における日本の位置づけという面から論評しなさい。

[採点基準]

以下の内容がどの程度説明されているかによって得点を与えます。絶対評価を基本としますが,相対評価を加味(全員の答案を読んだうえで採点基準・配点を変更)する可能性があります。
(1) 債権の証券化,証券の証券化によるリスク・ヘッジの考え方にもとづくサブプライム・ローンの急増とその限界の理論的説明。50点
1.サブプライム・ローンと投機的取引の拡大
(a) 「債権の証券化」と「証券の証券化」:RMBS,CDO,CDS等
(b) サブプライム・ローン増大→住宅価格上昇→住宅需要増大のスパイラル
2.住宅価格上昇に依存した景気上昇と投機的取引の限界
(a) 証券化商品によるリスク・ヘッジの理論の誤謬:大数の法則とローン返済不能率との違い
(b) 住宅価格上昇の限界:最終需要者の購入可能限度額に規定
(c) 住宅売却による債権回収の限界
⇒住宅価格上昇と個人消費増大に依存した景気上昇の限界
(2) 安倍政権の集団的自衛権行使容認が抑止力を強化するという主張に対して,アメリカの国家安全保障戦略の特徴と本質の理解にもとづいて批判する応用問題。50点
1.冷戦期のアメリカの国家安全保障戦略:
核戦力を基軸とする恒常的軍拡体制とグローバルな反共軍事同盟網における日米安保体制の位置づけ
=対ソ・対共産主義封じ込め態勢における在日米軍・基地とその補完としての自衛隊
2.冷戦後のアメリカの国家安全保障戦略:
WMDの拡散,地域大国による侵略または民族・宗教紛争等に対応する「地域的防衛戦略」
=冷戦終結による軍事支出の削減・軍事力の縮小のもとでのアメリカの覇権の維持
⇒米軍のグローバルな緊急展開能力とそれを支える同盟国の軍事的役割の強化
湾岸戦争⇒「地域的防衛戦略」の正当性
⇒日米安保体制の拡大・強化(日米安保共同宣言)
=アジア太平洋地域における地域紛争への日米の共同対処のための体制
3.日米安保体制はアメリカの国益の維持・拡大を目的とするものであって,日本の国民を防衛するためのものではない
⇒集団的自衛権行使容認は抑止力を強化することにはならない
*答案を読むと,(2)の得点が非常にバラツキが大きく平均点も低かったので,配点を(1)70点,(2)30点に変更しました。
[成績評価への質問について]
経済学部では,成績評価についての質問は所定の質問用紙に記入し学生部を通じて担当者に送付されることになっています。この方法以外での質問は受け付けられません。
質問の際には上記の採点基準を熟読し,自分の答案と比較して自己採点したうえで,それでも疑義がある場合のみ疑義の内容を詳しく記入して,所定の手続きをとってください。
なお,採点は採点基準に従って答案を複数回読み直して厳密に行なっています。講義を担当するようになって以来,今までに学生からの質問によって成績評価を変更したことは1度もありません。「ダメもと」で質問しても無駄ですので,念のため

《成績統計とコメント》

採点と成績集計が終わりましたので成績統計はを掲載しました。(7/29)
成績統計と答案を採点して感じたコメントを掲載しました。(7/30)
 第1表 評語*の度数分布
3年生 4年生 合計
14年 13年 12年 14年 13年 12年 14年 13年 12年
A 39.4 27.8 46.2 16.7 30.0 22.6 27.5 28.9 33.3
B 33.3 36.1 30.8 19.4 17.5 38.7 26.1 26.3 35.1
C 18.2 33.3 19.2 27.8 35.0 12.9 23.2 34.2 15.8
D 9.1 2.8 3.8 36.1 17.5 25.8 23.2 10.5 15.8
受験者 33 36 26 36 40 31 69 76 57
欠席率 5.7 5.3 10.3 32.1 37.5 40.4 21.6 25.5 29.6
受験者数に占める各評語の人数の%
欠席率は欠席者の履修者に対する%
* 評語は,試験の得点(素点)にレポートの得点(35点満点)を
加算(評点)し,以下の基準で評価した。
A:素点80点以上,
 OR評点90点以上AND素点65点以上
B:素点60点以上,
 OR評点70点以上AND素点50点以上
C:素点40点以上,
 OR評点50点以上AND素点25点以上
D:上記以外
 第2表 得点状況
最高点(最低点) 平均点
3年生 4年生 3年生 4年生 全体
(1) 65(10) 60(0) 66.2 50.4 58.0
(2) 30(0) 30(0) 44.1 21.3 32.2
合計 90(10 90(0) 59.6 42.4 50.6
問題別の平均点は各問の満点に対する%。 
第1図 得点分布*(各得点階層が受験者総数に占める割合)
第2図 問題別得点分布(1)
第3図 問題別得点分布(2),(3)
第3表 レポート提出率(%)
課題番号 1 2 3 4 5 6 7 合計
3年 80.0 82.9 68.6 71.4 74.3 74.3 65.7 73.9
4年 28.3 32.1 34.0 32.1 28.3 26.4 35.8 31.0
全体 48.9 52.3 47.7 47.7 46.6 45.5 47.7 48.1
第4表 レポート提出と平均点の相関
提出回数 7-6 5-4 3-2 1-0
平均点 61.2 61.9 41.0 30.6
レポート評価 A B C D
平均点 67.2 58.9 56.1 33.9

コメント

問題(1)は,授業内レポートの課題7の論述ポイントの2.サブプライム・ローンの増大と投機的取引の拡大,およびその限界の理論的説明でした。
授業に出席し講義資料でノートをとって授業内レポートを提出し,論述ポイントで復習していれば,平易な問題だったはずです。
それらが不充分だったとしても,持ち込み可ですから,教科書を持ち込んで260〜264ページを要約すれば解答は可能でしょう。

実際,3年生の平均点は満点比66.2点とかなりの高水準でした。しかも第2図が示すように,満点比70点(素点で50点)以上が受験者の45%ともっとも多かったのです。第3表が示すように,3年生の授業内レポート提出率は平均で73.9%と高かったわけですから,上述のような学習をしていれば高得点がとれることの証明です。
逆に,平均点を引き下げたのは30点未満の階層で,いずれも授業内レポート提出が0回でした。おそらく授業への出席率も低かった学生でしょう。

これに対して,4年生は平均点が50.4点と3年生との差が16点もあります。その主な原因は第3表のレポート提出率の低さであることは言うまでもないでしょう。
就職活動で授業の出席率が低くならざるを得ない事情があったせよ,レポートはウェブサイトで確認できメール送付なのですから,言い訳にはならないでしょう。実際,4年生でも満点比70点以上が受験者の25%でその多くがレポート提出回数が6回以上でした。レポート提出が少ない学生でも高得点者がいましたが,答案の文章を見ると,講義資料やテキストで試験勉強をし,持ち込んだテキストを要領よく要約したものと思われます。

なお,レポート提出回数が多くても評価が低い学生がいますが,その理由は, 「債権の証券化」や「証券の証券化」という語句は書かれていても,その内容が書かれていないか,きわめて不充分だったためです。設問は「デリバティブズによるリスク・ヘッジの面から説明し」とあるわけですから,RMBSやCDO,CDSがどのようなもので,なぜリスク・ヘッジになると考えられたのかを説明しないと,設問の要求に応えたことにならないのです。
また,「それがやがて限界を迎える必然性について論じなさい」とあるのですから,リスク・ヘッジの考え方の理論的誤謬を説明していない答案は低得点となってしまいます。

問題(2)は,タイムリーな問題で,過去問にはなく,レポート課題にも直接関係していないように見える出題でした。
しかし,最後の2回の授業ではかなり時間を使って説明した論点でしたし,私のウェブサイトでも掲載している問題でした。さらに,設問には「アメリカの冷戦期および冷戦後の軍事戦略における日本の位置づけという面から論評しなさい」とあるのですから,アメリカの軍事戦略の本質的特徴や日米安保体制の性格については,課題の1や3,講義資料およびテキストによって解答できるはずです。そうすれば,完全な答案にならなくでも,部分点は確保できる設問なのです。
その上で,それらと集団的自衛権による抑止力との関係を応用問題として考察することは可能でしょう。

結果としては,3年生の平均点が44点,4年生が21点とかなり低水準となりました。ただ,3年生も4年生も満点の学生が(採点基準をかなり甘くしたとはいえ)複数いました。授業での私の話を覚えていたか,メモしていたのでしょう。4年生の平均点を引き下げたのは,第3図のように,無解答かまったく的外れの答案,あるいは試験会場で私が「あなたたちの考えや感想を尋ねているのではない」と注意したにもかかわらず,自分の「感想」を書いた学生の存在です。

今回のように,予想外の問題だったとしても,授業内容と全く関係のない出題はしません。設問をよく読み,わかる範囲内については講義資料やテキストをもとに答案に書くことが必要です。

最後に,毎年最初の授業でも説明し,ここにも書いていることですが,第4表が示すように,内容をともなったレポートの提出と成績とは明確に相関関係があります。授業への出席とレポートの提出が単位取得と高評価を得るための王道であることはいうまでもないでしょう。(7/30記)。