日本語トップ
親ページに戻る

極限を記述する偏微分方程式系の時間大局解の存在定理

下手な日本語より数式のほうがわかりやすいかたに, stochastic ranking process(確率ランキング過程)の 無限粒子極限を記述する偏微分方程式の数学的紹介をします.


1. 蒸発項を持つ1次元inviscid Burgers型非線形偏微分方程式系

2010年5月まで以下で説明する偏微分方程式系を,蒸発項を持つ1次元「Burgers型」 と呼んでいましたが,早川尚男さんから,Burgers方程式というときは, 2階偏微分項(拡散項)を持つものを言う,と注意を受けました. (2階放物型準線形偏微分方程式で移流項を持つものです.) 拡散項をゼロにした1階の方程式はinviscid Burgers方程式と呼ぶとのことです. (早川さん,どうもありがとうございました.)

ただし, 我々が扱う方程式はinviscid Burgers方程式そのものではなく, 蒸発項と呼ぶべき0階の項(外力項)がついているので, inviscid Burgers方程式とも呼べません. 以下で説明するように,ここに登場する方程式のほうが,時間大域解が必ず存在する という意味で,数学的により単純な方程式です. 結局名前を付けられなくて困っていますが,数学的には, 特性曲線の方法で時間大域的に解ける, 時空1+1次元の,主部が共通の1階の準線形偏微分方程式系, という,(名称の厳めしさと全く逆に)単純な解構造を持つ方程式です.

1次元区間 [0,1) に閉じこめられた 1次元多成分流体系の運動を考える. 時空変数は (y,t)∈ [0,1)× [0,∞) を主に用い, 成分は i=1,2,… などの添字を用いる.成分数は有限でも無限でも 以下の議論は成り立つ.

方程式に現れる定数は,各流体成分 i の蒸発率を表す非負定数 fi ≧ 0 たちだけである. (全て 0 は自明なので,蒸発率が正のものがあるとする.)

未知関数 Ui(y,t) についての以下の偏微分方程式の初期値問題を考える.

以下web表記の都合上, 時間微分を Ui,t ,空間微分を Ui,y と書く.

(方程式)
(0,1)×(0,∞) で,i=1,2,… について
Ui,t(y,t) + v(y,t) Ui,y(y,t) = - fi Ui(y,t) ,   v(y,t) := Σj fj Uj(y,t)

(初期値)
各 i と y に対して, Ui(y,0)= Ui(y) は各点で非負,微分可能で 微分を Ui,y(y) と書くとき, 非増加(Ui,y(y)≦0),かつ,
(☆)  Σj Uj,y(y) ≧ -1
さらに,ρj=Uj(0) とおくとき 0 < Σj fj ρj < ∞

(境界条件)
各i に対して   Ui(0,t) = ρi

非負古典解(特に Ui たちは境界をこめて連続非負)を求める.


2. 方程式の直感的意味 − 確率的ランキング過程の極限分布の巨視的考察

確率ランキング過程のページ(確率論のページ)から読み進まれたかたへ:

確率ランキング過程のページ(確率論のページ)から読み進まれたかたは 以上の注意だけ気にとめていただいて, この項以下を(重複なので)飛ばして 下記次項に進んでください.

確率ランキング過程のページを飛ばしてこちらのページにこられたかたへ:
確率的ランキング過程の数学のページ の主定理の証明には,極限の具体形を事前に正しく予想できた ことが決定的に重要であった.極限の振る舞いを流体の流れと見ることで, 以下の振る舞いを持つことが(深い歴史を持つ描像の類推によって)予測できた.

  1. 1次元(多成分)流体,特に粒子(分子)は流れの中では追い越しなく 順に右(下流=分子レベルではランクの下位)に流れるだけ (多成分というのは蒸発率 w の異なる分子の集まりを考えているから)
  2. ダイナミックス(時間にともなう変化の原因)は, 各流体成分が固有に持つ蒸発率だけで決まる蒸発(流れからの消失=離脱)と, 蒸発した分を左(上流=上位)から補う流れだけ (processの時間発展の定義のとおり)
  3. 左端は蒸発した各成分を補う流入(ジャンプは列のどこからでも1位にジャンプする, とprocessを定義したから)
  4. 右端は流出が無い固定端境界条件(1位へのジャンプ以外では列から離脱しない, と定義したから)
未知関数 Ui(y,t)は,全流体量を 1 とおくとき, 時刻 t に下流側 [y,1) にいる i 成分流体の量を表す. (初期値条件 (☆) でy=0とおくことで Σj ρj =1 となることに注意.ついでに,(☆) の次の条件式は, 確率的ランキング過程のページの 仮定1.I (の 離散版)に一致している.)

このように見ることによって, 冒頭の偏微分方程式系が, 流れの各点 y で,蒸発項(右辺)によって空間の各点から失われる各流体成分が ちょうど左から右への流れで補われる (非線型項の速度場 v が,[y,1) における時間あたり総蒸発量に等しい)こと, および,1次元的な流れで,渦などの混合や追い越しは起きないこと,を表していて, 確率ランキング過程の無限粒子極限に関する考察と合うことがわかる. もちろん,細かい試行錯誤はあったが,全体像としてはこのようにして 確率ランキング過程と,蒸発項を持つinviscid Burgers型方程式系が結びついた.


3. 初期値問題の解 − 特性曲線の方法

冒頭の偏微分方程式系の初期値問題は特性曲線(流体粒子の軌道)の方法によって, 初等的かつあらわに(結果として時間大局的に)解ける. 以下,webの表記上の都合から, 時間についての常微分を(偏微分のときと同様に) y,t のように表す.

特性曲線は,y0∈[0,1) を初期値として,
yB,t(y0;t)=v(yB(y0;t),t), t≧0, および,
(×)  yB(y0;0)=y0
の解 yB(y0;t) である.

(△)  φi(t)=Ui(yB(y0;t),t)
とおいて微分して,元の方程式と特性曲線の方程式を用いると,
φi,t(t) = - fi φi(t)
となるので,
(□)  φi(t)=Ui(y0) exp(-fit)
を得る.ここで,v とφの定義から,
v(yB(y0;t),t) = Σj fj φj(t)
となるので,今得たφの解を右辺に代入し,それを特性曲線の方程式に 代入して時間について積分する.
初期値の条件 (×) を用いると積分定数が定まって,
yB(y0;t) = Σj (1-exp(-fj t)) Uj(y0) +y0
となる.y0に関して微分すると
yB,y0(y0;t) = Σj (1-exp(-fj t)) Uj,y(y0) +1
だが, Uj,y(y)≦0 と(☆)に注意すると,右辺は
Σj (1-exp(-fj t)) Uj,y(y0) +1 ≧ Σj Uj,y(y0) +1 ≧ 0
である.しかも,もし 0 に等しいとすると, 今の最初の不等号から,すべての j に対して Uj,y(y0)=0 でなければならないが, そのとき第2の不等号は 1>0 となるので, 結局 0 になることはない.すなわち, yB(・,t): [0,1)→[yC,a) は(連続)狭義増加. ここで,
yC(t)=yB(0;t) = Σj (1 - exp(-fj t)) ρj
とおいた. 初期値は各点で非負としたので, a= Σj (1-exp(-fj t)) Uj,y(1-) +1 ≧1 となることに注意すると,yC(t)≦y<1 で yB(・,t) の逆関数
y^(・,t): [yC(t), 1) → [0,1);   yB(y^(y,t),t)=y
が存在するから,(△)=(□) において y0=y^(y,t) とおくと
yC(t)<y<1 における解 Ui(y,t) = Ui(y^(y,t)) exp(-fit)
を得る.

0<y<yC(t) のときも, 同様に特性曲線 yA(t1;t) を求めることができる.

(違いは初期条件のとりかたで, 流体粒子の軌道と yC の意味を考えるとわかるように, y > yC(t) のときは初期時刻から時刻 t までジャンプしなかった 粒子の軌道を表す(ので,初期値を初期位置 y0 とおいた)のに 対して,ジャンプした粒子の軌道はジャンプ時刻 t1 に y=0 から 出発する.)

すなわち, yA(t1;t) は t> t1 で yB と同じ微分方程式に従い,t=t1
yA(t1;t1)=0
を満たす.解はただちに
(Y)  yA(t1;t)=yC(t-t1)
と決まる. (△)=(□) に対応する式も,境界条件 Ui(0,t) = ρi に 注意すれば,すぐ得られて,
(Z)  φi(t)=Ui(yA(t1;t),t) =ρi exp(-fi(t-t1)), t≧t1
となる.

いっぽう, yC(s) = Σj (1 - exp(-fj s)) ρj の時間微分は
yC,t(s) = Σj fj ρj exp(-fj s)
となるので,仮定 Σj fj ρj >0 から これは s≧0 で正,すなわち yC(s) は s について(連続)狭義増加. よって 0≦y≦min { yC(s), 1}, s≧0 なる任意の (y,s) に対して, 0≦t0<t なるt0=t0(y) (逆関数)が存在して,
yC,t(t0(y))=y

が成り立つ.

(Y)において t1=t-t0(y) ∈(0,t] とおく (境界条件の定常性の利用)と
yA(t-t0(y);t)=yC(t0(y))=y
となるので,これを(Z)に代入すれば
Uj(y,t) = ρj exp(-fj t0(y))
を得る. 解の具体形から,解が時間大局的に存在すること, 連続性,正値性,単調性, などの性質を t>0 で満たすことは明らかである.


4. いくつかの注

  1. 特性曲線は一般には局所解を与えるもので, 大局解があるかどうかは別の問題である. 実際, 古典的なinviscid Burgers非線形偏微分方程式(fj=0の場合)は, 振幅によって速度 v が異なる進行波を表す. 初期分布において振幅が空間的に大きく異なると「後方」の波が「前方」の波に 追いついて有限時刻で古典解が延長不能になることが知られている (衝撃波のモデル).(☆) は fj(蒸発)がある場合に. 蒸発と非線型項(流れ)がバランスして古典解が無限時刻まで続く (時間大域解の存在)ための条件である.
  2. 確率ランキング過程の極限の結合分布は, Σj Uj(y) =1-y を満たす. これは (☆) を(critical caseとして)満たす. このとき,確率ランキング過程の性質どおり, 区間の右端 y=1 でUj(1-0,t)=0 となる.
  3. ここでは偏微分方程式を立てて,その解を求めた結果, 確率ランキング過程の無限粒子極限に一致することを見た. 無限粒子極限(微分方程式の解)があらわにわかるので, 論理的に微分方程式と確率過程を直接結びつける必要はなかった.
    ただし,確率ランキング過程の無限粒子極限の 証明を見いだす際の考察においては両者の関係が決定的に重要であった. このことは,モデルをさらに現実に合うように複雑にする際, 解があらわに得られなくなったときに, 確率過程の無限粒子極限としてまず偏微分方程式を得て, その解の存在を解析的に得る, というあらすじを通して,数学的に重要になるはずである.
  4. yC,t0,y^,Ui はすべて 確率ランキング過程の ジャンプ率が離散な場合の対応する関数(無限粒子極限)に一致している ことは見比べればすぐわかる..

親ページに戻る