第2部 感覚障害を併せもつ人の自己決定・自己管理を引き出すためのマニュアル

分担研究者 中野泰志(慶應義塾大学)

中澤惠江(国立特殊教育総合研究所)


1 問題の所在

 近年、障害の重度・重複化や多様化が進んでいるといわれる。社会福祉施設や特殊教育諸学校等においても、複数の障害を併せもっている重度重複障害の人の割合が増えてきている。寝たきりの状態で自力では活動出来ない場合もあり、生命を維持したり、安全を確保することがケアの主眼になっている場合も多い。特に感覚障害を併せもつ場合、決定や選択のために、何かを見せようとしたり、聞かせようとしたりしても、反応がはっきりしないため、見えているのか、聞こえているのかわからないという状況になることが少なくない。

 このような感覚障害を併せもつ重複障害の場合、本人の意思を把握するために、従来のAAC技法を適用しようとしても、うまくいかない場合がある。例えば、スイッチを押すと好きなオモチャが動くという場面を設定したいと考えたとする。その際、感覚障害がなければ、見たり、聞いたりしてオモチャの動きを楽しむことが可能である。しかし、視覚や聴覚にも障害があると、スイッチを押した後に何が起こったかがわからない。すなわち、自分の選択がどのように環境を変化させたかがわからないのである。このように感覚障害を併せもつ重複障害、特に環境認知において重要な役割を果たしている視覚と聴覚の2つの感覚に障害がある場合、従来のAAC技法をそのまま適応することが困難である。そこで、本マニュアルでは、感覚障害を併せもっている人がAAC技法を活用できるようにする際に注意しなければならない点について報告する。

2 研究方法と研究組織

 感覚障害を併せもっている人の自己決定・自己選択の技法をマニュアル化するにあたり、最低限理解する必要のある事項について、以下の2つの観点から整理した。

  1. 盲ろう者・児の自己決定・自己管理を引き出すためのマニュアル:視覚と聴覚障害の多様な組み合わせがあるため、盲ろうがもたらす困難を想像することは極めて困難であった。このアプローチでは、簡便化した6タイプの視覚聴覚二重障害疑似体験セットの活用により、担当している盲ろう児・者への共感的理解とそれに基づく盲ろう児・者の自己決定への支援の工夫が研究された。研究協力者の中澤惠江(国立特殊教育総合研究所)が中心になり、研究協力機関の社会福祉法人光道園で研究を実施した。
  2. 視覚障害を併せもつ障害者・児の自己決定・自己管理を引き出すための事前評価マニュアル:このアプローチでは、視覚障害を併せもつ重複障害の人の自己決定・自己選択にAACの技法を適応する際の問題点と解決方法について、理論と実践の両面から整理した。このアプローチは、研究分担者の中野泰志(慶應義塾大学)が中心になり、研究協力者の奥山敬(東京都立大泉養護学校)並びに研究協力機関の京都市呉竹養護学校(肢体不自由養護)、東京都肢体不自由教育研究会(肢体不自由養護)協力を得て実施した。

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