清水透


個人基本情報
氏名:
清水透[しみずとおる]
職位:
経済学部教授・経済学研究科教授・社会学研究科教授(兼任)
研究室:
部屋番号:508
略歴:
1943年松本市生まれ。1966年東京外国語大学スペイン語学科卒。1968年同学大学院ロマンス系言語専攻修士修了。1976年メキシコ大学院大学エル・コレヒオ・デ・メヒコ歴史学研究科博士課程単位取得退学。1968年〜1993年東京外国語大学スペイン語学科助手・講師・助教授・教授、1993年〜1996年獨協大学外国語学部教授、1996年〜1999年フェリス女学院大学国際交流学部教授をへて、1999年4月より現職。
最終取得学位:
文学修士・スペイン語学研究・東京外国語大学
受賞学術賞:
なし
所属学会:
歴史学研究会・日本ラテンアメリカ学会・日本オーラル・ヒストリー学会
教育活動
担当科目(2007年度)
[通学課程]
ラテンアメリカ社会史・専門外書講読(スペイン語)・総合科目ラテンアメリカ研究・研究会(社会史)
社会史演習(大学院)
教育方針:
ラテンアメリカ社会史:
●今年度は以下の13のテーマに分けて、私が1979年以来フィールド調査をしてきたメキシコの一原住民村落に主たる焦点をあてつつ、「発見」から現代にいたるラテンアメリカ史から見えてくる「近代」という時代について論じている。
(1)私とインディオ:自分史を語る
(2)「発見」の現代的意味
(3)「文明」の空間と「野蛮」の空間:西欧植民地支配にともなう、空間の再編過程。
(4)「文明」の神とインディオの神:宗教意識の変容過程。
(5)「野蛮」の抵抗:武力による抵抗・逃亡という名の抵抗・共生という名の抵抗。
(6)市民社会・国民国家とメノナイト
(7)近代化のなかの「野蛮」:白色国民国家構想
(8)近代化と共同体
(9)「自分探し」と混血性
(10)メキシコ革命とインディオ共同体
(11)村の液状化・都市の液状化
(12)サパティスタ運動から見えるもの
(13)「文明」とは?「近代」とは?
●各テーマごとに、年表・統計を含むレジュメを配布。毎回パワーポイントによる写真・画像も紹介しつつ、必要に応じて、ビデオも活用している。
●毎回の講義について、論点の整理、コメント、質問をレポートにまとめ、次回の講義の際に提出することが、受講生の義務。
●提出されたレポートは、次回までに採点し、模範的レポートを数点選び、全員に配布する。
●年末の最終講義までにレポートの点を単純合計し、その結果を受講生に公表し、自己納得を得た上で、成績評価を行う。したがって、期末テスト・追試験は実施せず、追加レポートも受け付けない。なお、年間で原稿用紙100枚を超えるレポートを提出する学生が、毎年数名はいる。
●因みに、単位を認定される受講生は例年約60%と厳しいが、「エグイ」講義にもかかわらず、受講者が急増しつつあることは、嬉しい限りだ。
専門外書講読:
●文法をひととおり終えた学生を対象とする。
●論文を読める語学力の習熟を目的とする。
●昨年度は、テキストにメキシコの文化人類学者の人種論の論文を読んだ。
●受講者が少ないために(例年2〜6名)、理想的な授業である。
●出席者全員が、レジュメを準備し、授業では、そのレジュメを比較検討しつつ、論文の内容の検討を行う。
●必要に応じて、文法説明、ラテンアメリカ史の解説もくわえる。
研究会(卒論ゼミ):
●社会史に関連するテーマであるなら、研究対象地域はラテンアメリカに限定しない。
●問題意識が鮮明で、テーマが明確であるかぎり、4年生からの入ゼミも可。
●これまで、卒論のテーマとして、メキシコ近代思想と優性学・ラテンアメリカにおける「他者」化、サパティスタ運動など、ラテンアメリカ社会史にかかわるテーマのほかに、在日の教育問題、沖縄のアイデンティティ、ホームレスと寄場、民俗医療と現代医療、被差別民と伝統芸能、病者と家族、外国人労働者問題, 同一性障害, などがあった。
●第1年目(3年次)では、共通のテキストの輪読、書評を行い、各自がテーマの絞込みのきっかけをつかむ。夏休み終了直前の合宿(全員の参加が義務)で、全員が4年生とともに発表する。第2年目(4年次)では、4月初回のゼミに8000字以上のレポート(文献一覧を含む)の提出が義務。その出来具合によっては、卒論を諦め、人生最後の自由な一年を有意義に過ごすよう勧告する。それは本人のためでもあり、また、卒ゼミのサークル化を防ぐ道でもある。
●卒論の仮提出は11月初旬。間に合わない場合は、提出資格を認めない。
●仮提出された論文にはコメントと改良点を指摘し、それを参考にして、12月末最終提出。
●毎年、提出された卒論を卒業論文集にまとめ、後輩に残す。
研究活動
専攻・研究領域:
ラテンアメリカ社会史・現代医療と医の倫理・オーラルヒストリーの方法
現在の研究活動
研究課題名:
離村インディオと都市の変容
途中経過及び今後の計画:
1979年以来、メキシコ南部の原住民村落チャムーラ村でのフィールドワークを継続的に行ってきた。目的のひとつは、その村の一家族の4世代記を、オーラル・ヒストリーの形式で、まとめること。もうひとつは、隣接する都市サンクリストバル市へと移動しつつあるインディオが、その都市空間と文化にいかなる変容を迫りつつあるか、の実態調査である。
さらに、昨年度より、歴史学の方法としてのフィールドワークとオーラルの問題について、具体的な出版を目指して、研究プロジェクトを立ち上げた。
研究課題名:
現代医療と医の倫理
途中経過及び今後の計画:
これまで、私がボランティアとして2005年まで約10年間にわたり関わった骨髄移植医療の現状分析とその倫理的諸問題を追究してきた。
主要業績:
単著論文
「アクテアルの虐殺―低強度戦争の実像―」松村高夫・矢野久編『大虐殺の社会史―戦慄の二〇世紀―』ミネルヴァ書房。(近刊)
「離村インディオの流入と都市エスニシティの変容―サン・クリストバル市の事例から―」倉沢愛子編『都市下層の生活構造と移動ネットワーク』明石書店、2007年。
「オーラル・ヒストリーの地平」日本学術会議『学術の動向』3月号、2007年。
「フィールドワークと歴史学」歴史学研究会編『歴史学研究』2006年2月号(No.811)、青木書店。
「開かれた歴史学へ向けて」保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー』御茶の水書房、2004年。
「現代医療と他者の命の物象化」『三田学会雑誌』94巻4号,2002年。
「家族と記憶」(飯田・高草木編『家族へのまなざし』所収、弘文堂、2001年)
「ラテンアメリカと三つの場」(地理教育研究会編『現代世界をどう教えるか1999』所収、1999年、古今書院)。
「コロンブスと近代」(『世界史とは何か』所収、東京大学出版会、1995年)。
「メキシコの民衆宗教」(柴田三千雄編『民衆文化』所収、岩波書店、1990年)。
「<内なる荒野>と都市の<インディオ化>」『歴史学研究』No.613所収、1990年11月)。
「共同体と共同意識」(西川・小谷編『現代歴史学入門』所収、東京大学出版会、1987年)。
著書
『エル・チチョンの怒り―メキシコ近代とアイデンティティ』(東京大学出版会、1988年)。
共著書
『コーラを聖なる水に変えた人々』(R.ポサスとの共著、現代企画室、1984年)。
編著書
『ラテンアメリカ―統合圧力と拡散のエネルギー』(大月書店、1999年)。
『<他者>との遭遇』(青木書店、1992年)。
閲覧者へのメッセージ:
研究紹介
文献を基礎とするラテンアメリカ史研究から、フィールドワークを中心とする社会史研究へと重点を移したのが1979年。以来、メキシコのマヤ系インディオの一村落に通いつづけてきました。問題関心の中心は、ミクロ=個の分析から、いかなる普遍性を読み取るか。具体的には、一インディオ村落の歴史と現在から、「近代」を読み解く作業だといえましょう。
八方ふさがりの世紀末から21世紀に入った今、世の中は戦争のきな臭さに満ち満ちています。そんな時にこそ、世界の現状を自らの問題として正確に把握するとともに、遠回りとはいえ少し立ち止まって、私たち自身の価値認識をじっくり見つめなおすことも必要でしょう。
したがって、私の講義と卒論ゼミ(研究会)の究極の目標は、個別の知識の習得ではありません。私たちの価値観を根底から支えているであろう近代西欧的な価値基準とは何か。その価値基準にもとづいて<他者化>され、きり取られ、描かれる対象でしかなかった人間集団・場・価値に接近し、私たち自身の価値観を逆照射すること、それが、究極的な目標です。
もうひとつ、現在の私の研究テーマのキーワードは、「命」です。中世世界を脅かしつづけた疫病が細菌学の発達により大幅に抑制されたのとほぼ同時に、人類はダイナマイトという大量殺戮の手段を発明します。抗生物質の発見により細菌感染がさらに大幅に抑制されるのとほぼ同時に、人類は原爆の発明という人類自滅の道へと歩みはじめます。大量救命と大量殺戮。こうした構図は今、健康な命を犠牲にしかねない救命手段=臓器移植医療の一部に、明確に再現されつつあるといえます。
そのような時代にある今、社会史も「命」という原点から、再出発する必要があるのではないかと考えています。
学生へのメッセージ
「批判」とは、自己の実像を認識すること。「理解」とは、自己の価値観の変容過程を確認すること。既成の価値観から脱却し、自分らしい生き方を見つけるためには、その「批判」精神と「理解」の努力が不可欠なようです。