1.4.3 日本点字表記法(1990年版)抜粋

日本点字委員会


内容

「点字の意義と歴史」

  1. 盲人用文字としての点字
  2. 日本点字表記法の変遷

 

「本書の編集方針と見直しの概要」

  1. 見直しと編集の方針
  2. 点字の記号の変更と追加
  3. 分かち書きの原則の見直し
  4. その他の見直しの概要

 

「点字の表記に関するキーワードの解説」

  1. 日本語の語種(和語・漢語・外来語など)
  2. 音と拍と点字仮名との対応関係
  3. 点字仮名・数字・アルファベットによる1語の書き表し方
  4. 文の単位と語の構成要素(分かち書きと切れ続き)
  5. 表記符号の接続とマスあけおよびその優先順位

 

「あとがき」

目次に戻る


 1990年版の点字表記法の概要を紹介するために、同書の中から「点字の意義と歴史」、「本書の編集方針と見直しの概要」、「点字の表記に関するキーワードの解説」、「あとがき」を引用する。


「点字の意義と歴史」

 今日、我々は、盲人用文字としての6点点字が、ルイ・ブライユによって考案されたことと、石川倉次によって仮名文字体系の点字に翻案されたこととを忘れることはできない。それと同時に、点字の現代的意義を確認するためには、触読文字としての点字の基本的な特質を、普通の文字と比較しながら考察したり、コミュニケーションの手段としての点字の特質を検討したりする必要がある。また、日本の点字表記法の100年にわたる歴史を、仮名遣いを中心として、特徴的な四つの時期に分けて振り返るのも意義深いことである。

 

1 盲人用文字としての点字

1-1.6点点字の考案

 盲人のための文字の工夫は古くから試みられたが、それは墨字(一般に用いられている普通の文字)の形を指で触れてみる方法で行われた。すなわち、普通の文字を木片に彫ってみたり、ろう板に押し型で刻印したり、また糸を用いて文字にしたりした。世界最初の盲学校であるパリの訓盲院では、創立者のバランタン・アユイの考案した浮き出し文字が使われていた。しかしながら、これらの文字は、読むには不便で、書くには困難であった。

 パリの訓盲院の生徒で、のちにそこの教員になったルイ・ブライユは、砲兵大尉のシャール・バルビエが、暗号通信や速記用として考案した12点点字(縦6点・横2列からなる点字)の説明を聞き、実際に用いてみた。そして、指で読むには縦6点では長すぎるのでこれを改良し、1825年に縦3点・横2列からなる6点点字を考案した。これが1854年にフランスで公式文字として認められ、その後次第に各国で採用されて、今では世界中でこの6点点字が用いられているのである。

 

1-2.日本点字の翻案

 我が国で最初に盲児の教育を始めた京都盲唖院や楽善会訓盲院(後の東京盲唖学校)でも、当初はやはり種々の方式の凸字が用いられた。しかしながら、それは、読むにも、とりわけ書く上で非常に困難であり、盲教育の効果を危うく感じさせるほどであった。

 一方、ブライユの点字については、パリの訓盲院やアメリカのパーキンス盲学校を視察した人々によってすでに紹介されていたが、これを実際に用いたのは、1887年(明治20)に東京盲唖学校教官・小西信八が生徒の小林新吉に教えたのが最初である。小林は1週間で自由に読み書きができるようになり、本人の喜びはもとより、他の生徒への影響も大きかった。

 しかしながら、これはアルファベットを用いたローマ字式であったので、小西信八は同年、教員・生徒に改良方を依頼した。そこで教員・生徒により種々工夫・検討が進められたが、最後に、教員・石川倉次の案、教員・遠山邦太郎の案、および生徒・伊藤文吉と室井孫史郎両名の案の三つが検討され、1890年(明23)11月1日の第4回選定会で、50音の構成なども十分配慮した石川倉次案の採用が議決された。このようにして日本の点字の基礎は固まったのである。

 

1-3.触読文字としての点字の特質

 墨字は直線や曲線あるいは点によって構成された図形で、目で読み取る文字としてきわめて優れている。そこで、墨字の形をそのまま浮き出させて、それを盲人に触覚で読み取らせようとする試みがたびたびなされた。しかしながら、縦横に広がった凸図形を触覚で読み取ることは、あまり効率的ではない。さらに、盲人が自分自身で凸図形としての墨字を書き表すことはそう容易ではない。

 これに対して、点字は触覚で読み取ったり、点字板や点字タイプライターなどで書き表すことに大変優れている。それは縦1列の5点以下の凸点が同時に触覚刺激として入ってきても、それらの有無や組み合わせを情報として素早く読み取ることができるからである。そのため、縦3点・横2列の6点点字や、縦4点・横2列の8点点字であれば、きわめて効率的に読み取ることができる。また、1文字を構成する点の数が少ないから、たとえ点字板で1点ずつ書いたとしても、きわめて効率的に書き表すことができる。ただ、墨字では文字の一部が欠けても、その文字を予測することができるが、点字では1点でも異なれば、別の記号になってしまう。そこで、正確に書き表すことが強く求められる。

 一方、点字は少ない点の組み合わせで各種の記号(文字や符号など)を構成するので、異なる体系の複数の記号を、同じ形での点の組み合わせで表すことになる。6点点字では、63通りの組み合わせがあるが、たとえば(1)(4)(5)の点の組み合わせが、アルファベットでは「d」、数字では「4」、仮名文字では「る」、楽譜では8分音符の「ハ」をそれぞれ表している。これらの体系の違いは、前置点などで区別され、記号体系が全体として階層的に整理されている。なお、8点点字の場合でも、基本となるのは6点点字と全く同じで、付加された2点が6点点字の前置点の役割を果たしている。すなわち、ヨーロッパで用いられているコンピュータ用点字では、下に付加された2点の組み合わせが、大文字や小文字の区別あるいは数字などを表している。また、8点の漢点字では、上に付加された2点の組み合わせが漢字1字の範囲を表している。

 その他の問題として、点字では、字体や字の大きさを変えたりなどして、特定の語を強調したり指示したりすることができないので、囲みの符号などを用いて対応している。ところが、強調や補足説明などのための割り込みや挿入の部分が長くなると、本文の読みが中断されて好ましくない。

 墨字では、1視野内に同時に5文字以上が見えないと、読みの速度が遅れると言われている。これに対して点字では、1文字ずつ、厳密に言えば半マスずつ、継時的に読み取っている。そこで、記号体系を考える場合も、元に戻って判断することなく、継時的に読み取れる体系にすることが問われている。また、大きな数の位取り記数法なども、4桁程度にとどめたり、囲みの符号などによる割り込みや挿入の場合も、継時的な読み取りを損なわないような表記が必要とされるのである。さらに、点字触読の指導法を考える際にも、このような継時的な読み取り過程を十分配慮することが必要である。

 

1-4.コミュニケーションの手段としての点字の位置づけ

 盲人は、一人歩きとともに、コミュニケーション、ことに文書の読み書きにハンディキャップがあると言われている。これを補うために、点字の読み書きが果たしてきた役割は高く評価されている。点字は、熟達すれば、1分間に600マス以上の速さで読み、350マス以上の速さでタイプ打ちできるのである。

 ところが、このような読み書きの効率性に優れた点字にも大きな弱点があった。それは、墨字との共通性がないため、点字を知らない人とのコミュニケーションの手段とはなり得なかったことである。これがルイ・ブライユの死後まで点字が公認されなかった理由である。また、点字の読み書きの効率性が高いにもかかわらず、仲間内の暗号か文字の代用品のように思われて、墨字と同じ形の凸図形にたびたび固執された原因である。

 最近、コンピュータ技術の発展によって、点字と墨字との相互変換が可能になり、点字と墨字との共通性が確保されようとしている。すなわち、パーソナルコンピュータシステムを用いて、点字で入力したデータを漢字仮名交じり文に変換して出力したり、逆に、漢字仮名交じり文のデータを仮名文字体系の点字に変換して出力することができるようになってきたからである。

 このような点字と墨字との共通性の確保ということに加えて、コンピュータ技術の発展は、従来の点字の弱点の多くを解決しようとしている。すなわち、原稿の加除・訂正や編集、点字データの大量保存や検索あるいは通信などが容易にできるようになる展望がひらけてきた。しかしながら、これらの仕事は、人がコンピュータを用いて行うのであるから、点字を読み書きできる人の役割は、むしろ増大すると言うことができる。点字を理解し、点字の読み書きができる人が、健常者の中に増えることが一層望まれる。

 一方、仮名文字体系の点字を読み書きしている点字使用者の側でも、漢字仮名交じり文で書き表されている日本語を理解するために、漢字の意味を的確に把握する必要がある。その意味で、8点の漢点字や六点漢字と呼ばれている点字の漢字を活用することも一つの方法である。これらは、点字と墨字との相互変換の手段としても活用できるが、仮名文字体系の点字では得られない漢字の意味の理解に最も有効な手段となり得る可能性を持っている。そこで、普通は仮名文字体系の点字の読み書きを主とするとしても、目的と必要に応じて点字の漢字を活用することができる。

 我が国では、世界で最初に点字投票が実施された。最近では、大学入学試験や公務員採用試験、司法試験や情報処理技術者認定試験、などの各種試験に点字で受験できるようになってきた。これは、点字が文字として社会的に高く評価されるようになった結果であると言うことができる。

 日本の点字制定100周年と国際識字年が重なったこの1990年以後、盲人が、点字を用いて必要な情報を迅速・的確に収集し、社会的に適切に発言していくための素地は十分に醸成されている。

 

2 日本点字表記法の変遷

2-1.歴史的仮名遣いからの出発

 明治時代から今日に至るまでの墨字の表記法についてみると、漢字や仮名文字の使用法、句読点やその他の符号の用法などで移り変わりがみられる。それは、この100年間における生活様式の移り変わり、言語生活の移り変わりの反映でもある。このように日本語表記の方法は時代とともに変化してきたものである。

 点字もまた日本語を書き表すために用いられる以上、例外であることはできない。日本の点字は、1890年(明23)に制定されて以来、多くの人々の努力によって次第に日本語の表記法としての体系を整えてきている。その移り変わりについては、次の四つの時期に分けてみることができる。

 第1期は、日本の点字の黎明期ともいうべき時期である。制定された当時の点字は、50音のほか、濁音・半濁音・数字・つなぎ符程度であった。また約10年間は、墨字と同様に歴史的仮名遣いを用いていた。

 

2-2.表音式仮名遣いへの道

 第2期は、漢語と和語の仮名遣いを使い分けた折衷式仮名遣いの時期で、約20年続く。20世紀を迎えようとするころ、一般の教育界では漢字音を表音式に書き表そうという機運が顕著となり、1900年(明33)には小学校令に「字音仮名」(字音棒引きとも言う)が明記され、一部の検定教科書に採用され、ついで国定教科書になった際に使用された。

 この時期に、点字においても表音式の機運が次第に高まった。1898年(明31)に石川倉次は拗音点字を発表し、翌年公認された。また1903年(明36)には、点字でも国定の「小学校国語読本」の中に字音棒引き(長音符の使用)が行われた。さらに、1907年(明40)に開かれた第1回全国盲唖教育大会において表音式仮名遣いを決議し、「ファ行」と「ヴァ行」などの点字を追加している。

 日露戦争後の国粋主義の高まりの中で、1908年(明41)に小学校令の中から「字音仮名」が削除された後、点字と墨字と同様に漢語も歴史的仮名遣いで書くべきだとの意見が強く主張された。当時の東京盲学校長・町田則文は、石川倉次とともにこれに強く反対し、点字では従来どおり漢語は表音式を続けることができた。その後、10年間に和語も表音式にすべきであるという機運が次第に高まってきた。

 

2-3.独自の表音式仮名遣い

 第3期は、点字が独自の表音式表記法を行った時期で、30年あまりも続いている。前の時期に、漢語に続いて和語も歴史的仮名遣いから表音式仮名遣いへと次第に変わっていったが、1922年(大11)に創刊された「点字大阪毎日」が表音式仮名遣いを採用したため、これが急速に普及し、新しい時期を迎えた。

 1937年(昭12)には沢田慶治による特殊音の追加と集大成が行われた。現在行われている分かち書きの基礎が培われたのもこの時期であった。1940年(昭15)に鳥居篤治郎らが近畿盲教育研究会(近盲研)に「点字規則」を発表し、近盲研は点字研究委員会を発足させた。当時は「読みよく、書きよく、わかりよく」をモットーとして、経験的な立場で研究が進められた。戦後の国語改革として、1946年(昭21)に国語審議会が「現代かなづかい」を制定したが、点字の表音式仮名遣いと基本的に異なるものではなかった。

 

2-4.点字表記の統一と体系化

 第4期は、点字の統一と体系化を目指して組織的な取り組みがなされた時期で、35年を要した。パリで開かれた「世界点字会議」(1950年)や「世界点字楽譜統一会議」(1954年)に代表が参加するなど、国際的な関係が深まるにつれて、全国組織の必要性が痛感されるに至り、1955年(昭30)に日本点字研究会(日点研)が発足した。日点研は京都府立盲学校をはじめとする全国の盲学校を主とした組織であり、点字表記法を語法的に体系づけようとする努力がなされた。約10年間に、『点字文法』とその改訂版、『点字数学記号』『点字理化学記号』『点字邦楽記号』などを精力的に出版した。この方式は、教科書や日本ライトハウスの出版物を通して、盲教育界に普及した。この間、日本点字図書館の本間一夫は『点訳のしおり』を通して奉仕者などへの点字の理解と普及に努めた。一方、東京点字出版所の肥後基一は、現代仮名遣いと文節分かち書きを点字表記法の基礎にすべきであると強く主張していた。

 より包括的な機構の結成が望まれていたので、1966年(昭41)に全日本盲教育研究会に点字部会が設けられたのを機会に日点研は解散され、新たに盲教育界と盲人社会福祉界から委員を出し合い、それに学識経験者を加えて日本点字委員会(日点委)が発足した。

 日点委は日本の点字表記法を決定する唯一の機関として誕生し、点字表記法の統一と体系化を目指して活動を開始した。それまで不統一であった点字表記法のうち十数項目の合意をみたので、1971年(昭46)に『日本点字表記法(現代語篇)』を編集し発行した。ついで小数点の統一をみたので、1973年(昭48)にはその改訂版を発行した。その後、体系化を図るために抜本的な検討を加えていたが、日本の点字制定90周年を記念して、1980年(昭55)に『改訂日本点字表記法』を発行した。

 この『改訂日本点字表記法』では、(1)特殊音のうち、「ティ・ディ・トゥ・ドゥ」の四つを外字符や大文字符との混同を避けるために変更し、1語中で仮名文字とアルファベットを続けて表記できるようにしたこと、(2)ア列・エ列・オ列の長音の仮名遣いを現代仮名遣いと合わせることを本則としたこと、(3)「ようだ」を助動詞の分かち書きの原則どおり前に続けるようにしたこと、(4)強調や指示を表す方法として、カギ類や指示符類を整備したこと、などが主な改訂点であった。その後これらは順次浸透し、全国的な統一をみるに至った。

 日点委では、(1)国語審議会による1986年に現代仮名遣いの改訂や1990年の「外来語表記」の報告、(2)墨字の表記符号の多様化に対する対応、(3)分かち書きや自立語内部の切れ続きの原則の明確化、(4)表記符号間の優先順位の明確化、などの課題と取り組んだ。その上で、『改訂日本点字表記法』に対する各方面からの意見や要望を踏まえて、その規則などの表現や用例の検討なども行い、日本の点字制定100周年記念事業として、『日本点字表記法 1990年版』を編集・発行した。

 この間、日点委では、各種の専門委員会の討議の結果を踏まえて、『点字数学記号解説』(1981年)、『点字理科記号解説』(1983年)などを発行した。また、点字楽譜専門委員会の検討の結果は、文部省発行の『点字楽譜の手引』(1984年)に反映された。さらに、相互変換用点字専門委員会の検討の結果、JIS C 6220コードに対応する点字表記をまとめ、情報処理技術者認定試験への道をひらいた。その他に、日点委の活動状況を広く知ってもらうために、「日本の点字」や「日点委通信」の発行を行っている。

トップへ


「本書の編集方針と見直しの概要」

 

 1990年11月1日は、日本の点字制定100周年の記念日である。日本盲人福祉委員会をはじめとする5団体からなる実行委員会は盛大な記念行事を行った。また、日点委が総会の決議に基づいて、3年前から働きかけてきた記念切手は、文部・厚生両省の申請に基づき、郵政省から11月1日に発行された。しかしながら、最も日点委らしい記念事業は、本書の発行である。

 そこで、本書の編集方針、および数年かけて行った見直し作業の結果として本書にまとめあげたもののうち、主な点を見直しの概要としてまとめた。

 

1.見直しと編集の方針

 日本の点字は、日本の視覚障害者の共有財産であって、一部の専門家や研究者のものであってはならない。それは100年にわたる過去の経験の蓄積を踏まえるとともに、現在における点字の意義を自覚し、将来における視覚障害者の死活と文化の向上を準備するものでなくてはならない。日本国民の一人としての視覚障害者が社会的に発言し、多くの情報を収集できるようにするためには、点字を単なる視覚障害者相互のやりとりの手段にとどめてはならない。さらに、速く読み書きできるとともに、意味を正確に理解できることが必要である。そのためには、点字の表記の検討に際して、触読に対する配慮とともに、日本語の本質に忠実であることを心がける必要がある。

 点字の表記法が、これらの要件を満たすためには、(1)墨字との対応関係を明らかにする、(2)表記法としての体系化、すなわち表記法内部の矛盾をなくし、表記法の理論的根拠を明らかにする、(3)墨字の表記符号の多様化に対応する、の3点を踏まえる必要がある。

 このような方針に従って、今回の見直し作業は続けられた。前回の1980年の『改訂日本点字表記法』では、かなり大幅な改訂が行われたが、この10年間に、点字の記号や点字の仮名遣いについては、関係者の合意が得られたため、点字出版物や点訳図書の表記がほぼ統一されてきている。また、点字常用者、点訳奉仕者、点字関係職員などから、点字表記法の表現や用例が分かりにくいとか、複合語の切れ続きの根拠が明確でないなどのご意見をいただいてきた。

 そこで、今回の『日本点字表記法 1990年版』の編集に当たっては、全体を通じて、日本の点字制定100周年記念にふさわしい表記法を目指して、配列順序の整理と表現や用例の整備に重点をおいた。そのため、実質的な変更はそれほど多くはない。次に、今回の見直しの概要を述べることとする。

 

2.点字の記号の変更と追加

 記号類は変更すると混乱を引き起こすので、変更と追加は必要最小限度にとどめた。文字では、5種類の特殊音点字の追加、表記符号では、小見出し符の変更、若干の追加、およびそれに伴う名称の変更にとどめた。さらに、一般的には用いられない記号類を、付加記号に回し、それに若干の付加記号を追加した。

(1)特殊音点字の追加

 現代仮名遣いの改定の答申を終えた国語審議会は、この4年間、外来語の書き表し方について審議を重ねてきた。その中で、最近英語教育の普及や国際交流の増進などを基盤に、スポーツやファッションあるいは料理などをはじめとして、外来語が多く使われるようになっていること、さらに、外国の地名や人名あるいは多くの国々の言葉がカタカナで書かれることが多くなっていることなどに、どう対応するかが問われていた。

 国語審議会は、戦後の国語改革の一環として、1954年(昭29)には、できるだけ外来音(特殊音)を用いず、普通の国語音に置き換えて書き表すように答申していたが、今回は、これらの実態を踏まえて、原音の意識を反映した外来音を認め、それらをどのようなカタカナで書き表すかを示さざるを得なくなった。一方、外来音といっても、国語として発音されるものであることをも考慮して、1990年3月に「外来語の表記」を中間報告したのである。

 「外来語の表記」では、第1表に13種、第2表に20種の外来音が示されている。これらの33種のうち、従来、特殊音点字として28種を用いていた。そこで、今回残りの5種の外来音に相当する特殊音点字を追加した。

  • クィ  「ら」下がり(26の点)+「き」(126の点)
  • クェ  「ら」下がり(26の点)+「け」(1246の点)
  • クォ  「ら」下がり(26の点)+「こ」(246の点)
  • フュ  拗半濁音符(46の点)+「ゆ」(346の点)
  • ヴュ  456の点+「ゆ」(346の点)

図 特殊音点字

 墨字の新聞・雑誌などでは、もっと多くの外来音が、小文字との組み合わせでカタカナで書き表されている。しかしながら、点字ではそれらすべてに対応する特殊音点字を用いるのではなく、国語審議会が示した範囲にとどめるべきである。そこで、追加した特殊音点字を含めたこれら33種の特殊音点字以外の外来音は、拗音などの中からできるだけ近い音の点字を探したり、小文字を普通の仮名として書き表したりするなどして、適切に対応することが必要である。なお、「外来語の表記」留意事項その1の6に例示されているその他の外来音10種については、付加記号としてのちに取り上げる。

(2)小見出し符の変更

 点字の記号のうち、変更したのは小見出し符だけである。今までの小見出し符(文字に「つなぎ符」を2つ続けて「マスあけ」)は、見出し語に第1カギがある場合には、閉じカギの記号(「つなぎ符」36の点)とつながって(文字に「つなぎ符」を3つ続けて「マスあけ」)となってしまうことが問題となった。そこで、一マス目の(3)の点を取って、(文字に「6の点」「つなぎ符」「マスあけ」)と変更した。その結果、第1カギと続いても問題はないし、触読上もよくなる。しかも、変更といっても、現行ものと形の上でほとんど変わりがなく、誤読も起こらないものと思われる。

(3)表記符号の追加とそれに関連した名称の変更

 墨字の表記符号が多様化し、点訳や墨訳に際して多くの問題がある。しかしながら、これらの表記符号をすべて点字で表現するのは、触読の上からも記号形態の上からも問題がある。そこで、必要とされる表記符号のうち、重要なものだけを選び、それに相当する点字の表記符号を追加した。それに関連して、従来の表記符号の名称と区別をする必要が生じたので、「第1・・・」「第2・・・」などという形で名称の変更を行った。

 ア.(2)で述べた小見出し符については、墨字の多様な表現に対応するためには、複数用意する必要が生じてきた。そこで、符号を変更した小見出し符を「第1小見出し符」(文字に「6の点」「つなぎ符」「マスあけ」)と名称を変更し、新たに「第2小見出し符」((文字に「5の点」「2の点」「マスあけ」))を追加した。それによって、第1小見出し符と区別する必要がある場合には、第2小見出し符を用いることができるようになった。
 イ.段落挿入符でくくられる内容は多様なので、これらを区別する必要が生じてきた。そこで、今までの段落挿入符を「第1段落挿入符」(「れ下がり(2356の点)」「れ下がり(2356の点)」文字列「れ下がり(2356の点)」「れ下がり(2356の点)」)と名称を変更し、新たに「第2段落挿入符」(「56の点」「れ下がり(2356の点)」文字列「れ下がり(2356の点)」「23の点」)を追加した。これによって、第1段落挿入符と区別する必要がある場合には、第2段落挿入符を用いることができるようになった。
 ウ.墨字のつなぎ符の用途や形が多様化しており、点字でもこれらを区別する必要が生じてきた。そこで、今までのつなぎ符を「第1つなぎ符」(36の点)と名称を変更し、新たに「第2つなぎ符」(「6の点」「3の点」)を追加した。これによって、第1つなぎ符と区別する必要がある場合には、第2つなぎ符を用いることができるようになった。
 エ.行頭に注意を喚起するために用いる星印も複数区別する必要が生じてきた。そこで、今までの星印を「第1星印」(「マスあけ」「マスあけ」「を下がり(35の点)」「を下がり(35の点)」「マスあけ」)と名称を変更し、新たに「第2星印」(「マスあけ」「マスあけ」「ら下がり(26の点)」「ら下がり(26の点)」「マスあけ」)と「第3星印」(「マスあけ」「マスあけ」「6の点」「ら下がり(26の点)」「マスあけ」)を追加した。これによって、第1星印を区別する必要がある場合には、第2星印や第3星印を用いることができるようになった。
 なお、文中で注記する場合、墨字では、*、※・・・などと、多様な形で表され、用途も複数使い分けている。点字では、これらのすべての形に対応することはできないが、複数の用途を区別する場合、墨字の符号の形にはこだわらず、異なった表し方が必要となってきた。そこで、現行の文中注記符と区別する必要がある場合には、第3星印を用いることができるようにした。
 オ.従来のカッコ類、カギ類、指示符類などに加えて、今回「第1・・・」「第2・・・」という形の名称が増えてきた。これらを総括して呼ぶ場合、小見出し符類、段落挿入符類、つなぎ符類、星印類などと呼ぶこととした。そのため、今までの波線類という名称は他と異質なものとなった。これは、第1・・・、第2・・・などの区別はないので、「波線」(「つなぎ符(36の点)」「つなぎ符(36の点)」)と名称を変更した。名称は変更しても、用途は今までと全く同じで、墨字の形にこだわるのではなく、語句と語句の範囲を表す用途に即して用いる。

(4)付加記号とその用法

 第1編の第1章「点字の記号」で取り扱う記号類は、基本的なものにとどめる必要がある。しかしながら、必要に応じて用いたり、特別の用途に用いたりすると便利な記号類もある。そこで、これらについては、第2編「参考資料」IV「付加記号とその用法」として位置づけることとした。付加記号には次にあげるものが含まれている。

ア.限定的に用いてもよい特殊音点字

 国語審議会の「外来語の表記」留意事項その1の6に、外国語(外国の地名や人名を含む)をカタカナで書き表す場合、できるだけ原音に近く書き表すために、「例えば・・・・・・等の仮名が含まれる」として、10種の外来音が例示されている。そこで、これらを付加記号として、限定的に用いてもよい特殊音点字に対応させた。

  • キェ  拗音符(4の点)+「け」(1246の点)
  • ニェ  拗音符(4の点)+「ね」(1234の点)
  • ヒェ  拗音符(4の点)+「へ」(12346の点)
  • グィ  「る」下がり(256の点)+「き」(126の点)
  • グェ  「る」下がり(256の点)+「け」(1246の点)
  • グォ  「る」下がり(256の点)+「こ」(246の点)
  • スィ  拗音符(4の点)+「し」(1256の点)
  • ズィ  拗濁音符(45の点)+「し」(1256の点)
  • フョ  拗半濁音符(46の点)+「よ」(345の点)
  • ヴョ  456の点+「よ」(345の点)

図 限定的に用いてもよい特殊音点字

イ.必要に応じて用いる付加記号

 これらの10種の限定的に用いてもよい特殊音点字のほかに、次に掲げるものを必要に応じて用いる付加記号として位置づけた。

 従来用いられていた点字の記号の中から、伏せ字の○(「5の点」+「ま」)、△(「5の点」+「み」)、□(「5の点」+「む」)、×(「5の点」+「め」)、その他の伏せ字(「5の点」+「も」)、数字の伏せ字(「5の点」+「め」)、ならびに、発音記号符(「56の点」+文字列+「23の点」)、第1ストレス符(「456の点」+文字列)、第2ストレス符(「45の点」+文字列)、を必要に応じて用いる付加記号として位置づけた。そのうえで、新たに%(パーセント)(「56の点」+「1234の点」)、&(アンドマーク)(「56の点」+「12346の点」)、#(ナンバーマーク)(「56の点」+「146の点」)、*(アステリスク)(「56の点」+「16の点」)を追加した。

ウ.特別な用途に用いる付加記号

 従来用いられていた小文字符(「45の点」+文字列)を墨字原本で小文字であることを示すための表記符号と限定し、行末のつなぎ(文字列+「6の点」)とともに付加記号に位置づけた。また、畳語符(文字列+「236の点」)およびそれに濁音や半濁音が付いた畳語符を特別な用途に用いる付加記号として追加した。

 

3.分かち書きの原則の見直し

 『改訂日本点字表記法』が発行されてからこの10年間に、点字の記号や語の書き表し方については、ほぼ統一されてきたと言える。分かち書きについても、自立語の前は区切り、助詞や助動詞は前を続けるという第1原則はほとんど問題がない。ところが、自立語内部の切れ続きという第2原則についてはかなり問題が残っていた。中でも、自立語内部の切れ続きの原則と動詞「する」の切れ続きの原則は、相当問題があったので、種々検討の結果見直しを行った。ここではその二つの問題点の見直しについて取り上げる。

(1)自立語内部の切れ続きの原則

 和語・漢語・外来語などの構成要素のどこで区切るかという点については、特定の組織や施設あるいはグループなどの内部では、それなりに一貫性がとれている。しかしながら、全国的にそれらを比較してみると、かなりの幅がある。数種の点字表記辞典なども発刊されているが、自立語内部の切れ続きについては、相当異なっている。さらに、点字使用者の場合は、個人差が著しい。その理由として、日本国民が自然に感じ取っている語の構成意識を反映した自立語内部の切れ続きの原則になっていないのではないか、また、それらの原則が、単純明快で理解しやすいものになっていないのではないか、などが考えられる。そのため、それぞれがなじんだ方法に固執し、点字指導者がなんとか工夫して教えこんでも、点訳奉仕者や点字使用者は、自分で判断することが難しく、日常の点字の正確な読み書きに自信をなくしているのではなかろうか。

 考えてみれば、点字の記号については、1点でも異なれば、別の記号になってしまうから不統一は許されない。また、語の書き表し方(仮名遣い)については、国語審議会の見解のように、表記の標準ではなく、よりどころとして多少の弾力性が許される。それに対して、自立語内部の切れ続きについては、かなり幅があっても、決定的な支障を与えるというわけではない。

 そこで、ある程度幅をもたせて、弾力的に対応してもよいのではないかということができる。その上で、単純明快な規則を一つのよりどころとして示すこととした。

 文章の意味を理解しながら速く読むことができるためには、意味のまとまりごとに区切ってある方がよい。例えば、「点字図書館」が一つの自立語であっても、「テンジ□トショカン」と自立可能な意味の成分ごとに区切ってあった方が読みやすい。この場合、「図書館」の「館」は意味のまとまりではあるが、自立性がなく、副次的な意味の成分ということができる。そこで、「図書」という自立可能な意味の成分に「館」という副次的な意味の成分を続けて、「図書館」とする方が読み取りやすい。そのため、自立可能な意味の成分は区切り、副次的な意味の成分は続けるということを原則とすることができる。

 一方、日本語のリズムが4拍子であるなどと言われるように4拍で意味のまとまりを持つことが多く、例えば、「うなどん」「学割」「プロレス」などのように、略語を作るときも4拍になることが多い。その意味でどのくらいの拍数で区切るかということも考慮する必要がある。また、区切ってあるものを読みながらつないでいく方が、続いているものを、どこで区切るのかと考えながら読むよりも、速く意味を正確に読み取ることができる。

 和語・漢語・外来語を通して、自立可能な意味の成分は、3拍以上である場合が圧倒的に多い。そこで、3拍以上の自立可能な意味の成分は区切り、2拍以下の副次的な意味の成分は続けることを原則とすることが妥当である。ただ、2拍以下であっても、独立性の強い意味の成分は区切った方がよい場合もある。

 このような考え方を成文化したのが、第1編第3章第2節の6.と7.の表現である。ただ、機械的に原則を取り扱うと、微妙な意味の理解に支障をきたすおそれもあるので、「注意」に記載されている表現を十分留意して、切れ続きを判断することが重要である。

 なお、固有名詞の切れ続きの原則についても、自立語内部の切れ続きの原則と同様とした。関連の規定は、第1編第3章第3節の2.4.5.に記載されている。

(2)動詞「する」の切れ続きの原則

 動詞「する」の切れ続きについては、従来、「する」を含む複合動詞は続けて書き表すが、その他の名詞や副詞などに動詞の「する」が続く場合には、その間を区切るという規則が実施されてきている。しかしながら、その区別がそう簡単ではないところから、いろいろの悩みが語られていた。

 盲学校の小学部などでも、「ぼく□おもしろい□本を□読んでいるよ」と補助動詞の「いる」を前に続けてしまうような子供が、「ぼく□今日□運動□したいんだ」などと、複合動詞の「する」の前を区切って書く場合が案外多い。教師が一生懸命教えこんでやっと定着したかなと思っても、難しいケースでは判断に迷っている。なにもこれは子供に限ったことではない。点訳奉仕者や中途失明者あるいは盲学校教員なども入門期などでは半数以上が「キョーリョク□シタイ」、「スポーツ□シマセンカ」、「ハッキリ□サセヨー」などと、複合動詞を区切って書くことが多い。ベテランの教師や点字図書館の職員などが半年も丁寧に教えれば、それでも何とか習慣が形成される。ただ、以前に「点字毎日」の読者欄で点字の表記を投書のまま取り上げていた時期があった。そこでも、多くの読者が複合動詞の「する」の前を区切っていた。さらに、ベテランの奉仕者でもこの場合はどうするかということの問題になると、いくつかの国語辞典を引いても自分で判断ができず、点字図書館の職員に尋ねたり、おそるおそる区切ってみたり、続けてみたりしている場合も少なくない。

 一方、ベテランの教師や点字図書館の職員は、何とか定着が図れないかと、説明の方法や指導のやり方を工夫して対応に努めているのが現状である。

 それではどのような問題点があるのか整理してみることとする。

 ア.複合動詞の範囲:「学校文法」や「受験文法」などと呼ばれている一般に普及している文法の定義では、名詞や副詞と「する」が結びついて一つの動詞となったものを複合動詞であるとしている。この場合、複合動詞になる前に名詞や副詞であったのか、現在でも名詞や副詞で、それに動詞の「する」が続くのかによって、この「する」は前に続くのか、前を区切るのかを区別しなければならない。そこで、複合動詞であるかないかをどうして判断するのかが問題となる。国語辞典を引いてみても分からないことが多い。その理由として、(1)その辞書の編集者によって根拠とする学説が異なるため、取り上げ方が異なっている。(2)「する」は動詞の3分の1を占めるほど大量に使われているので、見出し語数の少ない国語辞典では掲載されている量が少なくなる。(3)国語辞典の中には、「する」の項目の中に、(a)動詞、および(b)複合動詞を作るサ行変格活用の語尾などと、並列して取り上げてあるので、他の見出し語の名詞や副詞と結びつけて複合動詞と判断している場合もある、などが考えられる。結局、複合動詞の範囲はあまり明確にはできないという問題点がある。

 イ.副詞+「する」の使い分け:「はっきりした□目鼻だち」では、複合動詞とし続けるが、「返事は□はっきり□しなさい」などでは、副詞に普通の動詞「する」が続くから区切るということになるので、同じ語を文脈によって判断しなければならない。この点、副詞の場合が最も難しい。

 ウ.名詞+「する」の使い分け:「勉強する」と「勉強を□する」とを区別することはそれほど難しくはない。しかしながら、「バレーボールしたい」や「ヨーロッパ化する」などになると名詞に「する」が続くものだから区切るのではないかと思うようになる。中でも難しいのは、連体修飾語に続く名詞のあとは、複合動詞にはなり得ないので区切らなければならないということである。「数学の□勉強□する」、「怖い□顔つき□する」、「元気な□声□して」、「かかる□失態□したのなら」などは、複合動詞として続けるのではないかと迷うこともある。特に、最近の若者のように、「すごい」を福祉的に使う人にとっては、「すごい□運動□したよ」というのは副詞がかかる複合動詞として続けたくなる人も多い。また、「服を□洗濯して□ください」と、「服の□洗濯□して□ください」を区別するのはそう楽ではない。さらに、「全力□投球□する」と、「断固□反対する」を、区別するのは難しい。

 あるいは、「違法な□スト□する」と、「これを□メモする」、「額に□汗する」、「赤い□顔□する」などのような短い名詞と複合動詞を区別するのもたやすいことではない。

 エ.複合動詞と代動詞の区別:「この□本は□500円□したよ」とか「十日□したら□帰る」のように、他の動詞の意味を代行する代動詞の「する」を複合動詞に含まれる「する」とどのようにして区別するかはそれほど容易ではない。

 オ.増大する「する」の用途:以前は、「協力する」などのように動作を予想させるような名詞から複合動詞ができていたが、戦時中の「科学□する□心」などから始まっておよそ動作と結びつかないものまで、複合動詞を作るようになった。最近では、「主婦□する」、「タバコ□する」、「シャガール□する」なども複合動詞として意識されるようになってきた。名詞から動詞を作るとき、以前は、接尾語の「る」を付けて、「サボる」、「デモる」などと作っていたが、この頃では、「する」を用いる傾向が圧倒的となった。そこで、今後どんどん増加する複合動詞をどうとらえればよいかが、点字表記の問題点となってきたのである。

 このような現状と問題点を踏まえて、日点委では、数年間討議を重ねてきた結果、二つの意見を「日本の点字」第15号に掲載し、広く点字関係者の意見を問うたが、賛否相半ばする状況であった。そこで、現状を前提としてできるだけ単純化する方向で、切れ続きの判断にある程度幅を持たせることとした。

 そこで、関連する事項を第1編第3章第2節の5.と注意1〜3にまとめて記述した。5.の規定の中では、「一般に複合動詞とされているもののうち、動作などを表す名詞に『する』が続く場合は続けて書き表すことを原則とするが」と限定的に表現している。これによって従来拡大解釈されていた「複合動詞」の範囲を、本来の姿である動作などを表す名詞に「する」が続くものだけに限定し、今後増大すると思われるこの種の動詞を無原則に続けることを予防することになる。一方、注意1で、「独立した動詞『する』の前は、名詞であっても区切って書き表す。」と表現している。そこで、複合動詞の判断が難しい場合は、「する」の前を区切ることが多くなるであろう。ただ、「動作など」の「など」の範囲を広く解釈して「する」の前を続ける人もあるであろう。その意味で、切れ続きの判断にある程度幅があることになったのである。

 名詞の場合はこのように幅があるが、5.の後半の「副詞に『する』が続く場合は区切って書き表す。」という規定のとおり、副詞に由来する「複合動詞」は、文脈によって判断が難しいので、今回、単純明快な規則としたのである。なお、注意2と注意3は従来のとおりである。

 

4.その他の見直しの概要

 点字の記号や付加記号および分かち書きの原則以外の見直しを要約すると次のようなものである。

(1)語の書き表し方の見直し

 ア.基本的な仮名遣いでは、国語審議会の「現代仮名遣い」の改定(1986年)に基づいて、配列順序や規則の表現あるいは用例を見直したが、実質的な変更はない。

 イ.外来語や外国語(地名・人名を含む)を仮名で書き表すときの規則や用例を、国語審議会の「外来語の表記」に基づいて変更した。従来より原音に近く表現され、特殊音点字も多く使われるようになると思われる。

 ウ.本来ひと続きに書くべき1語中に、仮名文字と数字やアルファベットが混在しても、続けて書き表すこととした。そのため、アルファベットの後ろに仮名文字が続く場合は、第1つなぎ符をはさむこととした。なお、助詞や助動詞は1語中とはみなさないので、従来のとおり一マスあける。

(2)文の構成と表記符号の用法の見直し

 ア.表記符号の追加に伴って、従来の表記符号と合わせて、それらの規則や用例の検討を行った。

 イ.表記符号間の優先順位を明確にし、読点や囲みの符号などが他の符号との接続で、別の符号とならないための配慮などを新たに取り上げた。

 ウ.行移しに関する規則や表現を分かりやすくした。

トップへ


「点字の表記に関するキーワードの解説」

 

 第1編「点字の表記」の内容は、「本書の構成と活用の仕方」で記述されているように、階層構造的に構成されている。また、そこで用いられている用語には、言語学的な背景を持ったものもある。そこで、内容の正確な理解に必要と思われるキーワードをできるだけ平易に解説する。

 この場合、キーワードを1語ずつ、辞書的に解説するのではなく、関連する事柄の総合的な解説の中で、キーワードの意味とその用法が理解できるように努めた。なお、1.は全体にかかわり2.〜5.は、第1章から第4章にそれぞれ対応する。

 

1.日本語の語種(和語・漢語・外来語など)

 日本語の種類は、和語・漢語・外来語およびそれらを混ぜた混種語に分けられる。

 和語は、古来の日本語で大和言葉とも言われている。はじめは文字を持たなかったので、話し言葉で伝承されていたが、中国からもたらされた漢字で書き表すようになった。和語を構成する一つの音に、漢字の音をあてた「万葉仮名」、漢字の部首の一部を当てた「カタカナ」、漢字の草書体をさらに略した「ひらがな」が、和語を書き表す文字として用いられてきた。一方、和語の意味に相当する漢字を当てて、「訓」または「字訓」とした。

 漢語は、中国語の音・文字・意味をそのまま日本に持ち込んだもので、古代の外来語ということができる。漢語における漢字の読みを「音」または「字音」「漢字音」と言う。「音」は、日本にもたらされた時期により前の名称がつけられている。帰化人によって最初にもたらされた南方系の「呉音」、主として遣唐使などによってもたらされた北方系の「漢音」、主として禅宗の僧侶などによってもたらされた南方系の「唐・宋音」などと区別されたいる。しかしながら、江戸時代の朱子学などの影響で、「漢音」が代表的なものと考えられるようになった。

 外来語は、16世紀のポルトガル語以来、主として欧米に起源を持つ言葉が日本語化したものである。最近よく使われるようになったカタカナで書き表された外国語(外国の地名・人名を含む)も、広い意味では外来語の中に含まれる場合もあるが、厳密に言えば、まだ日本語化が十分に行われていないと言う理由で、外来語の中に含まない場合もある。

 混種語は、これらが混ざってできた言葉である。「湯桶読み」と言われるような和語(訓)と漢語(音)が結合してできたものや、逆に、「重箱読み」と言われるような漢語(音)と和語(訓)が結合してできたものがある。さらに、国語辞典の中には、「音」の部分をカタカナで、「訓」の部分をひらがなで書き表すことによって、和語や漢語だけではなく、混種語の構成を明らかにしようとしているものがある。なお、「省エネ」や「ビール瓶」は、漢語と外来語の、「ピンポン玉」は、外来語と和語の混種語である。

 これらの語種のうち、最も多く用いられているのは、当然とはいえ和語である。漢語は、平安時代の軍記物などで1割程度しか用いられていなかったが、明治以後から第二次世界大戦までに急増した。この時期、欧米の言葉の翻訳語としては漢語が当てられることが多かったが、そのために和製漢語が急増した。外来語は、第二次世界大戦後に急増し、現在に至っている。現在では、和語が5割強、漢語が3割弱、外来語が2割弱と言われているが、文書の種類によって相当異なっている。また、あとから日本語化された漢語・外来語・混種語は、主として名詞に用いられている。さらにそれらの名詞に「する」や「る」をつけて動詞にしたり、「だ・です」をつけて形容動詞にしたりして用いられている。このように日本語は、和語の体系の中に、漢語・外来語・混種語を包み込んだ言葉として特徴づけられている。

 これらの語種と文字との関係をみると、和語はひらがなと漢字(訓)、漢語は主として漢字(音)、外来語は主としてカタカナ、混種語はこれらの組み合わせで書き表されている。仮名文字体系の点字では、漢字は用いないし、ひらがなとカタカナの区別もない。そこで、「点字仮名」は、すべての語種の読みを書き表す文字であると言うことができる。

 次に、これらの語種と仮名遣いとの関係を取り上げてみる。国語審議会は、1986年に現代仮名遣いの改定を行ったが、これは、和語・漢語・それらの混種語を、主としてひらがなで書き表すときのよりどころを示したものである。また、1990年の「外来語の表記」は、外来語と外国語(外国の地名・人名を含む)を主としてカタカナで書き表すときのよりどころを示したものである。点字の表記も基本的にはこれらの準じている。また、方言の仮名遣いは、主として「現代仮名遣い」に、擬声語や擬態語の仮名遣いは、「外来語の表記」に似ている。古文の仮名遣いについては、和語は歴史的仮名遣いに、漢語は「現代仮名遣い」に準拠している。これは漢語の歴史的仮名遣いは、その当時の「漢字音」を書き表そうとしているのであるから、現在読みやすい表音式の「現代仮名遣い」に準拠する方が適切であるという考えからである。

 自立語内部の切れ続きについては、自立可能な意味の成分と拍数をよりどころとしたので、これらの語種をいちいち考える必要がなくなった。ただ、「注意」に記述されているように、微妙な意味の違いを配慮する必要がある場合には、語種についても考慮して判断することが望ましい。

 

2.音と拍と点字仮名との対応関係

 日本語を構成する基本単位は「音」(ここでは、「漢字音」のことを指すのではなく、和語・漢語・外来語などを発音するときの「発音」を指している)で、古くは仮名文字に1体1で対応していた。「七五調」とか「五七調」などと言われた短歌は、「三十一文字」とも言われていた。また、これらの「音」と「仮名文字」は、「いろは47文字」とか、「50音」という形でまとめられていた。

 このような日本語の「音」を、音素(音韻)のレベルで見ると、母音だけからなる「あ・い・う・え・お」を除くと、残りは子音と母音とからなっている。欧米や中国では、例えばdogのように、「子音+母音+子音」という「音」の構造が多くみられるが、日本語では、単純に「母音だけ」または「子音+母音」の2種類しかない。しかも、50音で、子音を「行」、母音を「列」または「段」として意識する以外に、子音と母音の違いを区別することはまれであった。結局、ローマ字以外では、「音」を分析せず、一体のものとして意識し、仮名文字と対応させていた。

 明治以後、欧米の言語学の影響を受けて、これらの「音」を「音節」として位置づけてきた。多くの「音」が「音節」と一致するので、日本語の基本単位を説明する概念として、長い間受け入れられてきた。ところが、一つの音節には、短母音か長母音などの一つの母音が含まれるという「音節」の定義に対して、「ん」(撥音)・促音・長音などは、一つの「音」として意識されているのに、この一つの音節の定義に当てはまらないことが明らかになってきた。そこで、日本語の基本単位である「音」を、最近「音節」ではなく、「拍」として位置づけるようになった。

 「拍」はラテン語のモーラ(mora)の訳語として位置づけられたものである。「モーラ」は、詩の韻律を表す単位の一つで、一定の長さの単音節を表すものであった。日本語の「音」は、一定の長さを持っているから、すべての「音」は「拍」によって位置づけることができる。そこで、次に日本語の「音」の種類ごとに、「音節」、「拍」、「仮名文字」、「点字仮名」との対応関係を取り上げることとする。

 日本古来の和語は、「清音」だけから成っていた。「いろは47文字」や「50音」と呼ばれたもので、「音節」、「拍」、「ひらがな」、「カタカナ」、および一マスの点字仮名がすべて1対1で対応している。濁音は、中国の南方系の音の影響を受けたもので、「無声音」である「澄み」(清音)と対立する「有声音」で、「濁り」(濁音)と呼ばれてきた。半濁音も、濁音とともに入ってきたが、有声音ではない。濁音と半濁音は、「音節」や「拍」とは1対1に対応する。ひらがなやカタカナでは、長い間清音との区別をつけず、読み上げる際に「濁り」を表していたが、やがて右肩に濁点か半濁点を添えるようになってきた。点字仮名では、清音を表わす点字に、濁点か半濁点を前置して二マスで表している。なお、これらの清音・濁音・半濁音を、合わせて「直音」と総称する。

 撥音・促音・長音は、漢語の導入に際して「漢字音」の日本語化のために必要とされたもので、いわば漢語の「なまり」とでも言えるものである。漢字は本来1字1音節であるが、日本に受け入れるとき、音便などでなじみの「ん」「い」「う」などの音を添えて、漢字1字を2拍の長さで読むものも多くなった。その場合、漢字1字が2拍になっても元の1音節を残す結果となったのは、撥音化、促音化、長音化のためである。例えば撥音を添えた「金」(kin)は、「金銀」の「金」という漢字1字で、1音節だが2拍である。また、「石器(せっき)時代」、「画期(かっき)的」、「吉祥(きっしょう)天」、「決起(けっき)大会」などのように、「石」、「画」、「吉」、「決」など、漢字1字で2音節、2拍のものが、促音化することによって母音が一つ取れ、1音節で2拍となる。さらに、長音を含む「丁寧(ていねい)」や「方法(ほうほう)」などは、それぞれ漢字1字が、長母音の1音節で、2拍の長さを持っている。

 これらは漢語に現れる現象なので、漢字の影に隠れて意識されにくい。これらをひらがなで書き表す場合には、「音節」そのものにではなく、「音節」を構成する2拍目に対応するものとして、「ん」、小文字の「っ」、「い」、「う」などを添えている。カタカナでは、「ウ」の代わりに長音符を添えるところが異なっている。点字仮名では、撥音符・促音符・長音符で対応

しているが、これらは、直音のように「音節」と「拍」に同時に対応するものではなく、音節の後半にくる2拍目の「拍」(モーラ)にだけ対応するものなのである。

 拗音は、漢語とともに入ってきた「音」で、最近では漢語や外来語に多く現れるだけではなく、「狩人(かりゅうど)」などのように和語も拗音化する場合が出てきた。「まっすぐな音」という意味の「直音」に対して、「ねじれた音」という意味で「拗音」と名づけられている。拗音は。「い」のきしんだような半母音を含んではいるが、それぞれ1音節で1拍である。

 ひらがなやカタカナでは、イ列の仮名に小文字の「ゃ」「ゅ」「ょ」を添えて表している。この場合、イ列の母音の「い」と、ヤ行の子音とを合わせて、半母音を表していることになる。ここで用いられている小文字の「ゃ」「ゅ」「ょ」は、「音節」はもとより、「拍」にも対応するものではないから「付属文字」と呼ばれている。同じ小文字でも、「拍」に対応する「モーラ文字」である小文字の「っ」とは性格が異なっている。点字仮名では、各行のア列・ウ列・オ列の仮名に拗音点・拗濁点・拗半濁点を前置して二マスで書き表している。ひらがなやカタカナの書き表し方と異なるので、習い始めにつまずく人も見受けられる。その場合、ローマ字を知っている人であれば、「kya」「kyu」「kyo」の半母音のyを前に出して、「yka」「yku」「yko」とし、このyを拗音点の(4)の点に変え、残りを「か」「く」「こ」の仮名に変えると考えれば理解されることがある。いずれにしても、点字仮名では半母音の部分を拗音点で表わすことになる。

 外来音は外来語とともに入ってきたものである。点字仮名では、「おとっつぁん」や「クァイグァイ(海外)」などのように和語や漢語でも用いられることを考慮して、特殊音点字と総称しているが、その大部分を占めているのは外来音である。ここでは、特殊音として総括的に説明する。特殊音はすべて1音節で1拍である。ただ、いくつかのグループがあるので、グループごとに、ひらがなやカタカナおよび点字仮名との対応関係を説明する。

 先に取り上げた拗音は、唇が開いたまま発音する拗音という意味で、「開拗音」(開いた拗音)とも呼ばれている。特殊音の中に、拗音の延長とも言える「開拗音系」がある。例えば「シェ」は「シャ・シュ・シェ・ショ」と拗音のエ列に位置づけることもできる。そこで、カタカナやひらがなでは、イ列の仮名に小文字の「ェ」を添えて書き表している。また、点字仮名では、エ列の仮名に拗音点と同じ(4)の点を前置して、二マスで表している。このように開拗音系の特殊音は、読むにも書くにも全く無理のない表記ができる。

 第2のグループは「合拗音系」である。これは、「唇を合せて発音する拗音」という意味で、「合拗音」(合せた拗音)と呼ばれているものである。カタカナやひらがなでは、ウ列の仮名にア行の小文字を添えて表している。これに対して点字仮名では、各行の各列の仮名に、(2)(6)の点を前置して二マスで表し、濁音の場合は、濁点を含んだ前置点を用いて二マスで表している。

 その他のグループの中で、「子音の取り替え」、言い替えれば「行の補正」を行う必要があると思われるものがある。「ティ」「ディ」の場合、カタカナやひらがなでは、エ列の仮名に小文字の「ィ」を添えている。点字仮名では「チ」に(4)の点を前置している。これは「チャ・チ・チュ・チェ・チョ」とくるべきものがタ行に「タ・チ・・・・・・」と紛れ込んでいるので、「チ」と「ティ」の行を取り替えると考えればよく、「ディ」はそれに濁点を加えたものである。「トゥ」「ドゥ」はカタカナやひらがなでは、「ト」か「ド」に小文字の「ゥ」を添えているが、点字仮名では、「ツ」に(2)(6)の点かそれに濁点を加えた点を前置している。これは、「ツァ・ツィ・ツ・ツェ・ツォ」とくるべきものがタ行の「ツ」に紛れ込んでいるので、「ツ」と「トゥ」の行を取り替えると考えることができる。「ドゥ」はそれに濁点を加えたものである。なお、付加記号に含まれている「スィ」「ズィ」についても、「シャ・シ・シュ・シェ・ショ」の「シ」と「スィ」およびその濁りとの交換と考えられるので、カタカナやひらがなのウ列の仮名に引かれて、合拗音系の前置点と間違ってはならない。

 その他のグループのうち、カタカナやひらがなで、ヤ行の小文字を添えている「テュ」「デュ」は、点字仮名では、(4)(6)の点を前置している。この延長として、「フュ」「ヴュ」および付加記号の「フョ」「ヴョ」などは、(4)(6)の点とそれに濁点を加えた点を前置しているのである。最後に「ヴ」はカタカナやひらがなでは、小文字を添えていないし、母音を含まない場合もあるので、点字仮名では、「ウ」に濁点を前置してカタカナやひらがなと同じ表し方をしているのである。

 なお、特殊音を表す墨字の小文字は、拗音の場合と同じく、「付属文字」であるから、それ自体独立して「音節」や「拍」と対応することはない。点字仮名では、このようなア行やヤ行の小文字は用いないで、拗音や特殊音を二マスの点字で表している。

 以上、日本語の基本単位である「音」と仮名文字との対応関係を見てきたが、撥音・促音・長音を含めて考えると、仮名文字はすべての「音節」には対応しないが、少なくともすべての「拍」に対応することがわかった。そこで、点字仮名も、すべての「拍」に対応する一マスか二マスの文字であるということができる。

 

3.点字仮名・数字・アルファベットによる1語の書き表し方

 漢字仮名交じり文では、漢字・ひらがな・カタカナ・算用数字(アラビア数字)・アルファベットの5種類の文字を用いて、日本語を書き表している。一般の点字文では、漢字・ひらがな・カタカナの区別はなく、それらの代わりに共通して点字仮名を用いている。また、漢数字と算用数字の区別もないが、漢数字は漢字の一種であるから、点字仮名で対応するのが原則であり、その意味で、点字で「数字」と言うときは、算用数字を指すのが原則である。ただ、墨字で、縦書きのときは漢数字で書く人が、横書きでは算用数字で書くことを使い分ける場合があるように、横書きの点字文で、数字にするか点字仮名にするかの使い分けをすることがある。墨字原本の点字化に際しても、原本の表記に対応させるのではなく、点字文として、点字仮名がよいか数字がよいかの判断が必要である。その使い分けの問題はのちに取り上げる。このほか、アルファベットは、墨字の場合とほぼ同じ用い方をしている。そこで、点字仮名・数字・アルファベットを混在させて語を書き表す場合の配慮事項について考えておく必要がある。

 63通りしか点の組み合わせがない6点点字では、体系の異なる3種の文字を前置点を用いて区別しなければならない。当然のことながら、日本語においては、最も使用頻度の高い点字仮名には前置点を使用しない。そこで、数字には数符を、アルファベットには外字符を前置して別体系の文字に変わったことを表し、点字仮名と区別している。なお、外国の語句を書き表す場合には、日本語を書き表す文字の一種としてのアルファベットとは異なるので、外国語引用符でその前後ろをくくって、別の記号体系として日本文中に位置づける。ここでは、数字と文字としてのアルファベットと、点字仮名との混在の問題に限定して説明する。

 まず問題となるのは、数符や外字符がどこまで有効で、どこでリセットされて別体系の文字に移行するかということである。数符に支配される記号は、数を表すの10個、小数点の(2)の点、および位取り点とアポストロフィを表わす(3)の点だけである。これらを相互に続け合う間が一つの数の範囲である。一つの数の範囲が終わるのは、次にマスあけ、行移し、およびこれらの記号以外の文字や符号がきたときである。その場合、単に一つの数の範囲が終わったことを示すだけではなく、別体系(別のモード)に移行したことも一緒に表している。すなわち、それが数符であれば、もう一つ別な数のモードに移行したことを表し、それが外字符であれば、アルファベットのモードに移行したことを表している。また、それが数符か外字符以外であれば、点字仮名のモードに移行したことを表している。

 外字符に支配される記号、言い替えればアルファベットのモードに属する記号は、アルファベットを表わすまでの26個、大文字符と二重大文字符を表す(6)の点、および省略符としてのピリオドを表す(2)(5)(6)の点だけである。これらを相互に続け合う間がアルファベット・モードの範囲である。次にマスあけや行移しがあれば、アルファベット・モードがいったん終了したことを表し、改めて数符や外字符を前置しないと、点字仮名のモードに移行したこととなる。また、アルファベット・モードに続いて、数符を書き表せば数字モードに移行し、第1つなぎ符をはさめば点字仮名モードに移行したことを表している。なお、省略符としてのピリオドは、例えば「(「外字符」「6の点」「u」「る下がり」「6の点」「s」「る下がり」「6の点」「a」「る下がり」)」(U.S.A.)などのように、アルファベット・モードの中で、マスあけなしに相互に続け合うことができる。しかしながら、見出し番号などを表す数字・アルファベット・点字仮名に付けるピリオドは、どのモードにも属さず、一マスあけで終了する。また、文末の区切りを表す句点は、二マスあけて初めて文末となるのであるから、墨字原本の点字化に当たっては、句点とピリオドの形にとらわれるのではなく、その機能に着目して適切に対応することが必要である。

 次に、本来ひと続きに書き表すべき1語中に、点字仮名・数字・アルファベットが混在する場合の書き表し方についてここでまとめることとする。例えば「(「外字符」「6の点」「p」「数符」「3」「外字符」「6の点」「c」)」(P3C)のように数字とアルファベットはどちらが前にきても互いに続け合うことができる。例えば「(「す」「ー」「数符」「1」「0」)」(数10)や「(「お」「ば」「外字符」「6の点」「q」)」(オバQ)のように、点字仮名の後ろに数字やアルファベットが続く場合には続けて書き表す。留意しなければならないのは、数字やアルファベットの後ろに点字仮名が続く場合である。数字モードの後ろに、ア行とラ行の点字仮名がくれば、数を表す記号と形が同じであるから、第1つなぎ符をはさむことによって、数字モードが終わり、点字仮名モードに移行したことを明確に書き表さなければならない。ワ行の「ワ」については、位取り点の(3)の点と同形なので、もしその後ろにア行とラ行の点字仮名が3字くれば誤読の恐れがあるので、「(「数符」「5」「つなぎ符」「わ」「り」「い」「り」)」(5割入り)のように、第1つなぎ符をはさむことにしたが、このような例は実際にはめったに出てこない。アルファベットの後ろに点字仮名が続く場合は、例えば「(「外字符」「6の点」「t」「つなぎ符」「じ」「ろ」)」(T字路)のように第1つなぎ符を必ずはさんで、アルファベット・モードが終わり、点字仮名モードに移行したことを示すこととした。

 なお、本来ひと続きに書き表すべき1語を自立語とその構成要素の範囲にとどめたので、アルファベット・モードに助詞や助動詞がくる場合には、例えば「(「外字符」「6の点」「6の点」「n」「h」「k」)□マデ□イク(NHKまで行く)」「(「外字符」「6の点」「6の点」「c」「m」)□ダッタノカ(CMだったのか)」などのように一マスあけることとした。また、付加記号の伏せ字は、文字を伏せてあることを示す記号であるから、点字仮名などとひと続きに書き表されることがある。そこで、伏せ字とその前か後ろに続く文字との間には、第1つなぎ符をはさんで続けることを原則としたが、これはアルファベットと点字仮名との接続と同じ扱いにしたからである。さらに、(5)(6)の点を前置する付加記号の%(パーセント)、&(アンドマーク)、#(ナンバーマーク)、*(アステリスク)についても、基本的にはアルファベットに準じて取り扱う。

 次に、数および数を含む言葉の書き表し方の問題を取り上げる。まず、点字仮名と数字との使い分けの問題から始める。これは当然漢数字と算用数字の使い分けの問題ではない。表音文字である点字仮名の体系の中に、表意文字である数字を持ち込む意味の問題である。点字仮名で書き表した方が「読み」はやさしいが、数字で書き表した方が数量や順序の「意味」が明確になるので、どのような場合にどちらで書き表した方がよいかという問題である。「イチ」「ニ」「サン」・・・・・・などと、「漢字音」で読む数字のうち、数量や順序の意味を表す必要がある場合には数字を用いて書き表す。それに対して、「漢字音」で読む場合でも、数量や順序の意味の薄れた慣用句や固有名詞などの場合、および「ひと」「ふた」「み」・・・・・・などと「大和数字」のように読み上げる場合には、点字仮名で書き表すことを原則としている。この場合、数量や順序の意味が薄れたかどうかという判断基準が問題となる。そこで、例えば「1番・2番・・・・・・」などのように、連続する隣の数と置き換えられるような場合は数字で書き表すが、「一番よい」とは言っても「二番よい」とは言わないように、「ユイイツ(唯一)」「イッパンテキ(一般的)」など、隣の数字と置き換えることができない場合には点字仮名で書き表す、などと考えることもできる。いずれにしても、数量や順序の意味が薄れたり、逆に、「大和数字」のように、点字仮名を読んだだけで十分にわかる場合には数字を用いる必要はない。しかしながら、「意味」を重視する場合には、表意文字である数字を用いる方がよい。また、どちらを用いたらよいか迷うような場合には、数字を用いて書き表す方が読解のためにはよさそうである。

 数字を用いて数を書き表す場合、墨字の算用数字の場合と同じように、位取り記数法で書き表す。しかしながら、表などの特別な場合は別として、一般の文章中では、4桁までに限定している。また、位取り点を用いる場合でも、それを1回だけ用いて書き表すことができる限界の6桁までに制限している。その理由として、点字は一マスずつ継時的に読み取っていくのに対して、位取り記数法では最後まで読み終えなければ最初の数字の位がわからないからである。点字を習いたての小学部1年生の中には、「1990年」を読むのに、「イチ、ジュウキュウ、ヒャクキュウジュウキュウ、アー、1990年だ」というように、一桁進むごとに訂正して読む子供もいる。大人でも前の数字を記憶しておいて、最後の1の位がきて初めて最初の位から読み上げるためには、せいぜい4桁程度が適している。そのうえ、大きな数を読み上げる場合などを考慮すると、4桁までは位取り記数法で書き表し、そのあとに、「兆」「億」「万」などの単位を表す点字仮名を続けて書き表すのが最も有効なのである。「千」の位については、例えば「2センニン(2000人)」などのように、後ろ3桁が0の場合に用いるのが適している。また、例えば「スーセンニン(数千人)」「ナンビャクバイ(何百倍)」などのように、およその数の位を表す必要がある場合などでは、「千」や「百」は点字仮名で書き表すが、「十」については、数字を用いてもよい。この場合、位を表す漢数字の部分を点字仮名で書き表すのではないことを銘記する必要がある。

 小数の場合は、小数点が1の位を明確にし、そののちは「位」を付けずに数字をそのまま読み上げるので、小数点以下は何桁あってもそのまま数字で書き続ければよい。分数は、一般の文章中では読み上げるとおりに分母から書き表す。この場合、分母と分子の間は一マスあける。これは単位分数の考え方に立って、例えば「3ブンノ□1(3分の1)」のように、「単位分数×分子の1」と示しているからである。

 重ね数字のうち、例えば「(数符2数符1)□スト(2・1スト)」や「(数符5数符15)□ジケン(5・15事件)」などのように年月日などの省略形の場合は、別の数に変わるので数符を改めて続けて書き表す。この場合、2度目の数符が別の数に変わったことを表すので、中点などは必要でない。

 およその数を重ね数字で書き表す場合には、位取り記数法との関係が問題となる。例えば「(数符2数符3にち)」(2、3日)「(数符17数符8さい)」(17、8歳)「(数符7数符80にん)」(7、80人)「(数符365数符6にち)」(365、6日)などのように、最初か最後の「位」が重ね数字になっていれば、そのまま数符を改めて書き続ければよい。この場合、最初の「位」の前の数字は、最初の数字と同じ「位」で、隣り合った数字である。また、最後の「位」の後ろの数字は、最後の「位」と同じ1の位で隣り合った数字なのである。ところが、最初の「位」でも、最後の「位」でもない場所の重ね数字についてが問題となる。そこで、例えば「セン□ヒャク□(数符4数符50にん)」(千百四、五十人)「2セン□(数符5数符600「つなぎ符」えん)」(二千五、六百円)などのように、重ね数字の部分の前の「位」を切り離して、それぞれに「位」を表す点字仮名を付けて「位」ごとに一マスずつあけて書き表す。これは重ね数字の部分の「位」を最初の位とした位取り記数法にするために、前の「位」を切り離したのである。また、切り離した部分を一桁ごとに「位」を表す文字を添える「命数法」で書き表す方が、読解の効果を高めるからである。

 ここまで、表音文字である点字仮名と表意文字である数字およびアルファベットによって、1語を書き表す場合の配慮事項をまとめて説明してきたが、体系(モード)の異なる文字を混在させて書き表すのであるから、読者の読解力を高めるという立場に立って丁寧に書き表すことが大切なのである。

 

4.文の単位と語の構成要素(分かち書きと切れ続き)

 点字の分かち書きの第1原則は、「自立語は前を区切り、助詞や助動詞は前に続ける」と言うことができる。この場合、自立語とは、単独でも文の単位となることができ、実質的な事柄に対応する意味を持った語である。これに対し、助詞や助動詞は、自立語に添えて、その立場や役割を明らかにする補助的なものである。自立語に助詞や助動詞を添えたものを、いわゆる「学校文法」では、「文節」と名づけている。しかしながら、国語学者の中には、「句」と名づけたり、欧米の「単語」に相当するものとして「語」と名づけている人もある。そこで、日点委では、これを「文の単位」と呼んで、分かち書きの第1原則としてきた。

 「文の単位」は、文の構成要素で、文論的には、主語・述語・修飾語・独立語などと呼ばれている。ところが、これらは助詞や助動詞あるいは活用語尾などを手がかりとして、個々の文の中でしか決定できないので、辞書で調べることができる「品詞」との関係を説明しておく必要がある。主語は、名詞に助詞の「は」「が」「も」などを添えたものである。述語は、動詞・形容詞・形容動詞および名詞に助詞や助動詞あるいは補助用言などを添えたものである。修飾語は、これらの主語や述語の状態を修飾するもので、連体詞や副詞およびその他の品詞の変化形から成る。独立語は、文の他の構成要素から独立したもので、接続詞や感動詞から成る。このほかに、自立語と助詞や助動詞の中間の存在として、形式名詞や補助用言がある。形式名詞は、自立語の名詞ではあるが、他の語句を受けて主語・述語・修飾語などの立場や役割を明らかにする語で、実質的な意味は持っていない。補助用言(補助動詞や補助形容詞)も、同じく自立語であるが実質的な意味は薄く、他の語を受けて、述語や修飾語としての立場や役割を明らかにするために用いられる。むしろ、意味を添えるという方が正確かもしれない。次に、これらの文の単位の相互関係を取り上げる。

 主述関係は、主語と述語の関係で、文の構造の中で最も基本的なものである。修飾・被修飾関係は、連体修飾関係と連用修飾関係に分かれる。連体修飾関係は、連体修飾語が「体言」(名詞)を修飾する関係である。連体修飾語としては、動詞・形容詞・形容動詞の連体形、連体詞、名詞に助詞や助動詞の連体形を添えたもの、連体修飾句や節などがある。連用修飾関係は、連用修飾語が「用言」(活用する語という意味で、動詞・形容詞・形容動詞)を修飾する関係である。連用修飾語としては、副詞をはじめとして、形容詞や形容動詞の連用形、名詞に助詞や、助動詞の連用形を添えたものおよび連用修飾句や節などがある。連用修飾語の中に、「運動をする」の「運動を」のように、動作の対象や目的などを表すものもあり、これらを特別に「対象語」という場合もある。そのほかに、対等関係と言って、複数の文の単位が文の中で同じ役割を果たしている場合と、独立関係と言って、文の他の構成要素から独立している関係もある。

 点字の分かち書きの第1原則は、これらの文の単位相互の関係、言い替えれば文の構成要素の区切り目を明らかにして、読解力を増すためにあるものなのである。しかしながら、このような文法用語を理解していないと分かち書きができないというのでは、全く実用的ではない。そこで、便法として、間投助詞の「ね」や「さ」を挿入しても意味が変わらない場所で分かち書きすればよいのである。例えば、「今日ね僕のねお母さんがねおいしいね弁当をね作ってねくれたよ」「明日のさ新聞ってさないかな」の「ね」や「さ」を取って、その場所をマスあけすればよいのである。

 ところが、「コー□スル(こうする)」「ナク□ナル(なくなる)」「タベテ□ナイ(食べてない)」「スワッテ□ナサイ(座ってなさい)」「コノ□アイダ(この間)」「アル□ヒ(ある日)」などのように、連用修飾語と用言、あるいは連体修飾語と体言の関係がまだ残っているのか、それともすでに1語として熟しているのかの判断はかなり難しい。そこで、数種類の辞書を参考にしながら、最終的には文脈で判断するしかないのである。もし解釈が分かれる場合には、とりあえず区切っておいて、読者の判断にゆだねる方が望ましい。

 今まで述べてきた分かち書きの第1原則は、墨字の小学校低学年の教科書の「文節分かち書き」の原則とほぼ等しいものである。ところが、点字は手指の触覚で一マスずつ、厳密に言えば半マスずつ、継時的に読み取っていくものであるから、語の区切り目と区切り目との間があまり長すぎると、理解しながら速く読み取ることができない。一方、自立語の中には、長い複合語や長い固有名詞がある。そのため、分かち書きの第1原則だけでは十分ではない。そこで、語の構成要素で区切る分かち書きの第2原則を立てる必要がある。この第2原則のことを、第1原則と区別するために、特に「切れ続き」と呼んでいる。第1編第3章第2節の「自立語内部の切れ続き」と、その応用である第3節「固有名詞の切れ続き」でこの問題を取り扱っている。

 「切れ続き」というのは、分かち書きされた語の内部を区切るか続けるかという問題であるから、「分かち書き」の内部構造である。その意味で、同じ「一マスあけ」であっても、二重構造なのである。そこで、「切れ続き」の原則を考える場合の判断基準として、文の単位の相互関係を内包しているかどうかということを取り上げることができる。例えば、「エイヨー□マンテン(栄養満点)」は「栄養が満点」(主述関係)、「トーザイ□ナンボク(東西南北)」は「東西と南北」(対等関係)、「エイゴ□キョーイク(英語教育)」は「英語の教育」(連体修飾関係)、「ショクリョー□セイサン(食糧生産)」は「食糧を生産する」(連用修飾関係)、などのように、助詞や助動詞などが取れた「裸文節」と考えて区切ることができる。『改訂日本点字表記法』では、このような判断基準を提示したのである。しかしながら、これらの例のように、漢語であればまだしも、和語や外来語の場合は、判断がきわめて難しい。そこで、今回はこのような判断基準は採用しなかった。

 今回は、「自立可能な意味の成分」と「拍数」という二つの判断基準を採用した。「自立可能な意味の成分」というのは、語の構成要素であっても、それ自体で一つの自立語として独立的に用いられることがある成分を指している。また、「拍数」は、日本語の「音」に対応する基本単位であって、一定の時間的長さを持っているから、その数を指折り数えることができ、長さを量的に計るにはきわめて合理的な単位であるとともに、日本語の話し言葉などのリズムにも対応しているので、判断基準としてきわめて優れている。ただ、「拍数」だけを機械的に扱うと、意味の理解を妨げることもあるので、常に「自立可能な意味の成分」と「拍数」とを、二つ併せて判断することが必要である。そこで、3拍以上の自立可能な意味の成分が二つ以上あればそれらを区切ることを原則とするとともに、2拍以下の意味の成分は、副次的なものは続け、独立性が強い場合は区切るという「切れ続き」の原則とした。この原則は、自立語の一部で特別な場合である固有名詞にも同じように適用することとした。また、これらは、日本語の語種を越えてすべてに共通とした。ここでは、比較的わかりやすい漢語から、「自立可能な意味の成分」と「拍数」との関係を取り上げる。

 漢語を構成する漢字音は、漢字1字で1拍か2拍の二通りしかなく、2拍の方が1拍より圧倒的に多い。また、漢語の中では、2字漢語が最も多く、3字漢語と4字漢語がそれに続き、これら3者で漢語の大部分を占めている。その結果、2字漢語では、「学校」のような4拍と「国語」のような3拍のものが大部分を占め、「幾何」のような2拍のものはまれである。また、3字漢語では、2字漢語の前か後ろに2拍以下の副次的な意味の成分が付け加えられたものが多いから、6拍から3拍の間に納まる。4字漢語は、2字漢語が二つ結合してできたものが圧倒的に多いから、その境目を区切って、「シカ□イシ(歯科医師)」のように2拍と2拍から、「カイソク□トッキュー(快速特急)」のように4拍と4拍の間に収まることとなる。ただ、「フレンゾクセン(不連続線)」のように2字漢語の前と後ろに副次的な意味の成分が付け加えられたものもあって、これらは二つに区切ることはできない。これらはきわめて例外的なものであるから、漢語に関しては「切れ続き」の原則は全く問題はない。

 外来語の場合は、従来から基となっている欧米の言語が分かち書きされているので、それを知っている人にとっては、それに従いたくなることが多かった。しかしながら、英語であれば、元の綴りを知っている人は多いかもしれないが、その他の言語に関してはそれほど期待できない。また、たとえ英語であっても、外来語はもう既に日本語になっているものであるから、日本語として判断すればよいのである。カタカナで書かれた外国語(外国の地名や人名も含む)も、まだ日本語化の程度は少なくても、カタカナで書かれている以上日本語として取り扱っていいのである。例えば「グレープ□フルーツ」と書いてしまうと、「ぶどう」と「果物」となるから切りたくないと考える人もいるが、「ぶどうの房のような外見をした果物」と考えれば区切っても何ら差しつかえはない。また、「インター□ナショナル」について、「インター」は接頭語であるから続けるという考えもあるが、これらの判断を一般的にするには無理がある。そこで、外来語についても、「切れ続き」の原則を適用させても大勢に影響はない。そのうえで、意味の理解を妨げるような場合は、例外的に続けてもよいこととしたのである。

 和語については、耳で聞いただけでもわかる言葉が多いので、少し長くてもわかるという意識が働きやすい。特に、動詞の連用形から転成して名詞になった語については、動詞の連用接続の意識も働くので、続けて書きたいという人も多い。ただ、動詞から転成した部分が前にあるのか、後ろにあるのか、あるいは両方にあるのかによっても多少ニュアンスの違いがある。動詞の転成名詞であるのかどうかとか、それがどの部分にあるのかを判断することはそう容易なことではない。そこで、和語についても、「切れ続き」の原則を適用することとした。そのうえで、「シタテオロシ(仕立て下ろし)」の「オロシ」のように、自立性の弱い動詞からの転成名詞については、続けてもよいこととしたのである。

 いずれにしても、できれば子供にもわかるような単純明快な「切れ続き」の原則を目指したので、語構成論の立場からは説明しにくいところもあるが、実用的な観点で合理的な判断基準を考えることが大切である。

 

5.表記符号の接続とマスあけおよびその優先順位

 日本語を書き表すためには、「拍」に対応している点字仮名と、数字やアルファベットを用いるとともに、語や語の構成要素の区切り目を、「分かち書き」や「切れ続き」で表している。しかしながら、このような日本語の実質的な部分を書き表す記号のほかに、文の構造の段階や、語句の強調・引用・説明、あるいは語句と語句との関係などを書き表すための符号類が必要である。

 これらの符号類は、最近の国語学では、表記符号と呼ばれている。これらの表記符号は、明治時代には墨字でもあまり多く用いられてはいなかった。点字でも、その時代の影響をのちにまで強く受けて、表記符号を無視する傾向が最近まで続いた。墨字では、ここ数十年間に表記符号が次第に多く用いられるようになり、最近ではこれがないと、文章の正確な意味を理解するのに困難を生ずる場合も少なくはない。そこで、日点委の発足以来、触読性を十分に配慮しながら、必要な表記符号を追加し、その用法を検討してきた。点字の表記符号の中には、(1)句読符、(2)囲みの符号、(3)関係符号、(4)文章構成関連符号などがあり、その用法については、第1編第4章の第1節〜第3節および第5節にそれぞれ説明してある。

 表記符号は、符号だけを取り出して覚えて、点字仮名や数字あるいはアルファベットなどと混ぜて用いることはできない。すなわち、表記符号の前と後ろの接続とマスあけがきわめて重要なのである。言い替えれば、表記符号は接続とマスあけがセットになってはじめて符号と言えるのである。そのため、第1編第1章第4節の表記符号の表では、各符号の前と後ろの接続とマスあけを明記してある。また、第2編IVの点字記号一覧の中でも同じように表記してある。ここでは、表記符号全体を通して、接続とマスあけの観点からまとめてみることとする。

 句読符のうち、文末の区切りを表す句点・疑問符・感嘆符は、前の語句に続け、後ろを二マスあける。英語のように一マスあけでよいという意見もあるが、大文字符を考え合わせると英文では一マス半あいているし、長い間文末の二マスあけになれてきた日本文では二マスが妥当であろう。文章構成関連符号の詩行符類もこれらと同じ扱いになっている。なお、文中の疑問符や感嘆符あるいは見出し番号の後ろにくるピリオドは後ろを一マスあける。

 句読符のうち、読点と中点は前の語句に続け、後ろを一マスあける。文章構成関連符号の小見出し符類もこれらと同じ扱いである。いずれにしても、これらの句読符類や文章構成関連符号類を、後ろの記号と続けてしまうと、別の記号になってしまう。例えば句点や疑問符は特殊音の前置点になるし、読点は外字符となるから、マスあけを0記号と考えて、マスあけを含んだ形で一つの表記符号と考える必要がある。また、一マスあけか二マスあけかの問題については、おおむね区切り目の大きさが反映したものと考えてよい。

 引用・強調・説明などを表す囲みの符号は、開き符号と閉じ符号とから成り、該当の語句や文を前後ろから囲んでいる一組の符号である。そこで、カギ類・指示符類・カッコ類の内側は続け、外側は分かち書きの規則に従うことになっている。なお、点訳者挿入符は、点訳者が付け加える説明を囲むものであるから、著者の説明を囲むカッコ類と同じ扱いでよい。また、付加記号の発音記号符も、これらの囲みの符号と同じ扱いである。さらに、段落挿入符類は、囲みの内側を一マスずつあけるが、これは点訳者挿入符や二重カッコと区別するためにやむを得ず行ったもので、0記号としてのマスあけを含んだ3マス符号と考える必要がある。段落挿入符類の外側については、これらで囲まれた部分が一つの段落をなすので、行替えと同じ扱いなのである。

 関係符号のつなぎ符類と波線は前後ろを続ける。これに対して、関係符号の矢印類と棒線や点線は、前後ろを一マスあける。これは続けると別の記号になるからである。また、関係符号の空欄符号と文中注記符は、他の記号類に変わる恐れがないので前後ろを続けることもできるが、星印類は後ろと続けることはできないので一マスあける。なお、第3星印の前は、別の記号にならないので続ける。第1星印と第2星印は行頭でしか用いない。

 次に問題となるのが表記符号間の優先順位である。例えば句点の後ろに第1カッコの閉じ符号がきた場合、句点を優先させて二マスあけるのか、それとも第1カッコを優先させて続けるのかという問題である。そこで、今回この問題を取り上げ、第1編第4章第4節に記述した。

 第1優先順位に属するのは、(1)句読符の前は続ける、と(2)囲みの符号の内側は続ける、それに(3)波線の前後ろは続ける、の三つである。これらは互いに競合することはないので、迷わず続けることができる。なお、段落挿入符類の内側は一マスあいているが、マスあけを含めた3マス符号として取り扱うことについてはすでに述べているので、迷うことなく、この順位として扱うことができる。

 第2優先順位に属するのは、(1)句読符の後ろのそれぞれ必要とする一マスあけか二マスあけと(2)矢印類・棒線・点線の前後ろの一マスあけである。これらは、第1優先順位のものより弱いから、句読符の後ろは、囲みの符号の閉じ符号の前とは続くことになる。また、棒線や点線のあとに句読符がくれば、当然続くことになる。なお、この順位内部での(1)と(2)は同等で、優先順位がないから、文脈によってどちらかを選択する必要がある。例えば句点のあとに矢印類がきた場合、そこが一マスあけか二マスあけかは、文脈によって文と文との方向が問題なのか、文の区切りが強いかによって変わってくるのである。

 第3優先順位に属するのは、囲みの符号の外側は他の記号や分かち書きの規則に従って書き表すということである。この場合、段落挿入符類は、行替えの扱いをするから除くとして、その他の囲みの符号の外側は、第1優先順位と第2優先順位に属する規則が優先するということである。

 以上述べてきたように、表記符号は、接続とマスあけがセットになった符号である。また、これらの表記符号間の優先順位によって、個々の符号の接続とマスあけが変わることがあるので十分配慮して表記符号を書き表すことが必要である。このほか、文章の構成に関連して、点字仮名体系以外の体系に属する記号類の扱いや、行替えや行移しなどの問題もあるが、それらについては、第1編第4章第4節と第5節を読むだけで理解していただけると思われるのでキーワードの解説はこれだけにとどめることとする。

トップへ


「あとがき」

 日本点字委員会(日点委)は、日本の点字表記法を決定する唯一の機関として1966年に結成され、点字表記法の統一と体系化に努めてきた。まず、不統一が目立つ点を調整して、1971年に『日本点字表記法(現代語篇)』を発行した。また、統一と体系化を一層推進するために、特殊音点字や表記符号、長音などの仮名遣いや分かち書き、および句読法などを根本的に見直して、『改訂日本点字表記法』を1980年に発行した。その後、点字の記号や仮名遣いについては、全国的な合意が得られ、ほぼ統一されようとしている。

 このような情勢を受けて、1982年に選ばれた日点委第4期の委員は、点字表記法の体系化を目指して、基本的な問題と取り組んだ。まず、第1に、現代仮名遣いの改定作業を行っている国語審議会に、点字表記の立場から意見書を提出し、高く評価されたこと、第2に、外来語の切れ続きについて、拍・意味・語法の3点から検討を続けたこと、第3に、今後必要とされる表記符号の検討を続けたことが主な活動であった。その間、「仮名遣い」や「複合語の語構成」などについて、国語審議会委員でもある辻村敏樹早稲田大学教授と、野村雅昭国立国語研究所言語計量研究部長を招いて基礎的な学習をした。また、石川県点字・触図研究会が行った拍数と読みの速さなどに関する実験の結果などを検討した。その上で、日本点字委員会結成20周年を迎えた1986年6月の第20回総会で、点字表記に関する検討課題を20項目にまとめた。

 今回の点字表記の見直しは、1986年に選ばれた第5期の委員によって、第21回総会(1986年11月)から第25回総会(1990年4月)にかけて行われた。第5期の委員は次のとおりである。

 盲教育界代表委員は、秋元喜代子(大阪市立盲学校)、金子昭(神奈川県立平塚盲学校)、金沢明二(愛知県立名古屋盲学校)、小林一弘(東京都立久我山盲学校、現東京都立葛飾盲学校)、清水英郎(兵庫県立淡路盲学校)、宮村健二(石川県立盲学校)、目黒伸一(福島県立盲学校、のちに宇和野泰弘[宮城県立盲学校]に交替)の7名である。

 盲人社会福祉界代表委員は、岩下恭士(毎日新聞社・点字毎日)、岩山光男(名古屋ライトハウス図書館)、下沢仁(日本点字図書館)、高橋秀治(東京ヘレン・ケラー協会点字出版局)、西尾正二(カトリック点字図書館)、疋田泰男(日本ライトハウス点字出版所)、肥後信之(東京点字出版所)の7名である。

 また、学識経験委員は、阿佐博(東京ヘレン・ケラー協会点字出版局)、海藤弘(山形県立山形盲学校、のちに及川巳佐男[北海道札幌盲学校]、ついで閑喜昭史[大阪府立盲学校]に交替)、木塚泰弘(国立特殊教育総合研究所)、永井昌彦(花園大学)、本間一夫(日本点字図書館)、宮田信直(日本ライトハウス)、村谷昌弘(日本盲人会連合)の7名である。

 これらの委員の中から、会長には本間一夫が、副会長には阿佐博と海藤弘(のちに及川巳佐男、ついで閑喜昭史に交替)が、事務局長には下沢仁が選ばれた。事務局員には、加藤俊和(日本ライトハウス点字出版所)、当山啓(日本点字図書館)、原圭己(旧姓江村、筑波大学附属盲学校)、藤野克己(岐阜訓盲協会点字図書館)、藤森昭(東京ヘレン・ケラー協会点字出版局)、水谷吉文(天理教点字文庫)の6名が委嘱された。

 なお、第4期では、越沢洋(元岐阜県立岐阜盲学校)、高橋実(元毎日新聞社・点字毎日)、本間伊三郎(元大阪府立盲学校)の3名も委員であった。

 第5期における検討の経過は以下のとおりである。現代語の仮名遣いについては、国語審議会の答申を受けて、第20回総会で結論が出ていたので、第21回総会と第22回総会(1987年8月)では、複合語の切れ続きの原則や表記符号の変更・追加をはじめとして検討すべき課題を一つずつ審議していった。第23回総会(1988年8月)では、これらの審議結果を踏まえて、木塚がまとめた原案を基に、第1編「点字の表記」に含まれる規則や用例の検討を行った。その結果、『日本点字表記法 1990年版』編集委員会を構成し、具体的な作業を進めることとなった。編集委員は、阿佐博、加藤俊和、金子昭、木塚泰弘、小林一弘、下沢仁、当山啓、藤野克己、藤森昭、水谷吉文、宮本健二の11名で構成し、委員長は木塚泰弘が務めることとした。

 第1・第2回の編集委員会で原案をまとめ、第24回総会(1989年4月)で討議した結果を、さらに、本間会長も加わった第3・第4回の編集委員会で文章表現や用例の検討を行った。その結果を、「日本の点字」第15号および『日本点字表記法 1990年版」第1編点字の表記(草案)として公表し、広く点字関係者の意見を求めた。各方面から多くの意見が寄せられたので、第5回の編集委員会でこれらを整理し、国語審議会の「外来語の表記」に対する対応案を加えて、第25回総会(1990年4月)に提案した。その後、第6・第7回の編集委員会において、第1編の調整を行うとともに、委員長から提案された第2編「参考資料」の検討を行った。この間、関東や近畿の月例研究会で検討したり、委員からの手紙による修正意見を加えて編集を完了した。

 今回は、点字と墨字の原稿をほぼ同時に並行して作成していったが、パソコンのワードプロセッサ機能の威力によるところが大きかった。このような編集作業を通して、下沢事務局長および事務局担当の編集委員の献身的な仕事ぶりがきわめて印象的であった。また、オブザーバーとして総会に出席したり、各地域の研究会に常時参加して、編集作業を積極的に支えてくださった方々に深く感謝している。

 表紙のデザインを担当してくださった横浜市立盲学校の霧生明良教諭、グラビアを担当してくださった日本点字図書館の伊藤宣真さん、および故鈴木力二元東京都立葛飾盲学校長が苦心して集めておられた写真を提供してくださった下田知江元附属盲教諭、および原稿の遅れを取り戻してくださったサン・ブレインの遠藤謙一さんに深く感謝している。最後に、終始編集作業を支えてくださった下沢幸子さんに編集委員一同心からお礼を申し上げる次第である。

1990年11月1日

『日本点字表記法 1990年版』編集委員会

委員長 木塚 泰弘

 

出典:「日本点字表記法 1990年版(日本の点字制定100周年記念)」、pp.77-111, 155-157)、編集・発行 日本点字委員会、1990年11月.


トップへ

目次に戻る