第3章 点字の特性と読みやすさ


 点字のサイズは、点字触読の効率性に大きな影響をもっている。しかしながら、わが国では永くB5判縦長の点字用紙に、1ページ17行、1行32マスまたは30マスのインターライン、両面書きにこだわってきた。これは点字触読の効率性がよいからではなく、点字用紙を作製する際の切断の都合や鞄や机の大きさ、あるいは点字図書館の書架の高さなど、外部の要因に規定されていたためである。されに、それらの条件に合わせて製作されていた点字板、点字タイプライタ、点字製版機、点字プリンタに規定されていたのである。昔、帝国陸軍では「軍靴に足を合わせろ」といわれたようだが、点字触読者も、これらの外的条件に合わせるよう指導され、慣れさせられていたのである。

 本来、点字サイズは個々の読み手の生理学的・心理学的条件や読書材の長さ、あるいは初心者か熟達者など、個々の読み手が最も効率的に読めるように評価され、提供されなければならない。

 そこで、本章ではまず1.として、世界各国の点字の情報量、点字の大きさ、点字のプロポーション、点字の形と手触りなどを論述した「点字科学記号」を取り上げる。ここには、これらの点字の物理的な性質の他に、点字読み取りの生理学的・心理学的側面および点字情報処理の要素なども紹介されている。

 2.点字のサイズと手触りでは、最近街で見かけられるようになった自動販売機・券売機、エレベータや駅舎の階段の手すり、案内板などのサイン・デザインとしての点字表示を意識して、単語レベルの短い点字を、初心者も含めて不特定多数の人が読む場合の点字サイズや断面形状あるいは点字のテクスチャーなどについて論じたものを紹介した。

 3.「点字サイズが触読効率に及ぼす影響」では、点字を触読する際の手指の動きを検出する装置の開発研究について紹介した。この装置は、研究分担者の佐々木らが中心に新たに開発したものであり、触読の際の手指の詳細な動作を記録するものである。この装置の開発により、点字の触り方とパターン認知の関係に関する研究が可能となった。

 4.「糖尿病性網膜症の触弁別(1)−事象関連電位P300と触弁別−」では、糖尿病性網膜症による中途視覚障害者を対象に、事象関連電位P300が触覚の弁別力の指標となり得るかいなかを検討した。その結果、事象関連電位P300のパターンと触弁別能力の間に関連があることが明らかになり、触弁別能力の生理的な指標としての有効性が示唆された。

 5.「糖尿病性網膜症の触弁別(2)−サイズ可変点字印刷システムの試作−」では、読み手の触覚の感度に応じて、自由に点字のサイズが変更できるシステムの開発研究について紹介した。このシステムは、点の大きさ、点間隔、マス間隔をユーザが自由に変更できるようにしたものである。システムの構築にあたっては、a) 市販品の改良・組み合わせでシステムが構築できること、b)「てんやく広場」等の電子化された点字データが利用できること、c) 福祉施設や盲学校の教職員等が簡単に操作できることを条件とした。なお、このシステムの詳細については、開発者の中野泰志(慶應義塾大学)のホームページ(http://www.hc.keio.ac.jp/~nakanoy/BR/)を参照いただきたい。

 最後に、6.多点点字の可能性と方向性では6点点字を基盤として、その上と下に2点ずつ加えて、モード・フラグやアンダーラインあるいはカーソルなどの役割を果たさせる可能性と方向性を論じたものを取り上げた。


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