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強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型の流体力学極限

このページは下記第3段落,「実際に行った証明は」で始まる1文を読んで 続きを読みたいと考える読者を対象としているページで, おおむね以下の読者を想定しています:

(2019.01追記)このwebページ作成後約1年を経て,日本数学会の学会誌(?)の 「数学」(岩波書店)編集部から論説「確率的順位付けの数理モデル」の執筆依頼を いただきました.

(2019.06追記)偶然時期が重なったようですが,日本数学会統計数学分科会からも 日本数学会秋季総合分科会(2019.9 金沢大学)の企画特別講演の発表依頼を いただきました.

上記2件は このwebページの以下の,強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型の流体力学極限 の解説を主軸にして,それ以前の(このwebページの親ページで解説した研究初期の) 研究の位置づけも解説しています. 数学会会員向けを意識して説明をぎりぎりまで 詰めて簡潔にした一方,以下を踏まえてそれよりも数学的に整理したつもりなので, その原稿pdf(以下のリンク)も参照いただければなお以下の内容が わかりやすいかもしれません.

  1. Amazonランキングと確率順位付け模型の流体力学極限」 2019年日本数学会秋季総合分科会企画特別講演アブストラクト (2019.9 金沢大学)
  2. Amazonランキングと確率順位付け模型の流体力学極限」 2019年日本数学会秋季総合分科会企画特別講演スライド (2019.9 金沢大学)
  3. Hydrodynamic limit of stochastic ranking process」 研究集会「大規模相互作用系の確率解析」講演スライド (2019.11 大阪大学)
    English version of Hydrodynamic limit of stochastic ranking process
  4. 確率的順位付けの数理モデル」 数学71- (2019) - ,日本数学会,岩波書店
(追記終わり)

本書「Amazonランキングの謎を解く」 および親ページの説明は,確率順位付け模型の原型( 強度に位置依存性のない確率順位付け模型)を念頭に置いています. これに対して, 「Amazonランキングの謎を解く」以後の研究は, 強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型の数学的整備に時間をかけました. 研究費応募の際に(数学から応用まで)「細いが真っ直ぐな道」と例えた内容です. 数学技術の側面を見ると, 強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型は 従属性を強度関数の定義を通して(通俗的表現では,「手で」)入れるので, 見るべき量の選択のような単純な方法(数学的トリック)で 粒子(確率過程)間の従属性を 解消できません. したがってそのままでは極限定理を独立確率変数列の大数の強法則に持ち込めず, 技術的に細かい話になります. (数学的解析技術に興味がある向きには, 古典的かもしれませんが「ネタ」が残っているように思います.)

実際に行った証明はとても初等的というか基本に忠実なやりかたで, (propagation of chaosの意味で)同じ極限確率過程を与えうる枠組である 独立粒子系模型(「流れが定める強度」に従う確率順位付け模型) と呼ぶ中間模型(いわば,流体力学極限の理論における局所平衡の類推)を発見し, 独立確率変数列の大数の完全法則によって その新たな模型無限粒子極限の存在を示したのち, この極限流と強度に代入した流れのずれに関して 「流れの空間」上の縮小写像の原理を用いることで 初期値境界値問題として整合する流れがただ1つ決まることを示し, 元の(従属性を持つ)模型がこの極限流に無限粒子極限で収束することを 従属性を摂動とするGronwall型の議論で証明します.

以下,もう少しだけ説明を追加しますが,詳しくは 論文リストに置いた原論文,特に,

を参照下さい.以下は以上の論文の紹介程度の記述です.


0. 親ページで説明した原型の模型と,このページで紹介する「強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型」の違い

親ページで原型を紹介したとおり, 確率順位付け模型では,特定の粒子(例:web書店における自著)に注目して, その位置の時間変化(例:自著のweb書店のランキングにおける順位)を追うと, 流体の中の流体粒子のように「流れ」に乗っている間は (無限粒子極限では決定論的に)他の粒子の間に挟まって順位変化しますが, ときおりランダムに蒸発して原点(最上流)に跳びます (例:自著が売れるとモデルの定義によっていきなりランキング1位になる).

モデルの定義は,強度に位置依存性が無ければ,蒸発時刻(例:売れる時刻)は ポワッソン分布に従い,粒子間で独立です.この場合,注目している粒子の 初期時刻からの累積蒸発回数(例:自著の売上部数)は独立増分な 確率過程で,ポワッソン過程と呼ばれ,その期待値は強度と呼ばれます. 本来のポワッソン過程は強度が時刻によらない定数ですが,強度が時刻の関数でも 数学的にほとんど同様の手続で独立増分な確率過程が定義できます. 模型に登場する各粒子がそれぞれ異なる関数形の強度 (例:本の購入層毎に異なる社会活動の昼夜差による平均の売上の時刻依存性) を持っていても, 強度関数の分布を関数の集合上の分布としてとらえた上で 無限粒子極限を考えることで, 親ページで紹介した原型のように(蒸発の独立性を利用して) 独立確率変数列の大数の強法則を用いて無限粒子極限の存在を証明できました.

これに対して, 海水を緩やかな傾きの樋に流して蒸発させて塩を作る製法に例えると, 樋の場所によって温度差があるとき(例:ランキングで上位にいると注目されて 売上が本来より大きくなる効果がもしあれば),蒸発率は時刻だけでなく 位置にも依存します.これがこのページで紹介する, 「強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型」です. 注目している粒子の位置はそれ以外の粒子のランダムな蒸発に依存するので, 独立確率変数ではなく,従属性があります.強度という,外から与えた関数が, 位置に依存することは,(原型の強度が位置に依存しない場合と対照的に, 見るべき量の変更のような単純な方法でこの従属性を避けることができない,) 本質的に多数の粒子(確率過程)の間の従属性が組み込まれている ということです. 当然無限粒子極限の存在証明は数学技術的に難しくなり, 極限自体も原型に比べて複雑になります.


1. 強度が直前の到着時刻に依存する点過程

強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型の無限粒子極限は存在しますが, それを証明するにあたり,極限があるとしてどのようになるはずかを考えます.

極限では(粒子群の極限の)「流れ」は決定論的,つまり,確率変数としては サンプルによらない定数(位置を表す時刻の関数の初期・境界条件についての族 が1つ,ランダムな到着時刻(蒸発・購入)のどの組み合わせでも同一の族, ということ)です(それが流体力学極限という言葉の一番おおもとの由来). したがって,注目する粒子の極限はある時刻に蒸発して原点(最上流)に跳ぶと, その時刻に原点から始まる流線(時刻について非増加な定論的な関数で決まる位置) に従って決定論的に流れるので, 次の跳びのランダムな時刻の分布は直前に原点に跳んだランダムな時刻から 決定論的に決まります. 結局,注目する粒子の蒸発回数の時刻依存性は独立増分なポワッソン過程ではなく, 直前の蒸発で決まる強度を持つ点過程というべきものになります. 模型の本質的な従属性が,(流体力学極限のタグ付けされた粒子の) 蒸発回数を表す点過程の非独立増分性という本質的な 複雑さに反映します.

非減少な非負整数値関数に値を取る確率過程を通常は点過程と呼び, 値が変化する時刻は蒸発ではなく到着時刻と呼びます. 特定の粒子の無限粒子極限での蒸発回数の時間変化は 直前の到着時刻に依存する強度を持つ点過程で表されることになります. この点過程の(ポワッソン過程に比べれば複雑だが,意外に)きれいな 性質や,ポワッソン過程の性質との関係などについては,
T. Hattori, Point process with last-arrival-time dependent intensity and 1-dimensional incompressible fluid system with evaporation, Funkcialaj Ekvacioj 60 (2017) 171-212. 240KB pdf file をご覧下さい. そのような確率過程は(不勉強で)他で見たことがありませんが, ポワッソン過程の構成(数学的に具体的な手順による存在の数学的証明)に 少し工夫を加えることで構成できます. (この点過程の周辺のことは,
T. Hattori, Open problems to an infinite system of quasi-linear partial differential equations with non-local terms, Symposium on Probability Theory, Kyoto, 2014/12, RIMS Kokyuroku 1952 (2015) 9-16. 120KB pdf file もご覧下さい.)


2. 「流れが定める強度」に従う確率順位付け模型

前段落の考察から,特定の粒子の時間変化に注目すると,無限粒子極限で 強度が直前の到着時刻に依存する点過程に収束する (ことが,この段階では予想される)ことから, 個々の粒子が強度が直前の到着時刻に依存する独立な点過程たちを 確率順位付け模型と同様に「並べた」模型(先頭に跳ぶ規則に従って 定義した多粒子系)は, 強度の分布を適切に調整しながら無限粒子極限を取れば, 元の模型(強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型)の無限粒子極限と 等しくなることが期待できます.(それが元の模型の流体力学極限の 存在定理の証明の全体像です.)

ここで極限が等しくなる,というのは, 「流れ」すなわち蒸発しない間の粒子たちの順序を保つ決定論的な 位置変化(流線=時刻の関数としての位置の集合)と, 有限個の粒子たち(タグ付けした粒子たち)の ランダムな時間発展(確率過程の系)の極限 の両方が2つの模型の極限で等しくなることを言います. 後者の意味の極限の一致はpropagation of chaosと呼ばれるようです.

この,「元の模型に比べて個々の粒子の確率的時間発展は (強度が直前の到着時刻に依存する非独立増分性を持つ意味で)複雑だが, その各粒子の蒸発(到着)時刻は粒子間では独立な模型」を (個々の粒子の蒸発(到着)時刻が流れから決まっているので,) 「流れが定める強度」に従う確率順位付け模型と呼びます. この模型は,蒸発時刻(点過程)の集まりとしては 無限粒子極限を独立確率変数列の大数の強法則によって証明できるという意味で, 元の模型の極限証明の中間段階にある補助的な模型です. この意味で,いわゆる流体力学極限で言うところの「局所平衡」模型の 類推になります.ただし,いわゆる流体力学極限は,対称マルコフ過程で 平衡状態があるのに対して,確率順位付け模型は物理としては, 熱を外部から供給し続けて蒸発をさせ続けて,蒸発した流体部分は上流から 流し直すことをしているので,非対称マルコフ過程で, 通常の熱力学の平衡状態はありません.ですから,あくまで 「中間的な,極限の構造が古典的数学でわかる,粒子系」という程度の 象徴的な意味での類推です. いずれにせよ,この独立粒子系模型を発見したことが証明を大幅に わかりやすくした(模型の具体的な時間発展を明らかにした)と思います. また,類推の続きで, 確率順位付け模型の無限粒子極限を流体力学極限と呼ぶことにします.


3. 関数値独立確率変数列の大数の一様完全法則

扱っているのは確率微分方程式系,すなわち 時間発展が時々刻々の多数の確率変数たちのランダムな値に依存する方程式で, しかも模型のあらわな解は望むべくもない本質的に従属確率変数列の問題なので, 上で局所平衡の類推と例えた中間模型と未知関数である本当の模型の差を 評価する不等式は両辺に未知関数を含みます. いわゆる(厳密な数学の解析で言う)摂動の処理を要する問題です. 中間模型は粒子の総蒸発回数については独立確率変数列の和で書けますから, その部分についての流体力学極限は既存の大数の法則に期待します. その際,収束が強いほど摂動論の評価が楽になる世の習わしを考えると, 大数の弱法則のような横着はせず,なるべく強い大数の法則を用いるべきです.

「強い収束」という言葉の中身を説明するために, 無限粒子極限と呼んできたものについて,(原型の場合の復習ですが,) 極限を取る量と位相をもう少しだけ具体的にしておきます. 最初に収束を証明する量(収束を証明すべき本質的に唯一の量)は, 各時刻にどこにどのような強度の粒子がどれくらいいるかの分布です. (すべての粒子の強度が違うと「分布」ということばが奇妙に みえる向きもあるかもしれませんが,強度関数も距離(似てる似てない)を 入れておくので,集合(似てるものをひとまとめにした対象)の割合という 意味で分布(集合関数)を考える意味があります.) 強度関数は粒子毎に固定していて強度関数自体が変わること(自著が突然 他人の書と入れ替わること)は考えないので, 強度空間の中の距離の選択は深刻ではありません. (位置との直積で極限を考えるからポーランド(可分完備距離)空間の範囲で, 強度が時刻と位置の連続関数ならば一様収束なども可.) 位置の距離は1次元空間(ランキング)なので普通の絶対値です. 位置はランダムなので経験分布(分布自体が確率変数)ということで, 位置強度結合経験分布の収束となります.

標準的な分布の収束は弱収束位相,すなわち, 分布(確率測度)で有界連続関数を積分して得る実実確率変数の(粒子数を添字 とする実確率変数列の)収束です(この粒子種類の空間分布の似てる似てないを 測る弱収束と,ランダムな粒子の蒸発(例:本の購入)の平均の揺らぎの消失に ついての大数の強法則の強弱は,まったく別の空間の話であることに注意). 原型の,強度に位置依存性のない模型では,1回だけ収束を言えば それがゴールなので,各時刻毎に実確率変数列の収束を言うだけでも 極限の分布の形があらわに確定して, 必要ならどんな量も計算できるので, ここから先にさほどのこだわりはありませんが, このページで説明中の模型は中間模型について収束を証明した後に それとの差を摂動として収束を追加証明するので, 証明戦略上,中間模型の収束はできるだけ強い収束を言うべきです.

その点から見ると,いま実確率変数列の収束と書いたけれども, 実際は時間発展するので,各時刻毎に実確率変数列であって, 時刻変数も考慮すれば関数値確率変数列の収束となります. そして摂動の時間発展を追いかける際の手間を考えると, 各時刻の極限と各項の差を時刻変数について一様に評価する (差の時刻についての最強の評価として最大値が収束することを証明する) べきです. さらに,極限が独立増分でない(強度が直前の到着時刻に依存する点過程で 記述される)ので,時間幅を時刻0からの経過時間に並行移動できない ことから,始終2時刻間の変化の極限との差を,始終2時刻について一様に評価する ことが求められます.

以上の意味の収束を, 位置強度結合経験分布(の列)で有界連続関数を積分して得た 時刻の関数に値を取る確率変数列すべてについて言えば, 位置強度結合経験分布の弱収束を始終2時刻について一様な評価で 言ったことになりますが, 実際にはすべての有界連続関数について証明しなくても良いことは よく知られています.たとえば特性関数は有界連続関数として 実数ξをパラメータとする複素指数関数 exp(√(-1) ξz) を 選んだ場合ですが,特性関数(この選択のξについての族)について 収束を言えば十分です.

さらに,位置は実数なので,特性関数の代わりに分布関数でも十分です. (分布関数は有界連続関数ではなく,階段関数を分布で積分したことになりますが, 確率順位付け模型は位置方向への周辺分布が連続分布に収束する (模型の定義から殆ど自明に一様分布に収束します)ので, 同値な条件になります.)そして分布関数を, 通常のように原点(流れの上流)からではなく, x=1(流れの最下流)を含む区間たちに基づく分布関数たちに選ぶと, 強度が位置によらない確率順位付け模型の結合経験分布による積分は 独立確率変数たちの和(算術平均)で書ける (先頭に跳ぶ規則で有効な基本トリック)ので, 標準的な独立確率変数列の大数の強法則に持ち込めます.

今,大数の強法則と書きましたが, 流体力学極限の粒子数を大きくする極限は,ランダムウォークのように ある時刻の到達点に次の1歩の寄与を積み重ねるのではなく, 有限確定粒子数の系の近似として無限粒子極限を考えるので, 異なる粒子数の間にサンプル毎に(確率変数としての)関数関係を 期待するのは不適当で,極端なケースを含めると, 粒子数方向についても独立な確率変数列とすべきです. このような収束を(サンプル毎の収束という意味では 大数の強法則の親戚ですが,ランダムウォーク型の強法則よりも強い 収束で)完全収束と言います. つまり(時刻の)関数の始終2時刻についての一様な評価付きの 大数の完全法則を援用することになります. ややこしいので,以下大数の一様完全法則とかってに呼びます.

実数値の独立確率変数列の場合は, 完全収束という用語を最初に定義したHsu-Robbinsが 大数の完全法則をやっています. 日本では教科書に見かけないので, 実数値の場合の大数の完全法則の古典事項を含めた基礎教科書を書きました.
「確率変数の収束と大数の完全法則 − 少しマニアックな確率論入門」共立出版,2019.
この機会に確率論の勉強をしたい読者の方々にお勧めします.

2変数関数値の確率変数列に話を戻すと, ここまで強い大数の法則は見たことがないので, 切り出して定理の形に残しました.
T. Hattori, Doubly uniform complete law of large numbers for independent point processes, Journal of Mathematical Sciences the University of Tokyo 25 (2018) 171-192. 180KB pdf file をご覧下さい.(使っていただければさいわいです! なお,arxivは古い版のままで,切り出し方がややぎこちないので, このweb siteにある上記リンクの版が使いやすいはずです.)

始終2時刻についての一様評価,というのは, たとえば,ビルの照明器具を交換する問題で,次に切れるまでの時間分布が 技術進歩などで交換時刻に依存する強度に基づくときに, 平均交換回数がビル竣工時刻と経過年数両方についての一様収束の意味で 確定値時間発展に概収束する,という強い意味の収束,ということです. あるいは定点観測で,自動車の各時間の通過量の分布を多くの平日にわたって 平均を取ると,揺らぎ最大の時間帯がサンプル毎に違っても揺らぎの最大値が0 に収束し,平均は期待値に収束する, ということです.(実用上は殆どの場合これくらい強い収束は むしろ当然期待されることと思います. 本当の価値はおそらく,本研究のように,これを用いて従属性のある場合まで 収束を証明するための証明上の礎石だろうとは思います.)


4. 大数の一様完全法則の後処理についての追記

以上のようにして,中間模型,すなわち, 「流れが定める強度」に従う確率順位付け模型 の位置強度結合経験分布の確率1の各サンプルごとに, 弱収束位相についての始終2時刻についての一様な収束. すなわち大数の一様完全収束が証明できますが, 大数の法則は偏差の平均の0への収束を言うだけで, 今の場合は,中間模型の位置強度結合経験分布という 分布に値を取る確率変数列とその(サンプルについての)期待値という 定まった分布の差が(分布の弱収束位相で測って,確率1のサンプルで)0に 近づくと言っただけなので, 中間模型の経験分布の収束(流体力学極限)を結論するには, (位置強度結合経験分布の)期待値分布の収束も言う必要があります. ただし,これは弱収束の定義に従って分布関数を考えるなり 有界連続関数の積分を考えるなりすれば, 通常の時刻変数についての関数で粒子数を添字とする列の極限の 問題なので,2重一様収束と言っても確率論の問題も測度論の問題も 関与しませんからこのページの他の話よりは初等的です. 直前の到着時刻に依存する強度を持つ点過程を用いて中間模型の期待値と 極限双方の時間発展を表現することで期待値の収束は初期値の仮定に帰着します. 直前の到着時刻に依存する強度を持つ点過程は独立増分性等の マルチンゲール的な性質を欠くので, 既存の収束定理は使えず,この点過程特有の公式を駆使することになります.

ところで,分布の弱収束を標準的な収束と「指名」して 大数の完全法則の項目を書きましたが, この件について追記しておきます. 強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型の流体力学極限を 初めて証明したのは,
T. Hattori, S. Kusuoka, Stochastic ranking process with space-time dependent intensities, ALEA, Lat. Am. J. Probab. Math. Stat. 9(2) (2012) 571-607 200KB pdf file ですが,それを書いていたころは,強度が直前の到着時刻に依存する点過程も 「流れが定める強度」に従う確率順位付け模型も見えていませんでした. 楠岡誠一郎さんが劣マルチンゲール不等式などの洗練された「兵器」で 中間段階を経ずに一気に極限の存在まで証明する道筋をつけました. そのような「飛び道具」が使えるためには模型側から見ると 強い仮定が必要で,初期条件と強度関数(の集合)に関して, ランキングへの応用という観点から見ると不自然な仮定が残りました. その際の初期条件の仮定の中に, 分布の弱収束位相ではなく全変動距離収束の仮定があります.

仮定も結論も自然に同じ位相で書くので, 初期分布が全変動距離収束で極限分布に収束することを仮定すれば, 時間発展した後の結合経験分布の極限分布への収束も全変動距離収束です. 強い収束が証明できるのはめでたく見えるかもしれませんが, 分布が弱収束よりも強い全変動距離収束をするということは, たとえば離散分布は連続分布とあまり「似てない」ので,その位相では 連続分布に収束しないという問題があります. つまり,ロングテールのような問題でたびたび使われる パレート分布(連続分布の1つ)に 有限粒子(有限個の強度の分布)の列が収束することができません. (つまり,非常に厳格に言えば, 全変動距離収束では,パレート分布を用いた分析の根拠となる 収束定理が作れないということです.公式の発見などの実用上は, 収束定理の数学的証明がなくても先に進めますが….) 有限個の粒子の分布は自動的に離散分布なので連続分布を用いた分析で 近似することを数学的証明で保証したければ, 離散分布と連続分布が似ていると言える分布の収束の位相を選ぶ必要があるので, 全変動距離収束は不都合になります.

もっとも,論点はそのような「証明による保証」的なことよりも,むしろ, 全変動距離収束ということの内容の中に, 服部−楠岡では,(ランダムな先頭への跳びという) 揺らぎが同一強度を持つ粒子間でのみ打ち消すという大数の法則の機構のみが 含意されていることが問題です.

たとえば自著が繰り返し売れることでランキング最上位に君臨する (ベストセラーだった時期の)ハリーポッターのランキングの安定も 大数の強(完全)法則ですが,確率順位付け模型の流体力学極限が注目する 大数の完全法則は,ランキングに並ぶ殆どの本は観測期間内に精々1回買われる本たち であり,個々の作品タイトル毎には揺らぎの打ち消しはあり得ない (特定の売れたとしたらその本は運が良い,ということ)という現実を 念頭に置いています. この場合大数の完全法則の成立には, 異種強度間の揺らぎ(ランダムな注文)の打ち消しこそが本質です. 言い換えると,位置強度結合経験分布の決定論的分布への収束は, 個々の粒子の位置は大きく変動するが,強度の大きい粒子は上流近く, 小さい粒子は下流近くに多く分布するといった,分布の安定性 (言い換えると,売れない著者の安定性ではなく,書店の経営の安定性)を表す 強法則です. この内容を含むためには位置強度結合分布の間の遠近(収束)は 全変動距離ではなく,弱収束位相によるべきです.

もちろん, 強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型の流体力学極限の証明が 服部−楠岡であることは間違いなく, 極限流体についての公式は同じものを得ているはずです. (強度が直前の到着時刻に依存する点過程も 「流れが定める強度」に従う確率順位付け模型もなかったため, 分布関数の極限はわかりやすくは書かれていないのは残念です.)

服部−楠岡についてもう1点, たとえばパレート分布への応用の際に障害になる仮定は 強度の有界性の仮定です. これはノルムの選択に比べれば技術的制約でしたが 途中の評価を級数展開ではなく ポワッソン過程からの摂動の形を保つように 丁寧に評価する必要があり, 技術的ながら改善には手間がかかります.

以上の技術的仮定を外して,弱収束位相で強度の有界性の仮定不要で 流体力学極限の証明に至ったのが,
T. Hattori, Cancellation of fluctuation in stochastic ranking process with space-time dependent intensities, Tohoku Mathematical Journal, to appear. 270KB pdf file です.先に掲げた論文の中身(強度が直前の到着時刻に依存する点過程と 大数の一様完全法則)以外のここまで及びこの下で説明した内容が すべてこの論文にあり,盛りだくさんな論文です.

位置強度結合経験分布の収束だけを紹介しましたが, propagation of chaos,すなわち,タグ付けした粒子の軌道の収束 (確率過程としての確率1のサンプルでの収束)は, 粒子の時間発展を定義する確率微分方程式で, 他の粒子の影響を,証明済みの経験分布の収束によって極限に置き換えれば, 極限軌道の確率微分方程式を得るので, 模型の機構に迫る内容は特にありません. 位置強度結合経験分布の収束が本質です.


5. 「流れの空間」上の縮小写像の原理による極限流の決定

「流れが定める強度」に従う確率順位付け模型(中間模型)の 流体力学極限(無限粒子極限)を大数の一様完全法則として 紹介しましたが,これを本来の模型の流体力学極限に結びつけるための準備が 残っています. 中間模型は名前のとおり,「流れ」( 初期時刻と各時刻の最上流それぞれを始点とする 時刻から位置への関数たちの族)を与えるごとに, 各粒子達が到着時刻の間はその手で与えた仮想的な 「流れ」に乗って動いているとして拾う強度関数の値を 強度関数として定義された確率順位付け模型です. 流れを与えれば決まるので粒子間は独立ないっぽう, 流れの中のどの関数(流線)に沿って値を拾うかは 直前の到着時刻で決まることから,個々の粒子の到着回数(蒸発回数)は 強度が直前の到着時刻に依存する点過程になります. この仮想的な流れをどう選べば本来の模型と極限が一致するかが問題です.

答は,自然に予想されるとおり,与えた流れに基づいて 得られる実際の軌道の集まり(の極限)としての流れが 最初に与えた流れに等しいときにその流れを用いて 定義された中間模型が,本来の(自律的・内生的に流れを決める)模型の 流体力学極限の流れに一致します.

上記の要請を次のように言い換えると,次にやるべきことが明らかになります. つまり, 「流れが定める強度」に従う確率順位付け模型の流体力学極限は 「流れ」の集合上の写像を定義しますが, その写像の固定点の流れを,中間模型に手で入れる流れとすべきです. 流れは時空それぞれ有限区間の直積上に定義されているので たとえば連続な流れに限定すれば,強度関数達についてかなり緩い条件で 位相的固定点定理が使えます. 可微分性に関して少し穏やかな強度関数の集合に限れば, 「流れが定める強度」に従う確率順位付け模型の流体力学極限が定める 流れの集合上の写像が縮小写像であることも示せます. 後者ならば固定点は1つで,写像の繰り返しの級数で流れが書けます.

大数の完全法則を通して「選ばれた流れ」基づく中間模型の位置強度結合経験分布の 極限を求めれば,それが元の模型の位置強度結合経験分布の極限に等しい ことになります(それを最後に証明して全体の証明の完成です).


6. Gronwall型の議論による確率順位付け模型の流体力学極限の存在証明の完成

最後に,前項で得た 「『流れが定める強度』に従う確率順位付け模型が定める 流れの集合上の写像,の固定点である流れが定める強度」に従う確率順位付け模型 と,本来の, 強度が位置依存性を持つ確率順位付け模型が 等しい無限粒子極限を持つことの証明が残っています. もちろん,両者のしたがう確率微分方程式系の差を評価して, Gronwall型の議論によって,大きな粒子数では差が消えていくという, 標準的な筋書きです.比較の対象は, 中間模型で紹介した結合経験分布の位置についての最下流側からとった分布関数です.

服部−楠岡の紹介の際に追記した強度の非有界性の技術的障害は, こういうときの古典的な論法で(物理学的には,良い量で評価する論法で), 強度が直前の到着時刻に依存する点過程の確率で分布関数を書くことで 分布関数の極限が従う関数方程式があらわにわかり,それを用いることで (強度関数が評価対象にあらわに生じるのを回避できて) 強度が非有界な場合も評価可能になります. また,前のほうの項目で用意した中間模型に対する 独立確率変数列の大数の一様完全法則が 収束の早さのモーメント評価も与えることが,先に紹介した論文
T. Hattori, Doubly uniform complete law of large numbers for independent point processes, Journal of Mathematical Sciences the University of Tokyo 25 (2018) 171-192. 180KB pdf file に用意してあるので,摂動におけるGronwall型の議論では, ヘルダーの不等式を細切れに使って少しずつ次数を損しつつ全体で 破綻しない帰納法(多変数階層的Gronwall型評価)を開発して乗り切ります. さすがにこの部分は技術的なので,言葉による紹介よりも論文
T. Hattori, Cancellation of fluctuation in stochastic ranking process with space-time dependent intensities, Tohoku Mathematical Journal, to appear. 270KB pdf file を参照して下さい.


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