4.2 盲学校点字情報ネットワークシステムの現状と将来展望

−高度情報化社会の新しい教育を目指して−

国立特殊教育総合研究所視覚障害教育研究部

(心身障害児教育財団第1研究部)

部長 木塚 泰弘


内容

  1. 盲学校点字情報ネットワーク・システムの構築目的と経過
  2. ネットワークの構成と機器の特徴
  3. ネットワークの運用状況
  4. 現状の問題点とシステム改善の課題

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1.盲学校点字情報ネットワーク・システムの構築目的と経過

 盲学校の小学部・中学部・高等部で用いられている点字教科書は、40年以前からすべて文部省から無償で提供されています。しかしながら、副教材や練習帳あるいは学習参考書や問題集などは、点字出版されているものが少なく、教員が休み時間や放課後などに作成したり、ボランティアに依頼して点訳してもらうしか方法がありませんでした。しかも、点字板や点字タイプライターで一部ずつ作成するものですから複製がとれず、複数の生徒に手渡すことが困難な状況にありました。

 このような状況を改善するため、文部省は、十数年前から全国の盲学校に、「点字教材作成設備」(ブレールマスター)を設備していきました。この機器は盲学校に導入された最初のパソコン内蔵のハイテク機器で、ア.点字読みとりとキー入力、イ.点字・カナの相互変換と編集・校正、ウ.点字ラインプリンタによる出力とフロッピディスクによる点字データの保存などができました。これによって、点字教材の作成や保存・複製などは、飛躍的に容易にできるようになりました。しかしながら、各盲学校間のデータの交換や共同利用は、あまり行われませんでした。

 一方、ここ十数年のパーソナル・コンピュータ・システムの改善と普及はめざましく、各地の点字図書館や点訳ボランティア・グループに「パソコン点訳」が普及してきました。そのきっかけと促進に寄与したのが、「てんやく広場」です。「てんやく広場」は、日本IBM(株)が、社会貢献活動の一つとして、ホストコンピュータ・システムと点字入・出力端末を、独自に開発した通信・編集ソフトとともに提供したものです。全国40数カ所の点字プリンティング・センター(点字図書館や点訳者グループ)が、ユーザーのリクエストに応じて点字データを作成し、点字プリンタで出力して提供するとともに、ホストシステムの点字データベースにアップロードしたり、借りたい点字図書をダウンロードして、ユーザーに提供するネットワーク・システムです。「てんやく広場」のデータ蓄積はめざましく、全国の30以上の点字出版所が40年かけて出版した点字図書数を、数年以内で追い越してしまいました。

 このような歴史的経過をふまえて、盲学校の教育活動の改善に必要な点字データベースを、全国盲学校の共有財産として構築するために、文部省は、「盲学校点字情報ネットワークシステム」を企画しました。平成4年度から心身障害児教育財団にセンター機能の管理・運営を委託するとともに、全国の盲学校に点字入・出力端末システムの整備を開始しました。平成4年度に13盲学校、平成5年度に25盲学校、平成6年度に24盲学校が端末システムを整備してネットワークに加入しました。残りの7盲学校が加入すれば、文字通りの全国ネットということになります。

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2.ネットワークの構成と機器の特徴

 盲学校点字情報ネットワーク・システムに於ける業務や点字データのながれは、図に示されている通りです。このネットワークシステムの構成は、「てんやく広場」のシステムをモデルとしていますので、「てんやく広場」の点字プリンティング・センターの役割を、盲学校に置き換えたものと考えることができます。また、通信プログラムや点字編集プログラムも、「てんやく広場」で開発されたものを多少手直しして使用していますので、機器の構成も類似しています。そのため、日本IBM製の機器が主として用いられています。

 このシステムはスター型ですが、ホストコンピュータには、PS 5580を用いています。サーバーの構成は、次の通りです。

盲学校点字情報ネットワークシステム用 ホスト・システム(PS/55)モデル5580-WAC、メモリー16MB、HDD1、6GB)

各盲学校に設備されている端末システムは、次の通りです。

<盲学校点字情報ネットワークシステム用端末システム>

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3.ネットワークの運用状況

(1)運用体制

 盲学校点字情報ネットワーク・システムのセンター機能の管理・運営を、文部省から委託されている心身障害児教育財団では、点字情報センターを設けています。センターの事務局は、ネットワーク事業の事務処理を担当しています。センターの研究部は、財団の第一研究部(国立特殊教育総合研究所視覚障害教育研究部と兼務)が兼任しています。センター研究部は、電子掲示板やメール或いは電話や郵便などによって、連絡・調整やQ&Aに当たっています。ホストシステムは、東京のソフトウェアハウスに置き、その会社に24時間の維持・管理やメンテナンス或いはシステムの操作に関するQ&Aの業務を委託しています。

 教育活動のためにこの点字データベースの活用を希望する盲学校は、このネットワークに機関として加入します。ダウンロードした点字データは、盲学校の児童・生徒・職員・卒業生など、機関の長が認めた者は誰でも利用することができます。ただ、センターとの送・受信は、各校の運用責任者(1名)と運用担当者(2〜4名)しか担当できません。点字データのセキュリティを守るために、運用責任者と運用担当者にだけ登録番号とパスワードを出しています。

 各盲学校におけるネットワーク関連業務は、運用責任者が中心になって行われているようです。また、運用担当者は、小・中・高の各学部か、図書係やコンピュータ係などの校務分掌を代表して選ばれているようです。

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(2)点字データベースの入力状況

 各盲学校では、点字データの入力・校正・編集のために、教職員や点訳ボランティアの組織作りや役割分担を工夫しているようです。全国の共有財産となるものですから、「日本点字表記法」(1990年版)と、「点字入力の手引き」に基づいて、正確に点字入力・校正・編集した後、センターに送信することが求められています。まだ、加入してまもない盲学校も多く、点訳のための体制も充分に整っていないためか、盲学校からの送信データはそれほど多くはありません。今後、IBMのノート型パソコン4台で入力したデータだけではなく、手持ちの他の機種で入力した点字データを、このシステムで用いているBEのコードに変換して、編集しなおし、もっと大量に送信する事が期待されています。

 点字データの圧倒的多数を占めているのが、「てんやく広場」から提供されたものです。「てんやく広場」では、全国で一千数百人のパソコン点訳ボランティアを動員して大量の点字データが作成されています。ただ、「てんやく広場」のユーザーがリクエストしたものですから、教育活動に関係のあるものばかりとは言えませんが、大部分は使えます。したがって、「てんやく広場」からの点字データの提供は、大変ありがたいことなのです。

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(3)点字データの利用状況

 盲学校点字情報ネットワークシステムの点字データベースには、1995年9月1日現在で、6,601タイトル(29,477分冊、2,180,722ページ)の点字データが蓄積されています。このタイトル数とは、原本の冊数で、分冊数とは、点訳したのちの冊数です。1タイトルの原本は、点訳すると平均4冊強となります。1ページは21行で、1行は32マスの規格になっています。

 点字データベースの利用状況を同じ9月1日現在の文書受信状況ベスト30の表で見ると、累積利用頻度の高いものがわかります。1タイトルの全分冊をまとめてダウンロードするだけではなく、特定の分冊だけをダウンロードすることがありますので、分冊単位でダウンロードの回数を数えています。順位はタイトル単位なので、ダウン回数を分冊数(巻数)で割った多い順です。

 圧倒的に人気が高いのが、鍼・灸・あん摩関係の医学書や国家試験の模擬試験問題です。これは、生徒が利用するだけではなく、点字使用者が多い理療科の教員が教材研究に活用していることを反映していると思われます。つぎに目立つのが情報処理関係のマニアル類と英語の学習参考書関係です。また、音楽などの読み物もよく利用されています。ここには出て来ていませんが、語学関係のラジオ・テレビの講座テキストや家庭電気製品のカタログなども利用されているようです。

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4.現状の問題点とシステム改善の課題

 盲学校点字情報ネットワークシステムの3年間にわたる運用の結果いくつかの問題点が浮き彫りになってきました。そこで、平成7年度中に当面の課題の解決を行う予定です。その問題点と改善の方策の主なものは、次の通りです。

(1)点字データ量の増加、処理速度の増加、通信時間の短縮、通信回線数の増加などをふまえて、ホストシステムをユニックスタイプのワークステーションのシステムに変更します。

(2)「てんやく広場」との点字データの相互提供が極めて重要ですが、現状では点字データの移植に多くの人手と時間を要しています。そこで、点字データの相互移植が容易にできるシステムを構築します。

(3)加入校が増え、利用率が高まるにつれて、放課後、昼休み、始業前など、特定の時間に送・受信が集中し、待ち時間が多くなり、深夜の予約も混んできました。また、すべての加入校が、センターと直接電話回線で結ぶため、遠隔地の市外電話料金の負担が増え、不公平を生じています。そこで、全国各地にアクセスポイントがあるトライピーを介する方式と、電話回線で直接アクセスする方式が選択出来るようにすると共に、回線数も合計7回線程度に増加します。

(4)現在のシステムは、画面を目で見ながら操作するようになっていますので、視覚障害のある教職員は、送・受信できません。そこで、音声や点字などを用いて、通信できるようにシステムを改善します。

(5)現在の電子掲示板や電子メールは、点字データベースの運用にのみその用途を制限しています。ただ、例外として、阪神淡路大震災に関する情報の交換に活用しただけでした。もっと広く盲学校間の諸連絡などに使用できないかとの声があがっていますので、活用方法を検討しています。

(6)今後、システム変更の周知徹底、利用方法の改善、点字教材のデータの質の向上などを図るにために、講習会やマニアルの発行などを予定しています。

 当面の課題は、このような方法で早急に解決するとして、将来の方向性としては、たとえばインターネットのサーバーの一つとなるといったように、点字データベースのオープンなシステムに改善するよう検討していく必要があると思っています。

出典:「ISDA」第12巻、pp.2-8、1995年12月.


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