おわりに


 これまで、多くの自己決定や自己管理、および、コミュニケーションの技法が紹介されてきたが、ニーズによって体系づけられておらず、障害のある人の支援場面に、直面してもうまく技法を選択し、適用することは容易でなかった。本研究において、それらが体系的に整理されたことにより、開発された技法の不十分な部分が明らかになった。今後のコミュニケーション支援技法の研究に方向性を示したといえる。また,ここで収集された技法は重度障害のある人の潜在能力を示すものであり,療育やリハビリテーション研究にも影響を与えると考える。

 それだけでなく,本研究の成果は,当事者の意思を尊重できるという点で福祉サービスの向上に貢献できると考える。また,このことは,問題行動の減少にも直結すると考えられ,家族や支援者の心理的,身体的負担を減らすだけでなく,社会的にも,問題行動抑制や監視に要したコストを大きく削減できると考えられる。そして,人権を重視する世の中のルール作りの実践的裏付けともなるであろう。今後,このマニュアルをもとにした研修会を実施し,それを広めていく必要がある。幸い,ここで作成した技法のモジュールはデータベース化されており更新も容易である。マニュアルを電子化することによってよりさらに効果的に情報を提供できると考えられる。

 ただ,意思表示やコミュニケーションのスタイルは基本的には個々によって異なるため,このマニュアルで提示した技法は試みてみるべき情報にすぎない。時間をかけて,個人にあった適切な手続きを見出す必要がある。ところが,せっかく確立されたその意思引き出し等の手続きが介護スタッフの配置移動等によって担当が替われば後退する場合さえあるのが現状である。時間をかけて確立されたコミュニケーションの手続きを多くの人が共有し,維持することは,福祉のサービスの質を保ち,当事者の生活の質を保証する上で重要である。この手続きが地域の人とも共有出来れば,就労等,地域での生活も大きく広がると思われる。施設職員等が当事者の意思表示やコミュニケーションのスタイルに関する情報を効果的に共有する手段について,さらなる研究が必要であろう。


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