第2章 高等学校段階の拡大教科書の研究課題
中野 泰志
内容
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2.1 研究課題
高等学校段階における拡大教科書の在り方を明らかにするためには、以下の課題に対して、科学的エビデンスを収集する必要がある。
- 弱視生徒が必要としている拡大教科書の要件を、弱視生徒の実態(在籍、視機能等)と関連させながら調査し、各要件の重要性に関する科学的根拠を明らかにすること。特に、以下の2点が急務の研究課題である。
- 単純拡大方式の拡大教科書の効果的な作成方法を明らかにし、その適応範囲を明確にすること。
- 単純拡大方式では対応できず、レイアウト変更方式の拡大教科書を必要としている弱視生徒の実態を明らかにし、どのようなレイアウト変更が必要かを明らかにすること。
- 現行の小中学校段階の標準規格でも課題として残されている字体(フォント)、レイアウト、製本方法、判のサイズ等の在り方を明らかにすること。
- 拡大教科書を安定供給できるようにするために教科書作成に関する現状及び最新技術を調査し、必要なシステムを明らかにすること。
- 拡大教科書、ルーペ等の補助具、デジタル教材等を組み合わせた総合的問題解決の在り方を明らかにすること。
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2.2 目的
小中学校段階の弱視児童・生徒に関しては、国立特別支援教育総合研究所や筑波大学等の全国調査があり、視機能等の実態も拡大教科書に対するニーズも明確
である。義務教育であり、発達段階を考慮しても、アクセシビリティの確保は必須であるため、需要数も把握しやすい。また、標準規格であれば教科書会社の製
作実績が増加しており、ボランティアによるプライベートサービス用にも電子データが提供されていることに加え、無償で提供できる体制が出来上がっている。
これに対して、高等学校段階の弱視生徒の視機能の実態に関する調査は少ないし、ボランティアによる拡大教科書の製作実績も低いため、需要(ニーズ)が不
明確である。加えて、発達段階を考慮すると盲学校では弱視レンズ等のエイドを使いこなす力をつけたいという教育目標も考慮する必要ある。また、供給体制を
考えても義務教育段階と比べて、教科書のタイトル数が1000種類近くあることや無償給与の対象ではないこと等を考慮しなければならない。つまり、高等学
校段階の拡大教科書は小中学校段階とは異なり、障害の特性だけでなく、発達段階や進路等を考えて活用を考える必要があるし、義務教育ではないためコストを
含めた供給体制を考えなければならないのである。また、コストに見合うユーザ満足度の高い拡大教科書が必要とされる。
そこで、本研究では、高等学校段階の拡大教科書の在り方を検討するためには、生徒や教員を対象にしたニーズ調査、出版社やボランティア等を対象にした供
給体制調査、そして、最先端技術に関するシーズ調査等を行い、高等学校段階の拡大教科書の在り方に関する多角的な観点からの科学的エビデンスを蓄積するこ
とを目指す。なお、本研究によって得られたデータは、高等学校段階の拡大教科書の標準規格の策定、拡大教科書や拡大補助具の選定方法や指導方法の構築等に
資することが可能である。
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2.3 研究計画
本研究は2年間で実施する。
- 第1年次は、高等学校段階の拡大教科書の標準規格策定に資するために、
a)各種拡大教科書の試作研究、b)盲学校に在籍している弱視生徒に対するアンケート方式の実態調査、c)試作した拡大教科書を用いたフィールド実験、
d)特別支援学校(視覚障害)(以下、盲学校と記す)教員に対するアンケート方式の意識調査を実施する。
- 第2年次は、
a)現行の小中学校段階の標準規格でも課題として残されているフォント(書体)等の在り方を明らかにするための調査、b)レイアウト拡大が必要な生徒の実
態調査と効果的なレイアウト拡大教科書作成方法の検討、c)拡大教科書、ルーペ等の補助具、デジタル教材等を組み合わせた総合的問題解決の在り方調査を実
施する。
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2.4 倫理的配慮
本研究は、人を対象とする研究が世界医師会ヘルシンキ宣言及び関係学会が定める倫理綱領や諸規則等の趣旨に則って倫理的配慮に基づいて適正に行われるこ
とを管理・審査する「慶應義塾総合研究推進機構研究倫理委員会」で研究計画等の承認を受けた上で実施する。また、フィールドでの調査や実験に関しては、本
人、保護者、担当教員に研究目的等を事前に書面で知らせた上で、担当教員の立ち会いのもとインフォームドコンセントを得る。
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