平成27年度厚生労働科学研究費補助金
障害者対策総合研究事業(障害者政策総合研究事業(身体・知的等障害分野))

障害者の移動支援の在り方に関する実態調査

(H27-身体・知的-一般-002)

中野 泰志(慶應義塾大学)

更新:2016年7月3日


研究の概要

 障害者総合支援法は、法施行後3年を目途とした見直しにおいて、「障害者等の移動の支援」について検討を加え、その結果に基づいて、所要の措置を講ずるものとするとされている。

 これに先立ち、我々は平成25年度障害者総合福祉推進事業において同行援護に関する実態調査を実施した。この調査研究の結果、特に視覚障害児の通学において、福祉と教育のサービスの狭間の問題が生じていることが明らかになった。最も大きな問題は、通学においても、自宅からスクールバスまでの送迎等の福祉ニーズが存在することであった。特に、重複障害のために自立訓練を受けても単独での移動が困難なケースや音響装置付信号機等の安全を確保する環境整備が出来ていない地域等では、家族が移動支援を行わざるを得ないことがわかった。また、子供の移動支援のために、家族が就労を断念したり、転職したり、年休を取り続けなければならないケースや特別支援学校への進学を断念せざるを得ないケース等があることがわかった。

 移動支援に関する事業全般に於いて「通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通学等の通年かつ長期にわたる外出」を対象としていないが、自宅からスクールバスまでの移動支援については、制度の狭間であり、どの程度のニーズがあるか、どのような解決方法が考えられるかが明らかになっていない。また、独力で移動することが困難な障害児の移動を制度上、どのように捉え、どのような支援策が必要なのかを検討する必要がある。さらに、通学支援のために、家族の社会参加、特に、母親の社会参加にどのような影響が出ているのかは明らかになっていない。そこで、本調査研究では、特別支援学校を対象に実態調査を行い、課題の整理と問題解決に向けた提言を行う。そして、自立訓練では自力で移動することが困難な状況にある児童生徒の移動を支援できる体制を構築すると同時に、障害児を持つ母親等家族の社会参加を推進するための基礎研究の役割も果たす。


研究体制


目的

 障害者の社会参加を促進する上で、移動支援にかかわる福祉制度は極めて重要な役割を果たしている。近年、移動支援の個別給付の拡大と新設(同行援護)により、障害者の移動支援環境は充実しつつあるが、移動支援が「通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通学等の通年かつ長期にわたる外出」を対象としていないことや、地域による差や制度の狭間等、解決すべき課題もある。申請者らが実施した同行援護に関する調査の結果では、視覚障害児の通学においても福祉ニーズに基づく移動支援が必要なケースが存在することがわかった。最も大きな問題は、自宅からスクールバスまでの送迎であった。現行制度では、自宅からスクールバスまでは、障害児が自立訓練を受けた上で単独で移動するか、保護者が送迎することが原則になっている。しかし、障害を併せ有するために、自立訓練を受けても、単独で移動することが困難な事例があることがわかった。また、音響装置付信号機等の環境整備が出来ていないために、安全上の理由で、単独では移動させられない事例があることもわかった。これらの事例では、家族、特に、母親が自宅からスクールバスの停留所までの送迎を行っており、そのために、家族が就労を断念したり、転職したり、年休を取り続けなければならない事例があることがわかった。また、仕事の都合で送迎が出来ないために、進学を断念せざるを得ない事例等もあることがわかった。そこで、本研究では、通学における移動支援にかかわる福祉ニーズをアンケートにより明らかにする。


方法

 本研究では、特別支援学校の校長や教員等へヒアリング調査を行った上で、アンケート項目を決定し、郵送方式のアンケート調査を実施した。文部科学省と全国特別支援学校長会の協力を得て、移動支援の対象となる視覚障害、知的障害、病弱、肢体不自由のある児童生徒が在籍しているすべての特別支援学校の学校長に調査を依頼した。アンケート項目は、在籍児童生徒の障害の特徴、登下校の方法、スクールバスの運行状況、通学に関する指導・支援の実態、移動支援制度の認知度等で、調査項目数は学校長用が15問326項目、保護者用が21問68項目であった。

 特別支援学校長会の調査によれば,視覚障害特別支援学校(85校)、肢体不自由特別支援学校(334校)、知的障害特別支援学校(706校)、病弱特別支援学校(143校)の合計1,268校であった。この内、分校は本校に、併置校や総合特別支援学校は、主たる障害種別に統合し、視覚障害特別支援学校(69校)、肢体不自由特別支援学校(285校)、知的障害特別支援学校(531校)、病弱特別支援学校(64校)の合計949校にアンケート調査を郵送した。学校長用の調査(学校調査)は悉皆で、保護者用の調査(保護者調査)は各校のPTA役員を中心に学部等のバランスを考慮して10人をサンプリングしたサンプリング調査であった。


結果の概要

1.学校調査

2.保護者調査(サンプリング調査)


考察

 本実態調査の結果、特別支援学校で自立活動の指導を受けていても、障害の程度、発達段階、地域の特性等の理由で、移動支援を必要とするケースがあることが明らかになった。このようなケースには、スクールバス等の教育における通学支援制度が有効だと考えられるが、すべての学校がスクールバスを運行できているわけではないことがわかった。スクールバスを運行していても幼児児童生徒の居住地域全域をカバーできていなかったり、希望者全員が利用できない場合があったりすることがわかった。また、スクールバスを利用できている場合であっても、自宅からバス停までの送り迎えに付き添いが必要なケースがあることがわかった。さらに、これら通学に付き添いが必要なケースでは、保護者の生活や就労に影響が出ていることもわかった。

 特別支援学校においては、幼児児童生徒の障害特性や発達段階に応じて、単独で移動出来るように自立活動の指導が行われている。ところが、特別支援学校へ幼児児童生徒が通学する際、障害特性、発達段階、地域の交通事情等の理由で、単独での移動が困難な場合もあり得る。このような場合には、スクールバスや就学奨励費等の教育に関する通学支援制度を利用することが可能になっている。しかしながら、上述のように、現行の教育及び通学支援制度だけでは、カバーし切れない事例があり得ることがわかった。一方、これらの通学支援に関するニーズは、通年かつ長期にわたるものもあり、移動支援に関する福祉制度でもカバーすることができず、「制度の狭間」になっていると考えられる。

 そこで、これら「制度の狭間」になっている通学支援の課題を解決するための議論の方向性を以下に示した。


提言

 上述の通り、障害のある幼児児童生徒の通学には、各省庁で提供している各種サービスの狭間となっている課題が存在していることがわかった。これらの課題を解決するためには、以下の諸問題に関して検討を講じる必要があると考えられる。よって、これらの検討を行うことを提言する。


調査票

成果報告書


問い合わせ先:nakanoy@z7.keio.jp
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