1.2 点字表記法の体系化の過程

1.2.1 日本点字委員会プラン

都立久我山盲学校
木塚 泰弘


内容

  1. 日点研の残したもの
  2. 日点研の組織と点字統一問題
  3. 日点研解散と善後処置
  4. 日本点字委員会会則原案
  5. 原案の補則説明
  6. 終わりに
  7. <資料> 日本点字委員会会則案

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1)日点研の残したもの

 設立以来10年間に日点研は多くの仕事をした。全く勢力的であったと言えよう。中でも「点字文法」の発行と、その改訂が最大のものと言い得る。

 点字は従来経験的・便宜的に取り扱われ勝ちであったが、それを文法的に裏付けようと意図し、多くの成果を残した事が「点字文法」の歴史的意義であろう。

 ともかく文字について、「音節文字」分かち書きについては「分節分かち書き」と言う第一原則を、細部にわたって貫徹されたと言ってよいであろう。しかし何を音節とし、何を文節とみるかと言う点について、国語学的問題を残している部分も多少はある。

 つぎに第二原則の問題がある。墨字が表意文字である感じを用いている現状では、音節と音節との関係に充分の考慮をはらわないと理解し難い点字になってしまう。殊に長音符が長母音符号と単母音繰り返し符号の二重の意味を持たされている現行の点字では、多少の問題を含んでいる。

 分かち書きについても、一分節内のマスあけ、特に接頭辞や複合語などのマスあけと分節の切れ目のマスあけとの間に多少の混乱を引きおこし。意味の理解をさまたげているのは、文節内のマスあけについての第二第三の原則が確立していない為である。

 これらの問題は国語学者の助力を得て。時間をかけた検討がなされなければ解決は困難であろう。

 その外に数字の書き現わし方や略字の問題などがある。これらの問題についても安易な便宜的取り組みでは、すぐれた解決案は生まれて来ないのではなかろうか。

 要するに日点研は国語点字表記法の基礎を築いた。そして残された問題は、専門的で継続的な研究を必要とするものばかりであると言い得るであろう。

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2)日点研の組織と点字統一問題

 日点研は全国にまたがる大きな組織であり、地域ブロックの連合体の形態をとっている。この事が「基礎作り」に大きな役割を果たしたと言えるであろう。しかしこの組織が真の力を発揮する為には、各地域ブロックの共同研究体制が確立し、活発な活動を行わなければならない。それがうまく行われたのは近盲点字グループだけではなかろうか。そして、このグループが先頭に立って日点研の活動を推進して来たと言っても過言ではなかろう。関盲点字グループは最近になってようやく共同研究の気運が盛り上がり、この事が現場から要望の強い「点字統一問題」へと基盤づくりに役立っているように思われる。この両地域以外の場合、遠隔の為旅費その他の関係で常任委員会の遠出さえ困難であることを責める事は出来ないであろう。このように地域ブロックの連合体と言っても、10年の間に格差が生じて来た。もう一つ日点研は教員の集まりであるような誤解をもたれている。それは総会の日時が全日盲研の前日にもたれる為、教員の出席者が多くなる結果をまねいた事と無関係ではあるまい。また日盲社協に点字研究会が出来たことと関連して、教員と出版者側とに何か対立があるかのような印象を与えたのは残念である。ともかく現場にある程度の混乱を引き起こしている以上、今後は共通の土俵、しかも拘束力のある組織をつくる必要があろう。そして理論的裏付けのもとに権威ある決定を行い、皆が納得して実施していく事が望ましい。その為には毎年変る点字委員によって単純多数決で決定するのではなく、あらゆる場合を考慮した事例研究と理論づけを行なう為に、継続的に研究成果を積みあげる機関でなくてはならないであろう。

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3)日点研解散と善後処置

 日点研を解散して全日盲研に移行させようと言う意見が3・4年前からの日点研総会で主張され、昨年度の総会で1年後の解散が予定された。

 もし日点研が全日盲研に移行すれば、加盟校の負担金や出張旅費の点で問題がなくなり、教員にとっては好都合である。しかし出版界などにとってはますます意見の出し難くい場となるであろう。その上2・3年に一度しか開かれない分科会では継続的な研究成果の積みあげは困難となり、日点研のような精力的事業活動を行なう事はむずかしくなるのではなかろうか。

 そのように考えて、私は日点研解散後の処置について、全日盲研と日盲社協が代表委員を送り、学識経験者をまじえて委員会を作る事、この会の決定事項には全員が従う事、全日盲研点字分科会は点字の指導法の研究に重点を置く事、日盲社協の点字研究会は出版点訳などの問題に重点を置く事、以上の内容を骨子とする提案を行なった。そして多くの方の賛成を得、事務局でも検討してみる事となった。その後京盲の永井先生と具体的な問題について話し合い、関係者の御意見を聞いて廻って具体案を作り、関盲点字グループの全会一致の賛成と近盲点字グループの賛成を得た。そこで日本点字委員会会則の原案を作成し、次にかかげるので御検討の上、7月23日の日点研総会において審議していただきたい。なお臨時移行措置も検討していただきたい。

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4)日本点字委員会会則原案

 (文末資料参照)

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5)原案の補則説明

 この会則原案をお読みいただければ充分御理解願えると思うが、蛇足ながら若干の説明を付け加えたい。

 第2章組織について委員の任期を6年としたのは、1)今後研究内容が継続研究を必要とするので、ある程度長期の研究を要すること。2)全日盲研点字分科会が2年もしくは3年毎の会になった場合、毎回人事問題が議題になるので、研究発表にさかれる時間と精力がそがれる事などの為である。

 両会代表委員の数については、多過ぎる、もしくは少な過ぎるとの御意見がおありと思うが、必要最小限度の数として出発当初は、このくらい必要であると考えたからである。

 各界学識経験者のうち点字研究者と言うのは、鳥居先生のような学識と実績のともなった方を考えている。また国語学研究者と言うのは、国語音韻諭や国語文章論の研究者を国語研究所のような機関で紹介してもらえばと期待している。

 第3章役員について、会長副会長については、学識経験者をまじえた委員の中から適任者を選び、事務局長については代表委員でも事務局担当委員でも最適と思われる人を選べばよいと思っている。

 第4章会合のうち、委員総会の採決が四分の三と言うのは、意見が分かれている問題については、充分納得がいくまで討論してからでなければ結論を出さないようにする事が、結局は外部に出してから混乱を引き起こさない事になると考えたからである。

 専門委員会についての規定は、専門委員の立場を充分に生かしながらも点字の問題について、この委員会が最終責任を負うのだと言う精神を生かしたからである。

 第5章事務局および事務について、この委員会は研究決定を行なう活動と、事業を推進する活動が充分の成果をあげるように、事務局を重視した。また経費の問題については、活動に必要な経費はなんとか見通しがついている。

 第6章付則については、会則改訂の必要同意数は出席者ではなく、全委員の四分の三として慎重な取り扱いをする事にした。また臨時移行措置については、全日盲研事務局と日点研会長との話合いで空白期間がないようにする為、このように定めたのである。

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6)終りに

 点字は私たちの生活の一部であり、それだけに愛着が強い。日点研はそんな私たちの上に支えられていた組織であった。それが私たちの代表であるにしても、一部の委員にまかせてしまうと何だか寂しいような気持ちがする。そして間接的にしか発言出来なくなるのではないか、また全日盲研や日盲社協に加入していない団体や個人の場合、どうして意見を反映させたらよいのであろうか、もしこのような声が無視されるようでは問題である。そこで、この委員会原案では毎年定期的に会誌を発行し、諸団体・施設や定期購読者に送ることを考えている。これには委員会の決定事項や意見など広報的なものは勿論のこと、点字分科会や点字研究会のニュースや研究紹介、それに多くの個人やグループの研究紹介や意見発表に多くを期待しているのである。決定こそ一任するが研究には大きく門戸を開くべきであると思う。

 いわゆる「点字統一問題」についても、日点研が多くの基礎づくりを済ませている後は日本点字委員会が専門的・継続的研究の成果の上に権威ある決定を行うのを待つばかりである。

 盲人が内外の文化遺産をただ点字に翻訳し、それに適応しているだけでは少し寂し過ぎる。勿論閉鎖的な「盲人文化」を主張しているのではない。国語学者をまじえて点字の表記法の研究をすることが日本語の分かち書きの基礎理論になんらかの寄与をする事も単なる夢ではないと思う。そんな研究を委員会に期待しているのである。一つの点を左右上下の何処に位置づけるかをめぐって激論する事も時にはよいであろう。しかし私たちも同音異義語の解決を始めとして、分かり易い日本語や文を使い育てる事につとめ、耳で聞いても点字・漢字どちらで書いても充分に理解できるような普遍的な文化財を作り出して行きたいものである。

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<資料> 日本点字委員会会則案

第一章 総則

第一条(名称) 本委員会は日本点字委員会と称する。

第二条(目的) 本委員会は盲教育界。盲人社会福祉会など関係各界の総意にもとづき、日本の点字表記法を決定する唯一の機関として、広く各界の研究成果を積みあげ、未来への展望のもとに権威ある決定を行ない。その普及徹底をはかる事を目的とする。

第三条(事業) 本委員会はその目的を達成する為につぎの事業を行なう。

1)点字表記法の決定および集成。

2)点字の普及徹底。

3)内外における関係諸団体との連絡交渉。

4)広報および研究紹介などの為の会誌の発行。

5)その他、必要な関係事業。

第二章 組織

第四条(構成) 本委員会は盲教育界代表委員、盲人社会福祉会代表委員、各界学識経験者の委員、および事務局担当委員で構成する。

第五条(委員選出) 本委員会の委員の任期は六年とし、留任も可とする。その選出の方法は次の通りとする。

1)盲教育界代表委員(5名)。全日本盲教育研究会点字分科会において推薦し、総会の承認を得て選出する。

2)盲人社会福祉会代表委員(5名)。日本盲人社会福祉施設協議会点字研究会において推薦し、総会の承認を得て選出する。

3)各界学識経験者の委員は、点字研究者・国語学研究者などの中から若干名を、両会代表委員会において協議し選出する。

4)事務局担当委員(2名)。全日本盲教育研究会事務局および日本盲人社会福祉施設協議会事務局が各1名づつを選出する。

第三章 役員

第六条(役員) 本委員会は会長・副会長および事務局長各1名の役員を置く。

第七条(役員選出) 本委員会の役員は委員総会において互選し、その任期は6年とし、留任も可とする。

第八条(役員の任務) 本委員会役員の任務はつぎの通りとする。

1)会長は本委員会を代表し、会務を総理する。

2)副会長は会長を補佐し、会長事故ある時はこれにかわる。

3)事務局長は本委員会事務局の処理を推進する。

第四章 会合

第九条(会合) 本委員会は委員総会・両会代表委員会・専門委員会・小委員会・事務局会などの会合を行なう。

第十条(委員総会) 委員総会は本委員会唯一の決定機関で、会長が召集し、年1回以上開かれ、委員の三分の二以上の出席をもって成立し、その決定は出席委員の四分の三以上の同意をもって有効とする。

第十一条(両会代表委員会) 両会代表委員会は盲教育会および盲人社会福祉会の代表委員で構成し、各界学識経験者の委員の選出を行なう。

第十二条(専門委員会) 本委員会は楽譜・数学記号および理化学記号など特別の分野の問題について審議する為、委員総会において臨時に若干名の専門委員を選出し、担当委員と共に専門委員会を構成する事が出来る。専門委員会の任務は委員総会より委託された事項の審議を行ない、委員総会に答申する事であり、その任期は委員総会の決定および公表をもって委託事項が終了する時までとする。

第十三条(小委員会) 本委員会は原案を検討するため、若干名の委員により小委員会を構成することが出来る。

第十四条(事務局会) 本委員会は会誌の編集その他必要な場合、事務局会を開くことが出来る。

第五章 事務局および事務

第十五条(事務局) 本委員会の事務局は事務局長および事務局担当委員などによって構成し、本委員会の事務処理に当る。

第十六条(事務局員) 事務局長は必要な場合、会長の承認を得て若干名の事務局員をおく事が出来る。

第十七条(会計) 本委員会の経費は補助金・寄付金などをもってこれに当てる。

第十八条(事務局担当事務) 本委員会事務局はつぎの事務を行なう。

1)委員会名簿および関係諸団体住所録の常置

2)諸会合の記録簿の保管

3)会計簿および各年度の会計決算報告書の作成

4)会誌の編集および発行

5)諸連絡通知の事務

6)その他関係事務

第六章 付則

第十九条(会則改訂) 本委員会会則は全委員の四分の三以上の同意を得て改訂することが出来る。

第二十条(細則) 本委員会は必要な場合、細則を定める事が出来る。

第二十一条 本会則は昭和41年7月24日より実施する。

第二十二条(臨時移行措置) 全日本盲教育研究会点字分科会の活動が軌道に乗るまでの臨時移行措置として、初年度の盲教育会代表委員は日本点字研究会最終総会において推薦し、全日本盲教育研究会総会において承認して選出する。

以上

出典:「日本点字研究会 会報」、No.19、pp.2-8、日本点字研究会、1966年7月.


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