第2章 拡大教科書の効率的な作成支援に関する調査
2.5 拡大教科書作成に関する教科書出版社へのグッドプラクティス調査
(1)具体的内容及び方法
一般社団法人教科書協会の協力を得て、拡大教科書作成に関するグッドプラクティスを調査した。小学校から高等学校までの教科書を作成している45社の担当者に対して、メール方式のアンケート調査を実施した。本調査の調査票を資料9 拡大教科書作成に関する教科書出版社へのグッドプラクティス調査 調査票として、添付した。
(2)実施結果
アンケートを送った45社中、18社から回答が得られた(回収率40%)。以下、質問項目と回答の内容ごとに結果をまとめる。
()拡大教科書作成の工夫
拡大教科書を作成する際に、標準規格で定められている仕様以外に工夫していることを尋ねた。主な回答を以下に分類して示した。
a)拡大教科書の見やすさに関する工夫
- 可読性のために、教科書の原典の情報に加えて、別途拡大教科書用の文章や図表を追加して作成している所もあります。
- テキストや図を配置する際に、見易さを優先させるため余白や行あけなどを余分にとるようにしている箇所があります。
- 可読性を高めるため、フォントの置き換えや、グラデーション等の塗りをベタ塗りに変更をしていますが、章のタイトルやロゴなど、可読に影響が少ない箇所については、原典のデザインにあわせている箇所もあります。
- 小社の既刊拡大教科書は単純拡大だが、版面外の余白を減らし、できるだけ拡大率を上げた。
以上のように、教科書の見やすさを向上させる工夫として、「原本にはない拡大教科書用の文章や図の挿入」、「版面の余白や行間の拡大」、「図表の色使いの工夫」、「版面外の余白の縮小と拡大率の引き上げ」等が挙げられた。
b)拡大教科書の使いやすさに関する工夫
- 保健体育の原本は複数学年合本であるが、拡大教科書の分冊の区切りを学年とし、携帯・利用しやすくしている。
- 巻末の付録について、拡大したページの他に、原典に付いている付録も、添付している場合があります。
- 拡大教科書と原本教科書との違いが生じないように、表紙や体様(折込み)などにさまざまな工夫を凝らしている。
以上のように、使いやすさを向上させる工夫としては、「携帯性や操作性を考えた分冊の工夫」や「原本教科書との差異を埋める工夫」等が見られた。
c)科目ごとの工夫
- 小学校国語科「国語」では、1単語、1文節の途中で改行すると、児童の認識の妨げになることから、できる限り単語文節単位で次行に移るようにしている。(教科書本体でも行っている。拡大教科書では文字を拡大することで1行の文字数が減り、教科書に比べ実現がかなり難しい。)(国語)
- たとえば、国語の教科書は縦組みのため通常右から左へ流れていくが、途中に横組みのページがある場合、検定教科書通りに作ると流れが逆になる。このため、読む順番で右から左へ流している。(国語)
- ページごとに拡大率を柔軟に変えながら、地図が読みやすくなるように心がけている(地図帳の場合、文字だけを拡大するのではなく、文字の背景にある絵柄とともに拡大する必要があるため)。(社会)
- 地域的なつながり(例えば国や県の範囲)や、主題図の内容の量に留意して拡大率を変えたり、拡大対象にする文字をセレクトしたりしている(地図帳の場合、全ての文字を拡大することが物理的に不可能であるため)。(社会)
- 文字の大きさを地名の種類や重要性によって柔軟に調整している(拡大する文字にも軽重をつけることによって、情報量をできるだけ多くしながら読みやすくなるように心がけている)。(社会)
読書が重要な意味を持つ国語において、読むことを考慮してレイアウトを工夫したり、図の読み取りが重要となる社会において図や文字の大きさを工夫したりしていることがわかった。
d)その他の工夫
- 小学生という発達の段階を考慮し、他の児童に比べ小さいサイズの教科書をもっていることへの違和感・劣等感を払拭するため。軽度の弱視児童は、原本教科書では厳しいが、若干のフォントサイズアップとフォント種変更程度の拡大教科書でも使用可能で、尚且つ、他の児童とレイアウトがほぼ同じなので普通教室での授業でもより違和感なく使用できること。(その他)
以上のように、拡大教科書は他の児童生徒が持つ原本教科書とはサイズやデザインが異なるため、持つことによって違和感や劣等感を抱く児童生徒も多く、その払拭に関する工夫も見られた。
()標準規格に準拠するために困っている点
標準規格で定められている仕様に準拠するために困っている点について尋ねた。質問に対する主な回答を分類して以下に示した。
a)拡大教科書の分冊に関して
- 原本のページ数が増えたため、分冊・ページ数共に使いやすいボリュームにすることが難しい。
- 例えば、今回(24年版)中学社会地理的分野では1冊の原本が8分冊となり、膨大な作業量となりました。(指導要領が新しくなって、原本のボリュームが増えたので当たり前ですが、やはり写真等の掲載点数が2倍になっている影響が大きいといえます)
- 原本のページ数が増えたため、分冊数が多くなりすぎる。
- ページ数が原本の6倍程度に膨らんでしまい、分冊になってしまう。結果的にコストや手間の問題が生じている。
- 原本のページ数が多いため、分冊のページ基準に準拠するのが困難。
以上のように、指導要領の改訂に伴い、原本教科書のページ数が増加した為、分冊のページ基準に即して分冊すると、冊数が増えてしまう等、分冊に関して困っていることが明らかになった。
b)拡大教科書のレイアウトに関して
- 元のサイズが大きい図版は、最大限大きくしたとしても、拡大率に限界がある。
- 見開き2pでレイアウトした内容を、工夫を活かしたまま再現することができないなど、検定教科書でのレイアウト上の工夫が維持しにくい。
- 見開き展開で上段下段に分かれているものを複数ページに分割する際、紙面構成を現状の紙面どおりにするか、流れを重視するか、またノンブルのつけかたで問題となりました。
以上のように、図版の拡大の限界や、原本教科書のレイアウトを活かした拡大等、レイアウトに関する困り事が報告された。
c)拡大教科書の版サイズに関して
- 版サイズを3種類とするため、本文以外の表紙や奥付、また事務処理などが煩雑になり苦労しています。
- 版サイズを3種類とするため、原寸表示するべき図や写真、倍率表示が必要な写真等を共通化できないため、苦労をしています。
- 小学校生活科原本教科書の判型はAB判のため、1.2倍版の拡大教科書がB4サイズにならざるを得ず、ランドセルには入らない大きさとなっており、苦慮している。
- 原本がAB判・B5判の場合、拡大教科書標準仕様で求められているA5判サイズについては、拡大教科書を発行しない教科があります。A5判サイズでは、イラスト・写真・図版などが原本よりも小さくなるものが多く、A5判サイズの有用性が低いと判断したためです。文字が中心となる国語・算数(数学)・英語では、A5判サイズの拡大教科書も発行します。
以上のように、標準規格における版サイズが3種類になっていることで、拡大率や図版の扱いが難しくなる問題や、拡大した結果として判サイズが大きくなってしまう問題が挙げられた。
d)その他
- 3種類それぞれの需要数の予測が難しいことと、注文後の変更が頻繁にあること。
- 表紙に記載する書名等の仕様が改定時以外のタイミングで変更になると予定外の作業となるため大変です。
- オンデマンド印刷はオフセット印刷に比べ、紙面に照りが出やすい。写真などの場合特に出やすく、目に対する負担が大きくなるのではないかと懸念している。
- 原本巻末に綴じている型抜き(算数の図形や理科の人体模型など)やシールなどの付録については、コストの面から原本のものをそのまま増刷して拡大教科書に使用しています。原本より小さい判型の拡大教科書には綴じることはできないため、付録部分だけを封筒に入れて、採用校に別送するといった手間がかかります。
- ルビサイズが本文の1/2程度という規定は厳密には守れていない。行間も含め、すべて確実に標準規格を実行すると、見た目のバラバラ感が強く出て読みにくい紙面になる上、ページ数が増え、重さの負担が大きくなる(小学校は特に、既習内容の復習など振り返る場面も多いので、重さ軽減のため分冊数を多くするのは現実的ではない)。
以上のように、上記分類の他に、「注文に関して」、「原本教科書の改訂に関して」、「印刷形式による紙面の照りに関して」、「巻末付録に関して」、「ルビサイズの規定に関して」等、標準規格に関して困っていることが様々あることが明らかになった。
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