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研究会についてのあるかもしれない質問への回答

慶應義塾大学経済学部・別所俊一郎

ゼミではどのようなテーマを扱いますか?
担当教員の専門領域は日本の地方財政・社会保障・家計行動などに関係するミクロ経済的な計量経済学的手法を用いた実証分析ですから,広い意味でこれに関係するテーマを扱います.逆に言うと,理論分析や歴史分析は扱いませんし,国際的なテーマ,たとえば貿易や為替や国際援助なども扱いません.日本以外の国に注目した分析や,日本経済のうちでも企業や金融については原則として扱いません.家計や地域にかんするテーマがおもなので,身近なトピックを扱うことが多いとおもいます.

ゼミはどのような形式で進められていますか?
本学部ではゼミは3年生・4年生向けに開講されていますから,それぞれに春学期・秋学期があることを考えると,全部で4学期あることになります.このうち最初の1学期(3年春学期)は計量経済学的な手法の基礎を学習する期間として,計量経済学の基本的な教科書を読みます.2015年度まではStock and WatsonのIntroduction to Econometrics, Updateを使いました.計量経済学の教科書は説明がていねいで厚いほうがいいとおもうのですが,日本語でそのような教科書はないのでこの教科書を使っています.また,英語への忌避感をなくすことも目的のひとつです.
3年生の秋学期からは卒論のテーマ探しや分析を進めます.ただ,11月下旬に三田祭があるため,3年生の秋学期の前半は三田祭論文のための分析や執筆に使います.秋学期の後半からは卒論を進めます.4年生になってからは,自分の卒論について先行研究を読んだり分析したり文章を書いたりしてもらいます.ゼミではだいたい1か月に一度(1学期中に3回くらい)中間発表をしてもらっています.

ゼミの教育方針はどのようなものですか?
大学は知の生産現場ですから,卒業論文をきちんと書くことを最重要視しています.3年の秋から卒業論文に取りかかるのはそのためです.
私は世間知らずなので,ゼミ生が選んで持ってくるテーマについて詳しいことはあまりありません.そこで半学半教の精神でがんばっていこうと思っています.
大学での学修,とくに卒業論文の作成は学生の知的好奇心を尊重して,学生主体で進めるべきだと思っています.なので,ゼミ生からの質問に答えたり,卒論の打合せをしたりする時間をなるべく多く取るようにしています.とくに教員と繰り返し打ち合わせなくても自分で研究を進めるタイプの学生もいますから,ロシアのことわざにならって,"Trust, but verify"で進めていきます.ただし,やる気のない学生はわりとあっさり見捨てています.

何人くらい学生を採っていますか?
12名が基本です.人数が多いと名前を覚えるのも大変ですし.卒論の相談で1人当たり1回30分から1時間くらい面談しているので,あんまり人数が多いと対応できないという理由もあります.たぶん12名というのは本学部では少ないほうじゃないかと思いますが,少人数で和気あいあいと,みんなが発言できるようなゼミにしたいと考えています.

必修科目はありますか?
3年生の春学期に開講されている演習a, bを必修にしています.
この演習では計量経済分析のソフトウェアであるStataの使い方を学びます.また,卒論のための基本的な知識の修得やテーマ探しのために,財政論・公共政策論の履修を強く推奨しています.また,テーマによっては社会政策論や労働経済論,経済政策論も履修したほうがよいでしょう.私自身は経済政策論を担当していますが,経済政策論の履修は必修ではありません.

日吉で取っておくべき科目はありますか?
基礎的なミクロ経済学と統計学です.
(選択)必修科目になっているミクロと統計をちゃんと学修していることが望ましいです.この2科目について入ゼミ選考の際に筆記試験を行います.日吉で開講されている計量経済学を履修していることは必ずしも必要ではありませんが,取っているほうが3年次以降は楽だろうと思います.とはいえ,実証的な論文は計量経済学的な手法だけを知っていても書けませんから,統計・計量以外の科目を履修して見聞を広めておくことも重要でしょう.統計学は使うアテがはっきりしてから勉強したほうがやる気が起きて理解が進むかもしれません.

卒論は必修ですか?
必修です.4年のゼミの単位は卒論提出とリンクしていますので,卒論を提出しないと卒論の単位とゼミの単位の両方を与えることができません.

卒論のテーマはどのように選ぶのですか?
このゼミでは3年の秋学期から卒論の準備にかかりますが,3年の秋学期はテーマ探しと基礎的な情報の収集に使います.卒論には締切がありますから,データを集めて分析して文章を仕上げて締切に間に合うようにするためには,使える時間や学力と相談してテーマを決めなくてはなりません.ぼんやりとしたテーマについては入ゼミの段階で考えておいてほしいところではありますが,実際には3年生のうちに他のテーマに転向する学生が多いようです.テーマ選びについてはデータの利用可能性なども考えて指導しますが,教員がテーマを与えたり押し付けたりすることはありません.
いまの大学・社会の仕組みを前提とすると,4年の春学期までに就職先が決まると,4年の秋学期に勉学に勤しむ気にならない人もおおぜいいます.そういったなかで卒業論文を書き進めてもらうために,最後まで続けられるようなテーマを選ぶように相談します.2014年度に卒業した2期生を例にとると,医療ツーリズムや医療費の地域格差,子育て政策といった財政論のゼミらしいテーマを選んだ学生もいますが,オーケストラをやっていてプロオーケストラの財務状況を分析した学生や,障害者支援サークルにはいっていて障害者雇用政策の影響を分析した学生や,映画サークルにはいっていて映画館の存廃を分析した学生もいました.学部生が使うことのできる個人や世帯の個票データも増えてきましたから,そういったデータを分析する学生も増えてきました.

サブゼミは開かれないのですか?
本ゼミでは3年の春学期に計量経済学の勉強をするだけなので,サブゼミを開いて財政論や公共経済学を学ぶとよいと思います.が,サブゼミを開くかどうかは学生に任せています.履修科目の時間割が合わなかったり,他の用事があったりして,時間が合わないこともあるでしょうし.必要なら私もサブゼミに参加します(喜んで!).サブゼミなどで勉強してレベルの高い卒論を書くのも,勉強しなくてレベルの低い卒論を書くのも,学生の選択の問題です.

輪読はしないのですか?
教科書や専門書の輪読は,自分で直接にその本を読まなくても本の内容がある程度分かるという意味では素敵な仕組みです.ただし,こと計量経済学の分析手法については,自分で本を読んで,自分でデータを扱って,ちょっとずつ身につけていくのがよいですし,そうしないと身につかないので,輪読には向いていないと思います.また,輪読では自分の担当箇所以外はけっきょく読まないことがほとんどだという欠点もあります.役に立つかどうか納得できないままに読まされても意味がないようですから,自分の卒論に必要になったら自分で本を読めばいいんじゃないでしょうか.ということで,いわゆる輪読の方式は採用していません.

三田祭論文は必修ではないのですか?
必修ではありません.
せっかくの機会なのでぜひ書くとよいと思いますが,論文を書くだけが学生生活ではありませんし,他に優先したいことがある学生もいるでしょうから,やる気のない人に書かせるのは,本人にとっても指導する教員にとっても資源の無駄遣いです.また,三田祭論文はグループでの作成になりますが,やる気のない学生が入っていると他のメンバーの迷惑になりますし,軋轢を生むことになりかねません.そこまでして書くほどのものではないと思います.でも,書くんだったらちゃんと指導します.

学生政策コンテストには参加しないのですか?
参加したいのなら止めはしません.
コンテストに参加することは関心とやる気を高め,他大学の学生との交流の機会を得て見聞を広める非常によい機会だと思います.ただ,三田祭論文を必修としないのと同じ理由で強制はしません.私自身は経済政策の実証分析を研究テーマの一つとしていますが,分析から政策提言までにはわりと距離があるように思っていますし,ちゃんとした分析をするというのはわりと難しいことだと思っています.なので,学部生がまっとうな分析をして,実現可能性があって,かつ「学生らしい新鮮な」政策提言を行うことは非常に難しいのではないでしょうか.また,「政策提言」のもつ「上から目線」も個人的にはあまり好みではありません.そのあたりについてはここらへんにも書いたので興味のある人はどうぞ.

ゼミ合宿はありますか?
あります.夏休みの終わり,9月の中旬に2泊3日で行っています(2014年度までは1泊2日でした).卒論と三田論の中間報告と社会科見学をします.中間報告には1日目と2日目の午前中を使いますが,基本的には本ゼミで行うことを場所を変えて行うだけです.社会科見学は合宿先に近いところに出かけます.社会科見学をいれているのは,次のような理由によります.すなわち,計量経済学的な実証分析では数値データになるものについて平均的な傾向を推測することがほとんどですが,数値という抽象的なものの背後にある具体的な実例を見たり聞いたりすることも大切だと考えているからです.
ゼミ合宿ではありませんが,三田論のテーマによっては,「現地」を見に行くことを強く推奨しています.たとえば,2014年度の三田論では東日本大震災を取り上げましたが,このグループは夏休みに気仙沼に出かけています.

飲み会は多いのですか?
着任初年・2年目くらいはそこそこあったような気がしますが,近年は担当教員の個人的な事情により,ゼミの飲み会というのはそれほど多くありません(と思います).でも,学生が自主的に飲みに行っているかどうかまでは関知しません.

ゼミでお菓子が出るというのは本当ですか?
本ゼミが開かれている教室は基本的には食事禁止です.ただし,学生をリラックスさせて自由に発言できるような雰囲気づくりには心掛けております.

どんな学生を採っていますか?
本学部の学生というのは,私が当初思っていたよりも均質なようです.たとえば,いわゆる地方から上京してきた学生の比率はそれほど高くありません(3割くらいなんでしょうか?).ですから,出身だけでみれば,この大学は,経済社会的階層でいうと中位以上の出身の多い,ほぼ関東ローカルの大学です.そのなかでわざわざ均質な集団を作るのもおもしろくないので,日吉の成績以外の属性も考慮して採っています.なので,成績がよくても,キャラクタがかぶっていると判断されると,採られないことがあります.でも恨まないでください.

OBとの交流は盛んですか?
よく分かりません.
というのも,2015年3月に2期生を卒業させたので,まだ卒業生がそれほど多くないからです.公式な(?)OB会は年1回開いています.そのほかに卒業生と在学生が個別に会ったり飲み会したりしているというのは聞いています.就職活動に不安を覚える人の多い昨今では,卒業生の少ないゼミ生に不安が募るようなので,私の昔の職場の知り合いや,研修などで知り合った若者たちとの懇親会を企画しています.

学部内の他のゼミとの交流はありますか?
恒例のイベントとなるような交流は今のところありません.
過去には,必修としている演習を共同担当している関係で,山田篤裕ゼミ・直井ゼミとは合同飲み会を開いたことがあります.また,あの有名な中嶋亮ゼミとも合同飲み会を開いたことがあります.しかし学業についての合同イベントはありません.いいのかこれで.

学外の他のゼミとの交流はありますか?
いわゆるインゼミを法政大学・濱秋ゼミ,兵庫県立大学・湯之上ゼミと行っています.インゼミを開くかどうかは学生の判断に任せていますし,他のゼミとのインゼミの希望があれば調整を試みるにやぶさかではありませぬ.

大学院に進学した卒業生はいますか?
いません.
研究者の端くれとしては,後進を育成する気は満々なのですが,あいにくとそのような志向を持った学生はいまのところこのゼミには入っていません.研究者になりたいという学生がいれば喜んで指導しますが,たぶん,大学院に行くなら慶應義塾以外を勧めます(理由はいろいろあります).公共経済学や財政学を専攻したいという学生であれば,むしろ一度は企業か政府で働いてみることを勧めると思います.