「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(教科書バリアフリー法)では、障害その他の特性に適切な配慮がなされた検定教科用図書等の普及のために必要な措置を講ずるように定められている。つまり、様々な障害を考慮し、検定教科書をユニバーサルデザイン(以下、UD)化することが推奨されているわけである。一方、iPadの登場以降、携帯情報端末を活用して、教科書等にアクセスしたり、電子化された教科書を活用する教育実践が増えてきた。本シンポジウムでは、教科書のユニバーサルデザイン化と携帯情報端末活用の現状を踏まえた上で、今後の特別支援教育において教科書はどうあるべきかを展望する。
平成23年度に一般社団法人教科書協会の協力を得て、検定教科書のUD化に関するグッドプラクティスを調査した。小学校から高等学校までの教科書を作成している45社の担当者に対して、メール方式のアンケート調査を実施した。その結果、見やすいフォントの選択、カラーUD等の検定教科書のUD化に向けた取り組み以外に、電子教科書への取り組みを行っている事例があることが明らかになった。これら教科書会社の先進的な取り組みの具体例を紹介する。
「教科書バリアフリー法」と新学習指導要領を受け、ここ数年、教科書発行者の最大の課題は小中学校の新教科書の拡大教科書作成であった。その膨大な作業を前にして、検定教科書そのもののUD化は、決して目立つものではなかったが、実は「バリアフリー法」以前から取り組みが始まりつつあった。教科書発行者が、どのような経緯から「ユニバーサルデザイン」という課題と出会い、取り組もうとしてきたか、さらに今後にどのような展望と課題を持っているか、教科書編集の当事者の立場から報告する。
本校では、平成23・24年度と東京大学の先端研究所とソフトバンクの共同研究によるプロジェクトに参加している。現在、教育現場ではICTを活用した教育が普及し始めているが、近年最大の注目はタブレット端末の普及である。この端末には多彩な学習ソフト、そして文字や写真、絵・地図などを自由に拡大できる機能がついている。このタブレット端末等の先端機器の活用が弱視教育現場において有効であるかどうか。また、児童・生徒の活用は可能であるかという視点で研究を進めている。
本校普通部は、重複障がいを有する視覚障害児童生徒の教育に特化しており、弱視の生徒の教育に、タブレット型コンピュータの導入を試みた。近年では、タブレット型コンピュータの普及が加速し、多くの種類が開発されている。本校の児童生徒には、その中でもiPad2が特に役立つ機能があると考え、導入にいたった。iPad2がもつ重複障がい教育において特に有用な機能と、主な活用方法およびアプリについて報告する。
近年,液晶タブレットやカメラを内蔵した多機能端末の普及が進み,パソコンにはない安定性や操作性,拡大読書器には無い拡張性などの点で新たな活用形態の可能性が注目されている(露崎, 2012)。その一つに教科書等の閲覧機器としての役割が挙げられる。ここでは,電子機器を用いた弱視者用の教科書等の表示システムの開発の経緯と,iPadを用いた電子教科書等の表示システムの可能性についてePubやPDFを用いた方法を比較し,現状を概観するとともに,今後求められる要求仕様などについて話題提供を行う。
国レベルで教育の情報化を推進する取組が実施されている。そこで求められているのは,単に授業の中でICTを活用することではない。21世紀に必要とされる力が育成できるような教育へと変革していくことがめざされている。教科書のユニバーサルデザインへの取組においても,そういう視点が不可欠である。この取組が,視覚障害教育あるいは特別支援教育における実利や利便性に注目しつつも,それだけを目的とするのではなく,教科書のあるべき姿を提言していく取組にも繋がっていくことを期待している。話題提供を受けて,こうした観点から現状を整理した上で今後の方向性について問題提起したい。