第3章 障害その他の特性に配慮した教科書の在り方に関する調査
3.1 教科書のユニバーサルデザイン化に関する教科書出版社へのグッドプラクティス調査
(1)具体的内容及び方法
一般社団法人教科書協会の協力を得て、検定教科書のユニバーサルデザイン(UD)化に関するグッドプラクティスを調査した。小学校から高等学校までの教科書を作成している45社の担当者に対して、メール方式のアンケート調査を実施した。本調査の調査票を資料9 拡大教科書作成に関する教科書出版社へのグッドプラクティス調査 調査票として添付した。
(2)実施結果
アンケートを送った45社中、18社から回答が得られた(回収率40%)。以下、質問項目と回答の内容ごとに結果をまとめる。
(i)検定教科書のUD化に向けた工夫
検定教科書をUD化するために行っている工夫等について尋ねた。主な回答を分類して以下に示した。
a)書体の工夫やUDフォントの導入
- 検定本のフォントに一部UDフォントを使用している。
- 教科によりますが、全体的にフォントを大きくし、ルビのフォントをゴシックやUDフォントにして、視認性を高めています。
- 通常の書体だが、見やすさに定評のあるサボン書体を採用した(1シリーズ)。
- とくに弱視の生徒さんを意識はしておりませんが、色使いやフォント選びなど、見やすさには注意しております。
- ルビについて、大きくしたり、母字が明朝体でもゴチック体にしたりして、見やすくなるようにしています。
- UDフォントを使用した検定本を発行。
- 教科書は、新規検定本から、モリサワのUDフォントを中心にして製作しています。
- 検定教科書のフォントを選定する際に、比較的判読しやすいフォントを選ぶよう配慮している。
- できるだけ太ゴシックを用いるようにしている。
以上のように、検定教科書をUD化するための工夫で、最も多いのがフォントに関する工夫であった。多くの場合、読みやすさを重視したフォントを選び、なかにはユニバーサルデザインフォントを採用するところも少なくなかった。
b)カラーUDを意識した取り組み
- 色の組み合わせ等は気を使っています。
- とくに弱視の生徒さんを意識はしておりませんが、色使いやフォント選びなど、見やすさには注意しております。
- できるだけ色文字を使わないようにしている。
- 色文字を使用する際は、できるだけ濃い色にするよう心がけている。
以上のように、検定教科書をUD化するにあたって行われている工夫で、次に多かったのが色使い(カラーUD)に関する工夫であった。主に見やすさを意識した色使いや色の組み合わせを工夫するところが多く見られた。なお、カラーUDについては、次項の「(ii)弱視以外の障害への対応」で関連する回答が多数報告されている。
c)レイアウトに関する工夫
- シンプルで規則的なレイアウトとし、関連情報が近くにあるようにしている。
- 教科書本文のフォントを太めのものにしている。グラフの線や数字を太くしている。
- 表組みなどでは、文字はできるだけ左詰にしている(間隔アキを避けている)。
以上のように、関連情報の配置、フォントや線の太さ、表や文字の配置等、レイアウトに関する工夫も挙げられた。
d)電子教科書に関して
- 電子教科書の取り組みを推進している。
- デジタル教科書も発行するよう準備しております。
以上のように、検定教科書のUD化にあたって、電子書籍化を検討しているところも、少なくないことが明らかとなった。なお、電子書籍化については、項目(iii)で詳細な回答を得ている。
(ii)弱視以外の障害への対応
検定教科書のUD化に際して、弱視以外の障害児への取り組みについて尋ねた。主な回答を分類して以下に示した。
a)カラーUDに関する取り組み
- 色覚異常を考慮しNPO法人CUDOからカラーUDの認証を受けています。
- 色覚異常を考慮し、解答するために色の判別が必要な問題を排除した。
- 色覚特性を考慮しカラーUDの工夫をしている。入稿前には、色覚メガネやパソコンの画面上で確認できるUNICOLOR PROなどで必ず確認を行っている。
- 基本デザイン段階からCUDに配慮した紙面設計を行い、編集過程でバリアントールや色覚チェックソフトなどで配色をチェックしています。最終段階では、CUDを専門とするボランティア団体に全ページの校閲を仰いでいます。
- 色覚異常を考慮して、デザイナーにCUDへの配慮を求め、印刷所でその結果をチェックした。
- 図版の重要性が高い教科・科目においては、カラーユニバーサルデザインに特に配慮して作成している。
- 色弱児童生徒のため、カラーユニバーサルデザイン機構の指導・審査を受けている。
- CUDに配慮するために、一部の図の凡例に色名を併記しました。また、Adobe Illustrator上でP型・D型の色覚特性について画面でプレビューを行い、図の判読に支障がないかを検証しました。基本的には、CUDパレットの色を用いています。また、科目によっては、ルビを多めに付しています。
- ページデザイン、図表の作成などの際、ユニバーサルカラーのチェックを専用ソフトを用いて行っています。
- カラーUDについて、可能な範囲で考慮している。
- 国名や県名など、アカ文字を用いる重要地名には黒縁をつけている。
- 識別しにくい色を用いる場合は、ハッチや地紋を入れるなどして、区別がつくようにしている。
- 可能なものはカラーUDとルビを施している。
以上のように、弱視以外の障害に対する取り組みとして、最も多かったのはカラーUDに関する取り組みであった。主に色覚障害に関しての配慮として、配色に頼った判別が必要な項目の排除や、配色によって見にくくなってしまう部分を見やすくする工夫、またそれらの配置等に関しての工夫が多く見られた。
b)レイアウトに関する取り組み
- 配当学年の前学年以降の漢字を総ルビとしている。
- 特別支援教育の観点から、イラストの上に文字を載せるときは、下に網を敷くなどして、見やすくしている。また、写真を重ねないようにする、文字周りに不必要な飾りなど付けないようにするなどさまざまな工夫を凝らしている。
- 小学校国語科「国語」では、原則として絵や写真の上に文字を載せないようにしている。また、複数の写真、図版が並ぶ際、その間隔を広めに取っている。大事なところを囲むなどして明確に視覚化するなどしている。
- 発達障害などを考慮して、文章の改行箇所を文節で行うことを徹底している教科もあります。
- 全ての地名にふりがなをつけている。
- 順序の規則化を試みるなどの配列を工夫している。
以上のように、図表と文字の重なりやルビ等のレイアウトに関する取り組みも多く見られた。発達障害等を意識しつつ、そうでない児童生徒に対しても分かりやすく、読み易いレイアウトとして、漢字へのルビや図版の間隔や配置等を工夫するというものが多く見られた。
c)電子教科書に関する取り組み
- デジタル教科書では読み上げ機能を付加している。
- 小・中学校国語科「国語」の教師用指導書には、教科書の総ルビ編をPDF形式で収納したDVDを添付している。
- 教科により教科書テキストデータを指導書付録として提供している。
質問(i)への回答と同様に、電子教科書化への取り組みも見られた。デジタル教科書の読み上げ機能や、ルビの入ったPDFデータの提供等の取り組みが報告されている。
(iii)電子教科書に対する取り組み
電子教科書に対する取り組みについて、また、電子教科書を障害児にもアクセスしやすくするための取り組みについて尋ねた。質問に対する主な回答を分類して以下に示した。
a)既に取り組んでいる事例
- 白黒反転画面を制作している。文章に総ルビをつけている。
- 提示型デジタル教科書を現場でご使用いただき、特別支援教育に有効であるとの反響をいただいた。そこで、H23年度版小学校「国語」では、総ルビテキストを収蔵するとともに、文章を白黒反転させる機能、音声を流す際に本文の部分を特化して見せる機能を加えた。今後、電子教科書の作成に取り組み、特別支援教育のことも考慮に入れた仕様にしていきたいと考えている。
- 指導者用デジタル教科書は、小・中学校用を作成している。学習者用については、学びのイノベーション事業の幹事会社の依頼先として、弊社採択地区用のデータを作成している。
- 児童向け・生徒向けの製品については研究中です。
- 障害に関する工夫や配慮は研究中です。
以上のように、電子教科書に対する取り組みを行なっている場合、「白黒反転画面」、「文章に総ルビ」、「音声データ化」、「音声との連動」等の工夫が成されており、今後障害に関する工夫や配慮を研究していこうとする姿勢が見られた。
b)取り組みを予定している事例
- 今のところ、電子教科書は作成していないが、今後、様々な障害児のことを考えた仕様にしたいと考えている。
- 今後検討していかなければならないと考えます。
- 現在、指導用電子教科書を作成している。児童生徒用については検討中であり、今後、様々な障害児のことを考えた仕様にしたいと考えている。
- 現在、児童用電子教科書は作成していませんが、今後作成するのであれば、様々な障害児のことも考えた仕様にしたいと考えます。
- 現在、電子教科書は作成していないが、今後、様々な障害児のことを考えた仕様にしたいと考えている。
- 紙媒体の教科書と学習者用デジタル教科書は、しばらくは併用されるものと見ています。そうならば、紙媒体の教科書の作り方(DTP組版の仕方)を、マルチユース可能なデータ仕様に移行したり、レイアウトデザインそのものを根本的に革新する必要性もあると考えています。
- 学習者が電子教科書を持つようになれば、生徒自身で好みの文字サイズに拡大したり、英語の朗読などの音声データを利用したりできるので、電子教科書に関し、前向きに取り組んでいきたいと考えている。
以上のように、電子教科書への取り組みを、今後考えて行こうとしている場合、児童生徒、また障害児のことも考えた仕様を前向きに検討していきたいとする意見が多数見られた。
c)市場の動向によっては取り組むことも考えている事例
- 障がいのある児童生徒に対して、紙面の拡大・縮小が自在で音声出力も備えた電子教科書は、有用であろうと思いますが、使用対象者を特定した具体的な取り組みは行っていません。
- 当面は、業界の様子をうかがっているところです。
- 教材についての電子書籍は市場がまだ広がっておらず、経費を回収することが困難なため開発・発行は現時点では考えていない。子ども一人一人に届くもの、という意味では「電子教科書」についても同様である。
- 検定教科書はあくまで紙媒体であるので、文部科学省が電子媒体での教科書データを検定教科書と同等とみなすかどうか、というところ次第で対応は変わってくる。検定教科書が電子化されるということになれば当然対応するが、そうでない場合は原則として市場原理に基づいての対応となる。
以上のように、電子教科書への取り組みを積極的に考えていない場合は、業界や市場の動きに応じて、必要ならば検討していきたいという意見が多かった。
<戻る>