「イラク戦争」関連年表 2008年 注釈

[4-1]
4月17日の航空自衛隊のイラクにおける活動を違憲とした名古屋高裁の判決の要点は以下のとおり。
(a) 現在のイラク情勢について。イラク国内での戦闘は,実質的には03年3月当初のイラク攻撃の延長で,多国籍軍対武装勢力の国際的な戦闘である。
(b) バグダッドの状況について,正に国際的な武力紛争の一環として行なわれている人を殺傷し物を破壊する行為が限に行なわれている地域であり,イラク復興支援特別措置法の「戦闘地域」に該当する。
(c) 航空自衛隊の輸送活動について,現代戦において輸送等の補給活動も戦闘行為の重要な要素であり,航空自衛隊の活動のうち,少なくとも多国籍軍の武装兵員をバグダッドに輸送するものは,他国による武力行使と一体化した行動であって,自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない。したがって,武力行使を禁じたイラク特措法に違反し,憲法9条に違反する活動を含んでいる。
原告側が請求の根拠として主張した「平和的生存権」について,憲法9条に違反するような国の行為,すなわち戦争の遂行などによって個人の生命,自由が侵害される場合や,戦争への加担・協力を強制される場合には,その違憲行為の差し止め請求や損害賠償請求などの方法により裁判所に救済を求めることができる場合がある」との見解を示し,平和的生存権には具体的権利性があると判示した。
ただし,今回の航空自衛隊のイラク派遣によって原告らの平和的生存権が侵害されたとまでは認められないとして損害賠償請求は棄却。(2)
[5-1]
5月30日に採択されたクラスター爆弾禁止条約案の骨子は,
(a) いかなる状況でも使用・開発・製造・調達・備蓄・移転(輸出入)を禁止
(b) 子爆弾が10個未満,目標に向かう誘導装置,電子的自己破壊装置などの機能すべてを備えたものは禁止対象外
(c) すべての備蓄を発効後8年以内に廃棄または確約
(d) 締約国は非締約国との軍事協力・作戦に関与可能
で,約100カ国が賛同,12月に署名式が行なわれ,その後30カ国以上が批准すれば発効する。
[8-1]
アフガニスタン復興支援NGO統括団体Agency Coordinating Body for Afghan Reliefが8月1日に出した声明では,アフガニスタンの治安情勢の悪化について以下のように述べている。
アフガニスタンの治安状況は,現在,以前は相対的に安定していた北部や北東部さらには中央部までが不安定さを増している。
タリバン主導の武装勢力は特にアフガン南部と東部で強力であったが,暴力は他の諸州にも拡大し,ロガール州やワルダク州のような首都カブールに接する州にまで達している。武装勢力による攻撃事件は6月までで2,056件,07年同期比で52%増となっている。
復興支援組織への武装勢力や犯罪集団からの攻撃や脅迫なども増加しており,NGO職員の死者は2007年度に15人であったが,08年度は現在までですでに19人が死亡している。
こうした治安状況の悪化によって,貧困者に必要不可欠な人道的援助物資を配分することが困難になっており,彼らの生活と生命を脅かしつつある。
また,暴力事件による民間人の死者の増加,特に外国軍の空爆による民間人死者の増加にも言及している。
[8-2]
グルジアは19世紀にロシア帝国に併合され,1991年にソ連から独立を宣言。90年にロシア編入を主張する南オセチア自治州,92年には主権宣言したアブハジア自治共和国と紛争に。現在は南オセチア,アブハジアともロシアの平和維持部隊が駐留し,事実上の独立状態にある。(2)
[9-1]
国連調査による2008年9月までのアフガニスタンにおける武装勢力および多国籍軍の攻撃による民間人死者数1,445人の内訳は以下のとおり。
(a) タリバンその他武装勢力の攻撃による死者:800人(全体の55%)
(b) 米軍・NATO軍・アフガン軍の攻撃による死者:577人(40%)
  うち空爆による死者は395人。2007年の米軍等の攻撃による死者は477人。
(c) 交戦中の死者など分類不能:68人
[10-1]
外国軍のイラク駐留の法的根拠である国連安保理決議の効力が2008年度末に期限切れとなり,来年以降の米軍のイラク駐留の法的根拠となるイラクと米国との安全保障協定は,当初08年7月に締結される予定であった。両国の交渉が難航した理由の1つは,米兵の軍事行動や犯罪についての訴追権限などを定める地位協定である。
米軍側は米兵の行動によってイラク民間人に死傷者が出た場合も米兵の捜査・訴追権限を米軍が維持したい(治外法権)のに対して,イラク側はイラク国内法にも続き,自国捜査機関による捜査・訴追権限を要求しているからである。
イラク政府報道官によると,15日に両国で合意された地位協定の内容は,イラク側が米兵の訴追権限を持つのは米兵が職務外で米軍基地外で犯罪を犯し,さらにイラクと米国の合同委員会がイラク政府による米兵の捜査・訴追を認めた場合のみということである。
治安状況が改善されたとはいえ,イラク国内で米兵が職務外で基地の外に出ることは許可されておらず,イラク政府が米兵を訴追する可能性は極めて小さいといえよう。
言うまでもなく,米兵が軍事行動中に誤射・誤爆により,あるいは故意に民間人を殺害しても,イラク側によって米兵が訴追されることはない。
なお,安全保障協定交渉難航のもう1つの理由である米軍の全面撤退期限については,2011年までに米軍が撤退することで合意に達したということである。
[10-2]
イラク・アメリカ両政府が合意したの安全保障協定案の主な内容は,[10-1]に記したものの他に,米軍が拘束したイラク人を訴追なしに無期限に拘禁する権利を認めないことが追加された。
協定案に対しては,2つのクルド人政党(タラバーニ大統領所属のクルド同盟とゼバリ外相所属のイスラム・クルド協会)が留保条件なしに賛成を表明,議会多数派のシーア派同盟(マリキ首相所属)が米兵の犯罪に対する裁判権などの点で修正が必要との立場,サドル師派は反対を表明している。
[11-1]
アフガニスタン南部カンダハル州で,3日に米軍の空爆により女性と子供33人含む民間人37人が死亡し28人が負傷した「誤爆」事件について,カルザイ大統領が米大統領選挙で当選したオバマ氏への祝福とともに5日に発表し,米軍・多国籍軍の作戦行動において,民間人の被害抑止を最優先にするよう要求した。この「誤爆」事件について,ベンダー米軍報道官は「事実を調査中であるが,米軍の作戦行動で無実の人々が死んだのだとしたら謝罪する」と述べている。
8日になって,米軍は調査結果として,武装勢力が数軒の民家を占拠し住民を盾として米・アフガン軍部隊を攻撃したために,米軍の応戦によって民間人に死傷者が出たという趣旨を発表した。
[11-2]
2009年以降の米軍のイラク駐留継続の法的根拠となる安全保障協定案についてのイラク側の修正要求は,
(a) 米兵に対するイラク側の法的権限の拡大
(b) 米軍が必要と判断すれば2012年以降もイラク駐留を継続可能と解釈できる文言の削除
(c) 米軍によるイラク領域内からイラク近隣諸国への攻撃を禁止する明確な規定の追加
(d) 米軍によるイラクへの物資の輸送およびイラク外への物資の輸送のすべてをイラク側が検査する権限の追加
など。米国がこれらの修正要求のどれを受け入れ,どれを拒否したかは明らかにされていない。
[11-3]
サドル師が配下のマフディ軍による米軍への攻撃再開を示唆した声明では,「私は占領軍に対する要求を繰り返す。我々の愛するイラクの地から,いかなる基地も残さず,いかなる協定にも署名せずに出て行くことを。もし占領軍が駐留し続けるなら,名誉あるレジスタンス戦士たちに,占領軍に対してだけ武器を向けることを強く勧める。」と述べている。さらに,Promised Day Brigadeと称する戦闘部隊を新設し,彼が昨年マフディ軍に対して軍事行動の停止を指令して以降,同軍から離脱して武装を継続したグループに対しても,合流するよう呼びかけている。
[11-4]
イラクのゼバリ外相とアメリカのクロッカー駐イラク大使との間で署名された安全保障協定の概要は以下のとおり。
正式名称:Agreement on the withdrawal of U.S. forces from Iraq and their activities during their temporary presence イラクからの米軍の撤退と米軍の一時的駐留期間の行動に関する協定
(a) 米軍は2009年半ばまでにイラクの都市部から撤退し,2011年12月31日までにイラク国内から全面的に退去する。
(b) 米軍の契約業者はイラクの国内法に従属しイラク裁判所において訴追されうる。
(c) 米国は現在イラク国内でイラク人約17000人を拘束しているが,協定発効後は起訴なしに受刑者を無期限に拘束する権限を持たない。米軍は容疑者を逮捕後24時間以内にイラク政府の逮捕状を得なければならない。協定発効時点で未起訴の拘束者およびイラク政府の逮捕状に拠らない拘束者は釈放される。
(d) 米軍が使用中の恒久的建造物はすべてイラク政府の財産となる。米軍基地は米軍撤退後にすべてイラク政府に返還される。
(e) すべての軍事作戦は米・イラク合同委員会の承認を得なければならない。米軍はイラク政府の許可なしにイラク人の家屋を家宅捜査することはできない。
(f) この協定の有効期間は3年間とする。どちらか一方の1年間の事前通告によって協定を廃棄することができる。両社が同意した場合のみ協定を改定できる。(ロイターなどによる)
[12-1]
CSBAによる2001年以降の米軍の海外での作戦行動にともなう費用の推計結果は以下のとおり。http://www.csbaonline.org/
2001年−09年
アフガニスタン戦争:1840億ドル
イラク戦争:6870億ドル
国土安全保障:330億ドル

2009年−18年
アフガニスタン戦争:910〜1700億ドル
イラク戦争:3250〜6470億ドル
国土安全保障:0

2001年−18年合計
アフガニスタン戦争:2710〜3540億ドル
イラク戦争:9850〜1兆3440億ドル
国土安全保障:33
総額:1兆2890億ドル〜1兆7210億ドル
[12-2]
外国軍のイラク駐留のための国連安保理決議の期限切れ後の2009年もイラクに駐留を継続する国と兵員数は以下のとおり(兵員数は08年12月時点)。(R)
米国:143,000人
英国:4,100人
ルーマニア:600人
オーストラリア:300人
エルサルバドル:200人
ブルガリア:155人
デンマーク:55人
リトアニア:53人
エストニア:38人

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