4.3 視覚障害情報処理技術年報(1984〜1986年)


内容

視覚障害情報処理技術年報(1984年)

  1. 情報処理に携わる視覚障害者
  2. 研究動向
  3. システムの開発状況
  4. 1985年の課題と展望

視覚障害情報処理技術年報(1985年)

  1. 情報処理に携わる視覚障害者
  2. 研究動向
  3. システムの開発状況
  4. 今後の課題

視覚障害情報処理技術年報(1986年)

  1. 情報処理に携わる視覚障害者
  2. 研究動向
  3. システムの開発状況
  4. 1987年の課題と展望
  5. 海外の状況

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視覚障害情報処理技術年報(1984年)

 近年、情報処理技術の進展は目覚しく、21世紀を前にして、かつて人類が経験したことのない新しい時代を迎えようとしている。ところが、進展を続ける情報処理技術が、視覚障害者のために、あるいは視覚障害者によって、活用されがたい状態に放置されるのであれば、視覚障害者の社会的不利は、今まで以上に深刻な事態となるであろう。特に、画像情報が主役と成りつつある傾向には、危惧を感ぜざるを得ない。

 これに対して、コード化(符号化)された情報が主役を担うシステムが普及し、必要に応じて、音声や点字に、直ちに変換できる補助装置が整備されるならば、社会生活や学習における困難が、大幅に軽減されるであろう。我々は、ただ手を拱いているのではなく、情報処理技術の進展に、それぞれの立場で、主体的にかかわっていく必要がある。そこで、視覚障害者の教育や福祉などの関係者はもとよりのこと、情報処理技術の開発に携わっておられる方々に、現状を理解していただくために、「視覚障害情報処理技術年報」を、毎年、本紙3月号でお届けすることとした。

 その内容として、まず、情報処理に携わる視覚障害者の現状を紹介する。次いで、研究の動向と、システムの開発状況について、ユーザーの立場を踏まえて紹介する。最後に、1985年の展望を試みてみた。

1.情報処理に携わる視覚障害者

 コンピュータ時代と言われる今日、我国の視覚障害者の間でもコンピュータや情報処理に関する営みが活発になってきた。1984年における動きから、このうち、組織活動、職業、試験についてまとめることにする。

 視覚障害者を主体とする情報処理に関する組織は現在三つある。発足の順に、「視覚障害と情報処理クラブ」(長谷川貞夫代表、会員数36)、「日本盲人パーソナルコンピュータクラブ」(城戸勝康代表、会員数55)、「視覚障害補償機器研究委員会」(日本盲人福祉研究会の下部組織)である。東京を中心とする「視覚障害と情報処理クラブ」は、専門誌の抜粋を主とした月刊テープ誌(360分)の発行と種々の研究開発活動を行っており、1984年には点字プリンタBPR-OT-40の開発に参画した。大阪を中心とする「日本盲人パーソナルコンピュータクラブ」は、月刊のテープ誌(90分)と会報(90分)の発行や初心者向けのパソコン講習会の開催、視覚障害者や点訳者用のソフトウェアの開発などを多くのボランティアの協力を得て行っており、1984年には日本語ワープロソフトと音声システム用ソフトを開発し発表した。「視覚障害補償機器研究委員会」は、1984年には郵便局の現金支払装置用点字表示機能の開発に関与したほか、6月に視覚障害と情報処理に関する公開セミナーを開催した。

 職業では、我国でも情報処理技術者(プログラマー)として働く視覚障害者が年々わずかずつ増えている。その養成は日本ライトハウス職業・生活訓練センターと国立職業リハビリテーションセンターで行っているが、ライトハウスでは1972年にこの事業を開始して以来これまでに19名、職業リハセンターでは1980年の開始以来10名の修了者を送り出している。このうち1984年には、ライトハウスからは小森正則さん(全盲)が株式会社ニチイ、平山千恵子さん(全盲)が日本アイビーエム株式会社、清水清さん(弱視2級)が三原信用金庫、竹下祥子さん(弱視4級)が株式会社サンヨー経理、職業リハセンターからは山田哲さん(弱視3級)が日本情報産業株式会社に就職した。

 試験では、通産省が毎年10月に行っている情報処理技術者認定試験が1981年度から点字でも実施されている。1984年2月に結果が発表された1983年度試験では、小森正則さんと藤芳衛さんが点字受験で合格した。この結果、これまでの点字での合格者は合計5名となった。一方、1984年度からは点字で受験できる試験区分と試験会場が増えた。前年度までは三つの試験区分(下位から2種、1種、特種)のうち点字は2種のみで、しかも受験地は東京のみであったが、1984年度からは1種試験も点字で受験可能となり、試験会場も東京と大阪の2箇所になった。

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2.研究動向

 近年の科学技術の目覚しい進歩に伴ない、この80年代、一般社会においては情報革命が急速に進行しつつある。この技術革新の恩恵を視覚障害者も直接速やかに受容できることが望まれる。現在、技術的には視覚障害者の家庭生活や学校生活および職業生活を目となり手足となって支援する、コンピュータを応用した情報処理システムの開発も可能となっている。このため、本稿は、その開発に関する1984年の研究動向について、この1年間の関連の学会紙に発表された研究に限定して簡単に考察しようとするものである。なお、学会紙ではないが、感覚代行シンポジウムの発表論文集も文献に加えた。

 さて、視覚障害者が情報処理システムすなわちコンピュータを使用する意義は、どこにあるのであろうか。それは、あたかもレンズの発明が人類文化の発展に果してきた役割に例えることができる。まず、レンズは眼鏡として用いられ、近視や老眼などの人の視力の回復に福音的役割を果している。一方、レンズは、それだけに留まらず光学顕微鏡や望遠鏡に使用され、直接視覚的に認知不可能な細菌などの微小世界から大宇宙へと人類の認識の世界を飛躍的に拡大させた。現代医学や物理学の発展に重要な貢献をしている。

 ところで、ピン配列中のピンを圧電素子やソレノイドで駆動し、墨字や図形を書き順に沿って点のパターンとして表示し、触覚的にパターン認識を訓練しようとする装置が開発されている4)5)7)10)。また、小学校の盲児がカメラを手で操作し、教科書の墨字を読み取り音読させる読書器が研究されている6)。これらは視覚障害者の失われた視覚を触覚や聴覚で代行させようという、いわばコンピュータ眼鏡的研究である。一方、昨年から実験放送が開始された文字放送の盲人用受信端末器の研究が進められている2)。文字放送の電波から符号化電送方式のデータのみを切り出し、かなの点字に変換し、ピン配列表示装置すなわちペーパレスブレイルによって表示するものである。また、一般印刷用の電算写植データから楽譜を自動点訳するシステムの開発8)や同様なデータから2級略字の英点字に自動点訳する研究11)等が進められている。これらは、国内はもとより広く世界に蓄積された文字情報を、視覚障害者が直接アクセスして点字や音声で読むことを可能にするものである。いわば文字文化のコンピュータ望遠鏡的研究と言えよう。

 しかし、残念ながら以上の開発は試験研究の段階である。ぜひとも実用化のための研究が望まれる。特に、視覚障害者に情報を提示する低価格で高信頼性の読み易いペーパレスブレイル用点字表示モジュールの開発1)9)等が当面の鍵と思われる。

 最後に、本年度の研究はすべてコンピュータレンズ的発想と言えよう。高度情報通信INS時代を迎えるに当って、ぜひとも必要とされる技術である。しかしながら、さらに1歩進んで視覚障害者を手足となって支援するシステムの開発も望まれる。いわゆる漢点字を使用しないで、直接人口知能と音声で対話しながら正確な日本語文書を作成するシステムも、その1例であろう。新たな発想に基づく今後の研究が期待される。そのためには、視覚障害者は単なるユーザーであるだけに留まらず、開発パートナーとして研究に1人でも2人でも積極的に参加することが要求されているように思われる。

 なお、感覚代行技術を総合的に勉強される方のために文献3)をあげておいた。

文献

1)赤塚、森田、仁村 1984 視覚障害者のためのコンピュータ点字端末器 第10回感覚代行シンポジウム、75-80.

2)磯部 1984 点字表示装置を用いた文字放送提示の基礎検討 第10回感覚代行シンポジウム、85-88.

3)市川、大頭、鳥居、和気(編) 1984 視覚障害とその代行技術 名古屋大学出版会.

4)井出、榎本 1984 盲人用カラー文字提示装置 医用電子と生体工学、22、133-134.

5)井出、湯浅、森田 1984 携帯用盲人用文字読み取り装置 第10回感覚代行シンポジウム、53-56.

6)北島、森川 1984 手走査型盲人用音読型文字読取器の概要 第10回感覚代行シンポジウム、63-68.

7)斎田、清水 1984 弱視者用パターン認識補助装置の検討−視覚・触覚系の統合に関する基礎実験− 第10回感覚代行シンポジウム、13-16.

8)松島、田中、橋本、大照、江成 1984 電算写植データを用いた楽譜の自動点訳システム 第10回感覚代行シンポジウム、93-98.

9)和気、赤塚、山崎、荻原、金野 1984 ソレノイド非発熱方式・触知形グラフィックディスプレイおよび制御装置 第10回感覚代行シンポジウム、69-74.

10)和気、斎田 1984 視覚障害者のための描画補助 第10回感覚代行シンポジウム、17-20.

11)脇田、平山 1984 2級英点字の自動点訳 第10回感覚代行シンポジウム、81-84.

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3.システムの開発状況

 視覚障害者がコンピュータを使うためのハードウェア(機械)及びソフトウェア(プログラム)のカタログを掲載する。ワードプロセッサー、端末装置及びサービスプログラムに分ける。ここに掲載したカタログは個人的に使えることを前提としたものであり、人手可能なものに限定した。

 情報の不足から、もし落ちていたものがあれば連絡していただきたい。来年からの記事にそれらは載せることにしたい。

A.ワードプロセッサー関係

1.六点ワープロ

(1)AOKワープロ

連絡先 高知盲学校理療科研究会

TEL 0888(23)8721

システム構成 PC8801、SSY02、PC8821(漢字プリンター)

価格 個人購入4万円(プログラムのみ) 団体購入5万円(プログラムのみ)

解説 PC8801の六つのキーを使って六点漢字を入力し文書作成を行う。漢字の確認等が音声でできる。編集もかなりしやすい。

(2)PC88用六点ワープロ

連絡先 筑波大学附属盲学校内 長谷川貞夫

TEL 03(943)5421

システム構成 PC8801、PC8821(漢字プリンター)

価格 実費

解説 PC8801の六つのキーを使って六点漢字を入力する。CP/M上で動くプログラム

(3)FMシリーズ用六点ワープロ

連絡先 筑波大学附属盲学校内 長谷川貞夫

TEL 03(943)5421

システム構成 FM8/7/11、漢字プリンター

価格 実費

解説 専用入力装置が必要、確認はブザー音で行う。

(4)中田ワープロ

連絡先 山口盲学校内 中田

TEL 0832(32)1431

システム構成 PC88、漢字プリンター、SSY02

価格 実費

解説 パソコンのフルキーボードをかな及び漢字符号に割り当てて入力する。入力順序及び音声での確認は六点漢字で行う。拡張ラムボードが必要。JIS第2水準までの漢字がサポートされている。

(5)エポックライター音訓

連絡先 日本盲人職能開発センター

TEL 03(341)0900

システム構成 専用機

価格 140万円

解説 パソコンのカナキーボードを用いて六点漢字方式で入力する。操作の際の指示や作成した文書の正誤をヘッドホンを通じて音声で確認できる。編集機能も優れている。

2.八点ワープロ

(1)IBTU3000シリーズ

連絡先 ICM

TEL 06(644)1282

システム構成 専用機

価格 230万円

解説 専用点字キーボードから入力し、紙テープに点字出力され確認できる。JIS第2水準までの漢字がサポートされている。

(2)チノワード

連絡先 長野県立盲学校内 漢点字研究会

TEL 0262(43)7789

システム構成 PC6601、PC8027またはNM9300(漢字プリンター)、専用八点点字キーボード

価格 実費

解説 個人で所有できるよう最小構成27万3千円と低価格、理療科漢方関係のすべての用語が書けるよう配慮されている。確認は音声。

3.その他

(1)レポート410V

連絡先 リコー

TEL 03(777)8111

システム構成 専用機

価格 100万円

解説 音声出力がついた市販専用ワープロ、かな2文字で漢字1文字を入力することができ、音声で確認することができるため視覚障害者にも利用することができる。

B.端末装置

1.点字端末装置

(1)点字データーターミナル(ESA731)

連絡先 白雷商会

TEL 03(969)8266

価格 98万円

解説 本格的点字ターミナル。プログラムだけでなく点字も入出力可能。RS-232Cまたはセントロニクスパラレルインターフェイス接続。

(2)BPR-OT-40

連絡先 翼システム

TEL 03(866)777

価格 48万円

解説 低価格六点または八点式点字プリンター、プログラム出力のほか日本点字出力、六点式漢点字出力、グラフ出力などが可能。セントロニクスパラレルインターフェイス接続。

2.音声端末装置

(1)SSY02

連絡先 亜土電子

TEL 03(253)8307

価格 5万円

解説 アルファベット綴りを出力することにより音声を出力する。セントロニクスパラレルインターフェイス接続。音声はかなり良い。

(2)ミスターヴォイス

連絡先 テックメイト

TEL 03(792)1750

価格 5万円

解説 文字を一つずつ読んだり、ある英単語をそのまま読む等の機能があり使いやすい。やや音質は良くない。セントロニクスパラレルインターフェイス接続。

(3)VSS100

連絡先 サンヨー電器

TEL 03(835)1111(本社)

価格 8万円

解説 アルファベットを送ることにより音声出力される。数字を位取りをつけて読み上げる等の機能もある。普通のプリンターへも出力できる。音声は非常に明瞭。セントロニクスパラレルインターフェイス接続。

C.サービスプログラム

1.プログラム開発用のサービスプログラム

(1)斉藤氏による音声出力プログラム

連絡先 斉藤正夫

TEL 0761(21)1640

システム構成 PC8801、SSY02/ミスターヴォイス、PC6001

価格 3,000円(プログラムのみ)

解説 画面出力などをすべて音声出力装置へ出力させてくれるプログラム。パソコンと音声出力装置の組み合わせにかなり対応。

(2)エディタ

連絡先 千葉電子計算センター

TEL 0472(24)3021

システム構成 PC8801/FM8、点字データターミナル/BPR-OT-40

価格 実費

解説 パーソナルコンピュータ、点字出力装置などの組み合わせでベーシックなどのプログラムを作成する。点字文書作成やキーワードを含む行の検索などにも役立つ。

2.ゲーム

(1)宝島

連絡先 城戸勝康

TEL 06(693)1969

価格 実費

解説 久米氏の宝島に音声を追加したアドベンチャーゲーム

(2)オセロ各種

連絡先 石田透

TEL 0472(78(5708

価格 実費

解説 アスキー、オセロリーグよりPC8001用のものに音声を付加したもの、テープ版のみ。

3.その他

(1)かな点字変換プログラム

連絡先 千葉電子計算センター

TEL 0472(24)3021

価格 実費

解説 かなを入力し点字に変換する。また、点字を入力しかなを出力する。文書の簡単な修正やフロッピーディスクへの保存などもできる。パソコンとしてはFM8/PC8801などで使用できる。

(2)PARM

連絡先 アスキー

TEL 03(486)7111

価格 39,800円

解説 PC8801用のプログラム、データの登録や検索等が自由にできる。市販のプログラムであるが、斉藤氏のプログラムを使用することにより視覚障害者にも十分使うことができる。

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4.1985年の課題と展望

 まず最初に、視覚障害者と情報処理技術とのかかわりについて、三つのレベルに分けて課題を検討する。

 第1は、既製のソフトウェアを用いて、情報処理機器を操作するレベルである。各種のソフトウェアを活用して、趣味や学習あるいは様々な業務にパソコンを使う視覚障害者が確実に増加している。また、かなや英数字と点字の相互変換だけではなく、漢字を含んだ点字の体系を、漢字かな交じり文に変換して打ち出すいわゆる「点字ワープロ」がかなり普及している。そこで、どんな機器やソフトウェアが、どんなことに使えるのかという情報を提供したり、操作方法を指導したりする組織的な取組みが必要とされている。

 第2は、プログラミング技術を修得するレベルである。専門のプログラマーにはならなくとも、自分で使いやすいようにプログラムを改良したり、必要に応じてプログラミングができるようになりたいという要望はかなり多い。各種の入門書の点訳や朗読あるいは「点字サイエンス」の連載記事などで一般的な情報は得られるようになってきている。「視覚障害と情報処理クラブ」や「日本盲人パーソナルコンピュータクラブ」などでも、もっときめ細かな対応が要望されている。

 第3は、職業人としてのプログラマーの養成のレベルである。我国では、欧米に比べて、ソフトウェア開発の立ち遅れが問われているので、視覚障害者が、情報処理技術者として活躍する可能性は十分にある。直接養成に当っている機関だけではなく、盲学校における算数・数学や国語あるいは英語などの教育においても、将来への展望を持ちながら、基礎的な能力の開発に留意する必要があろう。

 次に、視覚障害者が、個人的なレベルで、情報処理機器を操作する際に、必要とされる入出力端末器や関連ソフトウェアの開発について、展望を試みる。

 いくつかの種類の点字入力に続いて、最近、合成音声による出力が可能になってきている。かな文字、アルファベット、数字、諸符号だけではなく、漢字についても音声で確認できるようになった。ただ、単語や文のレベルの音声出力は、文章解析のソフトウェアの開発と辞書の外部記憶などが、パソコンレベルで活用されるまで、もう少し時間を要すると思われる。

 最も期待されるのは、ピン駆動による点字ディスプレイである。これによって、画面に映しだされていた情報を、音声だけではなく、点字でも直ちに確認できるようになる。また、これを組み込んだ「ペーパレスブレイル」の開発も各種行われるようになるであろう。さらに、点字プリンターの安定供給も可能になれば、自動点訳も実用的な段階に入ることができる。その他に、八点式と六点式の漢字を相互に変換するソフトウェアや、略字を含む点字と墨字の英文字とを相互に変換するソフトウェアの開発も今年中に行われると思われる。

(文責:木塚泰弘、藤芳衛、長岡英司、石田透)

出典:「視覚障害」No.76、pp.51-63、1985年3月.

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視覚障害情報処理技術年報(1985年)

 昨年本誌の3月号で、視覚障害者の教育や福祉などの関係者はもとよりのこと、情報処理技術の開発に携わっておられる方々に現状を理解していただくために、「視覚障害情報処理技術年報」を初めてお送りしてはや1年が経過した。

 今から振り返れば、1984年は飛躍の年であったということができる。これに対して、1985年の1年間は充実と普及の年であったということができる。このことは、一般のパーソナル・コンピュータやワード・プロセッサーの世界で、低価格化と機能増進が、同時に図られたことと対応している。特に目新しいものはないが細かい変化に留意していただきたい。

 本年もまず、情報処理に携わる視覚障害者の現状を紹介する。次いで、研究の動向とシステムの開発状況を紹介し、最後に今後の課題を取り上げる。

1.情報処理に携わる視覚障害者

 情報処理に携わる視覚障害者にとって、85年は、それまでの営みを継続しただけの比較的変化に乏しい年であった。その中での話題としては、情報処理技術者認定試験で1種に初の点字受験合格者が誕生したこと、女性プログラマーの進出が目立ったこと、ワープロ関連の催しが開かれ大盛況であったこと、を挙げることができる。

 通産省の情報処理技術者認定試験は、81年度から2種に限り点字試験を実施してきたが、84年度からは1種もこれに加えられた。84年10月の試験では、東京と大阪で3名が1種に点字受験し、85年2月には、その内、株式会社千葉電子計算センター勤務の石田透と、国立職業リハビリテーションセンター(以下「職業リハ」)勤務の長岡英司の2名の合格が発表された。また、2種では、職業リハ訓練生の細谷裕信が合格し、81年度からの点字による2種合格者は合計6名となった。

 日本ライトハウスと職業リハの職業訓練を修了しプログラマーとして就職または復職した視覚障害者は、85年には6名いた。この内、ライトハウスからは、4月に、法沢英満(31歳、視覚障害5級)が住之江織物(奈良)、吉浦知子(27歳、3級)がシオノギ製薬(大阪)にそれぞれ就職し、12月に訓練を修了した武原寿彦(21歳、2級)は、ナノシステム(佐賀)に就職した。一方、職業リハからは、6月に太田美和子(22歳、1級、墨字使用)が三菱レイヨン(愛知)に就職したほか、8月に、長谷川恒美(35歳、1級)が東宝(東京)、柳本三木男(35歳、6級)が大岩機器(東京)にそれぞれ復職した。また、84年3月から、学生研究員として日本アイビーエム(東京)に勤務していた、ライトハウス出身の平山知恵子(27歳、1級)は、1年間の実績が認められ、3月から同社の正式社員となった。平山を含め、85年には、3名の女性プログラマーが就職したことになる。

 ワープロに関する催しは、東京と大阪で開かれた。東京では、日本盲人福祉研究会の視覚障害補償機器研究委員会が、日本盲人職能開発センターとの共催で、同センターを会場に6月23日に、「視覚障害とワープロ85」を開催した。各種点字ワープロや弱視者用機器などの展示と、職場におけるワープロ利用についてのパネルディスカッションを行ない、370名が参加した。一方、大阪では、日本点字ワープロ協会が7月30・31日の両日、盲人情報文化センターで開いた「ワープロ・セミナー85」である。ワープロや関連機器の展示と、漢点字および6点漢字に関する講演会に、両日併せて約400名が集まった。このワープロ協会は、大阪の日本盲人パーソナル・コンピュータクラブ(城戸勝康代表、会員数70)が、ワープロに関する活動を専門に行なうために設けた別組織である。パソコンクラブ自体は、85年もテープ誌の発行や講習会の開催を引き続き行なった。一方、もう一つの組織である東京の日本視覚障害と情報処理クラブ(長谷川貞夫代表、会員数42)は、テープ誌の発行やソフトウェアの開発を続けたほか、将来の情報処理関係点字ライブラリの構想に向けて、点字図書の製作に着手した。(以上、文中敬称略)

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2.研究動向

 1985年、この1年間に視覚障害者のための情報処理技術に関連する論文が学会誌等に12件発表されている。

 本年の研究の一つの特徴は、視覚障害者が自立的に研究をするために要求されるLAを実現するための技術が、実用段階に入ったことである。LA(laboratory automation)とは、計算機を中心に研究者を支援するシステムを開発し、研究所等の研究環境をできる限り自動化することである。ところで、晴眼の学生や研究者は、相互に協力し合い研究を行なっている。一方、視覚障害者の場合は、学友や同僚に一方的に負担を掛ける結果となりがちである。このため、手間暇や専門的技術が要求される実験や調査は、その実施が絶望的であった。ところが、LAの開発により、道が開けてきたように思われる。一般に研究は文献研究、実験や調査の実施とデータの収集、データの解析と結果の作図作表、および論文の執筆の四つの過程を通してなされる。

 まず、音声表示装置と紙テープに点字を印刷する装置とを備えた計算機用端末機が研究されている6)。また、同様に音声表示装置と圧電素子によるピン駆動方式の点字表示装置とを持つ可搬型の端末機が実用試作されている1)。これらの端末機を使用すれば、内外の学術情報が蓄積されている計算機上のデータベースを通信回線を利用して検索することができる。これまで視覚障害者が苦手としてきた文献研究も容易に行なえるようになってきた。

 次に、触覚的情報処理過程を研究するため、被験者の触察運動と音声応答とを高精度に計測する、高度に自動化された汎用のデータ収集システムが開発されている5)。あらかじめプログラムを組んでおけば、全盲者でも実験管理からデータの収集、およびデータの解析から結果の作図作表までを、一貫してすべて自動的に行なうことができる。この研究は視覚障害者のためのLAの実用性を実証する実例であろう。また、歩行運動を記録するデータ収集システムも開発されている7)。計算機で収集されたデータは、計算機で直接解析することができるため、全盲者でも歩行を研究することを可能にしている。その他、図形情報を認知するため、図形の頂点の横座標を時間軸に、縦座標を楽音の音程に対応させ、音響的に表示する方法が研究されている2)。この手法は、時々刻々の実験観察を可能にするものである。

 一方、8点漢字ワードプロセッサーに音声読み上げ機能を追加する研究6)や、6点漢字ワードプロセッサーに国語辞書検索システムを組み込む研究8)が進められている。このため、視覚障害者が墨字の論文原稿を直接執筆することが可能となっている。また、点字墨字相互変換による、より使い易いワードプロセッサーの研究も進められている1)

 このように視覚障害の学生や研究者の自立的な研究活動を支援するLAは実用段階に入ったものと考えられる。また、このLA技術は、ただ単に研究室だけに留まらない。家庭や学校および職場で要求される視覚障害者の諸活動を、目となり手足となって支援するシステムの開発の可能性と重要性を明らかにするものである。

 なお、その他、本年の研究としては、楽譜自動点訳システムに演奏機能と編集機能を追加する研究9)や、歩行補助具の基礎的研究4)、および触覚的認知に関する基礎的研究3,5,10,11,12)等が上げられる。

 この80年代の前半を締めくくる本年の研究は、視覚障害者にとって新たな展望を開くものと言えよう。特に墨字と点字との相互自動変換を可能にする端末機の開発1,6)等は、電子ファイルに蓄積された膨大な日本語文書を視覚障害者も直接アクセスして受容することを可能にするものである。視覚障害者の文字文化に情報革命をもたらすものとして大いに期待される。

文献

1)小川・中山(1985) 大型コンピュータを用いたオンライン・ペーパーレス・ブレイル・システムの開発 第26回プログラミングシンポジウム 183-194

2)小沼・高柳・橋本・大照(1985) 音響による図形表示とその認識 第11回感覚代行シンポジウム 30-36

3)木塚・小田・志村(1985) 点字パターン認識を規定する諸要因 国立特殊教育総合研究所研究紀要12 107-115

4)佐々木・伊福部(1985) 反響定位に有利な超音波定位音に関する検討 第11回感覚代行シンポジウム 41-44

5)佐藤・藤芳・黒川(1985) 触覚的情報処理過程研究用データ収集システムの開発と視覚障害児の点字触読過程の解析法 特殊教育学研究23 14-25

6)末田(1985) 盲人用音声出力ワープロ システムと制御29、4(別冊) 57-61

7)田中・大倉・清水(1985) モビリティ・ラボラトリィの設計と機能 第11回感覚代行シンポジウム 25-29

8)長谷川・水野・松井・篠島(1985)6点漢字音声変換ワープロによる国語辞書検索システム第11回感覚代行シンポジウム98-101

9)松島・徳田・橋本・大照(1985) 編集・検索用演奏機能をもつ楽譜の自動点訳システム 第11回感覚代行シンポジウム 102-105

10)宮岡・間野(1985) 皮膚機械受容感覚の時間・空間的特性−振動刺激を用いて− 第11回感覚代行シンポジウム 52-56

11)和気典二・和気洋美・斎田(1985) 皮膚の刺激部位と仮現運動 第11回感覚代行シンポジウム 57-61

12)和気洋美・和気典二・斎田(1985) ひらがな文字の触読に及ぼす年齢の効果−ACTIVE TOUCHモード下で− 第11回感覚代行シンポジウム 45-51

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3.システムの開発状況

 1985年はプログラム、機器の開発、共に低調な年であった。新しいものをつくるより今まであるものを使いこなし、より使いやすいものにした年であろう。

 ここでは1984年12月から85年11月までに開発または改良されたプログラム、機器について紹介する。それ以前のものについては84年の(視覚障害情報処理技術年報)を参照していただきたい。

 なお記述の誤りや記述もれがあったならば連絡していただきたい。

A.ワードプロセッサー関係

1.新しく開発された機器

(1)ミノルタキャブワード7

連絡先 ミノルタ

TEL 03(454)1825

システム構成 本体、キーボード、ディスプレー、インパクトプリンタ、ボイスシンセサイザーが一体化されている。

価格 82万円

解説 かなをフルキーボードから入力し、点字に変換するシステム。オペレーション指示、入力した文字および作成した文書はボイスシンセサイザーで確認できる。文字そう入・削除、略語登録等の編集機能を備えている。晴眼者が点訳するシステムも用意されている。出力はインパクトプリンタ上に6点の墨点字を打ち出すことができる。BPR-OT-40と組み合わせることにより直接点字を出力することもできる。

問題点と今後の課題としては次のようなものがある。

 低価格化、機能の強化、漢字対応、等。

2.新しく開発されたプログラム

(1)KIワープロ

連絡先 JCP

TEL 06(693)1969 城戸

システム構成 パソコン(PC88)、インパクトプリンタ(PC専用機)、音声出力装置(ミスターボイスまたはVSS100)、点字出力装置(ESA731またはBPR-OT-40)

価格 5万円(プログラムのみ)

解説 入力方式は晴眼者使用のワープロ方式を用いる。すなわちフルキーボードよりかなで入力し、ファンクションキーにより漢字または熟語変換の指示を行ない、番号により漢字または熟語を選択する。音声による確認ができる。点字出力として6点漢字を使用している。またESA731においては前置点を用いた8点漢字を使用することもできる。熟語登録、各種の出力モードをもっている。

問題点と今後の課題としては

 点字キーによる入力、他のパソコンへの移植(PC98等)、音声出力の充実、完全な日本点字表記法への変換、等。

3.85年改良されたプログラム

(1)AOKワープロ

解説 熟語や漢字の確認機能が追加された。半角及び全角文字が共に出力できるようになった。現在最も充実した点字ワープロであろう。

問題点と今後の課題としては

 レイアウトの充実(半角・全角文字が混ざった時適正な文字数が書けるよう配慮できること。左よせ・右よせ等の機能。タブセット等)、等。

(2)IBTU

解説 音声出力、点字出力装置に対する8点点字出力が拡張された。

問題点と今後の課題としては

 熟語登録機能、漢字選択機能、等。

(3)中田ワープロ

解説 点字出力が可能になった。

(4)チノワード

解説 点字出力が可能になった。

4.開発中のプログラム

 現在盲学校保障機器として150万円以内の6点及び8点ワープロが開発中とのことである。詳しくは来年度に掲載する。

B.端末装置

 85年は新しい端末装置で製品化されたものはない。開発中のものとして低価格点字プリンタ、点字キーボード等があり来年には掲載できるであろう。

C.サービスプログラム

1.点字変換プログラム

(1)2級英語変換プログラム

連絡先 日本IBM(株) 東京サイエンティフィックセンター 平山千恵子

解説 現在IBM5550上で動くプログラム。英文を入力し2級英語に変換する。

(2)2級英語変換プログラム

連絡先 白雷商会

解説 1級から2級及び2級から1級の英語点字の双方向変換のプログラム。パスカルで書かれているためCP/M、MS-DOS上でパスカルを動作させれば機種に関係なく使うことができる。

D.その他

(1)ブレールシャトル

解説 現在はブレールマスターでつくられたフロッピーから点字製版を行なうシステム。また、パソコンに点字キーボードを取り付け点字入力を行ない、3.5インチフロッピーに保存し、その内容を点字及び墨字で読み合わせを行なったのち製版するシステムも開発中である。印刷機は亜鉛板を変える時のみ人間が介入する。裏返しも自動的に行なう。双方向出力を行ないスピードアップがはかられている。

(2)バーサブレール

解説 欧米で広く使われている点字ディスプレーである。日本にもようやく数台が導入され現在実験段階である。これからの普及が望まれる。

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4.今後の課題

 最近、メーカーや国を越えて、パーソナル・コンピュータの異なった機種間で、相互にデータを交換し合えるようにしようとする気運が昴ってきた。また、文書処理に関する各種のプログラムや、各種のデータ・ベースの拡充・蓄積も進んできた。このような情報処理技術の一般的な動向を、我々はどう受け止めれば良いのであろうか?

 我々は、まず、一般と共通して活用できるものは何かを冷静に見極める必要がある。その上で、独自に開発しなければならない入出力器や必要なソフトウェアを明確に位置づけて、重点的に開発していくことが有効なのである。

 たとえば、点字プリンタや点字ディスプレイ、あるいは点字キーボードなどについて、思い切って単純化し、しっかりしたメカニズムのユニットとして製作し、必要に応じてこれらを組み合わせたり、一体化したりできるようにすると良い。その場合、制御プログラムや変換プログラムは、パーソナル・コンピュータ本体の方で処理できるようにしておく方が、汎用性もあり、各種の信号に対応できるようになるであろう。従来、とかく、特定の用途を限定して、入出力器の側にその機能を組み込んでいたため、一般の機器の開発状況に振り回されていたことを反省する必要があるのではなかろうか?また、将来の各種の発展を予測して、あらかじめ入出力器の側に拡張性を持たせておいても、予測し難い発展も起こりうるし、入出力器の価格も高くなる。その意味で、メカニズムのしっかりしたユニットを開発しておいて、必要に応じてソフトウェアで対応していく方が、実際的ではなかろうか?

 現在、「点字ワープロ」と言われているものは、点字の漢字と一般の漢字カナ交じり文の墨字との文字レベルの1対1対応であるから、「ワード・プロセッサー」と言うよりも、「キャラクタ・プロセッサー」と呼ぶべきものである。そのため、点字の漢字体系を学ぶだけではなく、個々の単語ごとに漢字を使うかカナにするか、および漢字にする場合どの漢字をあてるかなどの判断が、ユーザーの負担となっている。一方、一般のワープロ・ソフトの飛躍的な発展により、かなりの程度でカナ漢字変換が行われるようになってきた。そこで、今後は、カナの点字で入力してカナ漢字変換にかけ、その結果を点字の漢字か音声で確認し、編集・校正を行うときだけ、点字の漢字を用いる方式が課題となる。

(文責:木塚泰弘、藤芳衛、長岡英司、石田透)

出典:「視覚障害」No.82、pp.52-61、1986年3月.

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視覚障害情報処理技術年報(1986年)

 本誌の3月号に「視覚障害情報処理技術年報」を掲載し始めてから3年目に当る昨年1年間は、「点字ワープロ」華やかなりし年であった。漢点字の考案者川上泰一氏と六点漢字の考案者長谷川貞夫氏とが同時に点字毎日文化賞を受賞したり、点字カナタイプ競技会に「点字ワープロ」の部門が新設されたのも、その普及を背景としている。技術開発の観点からは、かな文字体系の点字を入力して、漢字かな交じり文が出力できるようになったことによって、かな漢字変換方式による本格的なワードプロセッサが、点字の世界にも出現した年であるということができる。

 本誌も昨年までと同様の項目で我が国の状況を紹介する。そのうえで、本年から新たに海外の状況を紹介することとした。

1.情報処理に携わる視覚障害者

 情報処理に携わる視覚障害者のこの1年を、例年どおり、情報処理試験、就労状況、団体活動の三つの面からまとめることにする。

 通産省の情報処理技術者認定試験は、情報化社会を背景に毎年受験者数が大幅に増え続け、従来の10月1回の実施では対応が難しくなり、そのため86年度からは2種試験が4月と10月の年2回となった。この2回の2種試験と10月の1種試験についてはすべて点字でも実施されたが、今年度は残念ながらその合格者はなかった。一方、弱視者では、4月の試験で国立職業リハビリテーションセンター(以下「職業リハセンター」)訓練生の平尾茂雄、10月の試験で東京都中央食料協同組合の上田幸雄と大和ハウス工業の中済がそれぞれ2種に合格した。このうち中は、オプチスコープを使用しての受験であった。

 次に、就労については、日本ライトハウスと職業リハセンターから、併せて6名がプログラマーとして就職ないし復職した。このうち日本ライトハウスからは、4月に松本佳明(26歳、全盲)が小林電気工業(大阪)、8月に加場義隆(20歳、障害等級4級)がティーアンドシーシステム(長崎)、池田敬一(21歳、全盲)が富士通東北海道システムエンジニアリング(北海道)にそれぞれ就職したが、松本の職務内容は機械制御用プログラムの開発、池田の就労先は大手コンピュータメーカーの関連会社と、いずれも全盲プログラマーとしては初めての事例であり、今後の全盲プログラマーの就労に新たな可能性をもたらした。一方、職業リハセンターからは、2月に田村博(28歳、2級、点字使用)が大林組(東京)、8月に上田幸雄(21歳、2級)が東京都中央食料協同組合に就職し、7月に平尾茂雄(42歳、5級)が鹿島建設(東京)に復職した。また、現時点では就労には到っていないが、山口県立盲学校専攻科出身の山本有三(23歳、全盲)は、10月から半年間の予定で、大阪の富士通関西専門学院に特別研修生として入学し、プログラマーとしての就職を目指してCOBOL、FORTRAN、オペレーティング・システムなどの専門教育を受けている。これは、コンピュータ専門教育におけるわが国初の全盲者の統合教育事例であり、就職を含め、その成果が期待される。

 関係諸団体の活動としては、大阪を中心とする日本盲人パーソナル・コンピュータ・クラブ(城戸勝康代表、会員数90)は、これまでのテープ誌の発行や講習会の開催に加えて、パソコン通信事業を新たに開始した。これは、パソコンのPC-9801をホスト・システムにして電子掲示板やソフトウェア・バンク、パーソナル通信などの諸サービスを行なうもので、現在約10名の会員が参加している。この他に同クラブは、三洋電機と協同で音声機能付きパソコンと点字プリンタ、点字キーボードによる「ブレイル・コミュニケーション・システム」を、更に、福祉システム研究会と協同でパソコン用音声システムの「OSトークシステム」をそれぞれ開発した。一方、東京を中心とする日本視覚障害者情報処理クラブ(長谷川貞夫代表、会員数50)は、月刊テープ誌をこれまでの6時間から9時間に増強し、また、ソフトウェア・ライブラリの充実を図った他、人工知能言語に関する研究会を会員間で継続的に行なった。最後に、日本盲人福祉研究会の視覚障害補償機器研究委員会は、2月に視覚障害者用文字処理機器の利用についてのアンケート調査を行ない、その集計結果を含めた、文字処理機器に関する総合的な資料を作成した。

(以上、文中敬称略)

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2.研究動向

 視覚障害者のための情報処理技術の研究・開発領域は教育、福祉、医学、工学等の境界領域である。また、研究の日も浅く、その研究体制はようやく徐々にではあるが、整いつつあるように思われる。本年1986年には、日本リハビリテーション工学協会が発会し、その第1回研究会で、研究者や開発者とユーザーとしての視覚障害者が、ともに討論できる場が持たれたことは嬉しいことである。

 従来、本稿は、その1年に学会誌等に発表された研究に限定して考案してきた。しかしながら、このような研究会レベルの情報も広く提供するため、学会誌とともに学会や研究会の大会および研究会の予稿集に発表された研究をも考察の対象に加えることとした。

 現在、我が国の本領域の関連学会としては、教育系の日本特殊教育学会、日本教育工学会、CAI学会。工学系の電子通信学会、情報処理学会。医学系の日本ME学会。また、研究会としては、感覚代行研究会、日本リハビリテーション工学協会等があげられる。各々学会誌や大会および研究会が発表の場となっている。その他、各機関の研究紀要も発表の場となっている。

 さて、この数年、大型計算機からパーソナルコンピュータに至るまで、漢字かな交じり文の日本語処理機能が主流となり、一般の表示画面は読みやすい日本語文書表示に変わってきた。このため視覚障害者も漢字かな交じり文の入出力を点字や音声表示で行なうことが必須となってきた。6点または8点の漢字点字を使用して、直接入出力する方法が研究され、改良された実用段階のワードプロセッサやオペレーティングシステムが、あいついで本年発表されている13,16,17)。また、日本語文書読書機の研究も進められており8,11)その音声や点字による表示方法を含め、最適な入出力表示機の研究も進められている22,26)一方、音声表示付きの仮名の点字のワードプロセッサの開発と24)ともに、使い勝手の基礎的研究10)に基づき、漢字知識をあまり必要としない人工知能を応用したかな漢字自動変換方式のシステムの開発も、同音異義語の最適な識別方式の研究によって可能になってくるものと思われる。

 また、最近、視覚障害者には処理しにくいグラフィック表示が計算機で多用されるようになってきたが、文字や図形の形を表示したり認知訓練する最適の方法の研究も進められている2,5,14,15)

 点字の入力装置の開発も進められており、音声付き点字キーボード入力装置3)や、8点6点点字タイプライターの試作18)および、高い読み取り率が期待される光学式点字読み取り装置の開発12,20)も行なわれている。

 その他、電算写植データからの自動楽譜点訳システムの改良21)や、年少幼児用非言語性視力測定システムの試作23)および、点字印刷システムの自動化6)等も報告されている。特に点字CAIの試み4)は、個人差の大きい盲児に効果的な個別学習を可能にするものとして、その発展が望まれる。

 歩行に関しては、コウモリの超音波による空間定位の機構を、人の障害物認知に応用した研究9)や、使い方によっては、即実用化できると思われる盲導犬ロボットの開発1)があげられる。

 また、職業教育についても、盲人プログラマーの訓練に関する事例報告がなされている19)

 次に弱視者に関しては、低価格テレビ式拡大読書機の開発25)や、拡大文字表示機能を持つパーソナルコンピュータ用オペレーティングシステムの開発13,16)および、拡大読書機の読みやすさに関する基礎的調査7)等が行なわれている。

 このように本年の研究は、基礎から応用へ、そして、試作から実用へと着実な進展が見られるように思われる。また、鳴門教育大学に障害児工学研究室が設置されたり、大学入試センターに身障者試験方法の研究ポジションが設けられる等、研究体制も整いつつあるように思われる。

 なお、本年視覚障害者自身の研究発表が数件行なわれた。しかし、新規性に欠けるところがあり、残念ながら、その多くを文献に取り上げることができなかった。来年こそは、本領域の真の発展のために、多くの優れた研究が発表されることがぜひとも望まれる。

文献

1)石黒・小谷 1986 盲導犬ロボット瞳の画像処理 第12回感覚代行シンポジウム、51-55

2)井出・石羽 1986 盲人用カラー文字認識装置 第12回感覚代行シンポジウム、5-10

3)岩田・石田・本多 1985 点字文章記憶装置の試作 信学技報85、260(ET 85-8)、7-12

4)小田 1986 バーサブレイルの活用に関する研究(2) 日本特殊教育学会第24回大会発表論文集、5-7

5)筧・田所・阿部 1986 盲人用文字学習システムの一考察 信学技報85、260(ET 85-8)、1-6

6)加藤・末田 1986 点字出版システムとマイコン 第1回リハ工学カンファレンス講演論文集、157-160

7)菊地 1986 弱視者用テレビ式拡大読書器における漢字の読みやすさについて 日本特殊教育学会第24回大会発表論文集、8-9

8)北島・篠原・森川 1986 盲人用文字・音声変換システムの開発 第1回リハ工学カンファレンス講演論文集、143-148

9)佐々木・伊福部 1986 超音波による複数障害物の認識 第12回感覚代行シンポジウム、43-46

10)篠原・北島・森川 1986a 視覚障害者とコンピュータのインターフェース試論 第1回リハ工学カンファレンス講演論文集、139-142

11)篠原・北島・森川 1986b 視覚障害者用読書支援システムにおける点字出力について 第12回感覚代行シンポジウム、71-74

12)下村・水野・長谷川 1986 点字文音声変換システム 第12回感覚代行シンポジウム、79-81

13)末田 1986a 視覚障害者パソコン支援システム システムと制御、30、6(別冊)、45-47

14)末田 1986b 盲人用画像入力システム システムと制御、30、6(別冊)、48-51

15)末田 1986c 盲人用描画装置 第1回リハ工学カンファレンス講演論文集、81-86

16)末田 1986d 視覚障害者用コンピュータ・システム 第1回リハ工学カンファレンス講演論文集、149-154

17)知野 1986 知野ワープロの現状と展望 第1回リハ工学カンファレンス講演論文集、75-90

18)寺島 1986 8点6点兼用点字タイプライタの開発 第1回リハ工学カンファレンス講演論文集、73-74

19)長岡 1985 中途失明者のプログラマーとしての復職におけるパソコンシステムの活用(事例報告) 職業リハビリテーション研究、2、1-23

20)福田・伊東・米沢 1986 各種点字に対応する手持ち点字読み取り装置 第12回感覚代行シンポジウム、75-78

21)松島・徳田・大照他 1986 ピアノ練習曲の楽譜自動点訳 第12回感覚代行シンポジウム、66-70

22)三星・脇田 1986a 視覚障害者の漢字知識 日本特殊教育学会第24回大会発表論文集、38-39

23)三星・兵藤・鈴木他 1986b Touching Acuity Tester 第12回感覚代行シンポジウム、90-93

24)宮崎・石田・本多 1986 音声登録方式による点字ワードプロセッサの試作 信学技報85、260(ET 85-8)、13-18

25)簗島・坂本 1986 低視力者用のCCTVの開発について−Vision Scanner− 第12回感覚代行シンポジウム、1-4

26)脇田・伊福部・三星 1986 Talking JXの試作 第12回感覚代行シンポジウム、11-15

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3.システムの開発状況

 現在購入可能なソフト及び機器の一覧表を資料として付記する。この資料の番号により本年開発されたものについて説明する。

 本年は多くの機器が開発されている。

 (a3)は点字キーボードである。

 (a2)は消音プリンタであるが12月現在予約受付中である。

 (a7)は米国に輸出したものを逆輸入したものである。

 このようなものもふえるかもしれない。

 (a6)は40ますの点字ディスプレーである。

 (a5)は本年本格的に日本で発売されるようになっている。

 ワードプロセッサは今までのものを受けついでPC98シリーズにバージョンアップしたものがでてきた。(b1)(b2)(b3)がこれである。(b7)(b8)は本年新しく開発されたものである。この2つはAOKの88シリーズのものをPC98で動くようにしたものである。(b1)(b3)の以前のバージョンが発売中止になったことは残念である。PC88及びPC98のどちらにも対応するシステムも開発していただきたいものである。点字ワープロは一般に編集機能も充実してきている。また(b1)(b3)はかな漢字変換方式も取り入れられ、点字の漢字の初心者にも使いやすくなっている。

 ゲームも吉泉豊晴氏が多く開発している。このように視覚障害者自身が開発するゲームがでてきたことは大変すばらしいことである。

 専門的なソフトで昨年紹介しなかったものに(c7)(c8)がある。

 (c7)はプログラム開発を主目的としたプログラムである。(c8)はPCシリーズ、FMシリーズ、及び大型機で使われているIBMフォーマットというフロッピーディスクのフォーマットを変換するためのプログラムである。

 (c10)は点字文書作成及び点字から墨字文書への総合編集ソフトとして開発されたものである。

 (c11)は漢字を完全に読みあげるシステムである。12月現在FM16β上ではしるものだが他の機種への移植も作業中とのことである。エラーメッセージ等も読みあげてくれる。

参考資料

a端末装置

1.ESA731 連絡先 白雷商会 電話 03-969-8266

2.ESA721 連絡先 白雷商会 電話 03-969-8266

3.ESA-11 連絡先 白雷商会 電話 03-969-8266

4.BPR-OT-40 連絡先 翼システム 電話 03-866-7777

5.バーサブレイル 連絡先 キャノン

6.点字ディスプレー 連絡先 工業社 電話 03-452-3191

7.オーツキタイプ 連絡先 日本電通 電話 0426-37-0591

bワードプロセッサ関係ソフト

1.AOKワープロ 連絡先 高知盲学校 北川紀幸 電話 0888-23-8322

2.チノワード 連絡先 知野照信 電話 0262-96-1515

3.BPRC-Nキット 連絡先 アイシーエム 電話 06-647-2008

4.エポックライター音訓 連絡先 ワイデーケー 電話 0423-78-3111

5.KIワープロ 連絡先 テクノ福祉サービス 電話 0722-64-8671

6.中田ワープロ 連絡先 山口盲学校 中田克文 電話 0832-32-1431

7.代筆くん98 連絡先 大城敏雄 電話 06-671-5727

8.KBP点字ワープロ 連絡先 長谷川貞夫 電話 03-998-4936

9.キャブワード7 連絡先 ミノルタ 電話 03-455-6421

cその他のソフト

1.宝島他 連絡先 テクノ福祉サービス 電話 0722-64-8671

2.トランプゲーム他 連絡先 吉泉豊晴 電話 03-478-8437

3.オセロ他 連絡先 石田透 電話 0472-78-5708

4.2級点字変換 連絡先 白雷商会 電話 03-969-8266

5.2級点字変換 連絡先 日本IBM東京サイエンティフィックセンター

6.2級点字変換 連絡先 高村明良 電話 044-844-6662

7.エディタ 連絡先 雇用促進協会

8.ファイルコンバータ 連絡先 雇用促進協会

9.かな点字変換 連絡先 千葉電子計算センター 電話 0472-24-3021

10.点字コミュニケーション 連絡先 テクノ福祉サービス 電話 0722-64-8671

11.OSトーク 連絡先 テクノ福祉サービス 電話 0722-64-8671

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4.1987年の課題と展望

 1981年に日本点字委員会の相互変換用点字専門委員会が情報処理用のJIS C6220コードに対応する点字記号を制定した。その結果、通産省の情報処理技術者の試験が受験できるようになったり、情報処理関係の点訳書が少しずつではあるが出回るようになってきた。その後、JIS C6226コードに対応する点字記号の制定に対する要望も強くなってきた。JIS C6226コードは、第1水準や第2水準の漢字を含むコードであるから、点字の漢字の取り扱いがむずかしい。現状では一つの方式を決定することは困難であるが、そのままに放置しておくのも多くの問題を引き起こすので、日本点字委員会では、8点の漢字体系と、六点漢字体系を含む方式の二つを同時に承認する方向で検討を開始している。今年中に情報処理用に限って決定される予定になっているので、自分が必要と感じる方式を選択して大いに活用されるとよいと思う。現在の段階では、二者択一の議論をするよりも、どちらかの方式を使って墨字の漢字かな交じり文との相互変換を行なうことのほうが、はるかに大きな利益を得られるのではなかろうか。

 盲学校や施設などで、限られた予算で「点字ワープロ」を1セットしか購入できない場合、8点か6点かの二者択一の議論のため、どちらも購入できないでいるという場合もあるという。幸いなことに、PC-9801系のパソコンを用いたソフトがそろってきたので、ハードウェアは1セット購入し、3種類のソフトウェア(BPRC-Nキット、AOK98V1、チノワード98用)をすべて買いそろえても150万円程度で間に合うのである。この場合、3種類のソフトウェアを同時に使用できるようにするためには、スロットが4個準備されているVM2、VM21、VX2などの機種を準備する必要がある。同じPC-9801でもUV2ではスロットが二つしかないので、BPRC-NキットとAOK98V1のボードを差換える手間がかかるからである。いずれにしても二者択一の議論をしている暇に、どちらかの方式を用いて墨字との変換を親しむのが得策ではなかろうか。

 ところで、今年は、点字出力や音声出力がもっと自由にできるようになることが期待される。その結果、単にワープロ機能にとどまらず、データの管理や検索などが自由にでき、仕事や学習の手段としてパソコンを使いこなせる日を切望したいものである。

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5.海外の状況

 最近の海外の状況をこの紙面で詳細に紹介することはできないが、限られた範囲でおおまかな動向が分かるようにしたいと思う。

 オプタコンやバーサブレイルで有名なTSI社では、一昨年からバーサブレイルIIを市場に送り込んでいる。また昨年の後半から、拡大テレビや点字プリンターの製造・販売も始めたもようである。バーサブレイルIIについて少し細かく紹介すると、これまでネックとされたカセットテープを外付けの3.5インチ640Kのディスクに置き換え、本体のインテリジェンスを高めて、今までの文房具ないしは端末的色彩から盲人用パーソナルコンピュータへと変わった。外観的には、テンキーやカーソルキーが、今まであった多くのコントロールキーに変わった。英文のワードプロセッサや、必要な書式に合わせて文書を書き出すソフト、テンキーを使った電卓プログラムなどが付属している。オプションとして、IBM-PCと接続してそのソフトを使えるプログラムや2級点字と墨字の相互変換を行うソフトも用意されている。バーサブレイルIIはプログラミングが可能なので、ソフトは今後もいろいろ開発されることだろう。

 点字プリンター、拡大テレビ、ペーパレス点字ディスプレイの開発や販売は、全世界的な流行になっているようである。VTEKのエンボス-1、クラマー社のパーキンス型点字端末兼プリンター、オーツキの点字プリンター、TSIのバーサポイント、ドイツのティール社製品など、点字プリンターは現在20種近くが市場へ出ていると思われる。拡大テレビもつい先頃日本に上陸した老舗のVTEK以外に、前述したTSIのバンテージやオプテレックのもの、ホリゾン電子拡大機などがあり、IBM-Pやマッキントッシュのコンピュータ画面を拡大するものも数種類ある。ペーパレス点字ディスプレイは、バーサブレイルやブレイリンクに加えて、8点点字のでるVTEKのBDPや、イギリスのアルファビジョン社の80マスのもの、フランスのオプタコン型の読書器デルタに登載されるもの、AFBの技術センターやドイツのシュトゥットガルト工科大学で開発されているグラフィックスも表示できる大型のものなどがある。音声合成器については、特に触れなかったが、すでに20種類を越えるものが出されている。この中で、アメリカのミニコンピュータのメーカーであるDEC社が一般向けに開発したデックトークの音声は大変優れており、デモンストレーションテープによれば、声の質によっては人間と区別がつかないほどである。

 特に強調しなければならないことは、これらの視覚障害者の情報処理のための補助機器は、そのほとんどが正眼者と同じソフト・ハードを共有できるように作られているということである。すなわち、個人用マイクロコンピュータの市場を分けているIBM-PCとアップル社のマッキントッシュのどちらかで動作し、一般に市販されているソフトウェアをそのまま利用できるようになっているものが多い。このことは、視覚障害者の情報処理が正眼者の情報処理と基本的に異ならないという思想が、ユーザーの側にも開発者の側にも浸透していることを示している。感覚障害が入力のチャンネルの問題ならば、それに関係する入出力のところだけを特別に調整すれば、そのほかは問題がないのだという考え方である。しかも、その特別の部分をできるだけ透明にして、情報の行き来をオープンにしようという努力が感じられる。

 最後になるが、アメリカでは、障害者の情報処理に関するいろいろな情報を提供する施設が各地にできて、個性のあるサービスをしている。このようなサービスは、障害者が利用できるハードウェアやソフトウェアに関する情報を定期的に発行しているほか、機器やソフトの評価をしたり、情報をデータベース化して電子伝言板サービスの形で解放し、ユーザーからの声を取り込んでさらに有用な情報を蓄積し提供している所もある。

(文責:木塚泰弘、藤芳衛、長岡英司、石田透、小田浩一)

出典:「視覚障害」No.88、pp.66-76、1987年3月.


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